ジェイアール東日本フードビジネスが経営するバーガー&サンドイッチ店。首都圏一都三県(埼玉・千葉・神奈川)にしかない。ジェイアール東日本が……なゆえに多くの店舗は駅構内に在り、そのゆえに限られたスペースに詰め込めー!詰め込めーっ!!という感じなので、ゆっくり落ち着ける雰囲気でもない。店内で焼きあげるオリジナルクロワッサンも売りの一つ。どうせ生地はフローズンなんだろう……とタカをくくりつつも、キッチンにオーブンが4台も装備されているのを見てしまうと、パン好きとしてはどうにも気になるところ……
「3つの代表メニュー」のうちの一つ、その名もベッカーズバーガー\390を注文。「ハンバーガーはお隣のカウンターからお出しします……」と言われるままにレジから横移動すると、作っている手元がちょっとだけ見えるのだが、決して単純とは言えないこのバーガーがおそろしいほどの短時間で出来上がって来たのには驚いた。明らかに1分以内。パティをジュージュー焼いている様子はない。これがマックのハンバーガー(の味と単純さ)なら秒単位の調理時間も何となく納得はゆくのだが、それなりに有り難味のありそうなこのバーガーが、どうしてこんなに手早く――しかも温かくあるべき部位はしっかり温かく――出て来るのだろうかと、バーガー"隧"道も中盤に差し掛かるココにきて初めて、初歩的にして素朴な疑問と感動を覚えたのである。
ココはバンズがすべて。「ソフトフランスパンタイプのベッカーズロール……外はパリッと中はフワッと新食感……」と謳っているのだが、さすがにモノがフランスパンなだけに当然皮が固く、フランスパン特有のなかなか噛み切れない弾力を持つ。その弾力を是とするか否とするか、そこでこのバーガーに対する評価は別れるだろう。どちらか言うとドライな部類に属するパティと合わせて味わうと、固いモノ同士のアンサンブルで私の心は夏模様……じゃなかった、私の胃にはややハード。表面の白ごまがその食感をさらに際立たせているように思う。このバンズ、中がくり抜かれたように凹んでいて、具材がその窪みにスッポリ収まるように工夫されている。よって具の落ち着きは良好。なれどその結果、バンズは皮ばかりでフワッと新食感な身は無きに等しい。
中身はレタスに輪切りトマト、オニオンはスライス。そして何気に赤ピーマン(パプリカ)が入っていたような……。ひとかけくらいだと思うのだが気のせいか?さらにチーズ、ケチャップ、マヨネーズ、マスタード。このケチャップはただの真っ赤なケチャップではなく、多少手がかかっている。言うなればトマトソース的なテイストが楽しめるのだ。食後思ったことだが、このバーガーは案外このトマトソースに救われているような気がする。全体としては至極王道な構成。値段(\390)を思えばこれくらいの豪華さは当然か。独特のバンズに慣れるまでは中身の味にまでとても気が回らない。そういう意味では中身の美味しさをバンズ独りの印象で相殺してしまっていると言えなくもない。しかし一旦慣れるとバンズの固い守りの向こうに"何か"が見えてくる……かも知れない。固いバンズがお好みという人ならより親しみをもって接せられるのではないだろうか。BGMは私や友人GI君がいかにも好みそうなAOR/ブラコン路線で満足。強いて言うなら、はっきり聴こえる音量で流していただきたく……
2004.7.24 Y.M初!仙台!祝!楽天?――仙台だけに牛タンバーガーなど期待される向きもあろうが左にあらず。市営地下鉄匂当台公園駅下車。三越のある一番町通りを一本入ると、そこはディープな歓楽街=国分町。東京で言えば新宿のような雑然とした街の一隅に五十年営む喫茶が今回の目的地。なにせ前フリがすごい――「1950年創業」「日本で最初のハンバーガー」「100万個達成!」(どうもホントらしい)……「ハンバーガーとステーキの」と聞いていたので、カウンター席しかない古めかしい店構えは大いに意外だった。どう考えても肉料理が出て来る店とは思えない。しかしカウンターの上には肉の冷蔵されたショーケースが煌々と誇らしげに輝いている。マスターはゴルフが趣味。来客もシニアゴルフの仲間かその妻か、はたまた商店街の顔なじみか――店も人も程好く古い。
まずハンバーガー\280とコーヒーを注文。ハンバーガーはマスターが、コーヒーは女性(続柄は??)が入れてくれた。このコーヒーが美味しい!深みのある苦さ、そしてさっぱりとした後口――むしろコーヒー"が"美味しかった。女性から注文が飛ぶと老マスターの手元でジューッと音がし始め、ほどなくカウンターの向こうからハンバーガーが。手渡された瞬間、バーガーの乗る皿が温かい辺りが行き届いた心配り。やわらかな甘さのバンズ。中身はオニオンスライスにパティのみ。あとはケチャップ&マスタード――で以上。実に実にシンプルな構成。辛〜いオニオンと苦〜いマスタード、ケチャップはいわゆる市販のアノ味(いや、少しアレンジしてるかな……)。パティも、そのケチャップのわかりやすい赤色の下に染まれば普段家庭で食べ慣れた、お母さんのつくるハンバーグのよう。でもこのノド越しの良さは肉が良い証拠だろう。和牛100%
次にチーズバーガー\320。オニオンが消え、チーズとレタスとマヨが加わる。チーズもこれまたわかりやす〜いチーズで、むしろヘタに手の込んだチーズより主張がはっきりしていてよろしいかも。分厚いことこの上なし。強〜いケチャ&マスタードの味でいただくハンバーガーは、系統としてはマック寄り。味がベターッと平面的。せっかくの焼きたてパティのお味がケチャップにかき消されてしまっているのは残念だが、創業54年のズシリと重みある店の空気にどっぷりと身を浸しつつ、マスターと常連たちの半世紀にまたがるトークを傍に聞きながら味わう老バーガーもたまには悪くない。BGM……なし。代わりに常連たちの会話と総合テレビ午後4時台のバラエティ。
※そうそう、去年12月、再び仙台を訪ねた折、とある飲食店の店員さんとちょっと話し込んでたら「ほそやさんはフルキャストスタジアム(楽天ゴールデンイーグルスのホームスタジアム)にもお店出したんですよ」なんて教えてくれた。未確認情報ながら一応追記(2006.1.23)
2004.12.11 Y.M9月に入ってもまだ収まりのつかぬこの夏の陽気・この陽射しの中、誘われるように南下、心は湘南の海へ――。タイムリーな話題としては江ノ電300形が本年9月を限りに引退……ではなく、304&354号車のみ74年間のお勤めを終えてラストラン。海上には白い帆影が無数、サーファー達もまだまだ夏モード!
