佐世保へ行って来た。
"ZATS BURGER CAFE"の紹介によるとハンバーガーは1951年、佐世保駐留の米海軍によって伝えられた。確かにこの軍港には「ハンバーガー」という特異な食文化があるように感じられる。博多にラーメンがあるように、広島にお好み焼きがあるように、佐世保と言えばハンバーガーなのだ。なにせわずか数時間の滞在の中なので、佐世保市民が年に何個のハンバーガーを消費するか……といったエグザクトリーな(←?)ところまで知ることは到底出来なかったワケであるが、しかし少なくともこの街におけるハンバーガーが、観光の目玉として半ば無理矢理に白羽の矢を立てられ、祭り上げられた存在などでは決してなく、市民の生活に普通に親しみ根差し、そして愛されているのだな……という空気だけでも、どうにか掴んで来ることができたと思う。全国的な常識でゆくと「ハンバーガー」と言えば「ファーストフードチェーン」なワケだが、しかしココ佐世保には個人で営む唯一&一店舗切りのハンバーガーショップが多数在るのだ。それだけ考えても何やら凄いことのように思われる。
'05.10.25 ブルースカイ updatedまず最初に行った店は佐世保駅からバスで7〜8分、国際通りの中ほどにあるログキット。もうすぐ先は海上自衛隊、そして米海軍佐世保基地である。昼間がLOG KIT で、夜になるとHANG OUTと名前を変えてショットバーになるそうだ。ハンバーガーメニューは昼夜とも健在。この店で中野"ZATS..."のオーナー(佐世保出身)は出店に当たり数ヶ月修行したばかりでなく、肉や特製マヨネーズソース、ベーコンを「佐世保から直送してもらっている……」ので、味の方向性はもちろん中野と同一である。
佐世保名物である"ベーコンエッグ"にチーズの加わったスペシャルバーガー\780をオーダー。やはり待つこと10分。20席もない狭い店ゆえキッチンはフロアと同じスペースにあり、肉を鉄板で焼く音が何遮ることなく、辛抱強くハンバーガーを待つ客の耳元までジュージューと押し寄せる。このバーガー、さすがスペシャルだけあって大きい。バンズは平べったく横にのびた感じ。内側が具の形に合わせてやや窪んでいるので案外と薄いのだが、しかしこれくらいがちょうどかぶり付きやすい厚さなのである。中身は見てのとおり特製マヨネーズソースのかかったレタス、その下に隠れて見えないがトマトにオニオンスライス。厚〜いベーコン×2枚にトロッととろけたチェダーチーズ、そして目玉焼き(赤玉だっけ?)。その下に100%和牛をブレンドしたジューシーなパテ(パティ)。ZATS...同様テリヤキ風の甘いソースがかかっている。で、パテの下だったかなぁ……この店ではケチャップとマスタードも初めから入っている。
テーブルには写真入りで【ハンバーガーの正しい食べ方】なる説明があり、片手をバンズの上に乗せて手のひらで真下に押す――と書いてある。その通りに押して(押し方甘いかも)いざかぶりつこうとすると、やはりZATS...同様、熱くて持てない……そりゃそうだ、ついさっきまでジュウジュウ焼いてたんだから。アッツアツを頬張ると、やっぱり甘くてさっぱりした味である。「ジューシー」という言葉が本当にピッタリくるバーガーだと思う。肉やベーコンの旨味、玉子の旨味、そして野菜の旨味。どの素材も瑞々しい旨味に溢れていて、すごく元気で活きのイイ物を口にしている喜びがある。
US NAVYたちに混ざって楽しむ夜の部"HANG OUT"も体験してみたかった(けど時間が……。ちなみにメニューは\の横に小さく$表示。1$=\100だけど)。さすがにBGMのセンスも良くて、終始すごくイイ感じのブラックナンバーが肉を焼く音とともに鳴っていた。ぜひとも夜行くべき店である。
