ハンバーガーストリート

vol.4

―― 東国編 ――

'08.9.20 Sun'S updated

ラッキー

[磐田]
# 147

 昨日近江で今日遠江(……飛鳥、斑鳩?)奈良時代、遠江国の国分寺が建立された由緒正しき地、遠州磐田(いわた)。今ではJリーグジュビロ磐田(←ホントはサックスブルー)の本拠地として名高いが、ココ磐田にもちょいとワケありのバーガーショップが在る――このページを見つけなければ行くことはなかったろう、多謝!


●グリコア

 今から20年ほど前、「グリコア」という変な名前のバーガーショップが近所にあって、よく行ってたんだけど、いつの間にやら跡形も残さず消えて無くなって、で、アレは一体何だったんだろ……というのを"我々取材班"が、目撃情報をもとに現地へ急行したり、予期せぬ事態に遭遇したり、内部に潜入したり突入したりして究明するページなのであるが、さて、その流れを受けて当隧道は……しかし班を組織するほどの人数も居らず、突撃をやり抜くだけのダンディな緊張感も全く持ち合わせていないため、以下ごく平板な調子で、調査結果の"発表"を粛々と進めさせていただきたく……


●サンテラス磐田

 場所は磐田の駅からバス停2つ。スーパーマーケットサンテラス磐田の中に入る店。付近には市民文化会館、磐田農業高校。市役所もそう遠くはない。あるいはこの一帯が磐田市民の生活の中心……かも知れない。サンテラス自体、ジュビロの応援セールや新人選手のトークショーなど、各種催事の会場として度々使われているようなので、地域の集会場的な役割を担っている……ということも考えられる。

 南口と呼ぶのか、とにかく正面玄関ではない入り口のヨコ。但しスーパー内部に完全に組み込まれた造りではなく、外に面して店独自の入り口も持っている。建物の形に沿った台形の店内。ベージュ、クリーム系を基調に褪せた色合いで、窓大きく、天井にはひと昔前のホテルのロビーか……というくらい豪華な装いの照明が輝き(←やや誇張アリ)、明るい造り。ミスド風、木の背もたれの椅子が無数に並び……あれ?背もたれの外れた椅子も一脚……。BGMは全館共通の正統派ムード音楽。時おり特売のジングルが割り込む。


●高校野球中継

 そんな中、この店の主であるおっちゃん、壁に組み合わせ表まで貼って、ヨコに長ーいカウンターの端に置いたテレビで高校野球観戦と決め込んでいる(第88回)。しかし店内、実況の音声こそ響いているが、画面はおっちゃんにしか見えない……オイッ!歓声が上がるとつい手が止まりそうな感じなのだが、しかし誰困ろう、客は自分の他、常連と思しき男性だけなのだから。客層は年齢高め。同じこの館内の何処かに入るマックにはヤングが群れ集い、その黄色い喧騒が五月蠅いアダルトたちは裏手のコノ店を愛す――という棲み分けが確立されている模様。それでも時には小学生くらいの女の子が、お母さんを伴ってポテトを買いに来たりもする。すると最前、黙然と野球観戦を決め込んでいたおっちゃんも、このときばかりは俄然表情が輝くのである。


●コーヒーチケット

 注文すると、レースのカーテンで仕切られた横長カウンターの奥半分に入り、業務開始。その仕切りのカーテンの上にはファストフード店の様式に正しく則ったメニューボードが、多年の日焼けに色褪せながらも、しかとカウンターを見下ろしている。コノ店、地元静岡の老舗トミヤコーヒーから豆を仕入れているのだが、メニューの看板下にはそのトミヤのコーヒーチケットが、ボトルキープの様に持ち主の名前を書いた状態でざっと34枚(全然ざっとじゃない)、並んで貼られている。ほぉ……てえこたぁ、少なくとも34人の常連客がいるワケだな?……って何だかJASRACの調査員みたいですが。


●デラックス

 バーガー類5種。ハンバーガー\230、ベーコンエッグバーガー\270。アメリカンコーヒー\240、ワッフルサンデー\320。本日は見栄えを考慮してデラックスバーガー\380を。

 デラックスバーガー\380。トレイに白紙一枚、その上に紙に包まれ。開けるとバーガーは""を向いていた……マック流である。バンズは表面何もナシ、ちょっと潰れているのがいただけないが、マックのようにアゴの裏に貼り付くまでのことはない。中はケチャ、ベーコン、パティ、チー、意外やジューシーでびっくりのトマ、レタ、マヨ、ケチャ2、パティ2、下バン。なんせデラックスなのでパティはダブル。そのパティ、肉らしいゴツゴツもザラザラも無く、代わりに妙な鈍いぷりぷり感がある。マヨネーズが効き過ぎ。コレでトマトの水気がもう少し均等に全体に行き渡っていれば、もう少し食べやすいだろうか。