職場同僚にして波乗りのNobu氏から情報をいただいたのは今年の5月ごろか。しかし夏はどーせ人出が……と、ハナから諦めモードでスルー。6月に一度トライしかけたが果たせず、こうなりゃぁ冬の灰色の海をバックにメランコリックにゆきますか――とアレコレ構図を考えていたのだが、このところの夏空の晴天続きにまたとないチャンスが到来!夏の海&夏の陽射しをバックにハンバーガーを――ずっと思い描いていた図である。ホント天気に恵まれ、念願叶った!
七里ヶ浜駅降りてすぐのセブンイレブン隣……なーんだ、想像よりはるかに文明に近い。国道沿いにもっと歩くのかと思ってた。おかげで店は好立地!出てすぐ斜め前方の横断歩道を渡れば、そこは七里ヶ浜の海岸なのである。白亜の鉄筋RC2階建1階。店の前にはまだ濡れたロングボードが3枚――しかも稲村ヶ崎から走って来た江ノ電が、ちょうど建物の手前で"イイ角度"にカーブして背後を走り抜けるのである!
とにかくサイトがオシャレ。カッコイイ海の写真の数々、気の合う仲間に音楽に……BGMはそんなイメージに違わぬスムースジャズ系でクールに……ではなく、多分CDなんだろうが、70年代・在りし日のクロスオーバーサウンドで、健康的かつ気持ち良い中にもちょいおバカでちょいイモなセンスがまた堪らない。リゾート気分全開!!な昼下がり。メニューは魚介類を使ったイタリアンなどがメイン。「海」に「太陽」に"魚介類"(←シーフードとも言う)だなんて……モォ〜聞くからに美味しそうなのである!!
そんな誘惑の中、モンクス特製ハンバーガー\1,400。昼にはサラダ・グリルドポテト・ドリンクがセットのハンバーガープレート\1,900も。バンズは表面白ゴマのグラハム、中身は特製トマトソースのた〜っぷりかかった"ゴロンとパティ"、その下になんとボイルドエッグ、よく熟したトマ、レタ、その下にシュレッドオニだったかな?で、どこからともなくマヨソースが零れ出、下バンズ。このグラハム、初めはカチカチの一直線だったのだが、スポンジ質で水分を含むに連れブヨブヨに。しかしそのクセその分持ちが良く、なかなか"決壊"しないのである。とは言えそれも時間の問題、バーガーまだ半分を残し空中分解、一部は不本意ながらナイフとフォークで拾い集めることに……。ゆで卵はモーニングに出て来そうなタテの輪切り。"ゴロンとパティ"はどこまでもハンバーグなれど良質でまる〜くマイルド。クサミなし。無用な刺激なし。上からかかる濃厚なトマトソースの心地好い酸味と甘〜い余韻。輪切りトマトの酸味も陽気で晴れやか――う〜ん、やはり環境の為せる業か。波乗りの集う店らしくちょっと大味、豪快でパワフル、そしてボリューム満点!お供はBud!!
食後持って来てくれた水が冷たくて目茶目茶美味しかったー!しかし撮影は難しかったー!画像↑イマイチでした……。やはり素人が野外で照明も無しに食べ物の撮影なんてするモンじゃないネ。今度からスケッチブック持ち歩いてレフ代わりにしようかな。スケッチブックならカバンからおもむろに取り出しても不自然じゃないでしょ?テラスで6弦のウクレレ弾きながら憩うのが最高に向きなお店。海の色――夏、空の色――夏、陽射しも夏――そんな中、秋の涼風に吹かれ、海に向いたテラスで(キーボードの上を)指だけ滑らす(←ワカル?)……ヤー気持ちイイワー!
※'06年9月24日、23年間続いた七里ヶ浜のアノ場所は閉店になったそうです。ナイスロケーション、そして海の男らしい、豪快なお店でした。また移転再開とのこと。(2007.1.7)
2005.9.21 Y.Mしまった……!100店目前の秒読み体勢に入り、残り3店はココとココとココ……と、全部決めていたのである。ところが……
配達記録付きの郵便物を管轄の座間郵便局まで取りに行くことになり、無事その用を遂げた後、さてもうちょっと足を延ばして小田急電鉄相武台前駅でも撮りに行きますか……と純粋に「駅写」的興味から、未だ降りたことのない駅へと自転車を走らせた。まだ昼食をとっていなかったし、折からの小雨が少し強くなってきたところでもあったので、撮影を終えたらファミレスでもどこでも目に付いた店に入ってゆっくり休もうと思っていた。やがて目的地・相武台の駅前と思われる街に入った。と……、目に飛び込んで来たオレンジ色の看板には「Sasebo Burgers」とある……ん?サセボ?……えっ、佐世保!?残り3店の綿密なる計画のことが一瞬頭を過ぎったが、しかし相武台前なんて滅多に行く場所では無い。店を目の前に引き返す手も無い。これを機に行っておかねば二度手間……と計画の変更を決定、昼食はココで。
西口駅前、降りてすぐ。変わった造りで、建物1階・長方形の店舗面積の一角にタバコ屋があって、その部分だけお店の面積としてはしっかり欠けている。つい最近までハンコ屋さんだったところで、店を閉めた後すぐの今年9月初旬にオープン。なかなかに狭く、席数は14ほど。カウンターの前に立つと内部をすべて見渡せてしまうキッチンは最近オープンした割に新しくないので、きっと中古で買い揃えたのだろう。体を入れ替えてどうにか作業できるほどの細ーくて狭ーいキッチンで、かつホールとの間に壁も仕切りも何も無いので、これではスタッフは逃げも隠れも出来ないわなぁ。ちょとカワイソ……。壁の所々にサインボードなど貼ってあるが、全体としては殺風景。逆にこの狭さといい、安い造りといい、かつタバコ屋の存在も手伝って駄菓子屋テイストでイイ感じ。小学生の女の子3人が宿題している姿がまさにぴったりハマる、これこそが佐世保テイスト。