ちなみに間に一軒バイク屋を挟んですぐ左隣が有名店ヒカリである。佐世保バーガーツアーとしては、移動時間0分の格好の位置関係で名店2店が隣り合うこのロケーションをぜひ活かすべきところなのだが、しかしその近さが逆に災いして、LOG KITの大きなバーガーを消化する時間がない。それでも折角来たのだからとヒカリに注文してみたところ、出来上がるのは今から40分後という……おぉラッキーピエロの再現!しかもキッチンには5〜6人ものスタッフがただハンバーガーづくりのためだけに忙しく動き回っているのである。5、6人がかりでもなお今つくっているバーガーが40分前の注文とは――おそろしいことである――後でわかったことだが、ヒカリやLOG KITはじめ市内の人気店は、日によっては1時間待ちくらいザラらしいのだ。そういう意味ではLOG KITにすんなり入れたのはラッキーだった模様。
付近にバラバラと停まっている車は、どうやらみなヒカリのハンバーガーを目当てに集まって来たものらしい(他県のナンバーも多い)。店の前にはちょうど安全地帯のようなスペースが出来ていて、車を停めるのにまさに計ったような好立地なのだが、この店は持ち帰りのみなので、みな車の中で出来上がる順番を待っているようなのだ……おそるべしヒカリ。
ヒカリを諦めて(40分待っても良かったのだが)、駅の方面に比較的近い、この店に寄ることにした。夜はショットバーになるというLOG KITとは打って変わって、らりるれろは言わば駄菓子屋のノリである。外観を撮るとき、店の真ん前に横付けされた軽自動車が邪魔に思えたのだが、しかし今こうして見返すに、クルマが入り込んでいようがいまいが、結局ジュースの自販機が写るか写らないかだけの問題で、大勢に全く影響がなかったことに気付く。飲み屋街で夜から営業始める店もあれば、こうして子供たちのおやつ路線で出してる店もあるということで。人生いろいろ。バーガー屋だっていろいろ。
入り口にあるパンの箱を見て「この店のバンズはフジパンか。大丈夫か……」とやや不安に思ったのだが、店の中に入るとさらにおびただしい数の箱が所狭しと積み上げられていた。音楽ひとつ鳴らない狭過ぎる店内には、かろうじてイートイン用のテーブルが2席用意されているのだが、そのうちの一つはゲーム台……壁にはスロットマシーンが2台……すさまじく駄菓子屋テイストなのである。そこに職場が近くにあると思しき男女が、スーツに制服姿でお昼を食べに来たりする――こどもと大人がシンクロする何やら不思議な空間である。
ココでもベーコンエッグバーガー\368を頼む。待つことしばし、ジュージュー焼く音の末に出て来たバーガーは久々!包み紙に包まれていた。本当に久しく"包む店"には行ってなかったこともあって、はじめやや意外に思えたが、次には"この店らしい"と思い直した。紙にはお店のキャラクターが印刷されている(……ピッ、ピエロのノリだなぁ)。包みを開けると、中はいかにも"手作り"といった感じのバーガーである――フジパン製バンズに不恰好な目玉焼き、マヨネーズのかかったレタスにベーコン。トマトは存在薄。オニオンスライス、ケチャップのたっぷりかかったパティ。あとマスタード。マヨ&ケチャップをふんだんに使ってはいるが、それでも味はやはり"佐世保バーガー"らしく、すっきり食べやすくて妙な引っかかりやイガイガ感がない。
何と言うか、LOG KIT辺りの「頭使って手間暇かけて、スペシャルなバーガー作りました」的な大仰な作り込み方はこのバーガーにはなくて、ベーコンなんかもそれこそ「その辺のスーパーで買って来ました」という感じのごく普通のベーコンで、つまりは「手近にあった材料集めてチャチャッと作ってみたら、こうなりました」というような気負わない、気楽な感じかな。値段もそうだが、より庶民的な感覚で、広く親しまれているバーガーなのだろうなと思った。なので"ファーストフード"と呼ぶなら、このらりるれろの方が相応しい。とは言え営業時間は午前11時から深夜0時まで。どうやら「飲みの終わりにバーガー」というのはウソではないのかも知れない。タバコ屋のおばさんにらりるれろの場所を訊いたら、道案内の最後に「おいしいですよ」と言い添えて返してくれたのが印象的だった。本気で佐世保の人はハンバーガー好きかも。
2004.8.22 Y.M[南船橋・TOKYO-BAYららぽーと]
