ハンバーガーストリート

vol.6

◆ 帝都編 ◆

―― 都西 ――

'07.7.4 base updated
'07.6.26 THE GREAT BURGER updated

TURTLES

[渋谷]
# 130

 昼は1個\300前後のハンバーガーを紙コップに注いだドリンクとともに提供している――とそれだけ聞けば、ファストフード系かカフェテリア風の店を想像するのが普通だと思うが、ところが聞くと見るとでは大違い。パッと見は近隣サラリーマン御用達の古びたコーヒーショップ。前面ガラス張りだし自動ドアだし、ドトール辺のチェーン店系に年季が加わった感じ。ところが一歩中に入ると……ん?見た目よりさらに年を重ねた老喫茶室とも、あるいはシックな造りのステーキ屋風老洋食店ともとれなくもない。どちらにも見える。どちらともつかない。球が切れてんだかワザと消してんだか、明かりの点いていない照明が所々。外からだと暗過ぎて、やってんだかやってないんだかよく判らない。言い換えれば妙な雰囲気がある。この老舗ステーキ屋風、ないしは日本橋・神田辺の老喫茶風の店内で、1個\300前後のバーガーを紙コップに注がれたドリンクとともにいただくというのは、それはそれは目くるめく違和感なのである。不思議だ……

 どうにも変だ。40wのハイビームが明るい光の輪を落とす席に着き、鎖で吊り下がったステンドグラス風ペンダントが、ほの暗い光を周囲に投げる対岸の席を見やりながら、この店のミステリーについてあれこれと考えた。絶対に変だ――1.以前全く別なスタイルの店を経営していたのが、今の店に商売替えするに当たって内装のみ前のままを引き継いで今日に至っているとか、2.本来は純粋なる珈琲屋ないしはレストランだったのだけれど、それだけでは立ち行かなくなったため後からハンバーガーを始めたとか、ないしは3.潰れた前の店舗をそのまま借りて今の店を始めたとか……。さらに不思議なのは壁に向いたカウンター席に並べられた焼酎の瓶だ。ハンバーガーにビールという楽しみ方は定番だが、焼酎がこれだけ並ぶというのは……率直にアンマッチ。ココを喫茶と解釈したなら……なんなんだ!コノ喫茶店は!?

 謎は深まる一方……。そんな謎だらけの闇の中からタートルバーガー\399。裏面よく焼けたバンズは表面白ゴマ、ファストフード系のお馴染みのタイプ。少量のマヨ、少量のレタ、トマ、刻んだオニ、そしてなんとシュリンプ×3尾!パティ、ミートソー、下バン。このバーガーの力点はホットペッパーの効いたミートソース。挽肉たっぷり、シュリンプとよく絡んで中華ともベトナムともブリトーともつかぬ、独特な世界を形成している。モスやフレッシュネスとは似て非なる濃密なソース。とは言いながらもソースひとつの味で楽しませる類のバーガーである点に変わりはない。なのでパティの肉質もバンズの味もどんなものだったか、さっぱりよく分からないのである。特に印象無しということで軽く流す。マヨネーズの意味も余り無く、やや張りに欠けるトマトは他の具材とフェイズが合っていない。しかしなにぶんソースが美味しいので、あまり細部に目を向けず、単純に美味しくいただけたらそれが一番かと。シュリンプ3尾は贅沢。

 さてハンバーガーは平らげたが、ミステリーは山積みだ。しかし聞けば案外と単純な答えで、特段の謎など無かったのであるが。その"案外と単純な答え"は以下……

 昼間はハンバーガー、夜はビアダイナーというスタイルをもう10年近く続けている。と言うことは10年前からハンバーガーを出している店だったワケである。どうも当初から二足の草鞋だったらしく、上で推理したような事実は無い様子。内装は夜のビアダイナーの方に合わせてあるらしい……言われてみれば、オモテのガラス窓下部にはワインのコルクが無数に貼り付けられている……ってビアじゃないじゃん!ダイナーメニューはFAX用と思われる感熱紙一面にびっしりと手書き(のコピー)で「1.活魚御刺身盛合せ」から「100.プリンアラモード」までジャスト100種類!この"100種類"は狙いですな?いなだのお造りから、ラムのジンギスカン炒めから、タコのフリカッセから、冷し讃岐うどんから無国籍に横並び、値段が無表示なものはオール\500でいただけるという、料理の幅といい傾向といい、つまりは洋風居酒屋ですな?それがココの正体だったワケなのである。そこそこ分厚い豚肉にチャンキーサルサソースをたっぷりかけていただくポークサルサステーキ\790なんて、盛り付けも立派だし美味しいし、そこらの居酒屋などてんで問題にならぬくらい、まず料理としてちゃんとしている。そーかそーか、ココはビアダイナーだったのか……と、老舗ステーキ屋風、ないしは日本橋・神田辺の老喫茶風の店内で、ヱビスの黒生を供に香草がきっちり添えられた魚介のフリットやポークソテーをいただくというのは……やっぱり目くるめく違和感なのである!!素直に変っ!ナンデ?

 器と中身の不釣合い――普通の想像力では、コノ店の外見から、ホンモノな料理が出て来るようにはどうしても想像できないワケですワ。重目の喫茶にしてはハンバーガーは軽いし、喫茶から想像される軽食からすれば夜の居酒屋メニューは重過ぎる。いやーコレはもうちょっと年季入れば、同じ渋谷の百軒店(ひゃっけんだな)に今なお続くカレー専門店ムルギーに匹敵する"迷店"になるやも知れませぬ。う〜ん、どうにも抗い切れないこの不思議感覚……ギャップをつまみに小首を傾げながらいただくビールとハンバーガーのお店――実はちょっとハマりかけてます……。不思議と言えば、タートルズという余りに微妙な店名こそ、なにより最大の不思議だったり。BGM――基本的には気分のいいジャズがソロソロと……

2006.5.21 Y.M

BREAD & COMPANY

[表参道]
# 133

 デンマーク産サムソーチーズを載せたチーズハンバーガー……デンマークとくれば……そう!コノお店はアンデルセンが昨年12月に始めた、パンが主役のレストラン

 パンが主役というのが画期的。と言うか、そういうことはやはりアンデルセン辺りがやらないと説得力が出ないのでしょうね。お料理におけるパンは常に脇役なワケでして――例の「セットにはパンかライスが付きますが……」ってヤツです――それがココでは主客がひっくり返って「パンに合わせておいしい料理」を考えるという、つまり「何をのせれば美味しくパンがいただけるか」「何をぬればパンが美味しく引き立つか」――そんな常とは180度転換した発想からつくられたお店なワケで、もぉパン党には全く以ってたまりません!最高っ!――ハイ、わたくしパン党ですから、もぉ〜最高っ!!しかも「全てのお料理に、窯から出したばかりのバゲットをご用意」ですよ!焼きたてですよ!焼きたて言うても、ただヌクめてんのと違いますよ。成形したパン生地を窯に入れて焼く――その焼きたてですから(解るて)。そこまで聞けば頼むものは絶対にバゲット赤ワインでしょ?ネ?絶対そっちだな……と思いつつ、次は絶対バゲットと赤ワインにしたる思いながら、今日はお決まりのチーズハンバーガー\1,100(WEEKDAYはTEA TIMEのみの様な)。お供にアイスハイビスカスティー\650。

 名前が付いてないのがホントに不思議なこの通り(←ずい分調べたんですゼ)。和風らーめんのだるまやにインド料理のゴングル、欧風菓子のクドウ(南林間が本店)など老舗が軒を連ねるコノ細路地へ、青山通りから曲がり込んですぐの所に在る「ココ……むかし中華だったっけ?」な建物が、そっくりコノお店に変わっている。コノ辺の数軒の店はエントランスと言うか、前庭のような空間を細路地に面して持っていて、ソコを使ってテラスにし、窓を開け放ってオープンエアにしている。外壁はタイルを引っぺがしたままの様な状態、中は所謂スケルトンの状態に壁・天井を白く塗ったり、ボード張ったり、モダンなダイニングテーブル並べたり照明落としたり。色の選び方がどれも落ち着いていて、好みなセンス。んで1Fど真ん中にオーブンがドンと。スタッフは黒いシャツに黒とグレーのチェック柄のソムリエエプロン姿で、なかなかピシッと決まってます。

 で、バーガー。付け合せはライトなドレッシングのかかったサラダと、クア・アイナの様な衣の着いた細身のフレンチフライ。明らかに食事なお皿。バンズは表面ツヤなし、例えるならフランスあんぱんの様な見た目と皮の硬さが特徴的。身はパンオノアのような……例えが難しいが薄小豆色?な色した生地で、非砂糖の微かな甘味と心無しかの酸味があって、やはり特徴的。表裏とも網目に焼跡が付いていて、特に裏はよく焼かれている。中はトマ、ソテードオニ、チー、パティ、下バン。サイズは一見小ぶりなれど、バンズがふかふかしていないので密度が高く、かなり食べ応えがある。カリッとコゲ目の香ばしいパティもバンズに合わせたようにギュッと高密度で、バーガー全体としてもズシリと重量があり、結果的に密閉率が増すのか内部の熱が保たれて、最後のひと口まで温かくいただけた。トマトがぬるくないのがポイント。ソテーしたオニオンがまた甘くてねぇ〜