ベーコンエッグバーガー\360に+50円でチーズ。紙に包まれて登場。なので開けるとベチャ〜っとケチャップやらマヨネーズやらが内側に付いていて、いかにも佐世保的。コノ熱さとゴチャマンとした感じも佐世保的。表面何もないバンズ、裏マスタード、レタ、エッグ、マヨ、オニ、トマ、べー、チー、ケチャ、パティ、下バンズ。黒胡椒がかかる。伊藤パンのバンズはふんにゃりと柔らか過ぎて芯がない。ちょっと力入れて持てばそのまま千切れてしまいそうなバンズだ。パティの持つ塩味が余計なのか、佐世保バーガーという意味では甘味に欠ける。パティは中が薄赤く良い焼き加減だが、しかし表面のコリコリしたコゲの感じは……やっぱりハンバーグだなぁ。本場に比べ、全体にも一つ締まりが無い……かな?でもこの価格設定と駄菓子屋的店の雰囲気に免じて(?)良しとしますか。「『らりるれろ』系の手作りバーガーです」とあるのだが、それは中野のZATS BURGER CAFEが佐世保のLOG KITから指導と材料の提供を受けている――というのと、同じような関係にあるということなのだろうか。その辺訊いてみたかったのだが、割りと絶え間なく客が来るものだから、結局チャンスを得られなかった。確かにらりるれろもこんな方向性ではあったかな?ちなみに「アンクルサム」という店……そう言えば佐世保の街を歩いていて確かに前を通りがかった"ような"気がする。が、佐世保の方は居酒屋、相武台のコノ店との関係は不明。"見せ方"にしろ"名乗り方"にしろ、端々に何かこう、もう一つずつ思慮の足りないようなところが見え隠れするのは大変気になる("系"はどうかな)。しかしまぁ「始めて2ヶ月」と言えばそろそろ問題が浮き彫りになってくる頃でしょうから、その辺の見直しも含めて今後に期待いたしますか!
さて店から300mも行けば、そこは外国=それ以外の理由は考えられない。あるいは「基地編」に加えても良かったのだが、しかし「基地編」は や、米国文化が周辺地域へ及ぼした影響の様子などを窺う企画であって、キャンプ座間の入口に佐世保バーガーを輸入してきたような状況ではコノ場合、むしろ話は逆である。また佐世保の○○の支店――ということなら当然「佐世保編」も考えたが、どちらでもなかったので結局このページと。
2005.10.29 なのである。確かに駅前には米国人の姿が少なくない。駅からベースまでの途中にある店ということで、米兵とそのファミリーたちを意識している部分もきっとあるだろう。と言うかコノ立地、Y.M此処は熱海銀座――通りからぷいと脇道に入ると、逆光を浴びた佇まいが何とも神々しく見えたものだ。マスターは東京生まれの東京育ち。進駐軍で働いていた。東京銀座の服部時計店(いまの和光ビル)が接収されて進駐軍のPX(Post Exchange, 購買部)になっていた頃、そこでハンバーガーと出会う。'52年、23歳のときに熱海の銀座にボンネットを開店。店名は壊れかけたワーゲンの……ではなく、帽子から。ハンバーガーを始めたのは55年とか6年とか、とにかく開店と同時では無いような口ぶりだった。当時は進駐軍が流行も、娯楽も、食べ物も、音楽も――あらゆるものの発信源だった時代である。その発信源のど真ん中に身を置いていたわけだから、それこそありとあらゆるものが強烈に魅力的で、刺激的で、多感な若者は乾いたスポンジのようにみるみるとそれらを吸収していったに違いない。どうして熱海で店を始めたのかは聴かなかったが、東京から来た若者が始めたジャズの流れるハイカラな喫茶店は、一目もニ目も置かれる存在だった筈である。熱海ゆかりの文人・著名人らもよく訪れたというから、時代の最先端をゆく彼らのウルサイ好みをも、きっと十二分に満足させていたことだろう。
新宿辺りにある古い喫茶店を想像してもらったらよい。奥に長い店内――黒い床の上に、かつてクリーム色の背に赤色のクッションだった合皮張りの椅子が四席ずつ、ずっと奥まで並んでいる。白い壁には(多分)バロック風・華美なデザインのブラケットランプが等間隔に。このインテリアの規則的な連続が、奥に長い店の形を巧く活かした空間演出を成している。奥の壁はもちろん鏡。黒い階段を上った2階の暗がりから聴こえるBGMは、粋で素敵なムードミュージック。ちょうど腕の高さに壁から張り出す肘掛の、裏側から零れる蛍光灯の間接照明、そして店の中央に並ぶショーケースの明かりが印象的。
ハンバーガーセット、ハンバーガー&コーヒーで\700。単品\500。底を二重にしたバスケットに紙を敷いて。手のひらサイズの小ぶりなバーガー。バンズてっぺんにピクルス、付け合せはフレンチフライ。裏マスタード、そしてソース(コメダ以来)、パティ、下バンにバター。レタス1枚と生のオニオンが外に。バンズは縁のコゲがサクサクと気持ちよく、辛い生オニのシャクシャクと相俟って、クセになる歯応え。オニオンの辛味に次いでやや甘目のソース味が効いており、更にはそれらの味をサイフォンで入れたコーヒーの軽やかな酸味が中和するかのようにサラリとまとめ上げる。パティはハンバーグだが粘らずサッパリとしていて、ソースを用いたバーガーとして実に実に完成されている。まとまりある味覚に歯切れの良い食感。すごくしっかり・はっきりとしたエッジと主張を持った、表明するバーガー。
さてこの印象深い白いオニオン――日比谷三信ビルのNEW WORLD SERVICEもコノ味だった。意志を以って乾燥させないと、こういう風にはならないだろう。ワザと乾燥させて、以前書いた通りの「タテヨコの比がぴったりと合ったサイの目の食感」を出している。銀座のPXと日比谷のNWS――どちらもGHQ体制下の中心部に位置していたわけだから、PXでハンバーガーに出会ったボンネットのマスターとNWSは、あるいは同じモノを見たのかも知れない。つまり当時あったハンバーガーはほぼこんな姿だったのである……という仮説。
さらにはこのバーガーのサイズ……六本木のハンバーガーインも横須賀のハニービーも、仙台のほそやも、佐世保のブルースカイも、どこもおよそこんな大きさだったことを、私は単なる偶然だとは思えないのである。偶然でないのなら、ではつまり進駐軍のハンバーガーは小ぶりだったのか――。あるいはコレが当時の日本人のスケール感だった――という考え方もできようか。2006年の今、バーガーショップ/ダイナー各店が競って作るアメリカンサイズのバーガーとは大きく違う、このサイズ感――実は何かスゴイ曰くや背景が隠されているかも知れない……なんて、こんなことを書くうちに、もう一度店を訪ねてマスターからもっといろいろと当時の話を聴いてみたくなってきた。近くもう一度行くかも知れない。次回は三島由紀夫でもきっちり一冊読んでからにしますかな。
いずれにせよ日比谷と熱海、思いもかけない場所と場所から、思いもかけない歴史が垣間見えて、何か私の中では輪が繋がったような思いがするのである。……にしてもだ。こんな落ち着いた喫茶店で華麗なるストリングスサウンドなど聴いていると、身も心も洗われたようになって……本当に気持ちイイったらありゃしない!要らぬ肩の力が抜けて、重心がスウーッ……と下がってゆくような、そんな感じを覚えるのである。壁に架かる黒いパネルに描かれたハンバーガーのイラストは一個当千。