京葉線は南船橋のショッピング王国TOKYO-BAYららぽーとに今年2月オープンしたパンのテーマパーク東京パン屋ストリート。全国から屈指の名パン店が出店する中、佐世保バーガーの代表はBigMan!昨夏佐世保に遠征した際、穴の開くほど見返したハンバーガーマップを再度復習……長〜い長い四ヶ町アーケードの筋隣、シューズセンター通り角。佐世保駅歩7分、行きやすいところにある。スゴイな、本店のメニューには「パテ(30個詰め)2,100円 」が。営業12:00PM〜翌3:00AM。
実はこの週2度、ららぽーとまで足を運んでいる。1度目は連休最後の春分の日。この日入場までに30分、そしてBigMan はなんと!180分待ち?!!なのでバーガーはあっさり諦め、他のパンをおおいに楽しんで帰還。また落ち着いた頃にでも行コ……落ち着いた頃にでも……落ち着……あー!どーにも気になる!でふと再挑戦したのが金曜日。平日のこの日(でも学校は春休み)、入場待ち0分、BigMan はそれでも40分待ち。
店前に列つくってボーッと何十分も待ってれば、興味は自然とキッチンの中の様子に向けられる。中は完全分業制――ここまで徹底しないと180分の列はさばけない。説明のためわかりやすく言うと、まずカウンターで注文を受ける1名。キッチン奥にレタス係、トマト係、オニオン係各1名。鉄板の前にチーフと思しき体格の良い男性1名、その後ろで出来上がったバーガーを包む係1名。そして渡し口に2名――で合計8名――いや、多分奥にもう1人(なぜなら目玉焼き係が登場していないので)で9名(違ってたらゴメンよ!)。オニオン係なんかキツイだろうな、見た限りではまずひたすらスライスし、終わったら次に輪切りのトマトとひたすら合わせ……という作業に徹していた。全員トレーナーにキャップ。女の子はまるでキャップから髪の毛がはみ出すのを計算して採用したかのような顔ぶれ。みんな髪を後ろで1本に結わえている。ほぉーと思ったのは身の丈くらい高く積み上げられたヤマザキのパン箱。パンのテーマパークなのにバンズはヤマザキ?いやいやそれだけがすべてではないのだヨ。らりるれろはフジパンだったしね。
レジ上に「ベーコンエッグバーガー」「海老チリバーガー」「ステーキバーガー」と3つ大きく掲げられているから、てっきりコレしかないものと思ってたら実は全部で13種類。いちばんシンプルなハンバーガーからトッピングが増えてゆく一般的体系。興味を惹くのは季節限定モノ――九十九島のカキバーガー\450、桜色めんたいバーガー\450。カキバーガーは相当地味に貼り出されているので、注意しないと気付くのさえ難しい。
佐世保基本のベーコンエッグバーガーはこのBigMan が発祥という。待ち続けること40分、やっと手にしたその基本のベーコンエッグバーガー\440と"当企画基本"のチーズバーガー\380(いずれも単品)をトレーに乗せて、次は席探し……この辺がテーマパークのシンドサ。どうにか照明の明るい席を確保、まずは基本のベーコンエッグから包みを開ける。包んであるからには紙にいろいろと付着して、正直見た目は良くない。口に運ぶ。すると……おぉー思い出した!この味だ!かぶりついたとたん幸せになるコノ味!店こそ違え、佐世保で食べたアノ感覚と一緒。食べながら思わず笑みが込み上げるこの充足感!!第一印象はとにかく「桜の原木を使い、3日以上かけて仕込む自家製」ベーコンの深〜い深〜い旨味!!このベーコンこそがこのバーガーのすべてという風にも思えるのだが、そこは、ベーコンの深い旨味を他の食材が外側からさらにやさしく包み込んでこのバーガーは完成している――ととった方が正しいかも知れない。とにかくベーコンの花道、マヨネーズもケチャップもベーコンを味の中心に据えた中にあって、そこに適度な広がりを添える役割へと回り、間違っても邪魔などしない。ヤマザキのバンズはきっと世の多くの人が最も見慣れているであろう姿。表面ツヤなし。裏バターなし、コゲもなし。レタス、"輪切りな"玉子焼き、ベーコンとの相性抜群の薄いオニオンスライス、マヨ、主役のベーコン、ベーコンと比べてすっかり存在感の薄いパティ、ケチャ、バン(heel)。チーズバーガーにもベーコンが入っていたが(入れ間違い?)、チーズはきわめて普通な白いプロセスチーズのようだった……。個々にみればバンズだってレタスだって際立って良いモノであるようには思えないんだけど、合わせると……コノ味!絶品!!
