ハンバーガーストリート

vol.5

―― 肉弾編 ――

'05.12.1 チャコールキッチン 炙 updated

OUTBACK STEAKHOUSE

# 10

 アウトバック――ボブ・サップお気に入りというこのステーキハウスはオーストラリア出身……ではなく米フロリダ州タンパが発祥……オットット、「豪州の産」と信じ込んで危うく「南洋編」に加えるところだった!急遽このページのトップバッターに変更。どおりで「本格的なアメリカの美味しさ!」なる文言が繰り返し出て来るワケだ。そのクセ「オージービーフ100%!」って……ややこしいゾ!

 「88年、当時のオーストラリアブームを受けて」オープンしたとのこと、それってひょっとして『クロコダイル・ダンディ』辺りのことを指すのか?(映画未見)――店の内外にはカンガルーワニのイラスト(なかなか秀逸なデザインなので、ぜひHPも見て欲しい)、さらには壁にブーメランなど飾ってあったりして(どーゆー店だ)、言われてみれば確かにある種の"エセ"振りが感じられなくもない。そうした"妙なオージーテイスト"を除けば、この店の内装はまるっきりアメリカンである。うんと照明を落とした広い店内には4人掛けのボックス席が無数にあり、各席に1つずつ、大きなカサ付きの電球が頭上低くぶら下がっていて、暗がりの中、机の上だけが黄色く照らされている。もちろんネオン輝く巨大バーカウンターあり。そこに流るるは黒人好みなダンス/ソウルナンバーと白人好みなアメリカンロック――いかにも食が進みそうな選曲だ。にしても「デンジャー・ゾーン」はあまりにストライク過ぎないか?さらに注文をつけるなら、オーストラリア出身のアーティストの曲も随所に散りばめていただきたく(どうせ有線流してるだけなんだけどネ……)。

 全世界に800店以上を誇るこのステーキハウスの記念すべき日本1号店は、なんと南町田――ご近所でした!ステーキ屋であるからして、当たり前のようにステーキがメインメニュー。ハンバーガーは2種類だけ「パスタ&バーガー」というくくりの中で扱われる……しかもその2種のうち1種は、何を間違えたかバーベキュー・チキンバーガー。したがってもうひとつの牛肉の方を頼む……その名もマッド・マックス\1,039!!ウ〜ム……さすが"エセ"オーストラリア(映画は未見)。要は特大ベーコンチーズバーガー。フライドポテトとともに皿に乗って登場。大き目。バンズの裏側がよーく焼かれており、こんがりキツネ色に焼けた朝のトーストの食感――それがこのバンズの裏面に来る。かぶりつくと、まずこの"こんがりキツネ色"に当たってサックリ心地好い。次にオージー産パティ。タテに分厚い。これまた表面にしっかり焼き目アリ。固いというのとは違う、肉がギュッと詰まった感じの高密度な食感で、歯を立てるとタテに裂けてゆくような感覚がある。ステーキ屋らしく、ガーリックソースを効かせてある。ベーコン――これがまた余計な塩辛さを与えず旨味だけを提供するナイスアシスト!ピクルスも旨味は効いているけれど辛くない……かくあるべし!レタスは私の嫌いな細切り……理由:ポロポロこぼれるから――ちょっと粗めに刻んだオニオンと合わせてマヨネーズで和えてある。そして輪切りトマト(但しこちらは厚さ薄目)にチーズ。しっかりしたバンズ+しっかりしたパティ+しっかりしたベーコン――という手堅い構成で、バーガー全体としても必然的にしっかり(≠固い)引き締まった感じのシャープな印象。食も後半に進むと、それこそステーキ屋らしくパティの肉汁をバンズが吸い込んで……という実に好ましい関係も楽しめる。アメリカンスタイルであっても意外や散漫でない、堅実で信頼できる味のバーガーである。

 最初行ったときはボックスシートを独り占めして雰囲気を堪能したのだが、いかんせん暗過ぎてまるで撮影にならず、2度目は撮影のためにわざわざ外の席を選んで汗を流しながら上の画像を撮り収める。暑〜いテラス席で飲む冷た〜いピニャコラーダは最高!