●取材班の撤収と台風7号の接近

 さて話戻ってグリコア――江崎グリコ系のハンバーガーチェーンで、おそらくロッテリア、森永ラブ、明治サンテオレらと同時期に登場して、しかし殆ど記録らしい記録を残さずに人知れず消えてしまった店である……らしい(私は全く知らなかった)。そのグリコアが去った後に、別の外食チェーンが入るパターンはままあるらしいのだが、看板を変えた後もなおハンバーガーを売り続けているという例は、ひょっとするとココだけかも知れない――という点で磐田はグリコア研究者の間で聖地とされる(……ちょと取材班がかってきた)。なるほど確かに取材班の報告通り、オモテの看板には「グリコア」の文字が白くはっきりと塗り潰されているのだった――ハイ!間違いなくグリコア!

 状況証拠は揃った。あとは生き証人たる店主のおっちゃんにインタビューするだけ……なのだが、しかしおっちゃん高校野球に夢中で、てんでノッてこない。店を始めて25年……ぐらい、店の名変えてから20年……ぐらい。それ以上訊くのは諦めたが(邪魔するのも悪いしぃ)、おそらくサンテラスのオープン当初から入っている店だろうと思われる。バーガー続けて四半世紀――まぁそれだけ判れば十分!てなことで私も最後は取材班張りに、台風7号の接近を前に風雨徐々に勢いを増す現場を後にした


― shop data ―
所在地:静岡県磐田市見付天王下3007-1 サンテラス磐田1F
JR磐田駅より遠鉄バス10分 地図
TEL:0538-35-6348
オープン:不詳
営業時間:10:00〜21:00
定休日:不明(要確認)

2006.8.25 Y.M

ハンバーガー リサ

[札幌]
# 148

 北の大地の美味しいハンバーガーを食べようと札幌のバーガーショップを訪ねたら、思いもかけぬ"歴史"が待ち受けていた。


●Est.1956

 東西線で丸山公園よりさらに先、隣は琴似。二十四軒(にじゅうよんけん)という市街からはやや離れた少し寂しい場所で、住宅・マンションの他に物流倉庫や食品加工場なども隣接する、完全なる郊外型の立地である。明らかに商売に不向きなこの土地に、その思いもかけぬバーガーショップは在るのである。アチラ(米国)の田舎町に在りそうなちょっとした酒場の様な外観。看板には赤地に白く店の名が書かれている。問題はその下――Est.1956……エッ!


●博多、西中洲

 R&B/ソウル・ギタリスト、山田創(やまだつくる)氏の店。正しくは山田氏の母親の店だった。遡ることちょうど半世紀前――1956年、ハンバーガーリサは博多は西中洲にオープンした……えーっ!'56年という時代はハンバーガー屋としては第2世代とマスターは言う。

 第1世代とは屋号も看板も無しに鉄板1枚引っ提げて進駐軍相手にバーガー焼いてた人たちのこと。日本人相手の商売が第2世代に当る。ハンバーガーリサは、彼ら第1世代にアドバイスを受けた山田氏の母が、鉄工所で切り出してもらった鉄板をコンロに乗せて、日本人相手に始めた店だったのである。それが'56年、福岡は博多でのこと。北のハンバーガー屋を訪ねて北海道に来たつもりが、博多のハンバーガー屋と戦後の市井の様子について知ることになろうとは……世の中まったく何処で何に出遭うか分からない。


●三姉妹の店

 となると「リサ」はその母上の御名前かと思いきや、左に非ず、スペイン語で「笑う」といった意味だそうで――またも意外。そもそもその時代に鉄板一枚持ち出して、お好み焼でなくハンバーガーを焼こうと思う時点で、既にどこかハイカラさんである。アジア随一の国際都市・上海から引き揚げて来たというのもあるのか。ハンバーガー\80、チーズバーガー\130。コーヒー\60、トースト\50、コーンフレイクス\70(いつ頃のメニューか定かでないが)。「ハンバーガーでは何だか判らない」と、看板には敢えて「ハンバーとコーヒー」と書いた。

 戦後11年、街はそんな状況だった。天神と中州の間という立地の良さと、姉妹3人で営む店という噂も手伝って、店はまずまず繁盛。しかしなにぶん女ばかりの店なので、誰か嫁に行く度にメンバー交代・世代交代を繰り返し、最後はマスターのいとこに御鉢が回って細々続けていたが、13年前、ついに閉めた。