見た目飾らず・気取らず、食材も必要以上に良いモノ・高価なモノを使っているワケでは無い。でもこのバーガーにはイキオイがある。緻密な計算のもと絶妙なバランスに収まるバーガー……といった向きとは異なる、この1個にはパワーが、食べた人を幸せにするパワーがギューッと凝縮されているような、そんなイキオイを内に秘めたバーガー。そして永年佐世保市民の間で愛され育まれてきた強味か、生活密着型と言うか、すごく実際的で合理的・現実的な、ウソのないバーガーである。ともかくも正しいものが正しく伝えられている気がして、なんだか安心した。観光の名のもと"食いモノ"にされることなく、本場佐世保の味と心意気をしっかりと守って私たちをハッピーにしてくれる佐世保バーガー……すばらしい!!パーク内BGM――RPG風(もちろん中世ヨーロッパね)のテーマ曲が、並んで待ってる間中3分単位くらいで延々とループ……こりゃ気が狂うぜ!客はどうせ一日キリだからまだいいが、毎日働くスタッフのことも考えてやれよ!
2005.3.28 Y.M再び佐世保へ行って来た。
去年8月初めて訪れたときには佐世保バーガーについて、正直私はまだ多少眉唾に思っているところがあって、そもそも"ホンモノ"なのか、ご当地ラーメンのように観光の目玉として無理矢理に急造されたモノではないのか――という辺りを確かめる程度で体験学習としては精いっぱいだったわけである。今回あらためて佐世保を訪ねたのは、この伝来「裏ルート」の佐世保バーガーが、いかに独自の進化を遂げたかという点について、もう少し知りたかったからである。
1971年、マクドナルド日本1号店のオープンより遡ること20年前に佐世保駐留の米海軍によって伝えられた。しかし佐世保から長崎県→九州→日本全国……というような波及を見せることもなく、近年、市の観光の施策として取り上げられるまでそれこそ50年近くもの間、全国的な知名度の無いまま佐世保の街と限りなくその周辺地域にのみだけ潜み続ける存在であった(……らしい)。だが広まらなかったのが幸いしてか、ごく狭い範囲の中で特長あるスタイルが確立され、濃い血のまま純粋培養を続けることが出来た。さてではそこで――その佐世保独自のスタイルとは、一体どういうものなのか?という話に次になる。結論から先に言うと、
1.佐世保のハンバーガーは既にアメリカの手を離れ、土地の食べ物となっている
2.土地のことは土地の者に聞け、
私なんぞの口から聞くより生粋の佐世保市民から情報を得た方がよほど正確である
――と、半ば逃げも打っておこうか。今回、食べるほどに強く感じたのは佐世保の「独自」であって、ハンバーガーの「原形」ではない。仮に同じ材料でアメリカ人が作っても、きっと同じ味にはならない筈である。本場アメリカの味を忠実に再現――と言うような話から佐世保はとうの昔に離れている(……と思う)。目指す所はある種モスバーガーと近いだろうか。ハンバーガーという"およその枠組み"の中でいかに美味しい食べ物を作り出すか、あるいはいかに自分達=日本人に合った味覚を生み出すか――という試行の繰り返しが今日のスタイルを生んだ……のかも知れない。その上さらに……ハンバーガーの作り方を最初に教えた人がエラかったのか、教わった生徒がエラかったのか知らんが、とにかく佐世保のエライところは、その食の探求が毎日の食事のレベルでおこなわれた点である。ハンバーガーは常に普通に手の届くところにあって、部活帰りのおやつに、飲みの最後の締めに、あるいはお昼に?晩ご飯に?とすっかり市民の"日常"になっており、習慣のレベルにまで落とし込まれている。しかも外国の食習慣が入って来て、それを「取り入れた」と言うよりも、外国の食習慣が入って来て、それをすっかり自分たちのモノとして「消化してしまった」と言う方が正しい、そういうレベルの習慣である。とにかく生活の中で語られている点こそ、佐世保バーガーのなによりの特長であることを強調したい。