2006.3.7 Y.M佐久まで行って来た。東京から長野新幹線で1時間――という行き方はせず、小淵沢から小海線を使い、八ヶ岳南麓の高原を抜けて佐久を目指した。
●菱屋本店
この店に惹かれたのは、経営する菱屋本店の沿革の面白さによる。江戸中期・宝暦年間に始めた宿屋がその起りで、それが土産物屋、食堂など様々に派生しながら二百数十年後の平成十七年にはハンバーガーショップを始めたというのだから、ご先祖様もびっくり……ではなく、江戸時代の宿屋と現代のハンバーガーとが同じベクトル上に扱われていることに商いのチカラと言うか、何か不変の逞しさのようなものを感じたのである。日本広しと言えどこんな店もさすがにあるまい。にしてもである――なぜ長野県の小諸市にオリジナルなハンバーガーショップが突如現われたのか?そしてなぜこの内陸にあって海賊島なのか??
●ステーキレストラン 菱屋海賊船
菱屋本店の経営する菱屋海賊船というステーキレストランで出しているハンバーグが好評で、それを更にアレンジさせ……というのが海賊島の始まり。ではなぜステーキ屋が海賊なのか。
ハンバーグステーキの名はドイツの都市ハンブルクでこの肉料理が盛んだったところに由来する――コレ定説。次に料理の起源だが、北アジアの遊牧民タタール人の肉料理であったとする説がよく知られている(異説もアリ)。その北アジアの料理が如何にしてヨーロッパまで伝わったか――諸説あるが、13世紀、タタール人が欧州に攻め込んだ際(バトゥの征西?)もたらしたとするものと、大航海時代に船乗りがハンブルク港に持ち帰ったというものと、二説をよく目にする。マクドナルドのHPでは後者を採り上げている。よってここでも後者で進める。
北アジアの騎馬民族が考え出し、大航海時代の船乗りが運んだ――海のモノと山のモノとのコラボレーションによってコノ肉料理はハンブルクステーキと呼ばれるようになったのである。でまぁ、運んできた船の中には良い船もいればきっと悪い船もいたでしょ……ってことで、ココにハンバーグ伝来海賊媒介説が誕生する次第――歴史浪漫ですな。タタール人のタルタルステーキは生肉のタタキで(Mr.ビーンにも登場する)、ドイツのハンブルクステーキも同じく生で食べる。そのルーツを受けて菱屋海賊船のハンバーグも強く火を通さないレアな焼き加減が信条。テーブルまで運んだ後、高温の鉄板の上で二つに切って中を焼くのはハングリータイガー式。
●トレーラーハウス
その海賊船から生れ出た海賊島ハンバーガーはトレーラーハウスが店舗。インテリア/エクステリアの費用も含めオートローンが組める上、固定資産にならず、動力が付いていないので自動車税も係らないという\スグレモノ\。店内外ともさほど極端には"海賊風"の造り込みはしておらず、かえってそれがライトな感覚で良い匙加減。海賊船をイメージした丸窓からは雪を戴く浅間山が見える。キッチンのお母さんも頭に赤いバンダナ巻いて少しだけパイレーツルック。BGMはスローなジャズヴォーカルやオールディーズがまったりと。
●軽井沢の高原野菜
海賊島チーズバーガーMサイズ\430、Lは\720。バンズてっぺんにピクルスふたかけが海賊の剣で留まっている。以下レタ、生のキュウリ、マヨドレ、シュレッドレッドオニ、トマ×2、チー、干瓢ソテードオニ、パティ、レタ1枚、下バン。バンズは表面平たい白ゴマ、マックなどに近いお馴染みのもの。裏が軽く焼いてある。
とにかく野菜のボリュームが凄まじい。高原野菜を惜しみなくふんだんに挟み込んだ実に実に贅沢なバーガーだ。ランチセットのサラダに匹敵する量を使いながら、僅かにこの値段!東京なら800円は固いだろう。レタスの歯応え、トマトのみずみずしさ――これでもMである。和牛100%、二度挽きと一度挽きを2:1で配合したパティは海賊船のポリシーを受け継ぎ、薄身ながらも中に赤みの残るふんわり柔らかな焼き加減。静かに、しかし確かに柔らかな旨味が伝わる。ただ勢力図としては野菜陣の力が圧倒的なので、パティはその影に隠れてやや分が悪いか。もっと肉厚で肉気に満ちたものである方がステーキ屋の看板にとってより相応しいようにも思えるが、とは言え野菜のボリュームと美味しさだけでも、もう十ニ分に驚きのバーガーである。少し物足りなく思う人にはパティをダブルにしたバーガ・バーガ\580がある。むしろソッチの方が野菜とのバランスは良いかも知れない。
●海賊島アップルバーガー
長野県の特産を使った変り種が海賊島アップルバーガーM\430。パイナップルの代わりにりんごを使った恰好。パイナップルはシロップ漬けをグリルしたものが多いが、このバーガーのりんごは煮込んでペースト状にしてある。なにしろ他に例のないバーガーなので――と思ったが、FIRE HOUSEにアップルバーガー、AS CLASSICS DINERにベイクドアップルバーガーがありました。失礼……(2006.11.23追記)
人により感じ方も違うだろうし、故にこのりんごの調理法についてはきっとアイデアが百出して止まぬことと思う。例えば煮込むにせよ形の残る程度に留めておくとか、パイン同様蜜漬けにしたものを乗せるとか、サラダ感覚でシャクシャクした食感を楽しむとか……。焼きりんご(参考:スマトラカレー共栄堂)なんて食べ方もある……が、それでは冬季に限定されてしまうのかな?とにかく工夫次第でもっと発展進化しそうなポテンシャルを秘めたバーガーだった。ぜひぜひ長野の誇るバーガーと言われるまでに大成させていただきたく――
●FC募集中
ただハンバーガーに真摯に取り組む店――というのでなく、そこに海賊という軽い遊び心が加わって、ちょっとアミューズメントに昇華されている辺りがミソ。名前も覚えやすいし、インパクト抜群!自慢のトレーラーハウスを駆ってFC展開も視野に入れているとのこと。近い将来、必ずや軽井沢に店を出すことになるだろう。こりゃヒットするゾー!!しかし軽井沢で大当たりなんかした日にゃあ、それこそ佐世保張りの分業制でも布かない限り、とてもじゃないが回せまい……さぁ〜大変だっ!!