●親孝行とリサの再開

 一方その頃山田氏は、ギター1本携えて海を渡り、都合8年、アメリカで音楽活動を続けていた。帰国した氏は、友人の誘いでぶらり札幌に赴き、次の渡米の機会を伺いながら楽器修理の職人などするうち、そのまま居付いちゃったと。

 定住は心の安定を呼ぶものか、氏はふと博多に住む母のために親孝行したくなり、老いた母が1人でも回せる適度な狭さと客入りの悪さを併せ持った理想的物件をココ二十四軒に見つけ、本業と並行しながら時間をかけて少しずつ店を造っていった。そして'04年10月、途中11年のブランクを置きながらも博多に37年続いたリサは、場所を札幌に移してめでたく再開したのである。

 ところが博多暮らしの母に冬の北海道の寒さは堪えた。オープン僅か2ヶ月で引退を表明、さっさと博多に帰ってしまったのである。「南極に残された犬の気持ち」とはマスター。主人不在のリサを「こんな筈じゃなかった……」と、取り残された息子が仕方なく継いで、こうして現在に至っている――というのがリサ外伝である。老いた母が目を回さないようにと考えた完璧な立地条件が思い切り作用して、すこぶる客足が少ない。「罰ゲームのような店」とマスターは笑った。


●何気にアメリカン

 カウンターのみ6席ほどの細い店内。アンプやらマイクスタンドやらが雑然と置いてあり、今でこそ片付かなくなってきてはいるものの、実は細部にまでなかなか凝った造りがされている。

 外観から続く白い板張りの壁、濃いこげ茶に塗ったカウンター。足元にはタイルを使ったパターンがさり気なく施されている。年寄りが立っても浮かないよう配慮したというキッチンは、壁のパステルピンクが何気にアメリカン。客席側の壁にはR&Bのジャケがずらり。名前が判ったのはジミー・スミス、フィニアス・ニューボーンJr.にフレディ・キング、B・B・キングぐらいか。

 メニューはハンバーガー プレート\800オンリー。付け合せはポテトのサラダとりんごのデザート(※'07年3月現在変更アリ)。追加のバーガーは\600。母上の味は引き継がず、一新。「旨いと思わん」というのがその理由。この50年の間に日本人の舌が肥えたという証しだろうか……。お供に生絞りのオレンジジュース\400を頼んだら、サンキスト社製、中世ヨーロッパの騎士の鎧ような外見のビンテージもののジューサーで、ネーブルオレンジをウィンウィン絞り出した……これがまた美味!


●生一本

 博多っ子は物事に無用な付加価値を付けることを嫌うらしい。御託を並べたり、キレイに飾り立てたりまでして評価されようという姿勢を潔しとしないのだ。そんな博多っ子気質はマスターにもしっかりと受け継がれていて、それはこのハンバーガープレートにもよく表れている。

 「言うコトを一番よく聞いてくれた」パン屋に依頼したバンズは表面白ゴマ、ふっかりドーム型で、不必要な甘さや思わせぶりなバターの香りを一切排した素直な味わいでありながら、しかし顔を近寄せると香ばしい匂いがプンと強く香る逸品。トマ、ピク×4、輪切りの薄さが見事なオニ、パティ、ゴワッと畳んだレタ、下バン。ケチャップ、マス&マヨは自己責任で。

 あらゆる仕込みの中で最も手が掛かるという自家製ピクルスは浅漬けで、酢の香りがややストレートにキツイが、これにトマト、レタスがうまく反応してサラダな香りを形成。パティは華こそないが、本場にも通ずるであろう粗さ・硬さを持った噛み締める食感

 ここまで飾りのないバーガーというのも久々だ。実直で質実剛健、マスターの心意気が伝わる生一本なバーガー。"素"の味わいがある。そう考えるとピクルスの"酢"は多少邪魔だろうか。塩胡椒を振っただけのポテトサラダは超絶に美味しく、シナモンスパイスを効かせたりんごも秀逸。どれも過度でない、無理のない味付け。


●真空管アンプ

 マスターが手を加えた真空管アンプと、独イソフォン社製のスピーカーをビンテージもののケーブルで繋いだセットは、マスターの言う通り「口の開き方までわかる」飛び切りの高音質で、部屋のサイズからマイクの距離まで手に取るようにわかる"良い音"を聴かせてくれる。

 いやホント、このスピーカーで日がな一日、ぼんやりとナット・キング・コールの歌などただ聴いているだけでも、全く飽きることがない。ハイファイなんだけどやさしくて丸みのある、絶妙にバランスされたイイ音で、深みのある中低音の響きは垂涎物。大通かすすき野辺りにお酒の店として出したなら、間違いなく繁盛するだろう。