言い換えれば家庭的である。本当に各家庭で作っているものなのかどうかは分からないが、店でバーガーを作るのは多くが女性であり主婦であり"お母さん"である(私の訪ねた店の範囲では。お母さんが一人で切り盛りしているお好み焼き屋さんを想像してくれたら話が早いだろう)。なので基本的には家庭を持つひとりの女性に作れる範囲内でしかハンバーガーは生産されない(あとはお母さん1人の生産力が×3人になるか5人になるか、若いのも混ぜて分業するか――という話)。お母さんが"女社長"になり、チェーン展開をし、他県・他地方へ討って出る――そうした企業的野心や展開が、事実今まで無かったからこそ佐世保バーガーは佐世保の中だけに長らく留まっていたのである。合理性を突き詰めて世界に広まったマクドナルドとはまさに好対照である。
横須賀に行った折にもバーガーの作り手はお母さんであった。ただ佐世保のようなパワーや勢いというものは感じられなかった。ともに日本中によく知られた"軍港"であり、どちらも米軍から作り方を教えられた……らしき経緯を持つ。人口は横須賀市の方が倍、超巨大消費地東京にも近い。片や佐世保は九州西北端の一地方都市でしかない。それでこの違いは――
この先は仮説であり、大いなる眉唾モノと思って読んで欲しい。この差は、そもそも異文化を受け入れる土壌の違いではないかと思う。九州北部は古くより大陸からの文化が伝わる場所であり、平戸・長崎は戦国時代には南蛮船の貿易で栄え、江戸時代には鎖国下にあって唯一海外へ向けられた玄関口であった。たとえば横須賀のご近所、文明開化の象徴として語られる横浜が開港以前はただの漁村であったのに対し、長崎は古くから外来の物を受け入れ・取り入れ、自分のモノとすることについて経験が豊富であり、得意としてきた歴史がある。横浜は掘れば確かに"発祥"を見つけ出すことはいくらでも出来るだろうが、しかしそのうちのどれほどを自身のモノとして作り/売ることが出来ているだろうか?長崎のカステラに匹敵する菓子が横浜にあるか?横浜はパン発祥の地と言われるが、では横浜のパンは元祖としてどれくらい美味しいか?――と考えてゆくと、横浜は異文化のただの経由地で、まさしくポータルな役割しか果たしておらず、伝わって来たモノに対して独自に手を加える力というものは存外持ち合わせていなかったのではないか――という風にも思えるのである。横須賀から逸れて横浜の話になってしまったが、つまりは横須賀に横須賀バーガーが成立せず、佐世保には佐世保バーガーが成立し得たのにはそれなりの理由がある――というようなことを、いま考えているところである。
……んなワケで二度目の佐世保――小難しい話とは別に存分に味わってきたので以下↓
2005.10.18 Y.M前回40分待ちが旅程に響いて断念したヒカリに1年置いての再挑戦。今回は土曜日午後12時半に訪ねて待ち時間15分。
前回と変わったところは……隣のバイク屋との間にタバコの自販機が置かれたかな?あと店の前にあった安全地帯のような三角形のスペースがガードで囲われて、車を乗り入れることが出来なくなった。ココの店は店内にイートインスペースが無い(と言うか、そもそも"店内"というもの自体ほとんど無い)ので、バーガーを買い求める人は持ち帰るか、店の周りに場所を見つけて思い思いに食べるかしか選ぶ手がない。つまりヒカリは街中からはやや外れた道路端にあり、そこにフラッとクルマで乗り付けて、カウンター越しに外から注文し、バーガーの包みを受け取って、フラッとクルマで去って行く――基本的にはそんな店である。客層は前回に同じくほとんどが休日を利用して近隣よりわざわざ食べに来た人か旅の者。前回と違うのは今回は10月=2学期中なので、すぐ隣にある九州文化学園高校より女子高生が坂を下りてきては包みを手に手に、元来た坂を上ってゆく……そんな姿(制服デザインは森英恵)が多く見られたこと(学校の案内地図が秀逸)。カウンターから見る内部は女性ばかり5人?10人?バーガーはフィルムに包装されて渡される。そうね……パン屋の惣菜パン状態。