※後日サイトをよく読むに、FCについて実に素晴らしい考えを持って臨んでおられることを知った。「現代は“個人個人がそれぞれ固有の価値観を持っている”という時代になってきました。母体の大きなチェーンが市場を支配する時代ではないのです……」なるほど。ハンで押したような画一的な店舗が町々に量産されてゆく、従来のFCのスタイルとは違うワケですな?俄然興味が増してきた……(2006.4.11)
所在地: | 長野県小諸市御影新田2746-1 | |
JR長野新幹線・小海線 佐久平駅より小諸方面へ2km 地図 | ||
TEL: | 0267-22-8019 | |
URL: | http://members.ctknet.ne.jp/hishiya/ | |
オープン: | 2005年1月 | |
営業時間: | 11:00頃〜20:30 | |
(平日は15:00〜17:00closed) | ||
定休日: | 月曜日(祝日の場合は翌日休。要確認) |
都内はいつでも行ける――という思いが働くらしい。当企画ではどうもココ最近、ドーナツ化現象が進んでいる(ハンバーガーのページなのに……)。
関東南部に住む者にとって、埼玉の風景はものめずらしいのである。どこまでも真ーっ平ら!こんな景色は神奈川県には無いのだ。佐藤春夫が「広い武蔵野が既にその南端になって尽きるところ、それが漸くに山国の地勢に入ろうとする変化――言わば山国からの微かな余情を湛えたエピロオグであり、やがて大きな野原への波打つプロロオグででもあるこれ等の小さな丘は、目のとどくかぎり、此処にも其処にも起伏して……」(『田園の憂鬱』)と描くところの地形が神奈川県である。東海道線の保土ヶ谷・戸塚辺りの風景を想像してくれたらよい。此処にも其処にもある起伏のてっぺんに、零れ落ちんばかりに家を建て、傾斜地を器用に使ってマンションを造って、小さな丘という丘は建物だらけ・ハコだらけ。自転車乗るにしたって平坦な道というものが無くってホント大変なんだから!それに引きかえ埼玉は、東武伊勢崎線に乗っても埼京線に乗っても見渡す限りの平野、また平野……。ヨダレが出るくらい羨ましく思っている神奈川県人は多分私一人ではあるまい。
初川越である。小江戸として有名だが、今回そっちまでは足を延ばしていない。街の規模としては八王子まではいかないか。町田くらいでつり合うかな?クレアモールという目抜き通りを歩き、筋を一本曲がる。この通り一本入った感覚というのには、少し吉祥寺テイストがあるような……と言ったら吉祥寺の人に怒られるかな?住宅地の中にカフェやら洋服屋やらが入り込んでいるような状態。築云十年の老店舗をトタン板で囲ったガレッジな外観の(そういう意味ではココに似てる)その真横には、瓦葺・木造平屋建のこれまた古い住宅とその木塀とその庭木が並んで在って、この同居のスタイルというものには一種独特のサブカル的情緒を感じ……なくも無い……?
店の隣がその民家であるため窓が大きくとれず、採光に乏しくて、昼でも少し暗めの店内。床・壁半分に木を使い、所々にサインボードなど貼って、それらをちょっと汚した感じのワイルド系(←語彙が無い……)。店内に唯一あるテレビではホワイトハウスもののTVドラマ。ライティングのキレイなドラマだったけど、何てタイトルだろ(……全く疎いもので)。お隣の席は中南米系と思われる男性2名(しかも2人してキャビンとセブンスターを吸っていた)、反対側の2人連れも、うち1名はきっと南方の血を引いているであろう面立ちで、偶然か国際色を豊かに感じる客の顔ぶれ。カウンターには酒瓶がワンサカ並んで夜はお酒の店である。BGM――最近のちょっと汚くて下手ウマなロックが有線で。
チーズバーガー、サラダとポテトが付いて\890(安い!)。ポテトはフレンチフライとマッシュポテトからチョイス。表面白ゴマのツヤツヤ、やや重めバンズ。裏にたっぷりマヨ、薄くチー、パティ、シュレレタと言うか千切りレタ、トマ、ちょっとピク、生オニ、マスタードたーっぷり、で下バン。多分焼いていないためだろう、バンズは皮が硬く張っていないものだからサクッと抵抗無くタテに裂けて、実に食べやすい。だからこそ千切りレタスと生オニオンのシャクシャクと、パティのふんわりとが活きてくる。やさしい噛み応えのパティはやや塩味だが、細かな粗さで食べ心地良好。黒胡椒が量のわりによく効き、チーズはとろ〜っとよく溶け、マスタードの辛味もよろしくて、わりと濃い味がしっかり付いたバーガー。バーガー的パンチがはっきり感じられて食べ応え十分!カレー風味の7種の春野菜&サワークリームバーガー\1,040なんて創作バーガーにも意欲的。
入り口のコンクリートに手形が5つ――きっとオープン当時押したものだろう。スタッフの決意と結束の証しである――イイね!麗しいネ!アリゾナにある田舎町の名を冠したダイナーは小江戸・川越に今年で5周年!