 あぁ、こういうバーガーね……と決めて掛かるのが難しいバーガーだった。味付けは極めて自然で淡白。でも味が無いのではなく、その一見何も無い様に見える空間は、実は特別強い味を持たない"見えない何か"によって埋め尽くされている……というクセぶり。その"何か"こそバンズの味であり、チーズの味なのです!サムソーチーズがネ、また物凄〜く表現に困るんだけど、オモテ立った味は殆どしないんだが、でもジワジワ地味ぃ〜に効いてくるコク?滋味?ウチ帰ってバゲットに載せて食べたら美味しかった〜!バンズやオニオンのチョイ気になる酸味や甘味がチョイチョイ顔を覗かせて、アイスハイビスカスティーも正体不明の酸味を放ち、終始気を引く酸味に囲まれながらのお食事でした。バゲットとエピは店のオーブンで焼いてるんだけど唯一バンズのみ、アンデルセンの店舗で焼いていて、しかも……売られてません。非売品!アンデルセンバーガーと同じかな……と見てみるとまるで別物。私は今回のヘヴィ級のバンズの方が好きです。BGM――ジャズ/クロスオーバー系。これは絶っっ対、誰かと赤ワイン空けたいお店。誰か行かないかなぁ〜

2006.6.7 Y.M

中央大学生活協同組合多摩店食堂

TOM・BOY

[中央大学・明星大学]
# 134

 言いたいこと多数につき、今回飛ばし気味で――

 中央大学の学食はなにしろ有名だった。その辺りの様子が手に取るようによくわかるページを見つけたので(無断で)紹介しておきます(教授、有難うございます)。PDFですが、是非是非ご一読を。
 生協はその会員の生活をサポートするのが目的なので、部外者があまり積極的に利用すべき場でもなかろう。どういう機会なら利用が叶うかと考えていたところ、中大OBである友人が大学近くに住んでいることに思い至った。待ち合わせの場に多摩キャンパスを指定し、友人宅を訪ねる前に彼を案内手にして初・学内、足・踏み入れ。よっ!多摩丘陵っ!と掛け声が飛びそうな見事な傾斜地を大胆に使ったスケールの大きなキャンパス。辺り一面豊かな緑、其処彼処に憩いのベンチが設けられている。こんなところで筑紫哲也と対談でもしたら、さぞや話の弾むことだろう。

 以下さらに飛ばし気味で――。生協の入る建物は「ヒルトップ」という。サイトの案内図ではヒルトップ'78。Gメン'75、カルメン'77、エアポート'77……この時代こんなネーミングが流行りだったのか。地図をよく見ると、ヒルトップの背後にヒルトップトンネルなるトンネルの記載……ヒルトップなのにトンネル……ハンバーガー隧道並みに変な名前だ。ちょっと聞いた話では、このトムボーイは「初めからあった」らしい。「初めから」とは多摩キャンパスが開校した'78年からととれるが、ファーストキッチンが創業したのが'77年9月なので、それに比肩するファストフード界の隠れた古参ということになるか。仮に初めからでないにしても、少なくとも20年続いているのは確からしい。中央大学は法曹界のみならずバーガー界においても重鎮だったのである。注文は現金。トレー無し、すべて紙袋に入れて渡される。その紙袋とバーガーの包み紙には驚くべきことにショップのキャラクターが印刷されている……本式、いやソレ以上。ひょっとすると「今や著名なデザイナー」の「かつて手がけた仕事」だったり……。ちょうどソフトクリームのNISSEIの、男の子と女の子のキャラ(ニックン・セイチャンって言うんだヨ)を掛け合わせたような感じで……って、頭上のお下げみたいなのはどう解釈すればよいのだろう……BOYじゃないの?

 バーガー類6種、うちホンモノのバーガーは2種類。他にチリチーズドックにソフトクリームにジェラート。トムチーズバーガーは単品\170、ポテトとドリンクのセットで\280って安ぅ〜!!生協の本領炸裂。まぁ要は購買でラップに包んで売ってる惣菜パンのノリなのだが、違うところはまず温かい。保温ケースの扉の中にチーズバーガーずら〜り壮観!包み紙開けると裏向きにバーガーが出て来るのはマック式?バンズは伊藤パン(って別に食べて判るワケじゃないのヨ)、白ゴマの載った毎度お馴染みの〜。裏マス、レタ数枚、その下にピク、偏った位置にケチャ、チー、パティ、下バン。パティはのっぺり茫洋とした感じのハンバーグだが(タマネギ入り)、厚みがあり、コゲもあり、それこそ学食のハンバーグ定食に出て来そうな隆々として逞しいモノで、なかなかどうして及第点。この面子でゆくとツンとしたマスタードの辛味と同じくツンとしたピクルスの酸味が幅を利かすことになるのだが、溶けないチーズもかえってしっかり存在感を醸しているし、食べても減らないポテトとドリンク合わせて\280でしょ?280円なりのモノとして十二分に満足のゆく内容に思えた。結局のところ、払った金額に見合うバーガーかどうか――というところが最も重要なのであって、単純な高い/安いの問題では片付かないのが今のバーガーブームの良い方の本質である。……エッ?悪い方は?そりゃあ、今後ますます発生するであろう、ブームの名を借りただけの、高いばかりで質の伴わぬバーガーたちのコトですヨ。

 午後3時の学食は現役学生諸君で賑わっている。彼らの止め処ないお喋りが高い天井にすべて跳ね返り、食堂内は実体以上に騒がしく、ざわざわと揺れていた。遠くで男子学生が格闘するそばの盛りの量のまた多いこと!これぞ学食!結局1階より上には上がらなかったが、どうもスエヒロとマックは今は無くなっている様だ。教授も書くとおり、よほど経営が厳しかったのか。そんな中でも多摩キャンパス伝統のハンバーガーショップの味は不変。世のバーガーブームなど何処吹く風、今日も明日も、きっと20年後も同じ場所で同じ味を変わらず続けていることだろう――かくして、TOM・BOYを知らない中大生はも○りということでOB・OG各位、よろしいでしょうか?

2006.6.18 Y.M

AS CLASSICS DINER

[駒沢大学]
# 136

 駅から一本道……でも歩くよ〜!途中の風物は一切飛ばして駒沢公園となり、東京医療センターの真向かい。前回BIG SMILEBROZERS'つながりだったのに続き、今回もつながりシリーズ。今回は三宿FUNGOの店長をかつて務めた人物が、独立して'05年12月に始めたお店。なので外苑前のGORO's DINERともFUNGOつながりの盟友

 まず外観がスゴイ!サインボードが計3箇所・大小5枚、コノ店が入るオリオン駒沢ビル全体が総AS化されている感じ……てか、ココの2Fに住んでみた〜い!映画のセットのようなカッチョイ〜201号室&2号室。赤いネオンの向こうの青い扉というのがクールですナ。とにかく中も外も一見の価値アリ……歩道より3段上がった豪快なウッドデッキに始まり、白い前面、横幅広くかつ奥にどーんと深い店内――とにかく広い……いやー広いわ〜!その広いホールに寄り添うように、キッチンも奥までしっかり横長。広くて見るからに使いやすそうだ。白を基調にワインレッドで締めた明るく健康的な雰囲気。……60年代?年代判定未だ不能な私ながら、言われてみれば確かに見える60's調黒いテーブルに黒いチェアの組み合わせは、クロームメッキしたスチールが何より特徴。白い天井にはゆらゆらとファンが一機。ランプも渋い――あぁ、電球の外からカバーが被せてあんのネ?あと中央のBOSEのスピーカーが大いに気になるが……。背中のタックがカッコいいワインレッドのユニフォームにも、おしぼりの袋にも、紙ナプキンにも、お皿にもバーガーパックにもオールASのロゴ入り。塵も積もれば……いや〜コレ、お金かかってるよ〜!(さっきから叫び過ぎ?)メニューのデザインもえらくカッチリ決まってて――店長の自作!!デモデダイナーに通じるテイストだった――とても個人でやってる店とは思えない……完璧ッ!(まーた叫んで)店の細部に至るまで店長の想いがよく表れているように思われた。BGMはFEN(現AFN)的、アチラのAM風。入ったときは60'sヒッツだったが、やがて70'sに変わっていった――個人的には断然70'sが燃えるネ!オージェイズ「ラヴ・トレイン」シカゴ「ビギニングス」S.ワンダー「迷信」イーグルス「駆け足の人生」そしてドゥービーズの「イット・キープス・ユー・ランニン」が来た辺りが最高潮!コノ曲、半ば投げやりなリズムの感じがタマンナイんだよネ〜!こういう曲が広〜い店内に響き渡ると本当に"サマ"になる。