スペシャルバーガー\460。バンズはフカ系だが案外の薄身、縁がコゲて美味しい。中は甘味の濃いマヨ、レタ、輪切りオニ、トマ、ベーコン、チー、玉子焼き、バンズ同様薄身のパティ、ケチャ、下バン。パティは薄身ながら絶妙な粗さ。チーズはスライスではなくて塊を分厚く切ったモノがそのままゴン!と挟んである。その塊りがそのままゴン!と体内に入り込む感じ。口の中でやや"モタる"んだけど、ソノ"溜め"がたまらない。このチーズ塊を核として、マヨネーズとケチャップの混ざった濃い甘い味がやはりゴン!とリードする中、味は薄いが水分補給係=トマトが働き、ハムのように柔らかなベーコンが重たい塩味をキュッと効かせ、オニオンの軽快な辛さが心地好く作用。パティとバンズは強烈な特長こそないが、それでもこの濃い味の構成の中にあって不思議なくらい存在感がある。ゴン!と押しの効いた濃い目の味付けにはとにかく勢いがあって、食べる者を魅惑の世界に引き込むだけの力を十分に持っているようだ。本当に何か活きのよいモノを塊りのまま口から体内にググッと押し込んだ感じ。一口食べればあとはオートマティック!
毎日歩いて食べに行ける機会に恵まれた九州文化学園の女子生徒たちがどういう感想を持っているのかはわからないけれど、私的には旅の一発目、予想外に短い待ち時間に、まだ心の準備の整わぬうち口にして、ある種出遭い頭にゴン!っとやられて目から火花の飛び散るような、そんな強いインパクトを受けたバーガー。味わいたくても"アッ"という間になくなっちゃうんだなぁ〜
2005.10.18 Y.M佐世保の二大観光名所のひとつ、九十九島に遊覧船を繰り出す西海パールシーリゾート。九十九島クルーズをはじめ、水族館、船の展示館、マリーナなど、海をテーマにした……まぁリゾート施設?と言っておこうか。無理のない規模でソツなくコンパクトにまとめてある感じ。ヒカリ最寄の元町停留所から佐世保駅発着のシャトルバスに途中乗車し、米軍基地と巨大ドックのヨコを走ることしばし、緑が明るく開放的なアメリカ的公園の間を抜けると、広大な駐車場には驚くほどクルマが停まっている。遊覧船の乗船口にはバスツアーの団体さんが列をなし……へぇー、けっこう集客力あんのネ。
マリーナに面したログデッキに出ると、すぐそこの海面でシーカヤックの体験講習が、爽やかなインストラクターによる爽やかな指導の下、パドル捌きも爽やかにおこなわれていて、見ているこっちまで何だか爽やかな気分になってくる。このデッキに並行して続くショップの一角にある佐世保☆地バーガーののぼりがラッキーズ。ハンバーガーマップの写真でお馴染みラッキーおじさんがトレーを持って、入口のガラスにはマスコットキャラのバニー(あなた……ラッキーくん?)がウインクしてお出迎え。店内は前回今回と佐世保を巡った中では唯一ファストフード店の店構え。カウンターの向こうにはカラシ色のユニフォームを着た女の子数名、その頭上には裏から蛍光灯で照らしたメニュー。マリーナに向いた大きな窓から注ぎ込む海の光で店内もさわやかな明るさ。バスツアーの参加客はノーマーク(あるいはコース外)、バーガーめぐりの客がひしめくこともなく、店内は隅の席で本を読み耽る人、きっと何時間も話し込んでいるであろう小母さまたち……と、パールシーリゾートにふさわしいゆったりとした時間の流れが大勢を占めている。BGM――こう来なくっちゃ!ってくらいお店の空気にマッチしたJ-POP。
ベーコンチーズバーガー\410、お供はジンジャーエール\210。まず――それはそれは熱くて持てない。ホント包みを開ける間さえも手にしていることが耐えられない熱さ!てっぺん平たいバンズ、裏マスタード、レタ、マヨ、トマ、オニ、チー、ベーコンがなんと3重、ケチャ、パティ、下バンズ。ひと言――からい!ヒカリも味は濃かったが、ラッキーズの味の濃さはパンチというよりも塩辛さかな?濃厚というより塩分量の多さ。マヨネーズが濃く、オニオンがカラく、ケチャップもかなりグイグイ攻めて来て、全体にかなり塩辛い。おかげでパティの味が負けてしまっているかな?レタスは新鮮、ベーコンも(多分パティも)佐世保レベルに上質なのだが、とにかく控え目なところの一切無い、キャラのハッキリ濃ユ〜イ、暴れ回る感じの熱々バーガー。甘さが先に立つ店が多い中、コノ店はやや変わった毛色にあるような。なにしろロケーションは最高!