所在地: | 埼玉県川越市脇田町14-1 アーバンM1F | |
JR・東武 川越駅東口より徒歩5分 地図 | ||
TEL: | 049-222-8398 | |
URL: | http://www.oatman-diner.com/index.html | |
オープン: | 2001年6月4日 | |
* 営業時間 * | ||
平日: | 11:30〜15: 00, 18:00〜23:00 | |
金曜: | 11:30〜23:00 | |
土曜: | 11:30〜24:00 | |
日祝: | 11:30〜23:00 | |
定休日: | 年中無休(12/30、31、1/1を除く。要確認) |
引き続き埼玉より。中浦和という駅で降りる――
JRで「浦和」と付く駅はなんと7駅。「浦和」「東浦和」「西浦和」「南浦和」「北浦和」「中浦和」「武蔵浦和」……わかんないヨッ!ある種の悪意をすら感じるこのネーミング、こんなことになるのはよほど浦和という名の土地が広範囲に亘っていたか、よほどその市域の中で地区・地域が細分されていなかったためか、あるいはよほど浦和の名を世に知らしめたかったか……そんなことしか思いつかない。東京近郊の鉄道路線図を見渡しても、同じ地名がこれほどまでに多用されている例は、この浦和をおいて他に無い。しかも――これだけ路線図上で幅を利かせておきながら「浦和」という市は最早存在しないのである……
中浦和という駅で降りる。普通、駅を降りるとロータリーがあり商店街があって、それらを総称して「駅前」と呼んだりするのだけれど、コノ駅は、高架駅から地上に降りるとすぐ住宅街ののんびり静かな空気が迫ってきて――ファミレス、ボウリング場など数店が在るにも関わらずである――駅前と住宅地との"境"を極端に感じない駅だった。駅前が開発されていないとも、あるいは住宅地のド真ん中に駅が造られた――とも言えるか。
3分も歩けば別所沼公園。そのすぐ向かいに在るお店――という話なのだが、公園と店との間には二車線道路が走っており、しかも案外と交通量が多いものだから、公園と地続きという印象でもない。一切の枝を刈り落とされて、まるで鉛筆のように直立するメタセコイアの木が、今にも降りだしそうな灰褐色の空をバックに無機質な風景を造り出している。背後に12階建のマンションを従えた古い4階建ビルの1F。メタセコイア同様、かつては殺風景であったろう店の入口には、カーポートの上にまさか自作……?かも知れない立派なウッドデッキが造られて、公園を眺めながらお茶のできるテラス席になっている。店内入るとまずカウンター。床はオレンジ色の焼きタイル"風"リノリウム。壁の木材をフォレストグリーンに塗り、店名が如くエコでナチュラルなイメージが広がる。BGMもアルファ波誘発系、サントラティックなオーケストラ。
チーズバーガー\260(安っ!)。ちょっとしたバスケットの中に傾いて登場。実にちょっとしたバーガーである。可愛らしいという形容が相応しいサイズと丸み。表面何もないツヤツヤバンズ、裏マスタード、マヨ、ドミ系ソース、レタ、チー、パティ、下バン。裏がサックリ焼かれたバンズは見た目にも想像できる甘い味。ドミ系と言うかハッシュドビーフみたいなソースとマヨネーズの味がそこに乗り、全体にも甘めの構成。中でもソースの支配率が高い。パティは繊維質ぎっしりでしっかりした噛み応え。きのこバーガー\300はソースにサウザンドレ、レタ、刻みオニ、パティ、胡椒がはっきり効いたしめじ、下バン。やはりソースのハヤシな味を中心にした、甘めバーガー。いずれも、その中でかっちりとまとまった印象を受ける。小ぶりながらもこの値段――バーガー9種はすべて\320までに収まる。多分こどもからお年寄りまで、幅広くたくさんの人たちに気軽に食べてもらいたい――そんな思いから抑えた価格設定にすることを考えたのだろう。そしてその設定の中で作れるサイズはコレだった――というまず価格ありきで、後から決まったサイズであるように思われる。2つくらい平気でいけてしまう、手軽なちょっとしたおやつ感覚のバーガー……そう、値段といい雰囲気といい、ERIC'Sを思い出す。
ハンバーガーショップを志す人の中には、例えばOATMANのマスターのように本場アメリカの豪快なバーガーに惹かれて始める人と、ファストフードな業態に……と言うとチェーン展開を想像するので、この場合「形態」と呼ぶのが適当か?――とにかくファストフード店のスタイルに強く憧れて自分でもやってみたいと思う人と、大別して2種類いるのかも知れない。コノ店は後者に当てはまる。まずレジで注文し、代金を払ってから席に着く。バーガーは店員が席まで運んでくれるが、帰りは客がセルフで下げる――。こんな小さなお店ながら、ファストフード店同様なゴミ箱(フタがスイング式の。しかも木製)があり、バーガーの包み紙には「チーズバーガー」「きのこバーガー」とひとつひとつラベルが貼ってある。そんなディテールまでもきっちりスタイルを踏んでいる辺り、この店は海賊島以上にファストフードである。男子2名、厨房の奥に静かに控えている辺りは、やはりエリックスと像が重なる。と言うコトで当企画ではあえて埼玉版エリックスと呼びたい。公園を散策した後のちょっとした足休めの場にふさわしい、埼玉のエリックス。