 チーズバーガー\1,155。付け合せにフレンフライ、よく漬かったピクルス。あとどこをどう切っても"自家製"なケチャップ&マスタードが添えられる。オープンフェイス。バンズは今やすっかりお馴染み峰屋さんの作。表面白ゴマ、甘目で少しウェットな、ウチに丸まるようなイメージの天然酵母バンズ。裏マヨ、ソー、ドライ目に調整されたレタ、ベイクドオニ、トマ、チェダーチー、パティ、タルタル、下バン。まずはマヨネーズに続くソース……あっつあつで美味し〜ヨー!何と言おう……デミグラスをスパイシーにして、かつスモーキーにしたような、口にすると直接的には味は来ず、代わりに炭の香ばしい匂いがぷ〜んと場を占めて、真ん中に不思議な空洞がふっと空いたような味。ベイクドオニオンの豊かな甘味、スッと冷たく美味しいトマト、つやつやのチーズはどこからでもかぶり付いて来なさい!とばかりに薄ーくピーンと張って守備範囲が広い。下のバンズにはタルタルソースが厚くたっぷりと塗られて全体の味の融合を図っているのだが、ところでコレ一体何で出来てんだろ?ホースラディッシュは間違いなく入ってる。粘りのあると言うか、間をつなぐ細かなパスワークのようなこのタルタルソースのはたらきに上のマヨ&ソースが加わって、"何が"とははっきり判らない混ざり方の中、もちろん主役は……炭火焼のパティでしょ!ミンチでなく、包丁の裏でトントン叩いたようなぷりぷりとしたこの歯応え!それこそかつてのベイカーバウンスのようなダイナミックさ。肉らしさを味わいたいならココは打ってつけかも知れない。いや知る限り、都内屈指の香ばしさ

 パティにかかった塩はややキツ目。しかも平たい塩味でなくてズンと沈むような塩辛さで、ニガミがあると言ってもよい味わいの深さ。甘いバンズとこの塩味との組み合わせは必ずしも好みでないが(どっちかにしなさい!って感じ)、野菜とソースが折り重なって何が何だかよく判らないゴール前の混戦の中から、ゴールネットにグィーーン!と突き刺さる弾丸シュートのようにパワフルでワイルドなこのパティ……強〜烈ッ!こういうのこそ肉弾と呼ぶべきか、力強く逞しい逸品。但し、この豪胆なパティからすれば峰屋のバンズはおしとやか過ぎる。いや、別に峰屋さんが美味しくないと言っているのではなくて、バーガーのキャラクターにあわせてバンズにももっと選択の幅があっても良いのではないか……と、このときは確かにそう思ったのだが、その後何度も通ううち……さすがに合わせてきましたネ!バチッと!この秋、バンズをマイナーチェンジして、今や中身との相性は極めて良好。美味しい改良を日々重ね続けるマスターの飽くなき探究心は、店に行く度、見てわかるほどに明確な美味しい変化をハンバーガーにもたらしている。オミソレ……でございます。ストイックな求道者のようなところがあります、コノ店のマスター(2006.12.3追記)。

 広くて居心地良いし音楽も良いし、駅から歩くのが唯一難だけど、友人GI辺りにクルマ乗っけてもらえばそれも問題解決!ヤツもきっと喜ぶだろう。徹底して手間隙かけて、お金もかけて作りに作り込んだハンバーガー、そしてダイナー。こういう渾身の作は空いてる時間帯狙ってゆ〜っくりじ〜っくりと味わいたいものですナ!最後に――未来の閲覧者へ。なぜ今回サッカーに例えた表現が多いかって?そりゃあアータ、2006年の6月とくりゃ〜

2006.7.4 Y.M

ARMS

[代々木公園]
# 137

 まだ続くつながりシリーズ"BROTHERS IN ARMS"なんて名盤がありますが、そうじゃあなくって(そもそも関係が逆か)、代々木公園にあるココARMSは本郷のFIRE HOUSEより出でて'05年の8月にオープン。なにせお店のMAPにもFIRE HOUSE!!が登場するぐらいですから。にして'05年組非常にいのでないでょうか

 小田急線の線路と代々木公園に挟まれて細ーくなってる辺り。電車からよく見えます。電車見えバーガーとして希少……?(そんなマニアック要らないんで)鬱蒼とした代々木公園とは道を隔てて反対に代々木小公園という、公園と言うよりは小さなグラウンドといった風情の広場があるのだけれど、そのヨコ。イイ場所です!わりと引っ切り無しにお客さんが入れ代わり立ち代わり……回転速いゾ〜!向かいでさんざ球蹴った後、バーガーがっつきたいセレソンもいれば、愛犬のお散歩コースにちゃっかり加えてしまっているご主人様もいらっしゃることでしょう――気が付けば店内ワンコだらけ!円らな黒い瞳をしているヨ……。パークサイドはメリット多し。

 FIRE HOUSEには夜しか行ったことがないのだけど、昼行けばこんな感じなのだろうか。カントリー色の濃い本家に比べ、こちらはもう少し都会的かな?極めてカフェなデザインの内装/外装。コンクリ打ち放しの床の上には、ミシン台や縫台をリフォームしたアンティークなテーブルが置かれ、壁・天井はさわやかに白塗り。やはりファンが一機フンフンと回っている。大きくとった窓は木製(サッシがね)。窓の外には代々木小公園の並木の緑、注ぎ込む外光が白い壁に跳ね返ってとてもさわやかだ。この広い窓がなにしろ良くて、形も面白いし、特に入り口の扉とそのヨコの窓の角度は好きな人にはたまらないだろう……う〜ん、たまらん!(←あまり真剣に読まないよーに)。そんなさわやかな店内をヴィブラフォンなど効かせた陽気で軽快なビバップジャズがポンポンと涼しげに渡る……素敵だ!田舎と都会が折衷したようなこの部屋のスタイル、なにか正しい呼び名があるのかも知れないけれど(いい加減、誰か専門家の手助けが必要かな)、ここまでカフェな雰囲気のバーガーショップというのもなかなか無かったかも知れません。う〜ん、扉に鐘付けたい!……って既にカランカラン鳴ってたっけ??

 バーガー類13種、サンド12種、ホットドッグ6種。チーズバーガー\950、付け合せにフレンチフライ。お供はカフェモードでアイスティー\400。表面濃い茶色、ツヤあり、ゴマありのあんぱんバンズ。裏コゲ目。噛むとフッカリ、皮も身もややしっとり目が特徴。パティとバンズの間をチェダーチーズが接着剤のようにピッタリとくっつけていて、仮に何か間に挟まっていたとしても判らないほどの粘り具合。チーズの下にパティ。その下のスイートレリッシュ、トマト、オニオンはそれぞれ食べやすい大きさに細かく刻んであり、上からマヨネーズがかかる。ちょうど野菜サラダライトなマヨネーズソースがかかったような感覚で、さっぱりとして噛み心地も軽快。レタスが何枚も重なり、その下にマスタード、下バン。スイートレリッシュの甘味とマヨネーズの軽い塩気、そこにマスタードの酸味が合わさって、全体としては真ん中よりやや塩目に針の振れた味付け。やはり本郷の本家の構成に近いだろうか。見た目も近いし。パティは中薄赤く、硬過ぎず、軟過ぎず、適度なゆとりを持ったふんわり絶妙な逸品。いい具合にほぐれて先ほどの野菜サラダと巧く馴染み、食べ心地は非常に軽やか。とろ〜りチーズ味がそれらをやわらか〜く包んで、きれいなまとまり方だ。サラダ感覚、明るくさわやかなお店のイメージとも相俟って、軽快でヘルシーな印象のバーガー。

 バーガーパックが……正方形の一角が袋になっているアレですが、上バン側に当る紙が袋の内側に最初から折り込んである。ほぉ……!その上側の紙が食べるときに口元近くで煩わしく暴れるので、その煩わしさに対する心配りという――なかなかのアイデアでございます!コレは最初からこういう風にして業者に納めてもらっているのか、それとも自分たちで一生懸命折っているのか――なんにせよ素晴らしい!土地に合わせ、街に合わせてセンスアップした白いFIRE HOUSE。世のバーガーブームもこうして見せられると、俄然イキでオシャレに感じますね。なにか時流を巧みに先取りしているようにも思えます。昼の雰囲気がなにしろ素晴らしいのだけれど(ベストシーズンは初夏とみた)、夜はまたどんな感じになるのか、そちらも興味津々。わりと遅くまでやっている店なので、熱帯夜に涼みに行くのも乙ですかな?