2005.10.19 Y.Mみさこママのミサロッソ。「Pizza & Hamburger Cafe」ということでピザを手作りしてるお店。「ピザ」だけに店内は明るいオレンジ色の壁紙を張り巡らせた南欧・イタリア風……をかつて目指した痕跡が窺がえる?入ると手前に8人掛け・半円形・奥行きの深〜い・図書室風の、大きなカウンター席。奥はマンガ喫茶。壁にずらーりマンガ本が。ヨコの棚には確かスターウォーズのボトルキャップがコンプリされていたような。まぁフツーの喫茶店ですな。学校帰りの溜まり場。たこ焼きやクレープが佐世保ではハンバーガーに代わったと思えば良いかな?「好きに使ってね」と、やさしいみさこママが開放してくれた肩の凝らない空間で、各自銘銘、宿題するもよし、マンガ読むもよし、おしゃべりするもよし、思い思いの時間を過ごす。ラッキーズと並びゆっくりとハンバーガーを食せるお店のひとつ。広い店でもないのに卓上にはご丁寧にも呼び出しのブザーボタンが。
きっと古くからある道なのだろう、クルマどおりは少ないが幅の広い、昔の街道風の通りに面した立地。街中ではあるが周りに店は少なく、少し寂しい所に在る。ピザ10種類、ホットドック6種類。食べ歩きという旅の性質上仕方の無いことだが、どんなに美味しそうなメニューがあってもなかなか手が付けられない。ハンバーガーを食べ終わって思ったことは……ピザも食べてみたかったー!
ベーコンエッグチーズバーガー\420。フカ系バンズ、マスタード、チーズ、立体的なレタ、ケチャ?、たまご、ベーコン、オニ、トマ、パティ、もう1回マスタード?下バンズ。手作りのバンズはフカ系なれどしっかり締まった感じ。佐世保をあちこち周った限りでは唯一無二の小麦の香りがプンと漂う逸品。佐世保標準・薄手のパティは確かに薄いのだが、しかし不思議なことにその薄さの中でふわっと柔らかいんだなぁ!ホント不思議……。同じく佐世保標準・ジューシーなベーコンも実に柔らか。全体の味付けは特製のソースか何かでしてるんだろうと、食べ終わるまでずっと信じて疑わなかったんだが、食後聞いてみたところ、ケチャップとマヨと黒胡椒がバーガーの中で融合した結果、生み出された味であることが判った。とても別々に挟まっていたものとは思えない、びっくりするぐらいの溶け合い方!バンズやパティやベーコンの丸みを引き出すことに卓抜したマイルドタッチな味でありながら、一方でマスタードとペッパーの刺激がクドからず効いていて、程好いメリハリとアクセントを与えている。ヒカリを仮に力でグイグイ押すタイプのバーガーとしたなら、ミサロッソは非常にキメ細やかな設計の為された、堪らなく繊細なバーガー。そうネ、見かけによらずよーく考えられてるよネ。でもパンチも効きまくり。ヒカリを食べると「元気」になるとしたら、ミサロッソは「豊か」になる感じかな?