2004.7.28 Y.M

TONY ROMA'S

# 18

 "リブ"で有名なお店。'72年1月フロリダ州マイアミに1号店オープン……なんだか71年とか72年とかその辺創業の店って多いネ。きっとそういう時代だったのだろう(ますますもって興味深い)。日本上陸25周年――だそうなので、つまり'79年から在るってコト……えっ、トニーローマってそんな昔から在ったんだ……世ノ中知ラナイコトダラケ。と言うか名前を知ったの自体、当サイトの常連(←多分)佐渡倉氏の情報提供によるもので、ごくごく最近の話なのである。エイベックスビルB1Fにある青山店を訪……エイベックスビルってぇからどんなインテリジェンスビルだろうと思って行ったら、かつて住友生命青山ビルと呼ばれてた建物じゃないの。それなりに年喰った年月を経たビル。よってB1Fも「味の名店街」とでも付きそうな、褪せかけたトーンの佇まい。トニーローマも此処の古株なのだろうか。ちなみに六本木店はハードロック・カフェ真下にある。と言うのも両チェーンの経営は同じWDIという会社だからである。あのカプリチョーザ巨牛荘もWDIの経営……う〜ん、外・食・産・業!!って感じですか?

 ローマバーガー\1,350に\105でチーズをトッピング。当企画初!ココのバーガーはレア、ミディアム、ウェルダム……そうパティの焼き方が選べるのだ。最初なのでミディアムで注文。付け合わせが豪華――ピクルス、フレンチフライに加えオニオンフライにコールスローまで付いてくる。それぞれソロでも十分美味しいお味で、ビールのつまみに持ってこいなんだけど、バーガー食べ終わってなお両フライがどっさりあるというコノ量の多さというものは、食後感としてはいただけませんな。だって口のなか油だらけになっちゃうもの。せっかくのバーガーの余韻が……。
 バンズはアンミラフライデーズに続き、またまた温かくなかった。温かくないのはまだ良い――このバンズ、持つ指先に軽く力を入れるだけでモロモロと崩れてゆくのである。ひょっとして……冷凍庫から出してそのまま焼いた??中身は申し訳程度のオニオンスライスの輪っか1枚(ま、オニオンフライがたんまり外にありますから)、トマト、豊富なレタス、追加のチーズ、そしてミディアムで頼んだパティ。食べ始めは特に何とも思わなかったのだが、食べるほどにこのパティは美味しくなる。トニーローマのパティは柔らかいのだ。舶来系では標準たる、硬さを通り越したあのゴワゴワ感――そのレベルは完全にクリアしている。しかしそれはモスの匠味の繊細な柔らかさともまた違う、ゴワゴワ感を適度に残した、米国産らしいワイルドさとの中間をゆく食感……。例によって調味料は加えられていないので、後半はHEINZ のケチャップを振ることになる。これまで食べてきた味無しバーガーは、ケチャップをかけるとケチャップの味しかしなくなってしまうのが常だったが、このバーガーはケチャップ&マスタードとの相性が実に良い。こんなにケチャップの合うパティもまた当企画初めてかも。

 「明るく楽しい“これぞアメリカのレストラン!”というカジュアルな雰囲気……」この辺の謳い文句はアンミラともフライデーズともウェンディーズとも一緒だが「ディナータイムには照明を抑え、各テーブルにキャンドルを灯し……」ココらの演出は他店にない(あるいは前面に押し出していない)かな。"明るく楽しい"と言うよりは、"カジュアル"と言うよりは、落ち着きある、ちょっとリッチなムード。イメージ的には(リッチな)家族連れか、髪染めて口ひげはやした、いかにも金持ってるヨ……てな感じのオジサンが女のコ連れて来てるか、そんな感じ。独り者はあるいはツライかも……ってナニが?BGMも落ち着き澄ましたアダコン、ブラコン……独り者はますますツライかも……ってナニが?一方で外国人の入りは思ったほどでもない。と言うよりお客の入り自体さほどでないかな。いやきっと週末には青山・赤坂界隈のリッチな家族たちで賑わうのだろう。フライデーズ辺りは夜な夜な派手にドンチャンやってるイメージがあるんだけど、それと比べてしまうとだいぶ淋しいか……あちらはレストランと言うより居酒屋で、こちらはリブの専門店という住み分けなのだろう。……あっ、そうそう!さすがリブを手掴みで食べる店らしく、食後にはレモンを浮かべたフィンガーボールが出て来る。しかもご丁寧にぬるま湯――指洗う水温めるヒマあったらバンズ温めろヨ……なんて言うより先に、次は素直にリブいってみようかな?甘辛〜いタレの匂い……タマラーン!!