2006.7.15 Y.M

THIS IS THE BURGER

[立川]
# 153

 またしても話は続く。今年5月、立川駅北口のBRIDGESを訪ねた折、帰り際にマスターがこんなことを言うのである――「南口に立川バーガーがある」――なんと!今年'06年の3月ごろ出来たらしいと。テイクアウト専門の店であると。では行ってみますか……と、私の胃袋はそこまで強靭ではないので(むしろ脆弱)、日をあらためることにしましたと。テイクアウト専門ということは、即ち店内でバーガーを撮り収めることが出来ないということである。と言うことは例の「店の外観をバックにバーガーマクロ」という、多分私しかやらないだろうあのショットを撮るためには、晴天でなければならない。間もなく長い梅雨に入ったので、明けるのを待った。明けた頃ふと思い立って、全国各地のバーガー店を訪ねて西へ北への旅をした。それをまとめるのに9月いっぱいを要した。やっと手が空いたのが10月――東京都内のバーガー店を取り上げるのは、ARMS以来実に3ヶ月ぶりのことと。

 伊勢丹・高島屋を擁する北口に負けじとばかり、南口も現在再開発の槌音盛んで(と言っても駅前だけだが)、秋晴れの青空に聳え立つ巨大クレーンは、グランデュオの向かいに更なるショッピングビルの建設を任され、作りかけのペデストリアンデッキはその着地点として明らかにラーメン立川やに照準を合わせている。すずらん通りはそんな南口から斜め左方に入ってゆく人通りの多い路で、両脇には思い浮かぶ限りの外食チェーンというチェーンがズラリ(……やや大袈裟)――ま、そんな通りである。コノ店の左隣は1杯390円の例のラーメンチェーン、右隣は地元のお弁当屋さん、お向かいの店は、ひと頃景品のスリッパに針などが混入する類のミスばかり発していたドーナツ屋さん。和洋のファストフード店が端から端までとにかく続くコノすずらん通りの周辺には、駐車監視員(らしき人影)が何故だか異様に多い。そんなに取締りが厳しいのか……とユニフォームをよく見ると、蛍光チョッキにJRAのマーク――そう、すぐ先にウインズ立川が在るのである。彼らはその交通整理係と。ほほぉ……と一応は納得したものの、しかしこの一帯、ウインズからかなり遠ざかった、しかも住宅街の間の相当静かな路地までも彼らは隈なく配されているのである……必要なのか(必要なんだろうねぇ)。

 そんなすずらん通りの中ほどに店は在る。オモテの歩道上にベンチ、中は辛うじてイートインできる程度のカウンター席が左右の壁に6席ほど。入って正面がすぐカウンターで、その頭上にはバーガーの写真が6点ほど載ったメニューボードが裏から蛍光灯で照らされている。オープンキッチンというワケでもないのだろうが、キッチンは視界に収まるコンパクトな造り。そのすぐ奥にはこの建物の裏窓が、蔦の葉の緑に明るく縁取られて覗いている――ごく小さな店である。バーガー類7種。バーベキューソースのアメリカンバーガー\680、サルサバーガー\700、しょう油風味のアボカドバーガー\680にステーキバーガー\780。デミグラスソースを使った佐世保バーガー\780とそのラージサイズ、直径15cmのデカウマ!立川バーガー\980。さらにチキンを挟んだサムライバーガー\580が最近加わったそうなのだが、しかしサムライなのにチキンて……(むしろ痛烈な皮肉か)。それぞれ+\150でドリンクセット。さらに+\100でドリンクLかポテト付TBセット。フライドポテト単品は\200。ちょっと寂しいのは、まぁ仕方無いんだろうけど接客が至極型通りでしてネ。ハニカミながらでもいいから自分トコのメニューについて、もう少し熱心に語ってくれたら「う〜ん……もぉ1個買っちゃおうかな〜!」なぁんて思うのにネェ……。名代の立川バーガーはあまりに大き過ぎるので回避、内容同じでサイズを小さくしただけの佐世保バーガー\780を、この日は珍しくコーラで。

 佐世保の場合――と言うか、ヒカリのことを思い浮かべながら書いているのだが――こうした持ち帰り主体のお店の周辺には何処かしら食べられる場所があって、注文を受け取った人々は三々五々、適当な場所を見つけ出しては思い思いに食べるというのがお決まりの光景としてあるのだけれど、コノ店の場合、周囲にそういう場所がまるで無い。オモテのベンチで食べるには人通りがあまりにうるさくて落ち着かないし、それ以上にカウンターに立つスタッフと面と向かう恰好になるので、ますます気まずい。その辺をウロウロしてみても腰を落ち着けられる広場や公園なども無いので、遠方よりお越しの旅烏諸君には、ぜひアツアツのうちに店内で召されることを強くオススメしておく。

 ロゴマーク入りのパックを開けると、てっぺんに薄っすら打ち粉の振られた平らなバンズ。表面何もナシ。白い生地で無味に近く、なかなか良いセンス――後口がさっぱり軽いところが良いのだ。名古屋のロコバーガーといい、函館のラッキーピエロといい、ブリッジズといい、ややドライ目で淡白な味のバンズが私の中で最近流行りつつある。中はぷるりんとしたマヨ、レタ、トマ、玉子、シュレオニ、ベー、デミソー、チー、薄身なパティ、ケチャ、マス、下バン。パティには黒胡椒が振られ、プンと香りが良い。グシャッとした感じはある種佐世保的。味の基本は佐世保風に(あまり)焼かずに挟んだ肉厚のショルダーベーコン×2枚。クドからずハッキリとしたコノ味にデミグラスソースが絡んで、全体をうまくリードしている。但しそれ以外の具材についてはこの2強の陰にすっかり隠れて目立った活躍はない。佐世保と言えば、マヨネーズとケチャップを軸に全具材が力強く融合して、アノ独特の甘い味わいが引き出される――というのが私の印象なのだが、その点このバーガーはベーコンとデミソースの味にやや依存し過ぎていて、必ずしも"全体の"という構成にはなっていない。つまりベー&ソーの味で押し切ってしまっているバーガーであり、そう思うと、この単純な作りで\780はややお高目かな……とも。とは言え、ひと口食べて単純に美味しいと思えるバーガーであることは断っておく。とにかくバンズの選び方が適切。

 これで直径15cmの立川バーガーは相当にキツかろう。カップルで分けるなどされることをオススメする。サイズのことを言うと、佐世保のバーガーは標準的なファストフードサイズのバンズの間に具材がコンパクトに詰め込まれた感じなので(もちろんLOG KITの様に大きいのもあるだろうが)、よって"ヨコの大きさ"と言うより高密度と言う方が、佐世保バーガーを言い表すには適当なように思う。その点コノ店のレギュラーサイズは佐世保と呼ぶには大き過ぎる。しかもこんなに水分量の多いバーガーをほぼテイクアウトに限って売っているという辺り、そもそも無理がある。持ち歩くうちにどんどん水が出て、上下バンズはフニャフニャにふやけてしまうことだろう。それをまたどうして持ち帰り専門にしたのか。できたてのアツアツをその場で食べて欲しいと思うのが作り手として当然の人情だと思うのだが、そんなバーガーの醍醐味をバッサリ切り捨ててしまった時点で、何か常のソレとは微妙にズレているように感じるのだが……。とは言え、お店はなかなか繁盛しているそうなので、ま、気にするほどのことではないのかも知れません……失礼致しました。

 八王子にも在るが、立川が先。如何せんサイトが見つからず、詳細はどうにもこうにも謎のまま。同じく中央線沿線ということでは中野のZATS BURGER CAFEなど思い浮かぶのだが、果たして関係は有りや無しや……。単純明快なるバーガー的醍醐味に触れられそうで、しかしもう一つ見えてこない……微妙な立ち位置のお店ではある。

2006.10.12 Y.M

FELLOWS

[駒沢大学]
# 157

●ジャンクフード交差点

 駅至近の駒沢大学駅前交差点ではなく、もひとつ先の「駒沢」の交差点そば。246走ってると縦書きで「駒澤大学」と看板が見える、あの辺り。この交差点付近、ジャンクな飲食店が実に多い。十歩歩けばラーメン屋、また十歩と行かぬうちに別のラーメン、お好み焼き、鉄板焼き……しかもどこもワンサカ客入ってんだよねぇ。特にフェローズと同じ建物で「真裏」の関係に当るギョウザ屋など、イスの上に胡坐かいてジョッキ傾けるオッサン連の姿など外からよく見えて、コノ客ごっそりバーガーに移動しないかなぁ、なんてつい……。


●日曜大工

 かなりシブイ立地である。交差点に面したビルの裏側壁面にへばり付くようにして在る。しかも直角三角形の鋭角を切り落としたような狭隘・変形な敷地(それを台形と言います)。しかしこの悪立地をキャンバスに見事な世界観が構築されている。

 店内カウンター4席、テーブル4席。席を詰めていないため、かえって広く見える。基本的にはスケルトンの店内に木のベンチ、木のカウンターなどをおもむろに造り付けたカフェな造り(こういうの何て言うの?)。

 特に目を引くのは、炭火焼きの煙を屋外に逃がすブリキ製ダクトの見事な空中配管。白い壁にはバーガーに当たり矢の図……そば屋じゃないんだから。外は8人は掛けられるかな?大きなベンチを中心に立派なウッドデッキ(※その後屋根付きのテラスに変身)。店内外ともDOG OK――なので奥に座るお客さんの膝の上をよ〜く見るとワンコが一匹、こちらに向かって確かに舌を出している。これら内外装とも粗方マスターが独りで手がけた。デザインも無論マスター。


●THE BURGER STAND

 ブラジルに在住中、港町のカフェというか朝のスタンドの光景に強く惹かれたという。

 買い求めた朝食の包みを手に職場に向かう者、或いはスタンドにもたれてミックスジュースと揚げパンで思い思いの朝食をとる者――あらゆる労働者がひとつ止まり木に隣り合わせ、相交ざり、カウンターの奥では太っちょの店主が次々入る注文に悠然と応じている。気忙しさのない、しかし生きる力に溢れたブラジルのスローな朝の風景――と聞くだけで光景が目に浮かんでくるようだ。「THE BURGER STAND」というサブタイトルには、そんなブラジルのスタンドへの憧れが注入されている。


●部位から切り出す

 当初本当にスタンドにすることを考え、立ち飲み屋などの狭い物件を探した時期もあったが、結局テーブル席の店に落ち着いた。「美味しいハンバーガーが食べたかったから」とエイヤッ!と店を始めたのが去年'05年の11月14日。なのでもうすぐ1年。

 コノ店の売りはとにかく肉!肉好きが高じて、毎日腱鞘炎になるくらいまで徹底して牛肉の部位から筋を切り取り、自前でミンチにしている。まさに渾身のパティだ(コノ辺りの気迫はLOCO-BURGERにも通じる)。この冬、その余ったスジ肉で美味しい筋煮込みスープを考えているというから、これは本気で楽しみ!