2006.4.10 Y.Mアメリカでの牧場生活を支えたパワーフード・ハンバーガーを日本に伝えるべく埼玉県は草加に'05年11月30日オープン。
●草加
東武伊勢崎線草加駅は思っていたよりも大きな駅だった。駅前はそれはそれは美しく再開発されていて、マルイがあることを思えば東急田園都市線溝の口駅(川崎市高津区)辺りに相当するだろうか。
ただやはりこの平たい地形がモノを言うのだろう、同じ再開発でも溝の口よりゆったりと全ての造りに余裕がある。これだけ高い建物が目の前に聳えていながら(と言っても8階建ですから)、水平方向の広がりが街にどこか伸びやかな印象を与えるのだ。もっとも溝の口はJR南武線と交差する駅なので、そうした意味では新越谷との比較の方が正しいのかな?まぁそんな話はどうでも……
●駅前一番通り
その再開発マルイの裏手に駅前一番通りという商店街があって、川越のクレアモールには遠く及ばないが、しかし入り口両脇にある地元の老舗洋品店の健闘もあり、まずまず活況を呈している。商店に混ざり立派な構えの住宅も並んでいて、「地元のための商店街」という感じの良いスケール感だ。円形にブロックの敷き詰められた区画の途切れた少し先に店は在るのだが、そこまでの短い距離の間にもヒトクセありそうなバーやダイナーが進むほどに立ち現われて、ある種"コア"なものへと向かってゆく"流れ"のようなものが感じられる。
●ファイヤーキング
ライトグリーンの看板が映える入り口には、スタッフ自ら2度塗りしたというウッドデッキ。1卓設けるのがやっとの僅かばかりなものながらも、魅力あるエントランスに大いに貢献している。向かいの道路は一方通行ではないようで、店ギリギリをきわどくクルマがすり抜けて行くこと度々。いつか看板引っ掛けられるんじゃないかとヒヤヒヤしてみたり――。
中に入るとすぐ左手にマスターのコレクションであるファイヤーキングのマグカップの並ぶカップ棚。キッチンに向いて背の高ーいカウンターがあって(バス ストップ並みか)、そこにまたエラク高いカウンターチェアが並べられているなぁ……と思ったら、カウンターの高さに合わせるためにワザワザ特注で作ったものらしく……またエライところにこだわりましたナ、>マスター
天気も良いので入り口全開、店の向かいがちょうど駐車場になっているのも手伝って、明るく開放的な空気が店内にも満ちている。草加駅の手前で徐行する東武線車両の姿ものどかさに一役。床はコンクリ打ち放し、カウンターはじめライトな色の木材を多用し、白い壁と相俟って全体にすごく明快な色使い。ポップにまとまっている(私の中ではどこかセサミストリートな明快さ)。あと牛が店内其処彼処。こんな平和な昼どきによく似合うBGMは、お店パワープッシュのグループCaravanの"WANDER AROUND"
●黄金の滴
バーガー14種、サンド8種(珍しくバーガーの勝ち)。チーズバーガー\860、ランチタイムは+\100でドリンク。ドーム型のバンズはツヤのある表面にケシの実。マヨ、チー、パティ、刻んだレリとオニ、トマ、緑濃いレタ、マスタード、下バン……なのだが、運ばれた当初よりパティの端から肉汁のようなものが凄い勢いで滴り落ちているのである。はてコレは……どうもオリーブオイルの類の模様……と初め書いたのだが、その後エラク遠回しな方法で店主にお尋ねしたところ、オリーブオイルは使っていないとキッパリ。……なら肉汁?イヤでもこんな濁りのない、キレイな肉汁というのも見たことがないので、それも違うのではないかと。では……ひょっとするとチェダーチーズがあつあつパティの熱で溶け出したものかも知れない――イヤ違うなぁ、あるいは単純にマヨネーズ?わからない。私にはわからない……。
いずれにせよこんなバーガー初めてだ。一切濁りの無い、透き通ったピュアな黄色の滴で、そう……言うなればコレぞゴールデンドロップ!マイルドな余韻を後に残す。バンズはふっかりふか系、噛むとずんと沈む感じ。甘目でやはりこの味がバーガー全体の中心。次いで上のマヨ&チーズと下のマスタードが出会って、過剰にならない塩味を形成。バンズは粒々・ゴリゴリと粗目、それでいて柔らかくてとても良い口当たり。下味程度に胡椒がかかる。オニオンは刻んであるので量的にもそんなに幅を利かせておらず、全体には無理のない、ナチュラルな味に仕上がっている。ココにさらにトドメの一撃!が加われば……きっともっとスゴイことになるだろう。付け合せにフレンチフライ。
●解放せよ
「カリフォルニアでの牧場経験」とは一体どんなものだったのか……という話は一切お聴きしていないのだが、ともかくも彼(か)の国の、ハンバーガーという名の食文化の発信者たらんという気概に満ち満ちたお店。「ハンバーガ=おにぎり説」なんて、いずれ展開しようと思っていた説なんだよね(お箸で食べるのは変でしょって話はココでしたが)。
きっと店名には様々な思いが込められていると思うのだが(と思いきや、実は単に実在する牧場の名前だったりするんだよネ)、ともかくそんな思いを思いどおりに形にできる世の中になったんだなぁと、何よりその点を感慨深く思うのである……いや、私は別にソノ業界に長年従事してきた者でも何でもないのだけど、ただ行き掛かり上ネ。だって5年前じゃあ、まず考えられなかったでしょ?こういうお店の存在自体。日本のハンバーガーは急速に寡占から解放へと向かっている。さらに解放せよ!>UNCHAIN FARM!