2004.11.16 Y.M

ステーキくに 市ヶ谷店

[市ヶ谷]
# 36

 久々の肉弾編。「ステーキの店」などと聞くと、否が上にも期待は高まらざるを得ない。なにしろ肉の専門店である。専門店のつくるハンバーガーならきっと美味しいに違いない。

 一口坂と言った方が適当な立地。店は一口坂にあるけれど、ステーキは一口ではない――ナンチャッテ……。定食メインのお手頃ステーキ店。肉っ気求めてのっそりやってきたサラリーマンが、黙々と貪り食らって独り静かに帰って行く、そんなお店。中央のカウンターを背の高い椅子が取り囲むさまは「さぁ飢えし者どもよ、がっつくがいい!」と言わんばかりの迫力を帯びている。このカウンター席がメイン、さほど大きな店ではない。ステンドグラス風ランプ、白黒タイルの市松模様、こげ茶を基調にした昭和懐古趣味的内装。要はペッパーランチに昭和レトロを振りかけた感じ?しかしさすがはステーキ店、カウンターよりさらに一段高く「和牛サーロイン1g¥20」などと貼られたショーケースがいと誇らしげに客席を見下ろす。チーズバーガー\1,100、サラダ・カップスープ付。焼き加減を選ぶことができる。いちげんさんルールに従いミディアム。サラダとスープは案外な食べ応えで肉の焼き上がりを待つには良い暇つぶし。

 ココも上下パカッとオープンフェイススタイル。バンズの下にレタスどっさり――レタスというよりサンチュな盛り方だ。シュレッドオニオンはあまり味せず。トマトの下に水っぽくて独り味の浮いてるピクルスを挟み、次にとろけたチーズが2枚重ね。が、2枚でもなお味弱く――。そして本日の主役中の主役、パティ。黒胡椒で味付け。コノ黒胡椒はまるで計算し尽したかのような緻密な味をパティに添えて、柔らかく、クサミのない上質なパティをひたすらサポート。常に眼鏡の奥を光らせつ、パティのコンディションを冷静に管理しているかのような伴走ぶりである。がその裏返しとして、このバーガーはガツンとしたパンチに欠けているように思う。質だけ見れば今まで登場した中でも一、二を争うパティかも知れない。しかしそれがバーガー的インパクトに直結するかと言うと、それはまた別の話のようで……。もちろん美味しいには違いない。何もかけずに柔和な肉の旨味を楽しむべきパティ。穏やかな風味に満足したら、後半は調味料の応援を。バンズ裏面のカリカリは好い感じ。ただ下のバンズ(heel)は滴る肉汁とレタスの水分を受け止めるには直径が足りず、見るからに決壊寸前という感じだった。

 ランチメニューで言うと、角切りステーキ130g \1,400、霜ふりステーキ150g \1,400、和風ハンバーグ150g \1,000(以上サラダ・みそ汁・ライス付)、ビーフペッパーライス\900(サラダ・みそ汁付)――ハンバーガー\950/チーズバーガー\1,050は、価格的にはこの辺りと同価値というのがコノ店の判断。さぁ、あなたなら――?BGMはジャズ。向島・吾妻橋・両国などにもグループ店あり。

追記:いやー全く調査が甘かった!コノ店の経営は株式会社ペッパーフードサービス――そう、かのペッパーランチの会社なのだ!!!さらに言えば'70年、向島に開業した「ステーキくに」こそがペッパーランチの原点となった店なのである……。てなワケで、ペッパーランチのヒットに乗じて今風に変えたステーキ屋……という私の見立てはもろくも費え去ったのであった。大変失礼致しました……(2005.2.16)

2005.2.12 Y.M

牛豚鶏Body Dining

[田町]
# 77

 またしても[最寄駅]の難しい店。「駅から遠くても、なんのそのJR田町駅東口から徒歩13分」とは店のチラシ。ゆりかもめ芝浦ふ頭駅なら「徒歩5分」、断然近いのはコッチ――熟考の末、今回は距離より知名度を採ることに。このチラシ、田舎的とでも言おうか、アピールしたいことがとにかく思いつくまま何でもかんでも書いてあり、雑然としてかつ極めてとりとめ無い。一体どんな人が作ってんだろ……と再びチラシに目をやると「会社概要」の項があり、そこには「オーシャンキングジャパン 飲食事業部」と。どうやら同じフロアにあるらしい。とりとめの無さは店名にも及び、同じチラシの中で「牛豚鶏Body Dining」「ウットリBody Dining」「牛豚鶏ボディダイニング」の3種類の表記、まるで統一がとれていない。14項目にわたる「店舗案内」の1番目「ディナー店名は牛豚鶏《ウットリ》とランチ店名は魚禽姫《ウットリヒメ》と親しみある店名を採用」から容易に推察できるように、自分の世界を強烈に持った店――と言うことができようか。SINCE 2004。