●チャコール

 メニューはバーガー類オンリー12種(+2かな?)。今宵もチーズバーガー\1,100。フライドポテトと自家製コールスロー付。焼き方はマスター推奨のミディアムレア(コレが外人サンだとwell-doneになる)、腕に縒りをかけて自慢の炭火で焼いてくれる。そのパティの味に負けないモノをと、バンズはこれまた試行錯誤の末の逸品。

 グラハム系、小麦の濃い匂いが香ばしく、白ゴマの乗ったツヤのあるオモテ皮はパリパリとして身はややドライ。確かにこれだけのパティを内包しながら、その強力な味の中を掻い潜ってはっきりとバンズの香りが伝わるのだから、相当に強い存在感と言ってよい。バンズとパティ、両雄並び立って相譲らぬ様相だ。ご覧の通り下バンも実に見事。

 中はピク×2、トマ、グリルドオニ、パティの上からゴーダチーズが分厚く被さり、そのパティは大きさ150g、さらにレタス、下バン。ケチャ、マス、マヨ一切なし、肉の味勝負!の極めてストレートなバーガー(リサ以来)。パティは塩がややキツ目だったが脂くどさが無く、代わりに心地好い噛み応えがあって、かつコゲの苦味がプンプン香ばしく、とにかくバーガー全体としてすべての注意が肉の味に集中するような造りになっていて、トマト以下野菜陣はその引き立て役に回っている。


●やさしい気遣い

 強いて言えば、その肉と野菜を馴染ませる何かがあればさらに良いなとも思い、たとえば塩気を抑えたマヨネーズソースなどもうひと味ちょっとだけ添えると、さらに肉の旨味が引き立つのではないか――と、そんな意見を口にしてみると、実はマスターも似たようなことを考えていたらしく、しかし今はとにかく肉の仕込みだけで一杯な状態で、とてもそこまで手が回らないと。

 フレンチのシェフを経験された方だけあって、ソースひとつとっても(いや、むしろソースだけに)納得のゆかぬ、半端なモノは作りたくないという思いも立つのだろう。でも次行ったときは何か出て来そうな予感がして、密かに楽しみにしている。

 HEINZ のケチャップとの相性も抜群!と言うかケチャップにも全く負けない肉の味はとにかくパワフルだ。それでいて筋を丁寧に取り除く行き届いた心配り――「レディに食事中みっともない思いをさせたくない」という、そんなやさしい気遣い(T.L.C)こそコノ店のすべてを物語っている。


●母は偉大

 ……忘れてはいけない!店はお母様との二人三脚。母の力は偉大――やっぱりどこかホッと和みますわネ。BGM――ウェルカムソングが「レイラ」だったもんで、テンションはハナから上がりまくりだった。店名の由来は、昔馴染みの仲間(fellows)が気軽に集まれる、溜まり場のような場所になれば――などと、またまたイカすことを仰る(学芸大学OXも同様な想い)。横移動するホームページが絶品!!

# FELLOWS [駒沢大学] のテラスに屋根が付きました
【二ッ目!】FELLOWS [駒沢大学] のベーコンチーズバーガー

― shop data ―
所在地:東京都世田谷区駒沢2-17-9
東急田園都市線 駒沢大学駅歩10分 地図
TEL:03-5875-6331
URL:http://www.fellows-burger.com/
オープン:2005年11月
営業時間:11:30〜15:00, 17:00〜21:00(20:30LO)
定休日:火曜日(要確認)

2006.11.3 Y.M

*ease
by *LIFE* Delicious Food SERVICE

[明治神宮前]
# 164

 *easeに行くことは長らくの懸案だった。それが駒沢大学FELLOWSの黒川マスターから「あそこのオーナーとは友達なんで、ゼヒ!」と言われ、外苑前GORO's DINERのパティシェ"タカちゃん"からも「こないだ行って来ました。ゼヒ!」と言われ、さらにケーキ日記のhalfaperson氏は、私がグズグズしている間に「ボクは、あのコに会いに行く…」と2度も行ってしまった。いろんな縁が私を京セラビルへと向かわせる――


●あくまで"カフェ"である

 階段を降りてすぐ左手。ガラス扉を押すと、奥のキッチンまで柱も仕切りもない大きなワンフロア。見上げれば「コノ高さがこのビルの一体どこに隠されてるんだろ?」というくらい高い天井。コンクリ打ち放しのフロアの上に塩ビの黒いソファとイームズのサイドシェルが20余席。都会的な、無機質な面持ちの中にあって、一灯だけ吊るされたシャンデリアがミョウになまめかしい。奇しくもこの夜はプロの"本物の取材"が入っていたので、そっと見守らせていただきました――の図が、右の写真。

 白いブロック壁に無音声でプロジェクターが映し出すは『タイタニック』?……と思ったら『ラブ・アクチュアリー』。ロバート・パーマー?……と思ったらビリー・マック、ネックレス?……と思ったらジョニ・ミッチェルみたいな――。ラジオでオンエアはエアロスミスの『アルマゲドン』。


●動の空間

 いかに天井が高くとも地下は地下、窓外の味の名店街には木製のブラインドを下ろして、四つの壁で浮世から隔てた、とっときの異空間を現出している……なんて書けば、エラク塞ぎ込んだ場所を想像するだろうが、不思議なことにこのカフェには、くつろいだ空気の中にも「動き」がある。さらに言えば客・スタッフ分け隔てなく、偶然居合わせた者同士であたかもコノひとつ空間を共有しているかのような、そんな不思議な一体感があるのだ。

 本来個々に静まり返るべきこの空気が、何者かによって音も無くかき混ぜられている。本来個々に閉ざされるべきこの空間が、何者かによってひとつに束ねられている――その「何者か」とは!?(なんて、そんなにキバる場面でもないですヨ)。いえ、フツーにワンちゃん。このカフェのスタッフ犬、フレンチブルドッグのおもち(♀3歳)とコロ助(♂10ヵ月)がその「何者か」。


●スタッフ犬、おもちとコロ助の冒険

 この夜、おもちは中央のソファでひっくり返っていて、もっぱらコロ助クンの独擅場。お客さんの間を行ったり来たり、居なくなったかと思えばまた現れて、机の下から円らな瞳で何を問うているのか、いないのか……コロ助、キミは一体何が欲しいのかえ?


コロ助

 でも不思議。コノ「お客さんの間グルグル」を繰り返すうち、何だか自分のトコばかり多く回って来ているような錯覚に陥るワケですよ。で、頭撫でつつもミョウに周りに気兼ねしてみたりして……でも内心すごく嬉しかったり。

 つまりはおもちとコロ助、2匹のスタッフ犬の存在が、コノ空間に居合わせる人たちすべてのハートを結び繋ぐ共通の関心事となり得ているワケでして、自然スタッフとの間に会話も生まれましょう、知らぬ客同士、目も合いましょう、笑顔もこぼれましょう、やがて恋も芽生えま……って、そこまでは??(おもち&コロ助のお休みは水曜です、一応)


●アップタウンダイナー

 このカフェが「動の空間」である理由のもうひとつは、フードメニューの圧倒的な数の多さにある。パスタにピッツァ、ステーキにごはんもの、それに加えてバーガー18種、サンド12種、ドック5種――カフェというよりほとんどダイナー。キッチンからはジュウジュウと絶えず調理の音が聞こえてきて、実に活気がある。

 オーナーシェフ車田(くるまた)氏にバーガーのルーツを訊けば、なんと!かつて名古屋は栄にあった今や"幻"の名店アップタウンダイナー(当時の所在地 → 奇跡!地図にはまだ残ってたんだヨ!)で働いていた――しかもこのとき一緒に働いていたのが代々木公園ARMSの岩田マスターというからWの驚き!!(←悲劇じゃないヨ)

 今から8年前、当時名古屋で大人気だったアメリカンダイナーで共に働き、夢を語り合った若者2人が、やがて東京でそれぞれの店を構える……なんかすっごい青春ドラマじゃありません?これだけで一本書けそうな気がしてきた(同じコを好きになる設定にするか……)。しかも両店は原宿と代々木というご近所同士。


●幻の天然酵母バンズ

 '02年6月、24歳で*easeをオープン。長い店名は、一見するとバックにどこか大きな資本でも付いているようにも思えるが、左に非ず。曰く、敢えて「旨いもの屋」と名乗ることで自らにプレッシャーをかけているとのこと――有言実行!