ヒカリやログキットの混雑ぶりを思えば、それこそウソのように空いていて極楽!こういう場所こそ"穴場"と呼ぶのだろう。つくづく行って良かったー!と思えるお店。BGMは「らしく」J-POP。
2005.10.23 Y.Mさていよいよ今回最後のお店と相成り……。
時刻は土曜・晩の7時半――必ず電話で確かめて……の案内のとおりに、真っ暗な店の前で電話をかけると、我が耳元で鳴る携帯の呼び出し音に呼応して、店の中からリーン……リーン……とベルの音が延々(営業時間は一応19:30頃〜とはなっている。でも「電話してネ」とも)。早過ぎたか……と、商店街をぶらりひと回りし、頃合を計って再度かけ直すと今度はつながった。「今からやります」と。返して曰く「今食べに行きます」――
時刻は8時過ぎ――食べてる前後に5、6組は来たカナ?そのうち、中で食べたのは1組のみで、あとはすべて持ち帰りだった。どこで食べんだろ?家まで持って帰って温めてかな?その辺が「習慣化している」と書いた所以。宇都宮のギョーザ状態。カウンター席のみ8席ばかりの小さなお店。そうね……のんべ横丁に無数にならぶ、間口の狭い飲み屋みたいなのを想像していただけたら。狭い店ながら、しかし食べたらすぐ出てって……という空気はない。ビーフステーキ\1,900、ハンバーグステーキ\900がそれを裏付けているだろうか。ハンバーガー以外にもこうした"焼肉系"洋食メニューがいくつか。その肉焼き用鉄板は細いカウンターの先端部にあって、上に排気口、周囲を透明なガラス板(多分)で囲み、しかも低い位置にあるようで客から手元は見えない。どれくらいの大きさか判らないが、次から次に入る注文をすべてこの鉄板の上でこなしてゆく。焼くのは"お母さん"……と言うより、小料理屋をひとりで切り盛る女将の風格。もうひとり、娘と思われる女の子が手伝いしているが、鉄板前は飽くまで女将の定位置。カウンターの後ろの壁には白タイル、質素なこげ茶の食器棚。見渡しても特にこれといった飾りもない、ある種殺風景な店内。なので「国内でも古いハンバーガーショップ」の証拠となるような写真も記録も店内には何もなくて、かつ忙しく働く女将に声をかけるのも忍ばれて、結局確たることは判らなかった。
チーズバーガー\370にコーラ\240。カウンターの上には塩、コショウ、ケチャップ、マヨネーズなどが置かれているが、しかしこれらはお客さんが使うのではなく、女将が調理するためのもの。ハンバーガーは何故か(と言うか、明らかに場所の問題だろう)カウンターの上で、つまりお客さんの目の前で組み立てられる。焼かれたバンズの上にチー、パティ、トマ、レタ……と順に乗せ、塩コショウをサササッと振りかけ、マヨとケチャを塗って出来上がりと。「合理性を考えて、逆さに出されるのが特徴」とのフレコミどおり、今こうして写真で見返すと確かに上下逆さまである。上記組み立ての説明も順序逆さま。が……その場で言われない限りは気付かぬワナ。逆さ向いてるとは。夢にも。なので上下反転のまま口に入れる。バンズ表面何もナシ、裏サクサク、たまねぎのシャキッ!と強力にシンクロ。アクセントは強烈だが、逆に肉の印象は薄かったやも。チーズとパティの間に振られた塩がエラクきつかったのは、やはり飲んだ後の味覚を想定してのことなのだろうか(営業時間は一応〜深夜2:00頃)。ピリッと締まったバーガー。後味に重たいところなく、さっぱり。食べたらおウチに帰ろかなーって味。BGM――はテレビ。そして鉄板の焼き音。
それにしても上下逆さまにするとなぜ合理的か、その意味がよく解らない。包みを開けると逆さに出て来て、そいつを持って口まで運ぶとちょうどてっぺん向く――という合理性?でも表になっていても、親指をいちばん上にして残り4本の指をバーガーの下に差し入れるか、親指を差し入れて残り4本でてっぺんを押さえるか程度の動作の違いであって、なにかそのために「空中で一度持ち替えねばならない」とか、「逆手になる」とか、特にそういう不具合も生じないわけである。……ひょっとしてソノ親指の向きを差して合理的と言ってるの?あるいはバーガーを包みの外側から持って食べる場合を考えた方が関係があるかな?包みを開いて、その包みごとバーガーを持ち、口に運ぶ。この場合、開けたとき裏向いてた方が、確かに包みを開ける手間が少しだけ省けるかも。
2005.10.25 Y.M