利根川を渡ると茨城県である。常磐線で茨城県内最初の駅は取手である。その取手から関東鉄道常総線という私鉄が走っている。その関東鉄道に乗って5駅目、戸頭(とがしら)という駅がある。
●戸頭
戸頭は取手に次いで常総線第2位の乗降客数を誇るベッドタウンである。戸頭からさらに2駅乗ると守谷駅があり、此処は昨年開通したつくばエクスプレスと接続している。本気でぶっ飛ばすTXのおかげで、戸頭から都心へのアクセスは飛躍的に良くなり、上手くすれば47分で秋葉原まで行くことができる(駅探調べ)。
諸々入れて1時間。常磐線周りでも1時間10分。戸頭はじゅうぶん都内への通勤圏なのである。私の今の通勤時間が1時間30分である。渋谷までならば乗車時間は1時間弱だろうか。つまり私の現住所、神奈川県相模原市と茨城の取手市は、都内へのアクセスにおいてほぼ等距離ということになる。ともあれあのスピード狂の威力は絶大。
●黄色いキッチンカー
改札を出て南に歩くとまず公団戸頭団地。間の遊歩道を抜けると住宅街に出る。戸頭駅開業が'75年、団地の竣工は'77年。ちょうど木内監督率いる取手二高が甲子園に出場し始めた頃だ。なので30年を経た街である。落ち着きがある。静かである。のどかである。さすがに郊外だけあり、家が大きい。
車道に出て、さらに南。と、前方に昼間からエライ混み様のベーカリー……帰りに寄ってみようと思いながら、寄りそびれた!もう少し歩くと、1階に店舗が3店ほど連なり2階は貸室が3部屋で1棟という、こうした住宅街の外れ(オワリとも言う)に必ず見かける建物の、一番向こうの店の前に目にも鮮やかな黄色いキッチンカーが停まって見える――ハイ、本日のお目当てはコチラ。
このキッチンカーでハンバーガーを焼いている。ハンバーガー\650にホットドッグ\500、あとはトッピングという考え方の様で、テイクアウト用のメニューは至ってシンプル。トッピングチーズは\100なのでチーズバーガーは\750。本日はさらにパイナップル\50をトッピング、締めて\800。ソースは4種類から選べる――バーベキュー/テリヤキ/レッドホットチリ/スイートチリ……ってコレ、人形町のアノ店と一緒じゃん!!そう、実はコノ店、かつてBROZERS'で働いていた倉持さんが昨年1月より始めた店なのである。
●ハンバーガーのABC
実際ビッグスマイルのマスターは戸頭から人形町まで通ったそうである。そして今をときめくBROZERS'のマスターからハンバーガーのいろは……じゃあ変か、ハンバーガーのABCを学んだ。で、独立するに辺り、見るからにハッピーなこの黄色いキッチンカーをネットオークションで手に入れ……ってホンマつくづく運のイイ奴っちゃで。当初テイクアウトのみだったのが昨秋、空き店舗をマスター自ら改装してイートイン(あるいは注文待ち)スペースを新設。
その店内、前は居酒屋で、黒い床タイルに天井、そしてカウンター周りは前のまま。小上がりの畳だったところに白黒チェックのシートを張って、その上にベンチが載せてある。かつての食器棚は、アメリカン・トイのおあつらえ向きなディスプレイケースに。和米折衷の趣きを感じるが、梅雨の晴れ間はやっぱ外っしょ!クルマのヨコに黄色いピクニックテーブルが置いてあって、多分ほとんどの人は注文を待つ間、ココに腰掛けるんだろうが、私は此処で食べるべく待った。
なんだか外で開ける缶ジュースは行楽気分全開でネ、車内からジュージュー聞こえる鉄板の音と、ラジオから流れるビーチボーイズを聴きながら、海でハンバーガー売ったら気持ちイイだろうなぁ……でも目茶目茶暑いだろうなぁ……などと想像に耽っていたら、事実近郊各種イベントへの出店オファーも順調にあるらしく。近々つくばサーキットでどうとか言っていた(ってちゃんと覚えなさい!)
●人形町のアノ味
してチーズバーガーwithパイナップル\800。付け合せにハッシュドポテト。お供のジンジャーエール\100はFIVE STARなるお初な銘柄。
表面白ゴマ、カリッと強く焼いた硬めの皮に、身もややドライなバンズは、流れでゆけば先刻のベーカリーに頼んで作ってもらってる……と思いきや、そうでなかった。ライ麦入り、皮がショリショリとした砕け方で個性的。ひょっとするとテイクアウトを重視して、時間の経過に耐える造りのものを選んでいるのかも知れない。表面白ゴマ、裏バター、バベキュソーにパイナ、チー、パティ、刻んだオニ、トマ、レタ、マヨ、下バン(heel)。パティの粗さと柔らかさのアノ絶妙なブレンド具合はお師匠に実によく似ている。軽くかかった胡椒も人形町の懐かしきアノ味。そして最後のひと口まできっちりとパティの上にかかってマイルドな余韻で口中を満たすチェダーチーズの、この恐ろしく計算し尽くされた乗せ方もばっちり師匠譲り。最後に袋の角に残る水分量の少なさも師匠の技を正しく継承している。
少し違うところは、まるでロールキャベツのようにくるりんとまとめられたレタス。食感の活かし方はやはり本家同様なのだが、コノ畳み方には作り手の個性が表れているように感じられた。大きく違うところはオニオンの切り方と(人形町はスライス)、師匠よりは甘めのバーベーキューソースの味付けだろうか。当代一流の技を個性的なバンズで挟み込んだガツッとパワー溢れるバーガー。もちろん食後のハイヴォルテージ&ハイテンションも人形町の本家同様、食べると必ず幸せが訪れる、イワユルひとつのLITTLE BROZER, but BIG SMILE!!
●住宅街のバーガーショップ
とは言え今後、お師匠の味から徐々に離れてオリジナルなスタイルを確立してゆくであろう、そんな予兆を感じるバーガーでもあった。
一見、駅からも他の商圏からも離れた不利な立地に思えるが、ところがどうして、よく見りゃコノ通り自体、何とな〜く歩速が緩まりそうな、の〜んびり和やいだ空気を持っていて、こんなスローフードなお店があってもイイかな〜?というオープンな雰囲気を醸しているので、なかなかどうして"穴場"でしょう。
にしても構えの大きな住宅街をバックに持っているのが何よりの強味。彼らの支持を得る限りは、売上げは安泰だろう。案外とすんなり地域に受け入れられているように見えるが、ソレって実はスゴイことなのである。だってカレーでもラーメンでもなく、ハンバーガーですよ〜!と言うか立地としては"飲食"というより、先ほどのベーカリーであったりパティスリーであったり、そっち(=嗜好品)の条件に近いかな?おとなり守谷市はスイーツの街・守谷を目指しているそうなので、何とな〜くそんな流れで良いのではないでしょうか。
なかなか珍しい住宅街のバーガーショップ。海でバーガー焼くときはゼヒ呼んで下さい。汗タラッタラ垂らしながらヨコで食べますんで。
所在地: | 茨城県取手市戸頭2-3-11 | |
関東鉄道常総線 戸頭駅歩15分 地図 | ||
TEL: | 080-1199-2072 | |
オープン: | 2005年1月 | |
* 営業時間 * | ||
平日: | 11:00〜15:00, 17:00〜22:00(21:30LO) | |
日・祝日: | 11:00〜22:00(21:30LO) | |
定休日: | 月曜日(祝日の場合は翌日休。要確認) |