 パスタなどイタリアン系のメニューでスタートし、ハンバーガーが登場したのはオープンから1年半後(この時間差がハンバーガーの難しさを物語っていると思う)。しかもデビューに際して半年がかりで自らバンズを焼いてみて(※普通そこまでしません)、ついにはコレぞ!という自家製『白神こだま酵母バンズ』を作り上げてしまった。今はそのレシピをそっくりそのままパン屋に渡して、そのとおりに作らせているというから、やはり只者ではない。


●次は必ずやビールで

 18種類あろうとも、いつでも始めはチーズバーガー\1,050。天然酵母バンズはマスター自ら語るとおりファイヤーハウスの、つまり当時の峰屋のバンズをベースにしており、光沢ある表面に白ゴマ、ふっかりと緩やかなドームを描き、峰屋の実物よりさらにリッチ系の甘味を前面に押し出した、まさしく峰屋の系統を彷彿とさせる一品。「甘味はご馳走」と例えた峰屋ご主人の発想が、こんな形で受け継がれているのは興味深い。

 さらに特筆すべきは、餅のようにしっとりとした生地の弾力。ちょっと力を入れて摘んでも破れることがない――いつまでも触っていたい感触である。

 裏にマス+マヨ、チェダーチー、パティ、刻んだレリとオニがトマトの上に乗り、レタ、下バン。総じてファイヤーハウス的なバーガーなのだが、マスタードの酸味を抑えて立ち過ぎないようにしている点と、野菜やバンズの柔らかな印象とは対照的に、パティがしっかりとした硬めの味で全体を下支えしている点が特長的。特にパティは噛むほどに肉の旨味がじっくりと滲み出して来て安定感がある。マスタードとマヨネーズを和えて巧く中和させているので、次に目立つのはスイートレリッシュの甘味。天然酵母バンズにレリッシュが相乗して、余韻さわやかな甘味香るバーガーに。付け合せはナチュラルカットのフレンチフライに塩胡椒ガッツリ(心得てるネ!)。この夜は背信のアイスティー\500だったけれど、次は必ずやビールで!

§ §

 メニューのイラストもロゴデザインもみんなオーナー作。行く行くはTシャツや犬グッズのショップも始めたいというが、どれも当りそうな予感。20代のヴァイタリティが疾走する安らぎの空間
 600℃の薪窯の味を再現したナポリピッツァの話や(コレ美味!)、スイーツの話(はコチラに譲ります)、そして*easeとファイヤーハウスを掛け持ちするスタッフ守口君の話など、書けばホントにキリがないので、一旦ココで切ります!続きはまた場をあらためて――


↑おもち

― shop data ―
所在地:東京都渋谷区神宮前6-27-8 京セラ原宿ビルB1
東京メトロ千代田線 明治神宮前駅歩5分 地図
TEL:03-3499-7622
URL:http://www.ease-ldfs.com/
オープン:2002年6月
営業時間:11:30〜23:00(22:30LO)
ランチ:11:30〜15:00
定休日:無休(要確認)

2007.2.14 Y.M


Cadillac Burger's

[荻窪]
# 167

 荻窪といえばラーメンの町――


●でもあるんです!バーガーショップ

 キャデラックバーガーズと聞けば、白黒チェッカーズのフロアに、ともすればピンクキャデラックまるごと1台ドンと置いてあるような、ズドンと大きなダイナーを思い浮かべるじゃぁないですか。ところがどうした、鳴るときゃ鐘鳴る教会通りを入ってギアを2速に入れかけてスグくらい(←例えです。あくまで"徒歩"ですから)。上記のような頭でもって行くと、確実に行き過ぎます。お向かいは洋品店と煎餅屋さんですから。

 勇気を奮ってあえて申し上げるなら――やきとり屋?小料理屋でも居酒屋でもいい。狭いのに店の半分が厨房。残り半分にカウンター4+3席とテーブルが約6席。言うなれば"半屋台"的風情を湛えた米国風一杯飲み屋


黒板……と思いきや壁に直書きメニュー

●中央線の怪

 入るとあらためて狭い!入るなり柱ですし。店内50's、60's辺のアメリカントイやら置物やら使途不明物体(世にガ○○タと呼ぶ)がゴチャンゴチャン。「ちゃんと片しなさい!」と、のび太がママに叱られるレベル。とにかく狭いヨ〜、狭い!狭い!(3度も言うな)この「自分の部屋」的雑然の中、隣り合わせた客同士酌み交わす一献がまたヨロシ。BGM――オイオイ、小島麻由美だよ〜!!How Deep is The Ocean!!

 こういうお店見るとつい「中央線カルチャー」という言葉を思い浮かべてしまうのだけど、生まれも育ちも"コノ辺"という千種マスター&副店長両氏によれば、ぬぁんと!ひと駅ごとに文化も住む人もまったく違うというのですね――そんなこと言われたってヨソモノである私から見りゃぁ、沿線ひっくるめて「中央線」なのであって、どの駅も同じようにしか映らないワケですよ。だのに……この夜最大の驚きはコノ衝撃の事実だったかも知れない(沿線住人のみなさん!このヨソモノをどうか温かい目で見てやって下さ〜い!)。各駅異なるカルチャーの中にあって、荻窪は色の無い、文化の「空白地帯」であると2人して言うモンだから、ま、そうなんでしょう。


●帰ってきたロープライス

 50's&60's、そしてプレスリーをこよなく愛する千種マスターは、ミスタードーナツに11年、フレッシュネスバーガーに6年身を置いた、ファストフード業界一筋のベテラン中のベテラン。

 でもアウトロー。両店を離れるきっかけとなった出来事が共通していて、要はそれまで手間ひまかけてお店でイチから作っていたものが、ある日、既に出来上がったものが運ばれてくるようになって、で、ちょっとツマラナクなったと――。だからこのキャデラックバーガーズは、手作りをコンセプトにした店なのである。

 ところ変われば考え方もずい分と変わるもの。手作りを売りにする場合、普通そこに付加価値が生まれて、ヨリ高い値段で売り買いがされるものだが、しかしコノ店では材料・ソースなどを手をかけて自前で作ることによって、逆に安い値段で提供しようという、近頃ついぞ考えてもみなかった、ハッとさせられるようなその思考が新鮮だ。

 「商店街価格」というのも効いているようだが、それにしてもハンバーガー\350、チーズバーガー\400は、私がすっかり慣れ切ってしまった昨今のバーガーの価格帯を思えば、久々の衝撃だった(コノ日のセカンドインパクト)。気軽さ、手軽さ、そして生命力(?――ヨリ生活に密着した、活きた感じネ)といった、失われてはならないバーガーの根源がそこに宿っているように思う。


名代のキャデラックバーガー

●キャデラックバーガー

 バーガー類12種。サラダ、ポテト、ミニドリンク付きのセットにしても\750〜850のうちに収まって、価格でチェーン店と十分互角に渡り合えてしまう。コノ店の守り神、米国人のシェリーおばあちゃん監修、特製ミートソースを挟んだスロッピージョーバーガーだってワンコイン\500(ばあさんコイツをグイとつぶしてイキに食べるらしい)。具材全部盛り、名代のキャデラックバーガー\1,000(セット\1,200)は見てのとおり、今から鍋でも始めるんですか?という衝撃的問題児。フウ〜ンと甘い香りがするサルサソースとミートソース、2種類のソースが味わえてお得……と言うか、無茶は承知之助。


●おいしさは鐘の音と共に

 ま、最初はチーズバーガーからいきましょう。セットで\780。豊富な付け合わせと決してミニではないドリンクに囲まれ、具材を前面に集中させたユニークな挟み方。バンズの下はピクルス、マヨ、ケチャ、マス、レタ、トマ、ソテーしたオニ、チー、パティ、下バン。

 バンズは、老夫婦の営む町の小さなパン屋さんに依頼する特注品。不恰好な中にも温かみある、ホームメイドな感じにしたかったとマスター。外はハードバケット――の言葉通り、皮はカリカリ、身もドライ目で印象に残る食感。キャデラックバーガー用だけセサミあり……そうだ!ラッピに近いかも。中の具が引き立つバンズ

 味の基本はケチャップ、マヨネーズ、マスタードの織り成すトリニティ。そこにハリハリとした歯応えの自家製ピクルスがキツくない酸味で加わり、狙い澄ました強引さで食べ切らせてしまう。この強引さには巻き込まれたが勝ち!値段を忘れる食べ応え。折り重なる味の中から、それでもしっかりと感じられるふっくらとしたパティの味わいは合挽きならでは。しかし"合わせ方"にひと知恵あって、合挽き臭はほとんどせず。ファストフード店の味をおいしく引き継いだスグレモノ。

 溶けていないゆえしっかりした味のチェダーチーズと、作り置きのソテードオニオンの甘味が随所にポイントを作り、コノ価格にして立体的な味わいを構成している。ローコストの中にもそれをカバーして余りある楽しみを見出せるバーガーで、普段千円超級のものを紹介することの多い私からすれば、そうこなくっちゃ!待ってました!!な流れであります。こういうのも見てみたかった……こういう経歴の持ち主がこういう考え方の下、こういう店を始めて、ソレが世の中にどう受け止められてゆくのか、どういう影響を起こしてゆくのか――。さまざまな人のさまざまな想いが交差するハンバーガーストリート――だから面白い!って最後は宣伝ですか。


●真骨頂は夜

 コノ店の真骨頂はナンてったって夜!前の店の置き土産であるピザ焼きの石窯を使った肉料理など、本格ダイナーメニューの数々が400〜500円程度のおつまみ感覚で楽しめる……って地元の人はいいなぁ〜!ウラヤマシイ。

 書きそびれたが、マスターはコノ店を始める前、池袋ナンジャタウンの佐世保バーガービッグマン(←リンクは南船橋)で半年間、あまりに高度な佐世保式オペレーションでグリドルを回した経歴を持つ。ただ偶然「アルバイトしてみただけ」だそうなのだが、しかし佐世保バーガーとマスター、どこかスピリットに通じ合うものがあるように思う。
 町のため、商店街のため、そして呑んべえの常連のため――中央線カルチャー"空白地帯"に降り立ったバーガーショップが今、強烈なカルチャーを放って教会通りに新たな人の流れを起こしている。山椒は小粒でもピリリと辛い。辛きこと火の如く、狭きこと世間の如し――コノ店「都内で最も狭いハンバーガーショップ」に認定いたします。暫定王者決定!