 ステーキ&ハンバーグ料理専門店。白い壁、白い椅子にゴージャスなベルベットブルーのカーテン、青い床。ライティングをウンと落とし、国道246沿い・三宿〜三茶辺りによくある感じの店。一見「高級感」だが、イスやテーブルをよく見ると年季入ってたり新品だったり……この辺りもとりとめ無し。海岸通りに面した倉庫を利用。トイレなんか何処ぞのクラブみたく、無意味に広い殺風景な空間の真ん中におもむろに便座だけ置いてあって、エラク簡易的かつ美しくはない造りだった。店に入るとイガ栗アタマに口髭のイカツイ兄ちゃんが出て来て、バーガー頼むと「少々お時間かかりますが……」と。こっちはハナからそのつもりなので「よろしく!」と返すと、厨房からペタペタ肉を捏ねる音、続いてジュー……と焼く音。皿が運ばれるまで都合20分弱、かなり丹念につくっている様子で嬉しい限り!UTTORI 特製チーズハンバーガー\700、半ツヤのバンズ、表面ちょっと白ゴマ。フカ系かな?中は真っ赤なトマ、サニレタ、とろけたチーズは存在薄。で何てったって主役のパティ――はハンバーグだった。表面のコゲ香ばしく、帝国ホテル……とまではゆかぬが、分厚い中から肉汁がジュワーッ!ナツメグがやたらと効きまくっている。マヨ&ケチャなど調味料特になく、パティの塩味とひたすらナツメグのみ……いや、パティにちょっと醤油ベースのソースでも絡んでたかな?そんな味もした。付け合せはパセリを振ったフレンチフライ。

 マッチョな牛のキャラと店内各所に置かれた牛のぬいぐるみは、この時期エラク暑っ苦しく目に映って、正直如何なものかと……。ビル自体貸しスタジオ/レンタルスペースなのだが、コノ店とは無関係か。金土・祝前は遅くまでやっているそうなので、深夜クルマで乗り付けてガッツク……なんて使い方はやっぱり三宿的ですかな。BGM――いまどきなソウル/ダンス系がお店の雰囲気にマッチ。
 さて帰りがけ、店を出てふと振り返るとオモテの塀に建築計画の掲示。地番表示なので店の住所と一致はしていなかったが、普通に考えればコノ敷地が計画の対象に違いない。着工予定9月1日――てコトは去年オープンして一年もしないでもう無くなっちゃうの?そう考えると、ははぁ〜と頷けなくもない店のつくりだったような……

2005.7.16 Y.M

東京全日空ホテル

チャコールキッチン
[溜池山王]
# 101

 ココの店の宣伝が気になっていたのである。なにせ炭火焼の専門店ですから。肉の専門店がつくるハンバーガーならきっと美味しいに違いない――とは毎度言ってますが。東京全日空ホテルの3Fにある店ながら「ホテル編」として括られる、ロビーのカフェラウンジとは切り分けて考えたく。パンも美味しいと定評あるホテルなので、新御三家……(以下略)

 レストランばかりを集めたこの3Fは、比較的最近、どこも今風のシックなダイニングに改装されたようである。思っていたよりはるかに広い正三角形の店の内部は、床の高低や壁・仕切りなどを巧みに使って雰囲気の異なるいくつかの空間に構成されており、いずれもゆったりと席を配して、くつろいで食事ができるよう、行き届いた設計がされている。BGMは少し遠くで昼のホテルにふさわしい健康的洋楽有線。チャコールブラウンのシャツに黒のエプロン姿が好印象のスタッフに案内されたのは、店の中心に位置する周囲より2段ほど上がった円形のスペース。天井は六角錐に尖がったガラス屋根で、ブラインドの間から零れるやわらかな外光がやさしく食事を照らし出……と言いたいところだが、撮影えっらく難しかった〜!どうしても飛び気味になってしまうのと、当然のようにシアンが強く乗るのよネ……(以下略)