小粒でもピリリと辛い店構え

※2007年4月初旬に突然の閉店。アッ痛〜ッ!シェリーおばあちゃんもきっと泣いてらっしゃることでしょう。なにやら"事情"はあるようなので、追跡調査を続けてみます……ってか、副店長に渡すモノがあったんだけどナァ(2007.7.7)

― shop data ―
所在地:東京都杉並区天沼3-4-11
JR中央線 荻窪駅歩3分 地図
TEL:03-3392-8639
オープン:2006年9月
営業時間:11:00〜翌1:00
定休日:月曜日(祝日の場合営業、翌日休)

2007.3.10 Y.M


THE GREAT BURGER

[明治神宮前]
# 178

 オープンから早ひと月。太陽の光をいっぱいに浴びた、アノ店へ。


●悲願の路面店

 神宮前・京セラビル地下1Fの人気カフェ*easeの【二ッ目!】は、徒歩わずか2分のご近所に「ハンバーガーと世界のビール」に特化した専門店として、先月'06年5月20日にオープンした。"悲願の"路面店である。

 その後どうですか?と訊くと、大真面目にこんな答えが返ってきた――「窓を開けていると風が抜けて気持ちいい」「雨が降っているのがよくわかる」「オモチは入り口のマットの上でずっと日光浴している」――日がな一日をずっと地下に潜って暮らす生活には、およそ当人にしか解かり得ない、言い難い苦痛と閉塞感が伴うようである。テレスドンを擁してわれら人類の住む地上を脅かした地底人の心中たるや……。

 そんなワケでスタッフたちは今、地上に出られたことの喜びと開放感に沸き立っているのである。

 *easeの看板犬おもちとコロ助は、普段は両店に別れて居るそうなのだが(シフト表があったりして)、私が訪ねたこの晩は2匹とも偶然GB勤務。両犬どちらも連れて行かれて、*easeを守る"元・未来の巨匠"守口クンの微笑は、どこか少しほろ苦かった。


せめてコロちゃんだけでも……

※ 守口クンは'05年11月26日放送の『チューボーですよ!』チーズバーガーの回で「未来の巨匠」として紹介されている(店はFIRE HOUSE)。


●日の目

 2店目は「とにかく地上に出たい」という思いがずっとあった。5年前にオープンした1店目は"カフェ"であるが、しかしフードメニューの豊富さはその域をはるかに越えて、十分過ぎるくらいにダイナーである。

 カフェというと、心地好い時間や空間といった「形無いもの」を提供するイメージが強いように思う。なので「カフェ」と名乗ると居心地や快適さといった、店「全体」としてのイメージばかりが先に立ち、個々のメニューの実力や個性はどうしてもその陰に隠れがちになってしまう。強力なフードメニューを持つ*easeのような店にとってそれは、一面マイナスに働いていたのではないかとも思えるのだ。

 それが今回、並みいるメニューの中からハンバーガーが「独り立ち」したのである――晴れてソロアーティストになったワケだ。*easeのハンバーガーのパワーが認められて、2店目の看板に堂々その名を刻むまでの栄誉に浴したコノ快挙は、ハンバーガーにとって大躍進の大出世と言っても言い過ぎではないだろう。地上に出て「日の目を見た」のは、スタッフだけではなかったのである。


●イーズとグレートバーガー

 今後の展開も含め、車田(くるまた)オーナーよりお聴きした限りの両店の違いを挙げてみると……(2007.7.29修正)

 ★ハンバーガーは両店で食べられるが、アボカド生ハムバーガー\1,300、
  グリルドパインバーガー\1,050、フィレオフィッシュ\900はGBのみのメニュー
 ★GB開店に伴い、サンドイッチを*easeから無くした
 ★ホットドッグもGBオンリー
 ★逆にGBにパスタ・ピッツァは置かず、前菜、肉・魚料理等を含め、
  *easeはイタリアン系をメインにより一層掘り下げる
 ★サイドディッシュではナチョス\900などがGBオンリー
 ★陰の超人気メニューチキンドラムは、GBでは1P\300からオーダー可
 ★スイーツでは「夢だった」という4枚重ねのパンケーキ\700、
  サンデー、ブラウニーなどがGBオンリー
 ★スタッフ(人&犬)は両店共通。シフトで回す

 デザインのテイストも基本は一緒。5年の時を隔て、両店を手がけたのはtrim tabの福田淳一氏。


●パイン材の傷

 ニューオープンなのにこの使い古したテイスト――この辺り、実は相当に手間も暇もかけている。

 カウンターはじめ造り付けの家具やテーブルにはパイン材を使用。古材で造るとウンと高くつくので、スタッフ一同夜を徹して、まっさらの材に傷を付けてはブライワックス(BRIWAX)を擦り込み擦り込み、あたかも使い込んだような味わいに仕上げた。この傷付け作業にはアノFELLOWSの黒川マスターも友情参加したとか、けど何もしなかったとか……。パイン材の要所に黒染めの鉄をはめ込めば、これでトーンがグッと締まって見える。

 ゼブラウッドを使ったシェルチェアも抜群の存在感。無性においしそうな色をしたコゲ茶のベンチシートは、早くもおもちの指定席だ。コンクリ壁に造り付けた棚の上にはパンケーキミックスやらベイキングパウダーやら、主に食料品。ミルク缶やキャビネットの古書などはオープン前にNYで買い付けてきた品々である。

 カウンター上にはエキスパンドメタルをはめ込んだ「見せる(魅せる)収納」。キッチンにめぐらせたタイルはロンドンだかパリ辺りの地下鉄で使われる「メトロ」と呼ばれる輸入モノで、コレまた超カッコイイ!レジの後ろ、クローク風のベルベットのカーテンがグッと高級感を引き出していて、ホント随所で狙いがズバズバ当っている感じで痛快。

 この一段上がったカウンター席から見下ろす店内は本当に眺めが良くて、お世辞抜きにずっと見ていても見飽きることを知らぬ、オーナー入魂の絶景である。しかもこの空間に漂うのが、気の抜けるよ〜なオールディーズミュージックにカントリーという……原宿の路地裏に居ることを忘れる、強烈な世界を放つ店。


●そろそろバーガーの話

 てなわけでバーガー類21種(*easeより3種増)、サンド12種、ドック6種。今宵の一品はゴルゴンゾーラバーガー\1,100。ゴルゴンゾーラチーズはチェダーの倍近い値がする高級品であるため、バーガーに使われることはおそらくめずらしい。入れ過ぎると味がキツいので、バーガーに旨味を添える程度の役どころで、前面には出てこないが、しかし全体の味に巧みに絡んでイイ味を効かせている。

 毎度のよくテカる濃茶のバンズ。コリコリ硬めのパティの上に溶け切ったチーズ。パティに振ったスパイスの細かな香りがレリッシュ&オニオンのさわやかな酸味に乗って、あたかもひとつのドレッシングであるかのような、一体となった味わいを構成する。これがGBおよび*easeのバーガーの常に味の"核"となっている。その下にトマトとレタスの野菜陣、マス&マヨ、下バン。付け合せは毎度のナチュラルカットのフレンチフライ。ケチャップ、マスタードは10g入りのシングルサーブが各卓に。

 生はハートランド。他に世界のビールが瓶で常時15〜16種。グラスに注がずにダイレクトにどうぞ。


●カフェとダイナー2

 カウンターには*ease以来の常連さんが腰を掛け、スタッフやオーナーと気さくにトーク……そう、ずっとこういうシチュエーションが欲しかったんだよネ、きっと。お店も客も。

 初めて行ったときから、*easeはただのカフェではないような気がしたのである。おもち&コロ助を斬り込み隊長に、お客さんとのコミュニケーションを楽しんでいる感じがすごくよく伝わってくる、そんな人懐っこ〜い空気はGBにおいてももちろん健在&全開。裏通りの異空間は、オーナーはじめスタッフ一同の心のこもった、温もりあるテイストに仕上がっている。まずは人ありき。そしてもちろん犬ありき――な、お店。


店名のヒントとなったレシピ本

# 164 *ease [明治神宮前]
【最新情報】 5月20日、神宮前に「THE GREAT BURGER」がオープン
【二ッ目!】THE GREAT BURGER [明治神宮前] のベーコンチーズバーガー

― shop data ―
所在地:東京都渋谷区神宮前6-12-7 J-Cube A 1F
東京メトロ千代田線 明治神宮前駅歩7分 地図
TEL:03-3406-1215
URL:http://www.ease-ldfs.com/
オープン:2007年5月20日
営業時間:11:30〜23:00(22:30LO)
ランチ:11:30〜16:00(土日 〜14:00)
定休日:無休(要確認)

2007.6.26 Y.M


base

[目白台]
# 179

 ココんとこ、base(ベース)の小悪魔に魅入られているのか、どうにも寝付かれない夜が続いている――。


●その場所

 目白通りと不忍(しのばず)通りとの分かれ目、背に日本女子大、前に附属豊明小・幼稚園という位置で、通り沿いには学生をターゲットにしたカフェが並び、街並みにはどことなく雑司ヶ谷から続く妖気のようなものが感じられ……って京極夏彦の読み過ぎか。でも椿山荘へ向かって通りをさらに行くと、幽霊坂なんて名の坂もありますから。

 学生の街、そして都内有数の高級住宅街である目白台。目白駅から徒歩15分、護国寺から8分(10分以上歩く感じだが)、どこの駅からも離れていることを考え合わせると、駒沢のASに似た地元密着型の店の条件を備えているように思われる。

 で、さらにもう1店、コレによく似た立地の老舗があります……そう、島津山の下に構えるフランクリンアベニュー


●フランクリンアベニュー

 オーナー菅原さんは自身のバーガーショップ開店に当たり、その2年前から綿密な事業計画を立てていた。その計画に基づく開店前1年間の実地研修の場として、「ぜひココで!」と門を叩いた店こそが、五反田のハンバーガーレストラン、フランクリンアベニューである。

 アルバイトながら僅か3ヶ月で店長に昇格。店の切り盛りほぼ一切を任される、又とない好機を得、10ヶ月で"卒業"。そしていよいよ自身の店の開店準備に取り掛かる……のだが、ではその事業計画とは一体何ぞやと……(今回時制を遡って進めております)


●事業計画書

 大学生のとき、既にバーガーショップ構想が胸にあった菅原さん。卒業後まず広告代理店に就職、来るべき日に向けさまざまな経験を重ねた。

 勤務3年目はほとんど自身の事業計画について考える毎日。ベンチャーを後押しする社風であったことから、菅原さんの練りに練った計画書は直属の上司(とその夫人)の目を通すところとなり、ダメ出しされてはまた書き直し……を繰り返すうち、さらに練り上げられて、最後は社長も頷くまでの計画が出来上がった。

 3年で会社を辞めたのは本人にとって唯一「予想外」に早い展開だったそうだが、退職後は計画通り、フランクリンでの実地研修へとフェイズを進めている。

 では菅原さんがハンバーガーに対し、どうしてそこまでの熱意を燃やすようになったかというと……(今回時制を遡って進めております)


●イビサ島の衝撃

 海外旅行に明け暮れた学生時代、菅原さんはその旅路の末にこんな真理を見出すに至る――本場アメリカよりも世界各国の観光地へ行く方が、おいしいバーガーに遭遇する率が高い

 たとえばタイのパンガン島、そして菅原さんがバーガーの洗礼を受けたスペインのイビサ島といった、世界中から旅行客が訪れる観光地やリゾート地において、バーガーはグローバルスタンダードな価値を発揮する。

 現地の味にも飽きて来て、食べ慣れた食事が恋しくなる頃、ハンバーガーは信頼の置ける「間違いのない味」として("無難な"とも言う)、各国のツーリストから一様に受け容れられる→人による好き嫌いがあまりない→世界各国から人が集まる観光地に向いている――存在であるという。つまりハンバーガーは、アメリカ固有の地域語でなく、世界で通ずる国際語として、今や七つの海にまたがるユニバーサリティを持った食べ物になっている――というのだ。恐るべし、米国の世界戦略。

 なので世界各地の観光地へ行くと、その土地の特色を活かしたローカルなハンバーガーに巡り会うことができ、それはときに発祥地・アメリカを凌ぐ逸品である――という次第。

 イビサ島は地中海屈指のリゾート地にして、実はクラブのメッカ……"夜"が極度に発達したリゾートである。

 深夜、これからクラブに繰り出さんというクラバーたちの、出陣前の腹ごしらえにBar(バル)で供されるハンバーガーは重宝され、ソノ"味"如何でその夜の調子が決まろうというほどに(やや誇張アリ)、ハンバーガーはイビサ島の夜のキーアイテムとして重要な役割を占めている……らしいのだ。

 そんなイビサ島の、とあるBarで巡り会ったハンバーガーに菅原さんは超弩級の衝撃を受け、それが今日のbaseへと繋がる足掛け5年の一大事業計画の発端となったワケである。その衝撃の味とは……(ここから現在に戻ります)


●超粗挽き

 なので20席強が小じんまりと収まる奥に長い店内は、アメリカンなサインプレートなど飾りつつも、欧風の白壁にシャンデリア、シンプルなスレートのタイルと、「ハンバーガー=アメリカ」の図式にとらわれない造りで、そのミックスカルチャーぶりはカフェ的とも、またビート系の夜っぽいBGMを流せばクラブ的とも呼ぶことができようか。オモテには緑を並べたちょっとしたデッキが延びて、上に赤い庇屋根。誰からも好かれるやさしい店構えで、昼どきは女子大生で満席になるというのだが……学生がランチに1,000円って……きっ、キミたち……

 バーガー類13種、サンド16種、メニューはほぼこの2本柱。チーズバーガー\950、オーバルの皿にオープンにして、クレソンがふた添え。実に可憐な見た目だ。フランクリン譲りのセサミバンズにレタ、生オニ、トマ、タルタルソー、チーズはモントレージャック、パティ、下バン。

 合間にクレソンをかじりつつ、やはり主役はお肉。イビサの衝撃を伝える超粗挽きパティは、筋が残るか残らないかのギリギリの境界を行く(けっこう紙一重)、コリッコリ←コレぞイビサ島の衝撃。

 歯応え優先と言いつつ、脂の旨味が終始よく効いていて、チーズとタルタルがコレにさらに深味を加えている。特にチーズはパティの特徴を消すことなく、しっかりとコクを効かせて貢献度大。穏やかな味わいの中から峻烈な辛さを覗かせるオニオンが良いアクセントに。螺旋状にカットされたカーリーフライ(ポテト)は少な目だが、全体の味のバランスを思えば適量か。イビサ島で出会った衝撃の味を再現するコリッコリの荒くれパティを、フランクリン一流の端正な味とバランスで包み込んだ、コノ対比の妙が何とも類稀なる逸品。

 生ビールはハイネケン\600。世界のビールも4種。折り畳み戸全開にしたテラスから、蚊取り線香の芳香を乗せて流れ込む夜風がカリブビールに火照った顔に当たって、気持っちイイ〜!


●小悪魔の冒険と成長、そして誘惑

 と、こんな店を、代理店時代に培った人脈と経験を総動員して今年'07年の4月にオープンさせたのである。

 目白台という立地――言われてみれば確かに好条件を備えた有望なエリアであり、それが手付かずにぽっかりと空いていたことに着目した菅原さんは、やはり流石である。

 但しバーガーの場合、いかに綿密な計画を立てても、それだけを根拠とする限りは容易にGOサインの出る食べ物でないのが現状。ハンバーガーには少なからず「冒険」が必要なのだ。優等生的計算だけでは括れない、そんな遊び心や悪戯心が「base(秘密基地)」という店の名や小悪魔キャラ(女の子です)に巧く表されているように思う。

 向かいが学校という場所柄、お母さんに手を引かれて食べに来たちっちゃい女の子が、大学生になって食べに来て、やがてお母さんになって子供を連れて……と、月日のめぐりをそんな形で感じ、一緒に年を重ねてゆくことができたらと、菅原さんはそれを楽しみの一つに挙げている。10年後20年後にも、同じ場所・同じ店で同じハンバーガーの食べられる、世代を超えて愛される店を目指して――いや、ほんと楽しみです。

 このプロジェクトのため呼び集められたスタッフは、菅原さんの幼馴染、焼き場の"ハチ"に豪州帰りの"シノ"(あと週末にはプラス女の子1名)。普段は男ばかり"隠し砦の3イケメン"体制――正直イケてます!男だけの店というのも独特の雰囲気があってイイものだが、残念ながらそれについて触れている余裕が無くなってしまっ……


# 103 7025 Franklin Ave. [五反田] ☆

― shop data ―
所在地:東京都文京区目白台2-9-5 目白台サンハイツ1F
東京メトロ有楽町線 護国寺駅歩10分 地図
TEL:03-5848-4043
URL:http://www.base-burger.com
オープン:2007年4月17日
営業時間:11:00〜22:00(21:30LO)
定休日:月曜日(要確認)

2007.7.4 Y.M