 ランチメニュー炙オリジナルチーズバーガー\1,550。バーガー250gとベーコンを入れたあっさり薄味のスープ。季節柄、おっ、銀杏か……と思ったら、入っていたのは黄色いミニトマトだったサラダ――これにはチーズ系のドレッシング。バーガーのプレートにはフレンチフライ、ケチャ&マスが"升"を思わせる器に二段重ね。手で食べることを前提としていないのだろう、それが証拠にフィンガーボウルは出てこず、おしぼりも一枚きり。オープンフェイス。ちょっと細長なバンズは黒糖ロールのようなツヤのある濃い茶色の表面に白ゴマ。裏はドライに焼けているが、生地にはロールパンの弾力がある。プレート上に裏返っている上バンズ(crown)の上に白いレタ、熟れたトマ、コーニッション。下バンズ(heel)の側に香草チャービル、はみ出すベーコン、とろけるチーはエメンタールか、パティ、その下にドミグラス系のソース、下バンズ(heel)。さぁ〜て!……持てない。まず大きい。そして熱い。なによりひどく不安定。下バンズはパティ――正確にはハンバーグ――の重さに耐えかねて既にぺしゃんこに潰れていて持ち様がない。バンズが緩衝材の役を為さず、熱々の肉を素手で持つ感覚と変わらない……それは憚られる。それでも少しだけ持ち上げてみると、積載物がひどく不安定で危うくひっくり返しそうになるので慌ててまた皿に置く。どうしよう……と考える。また持つ。また置く。良い持ち方はないかとまた考える……なかなか離陸できない。どこか付け入る隙はないかと想像を働かせ、何度もバーガーの周りで両手を動かしてみたが無意味に空を切るばかりで、何の解決にもならない。あきらめて泣く泣く半分に切り(我が主義に反する)、これでどうにか……とその片方を手にしてみたが、熱い上、なおバランスが悪い。レタスが……トマトが……すぐに重力に従った。

 それでもどうにかカブり付くと――ほとばしる肉汁!反射的に口を離す……帝国の再来?!とも一瞬思った。しかしこのバーガー、パンにハンバーグ(つなぎ使用、ナツメグの香り)だけ挟んで食べていると言って過言でない。レタスは存在する。トマトも居る。ベーコンも居るには居る。でも印象がない。ハンバーグ独りの印象が凄まじく強烈なのである。独擅場とはまさにこのこと。チャカ・カーンがあまりにスゴ過ぎて、本来目茶目茶上手い筈のルーファスのメンバー達の演奏が霞んでしまっているのと同じコトである。ただこのハンバーグ、厚く、熱く、網焼きのコゲがビターな香ばしさを放ってこそいるけれど、しかし帝国やオークラほどの驚嘆を覚えるまでではなかった。

 正直ハンバーガーではないと思った。まず手で持てない。プレートの上でしか成立しないハンバーガーなんて、果たしてそう呼べるのだろうか?そもそもの起こり手で持ちやすく工夫された、機能的な食べ物なのである。それが重過ぎて皿から持ち上げることも出来ないとは。極大化したあまり自重で身動きがとれなくなり、やがて衰亡していった20世紀の交響曲のようである。私は手で持ててこそバーガーだと思っている。片やプレートに乗って供されるハンバーガーには両脇にちゃんとナイフとフォークが用意されているのだから、ソレらを使って食せばよい……というのが流儀であり作法なのだろうけれど、でもにぎり飯を箸で割って食べるなんて――世も末だと思いません?

 肉の陰でまるで目立たない脇役陣――肉の下のデミグラスソース。こいつは単体でゆくとけっこうキュッとキツメな味がする。でも肉と出会うと道を譲ってしまう。肉の上でとろけるチーズ。これも味が弱い。レタスは単体で美味しい。トマトもソースとの絡みでにくい酸味を効かせる。がしかし、全部合わさると……。総合力こそハンバーガーの真髄、だからコレ、正直ハンバーガーでないなと思った。でも肉単体で食べるとさほどでもないが、バーガーとして食べると味が賑やかになり、華ができて、ずっと美味しくなるようにも思えた。そうした意味ではこれはハンバーガーである。エッ?酷評……?イーヤ!手で持てないという欠陥は根本問題としてさすがに見逃すわけには参らぬ。構造的欠陥である。あーでも!翼持ってても飛べない鳥だっていくらもいるワケですから、そこは広い心でもってひとつ認めてあげても……イーヤ!わしゃ認めんゾ!!まして飛べないだなんて――ココは全日空ホテル

2005.12.1 Y.M