 最後の最後にようやくマスターの演奏がかかったが、コレがまた絶品!!要らざる飾りのない、垢もオコリもキレイに落ちたような実に素直でのびやかで、そしてどこか知性の薫るプレイ、そして音色。こんな生音のギターを聴いたのは久しぶり……いや、初めてかも知れない。調味料の一切振りかからない、出音勝負の実に実に"素"な音である。

 幾千の言葉よりもギターの音色の方がマスターの人と為りと、そしてハンバーガーを語るのに雄弁だった。音は人を、そしてハンバーガーをもよく表す。生一本な博多っ子の心意気が爽快な、ブルースとバーガーと罰ゲームの店。目指せ、南極脱出!!


【最新情報】 ハンバーガー リサ [札幌] が営業を再開しました

― shop data ―
所在地:北海道札幌市西区二十四軒2-3-2-34
地下鉄東西線 二十四軒駅歩8分 地図
TEL:011-614-1243
オープン:2004年10月11日
営業時間:11:00〜20:00(売切れ次第close有り)
定休日:水曜日・木曜日(要確認)

2006.9.1 Y.M

American Spirits M.K.Y

[函館]
# 149

 話は前回から続く。札幌のハンバーガーリサで一緒になったお客さんの1人・A氏が「自分も函館でハンバーガーショップをやっていた」と言い出したのである……またしてもえーっ!


●A氏のこと

 A氏の店はクーチークーチーと言い、五稜郭の近くにあったが、故あって閉店せざる得なくなり、その後は臥薪嘗胆、再興を期して札幌で働いていた。それが今秋10月、すすき野にオープンするアンチというメキシカン/テックスメックスの店のシェフに迎えられることとなり、晴れてバーガーも復活させられる運びとなったそうなのである――めでたし!目出度し!(このA氏については、また別に一編を設けねばなるまい)で、その元クーチークーチーのA氏が函館時代、店のことなどをよく相談していたのが、このアメリカンスピリッツの大平マスターだった。


●大三坂近く

 函館で一番有名な坂、八幡坂(はちまんさか)と日本の道百選にも選ばれた名坂、大三坂(だいさんざか)の間にある。大三坂を上れば、上はハリストス正教会やカトリック教会などの建つ元町の街並み、下れば金森倉庫や西波止場などのウォーターフロント。人気観光スポットを結ぶ中間にあって、しかし周囲はさほど騒がしくない、意外や好立地ではないかと思う。


 室外機こそホットピンクに塗ってあるものの、両開きの赤い扉を一歩潜れば、すっきりと要所を押さえたスタイリッシュなアメリカン。不必要にコテコテさせていない辺りに清涼感を覚える。お決まりのジュークボックスにアンティークなキャッシャー、天板のエラク分厚いダイニングテーブル。天井に揺れるファン。そしてカウンターの壁にはエルヴィスやらバディ・ホリーやらのジャケがずらり。席数にして20ほど、マスターは「狭い」と言うがなかなか手ごろなサイズで、どこか居心地好いガランとした空気が漂っている。好きな空間だ。


エルヴィスやらバディ・ホリーやらのジャケがずらり

 17時からの夜のお店。日曜のみ昼12時から営業。昼は函館山の背後から照り付ける陽射しが向かいの店にモロに反射して照明要らず、店内非常に明るい。この陽射し、札幌を歩いている頃から何かヒリヒリするな……と思ってはいたのだけど、よく考えてみれば北海道は緯度が高いので、それだけ太陽の南中高度が低くなるわけである。なので東京と比べ、常にヨコから差し込んで来る感じになり、しかも遮る建物も少ないので容赦がない。湿度低く、空気は涼しいが、それでも今年は「夏らしい夏だ」と地元の人も言っていた(正確にはリサのマスターの言)。


●本牧のリキシャルーム

 でさて、コノ店のマスター、これがまたなんと!横浜は本牧(ほんもく)の歴史的名店リキシャルーム(RICKSHA ROOM)で6年ほど働いていたと言うからビーックリ!……ホントこの取材、"仕込み"というものが一切無いもんでネ……

 リキシャルームは'61年、アメリカ人の船員が日本人の奥さんと始めたダイニングバーで、接収当時は上官クラスの米兵が食べに来る"イイ店"だったという。解除後はメリケンっ気求めて横須賀からも米兵が食べに来た。もちろん古き良き当時の空気を知るオールドな邦人ファンも数多く、「本牧と言えば……」とまさに代名詞的存在として語られる老舗である――なにせ行ったことのない私だって名前知ってんだから。

 そんな歴史ある店の厨房にマスターがいたのは、米軍横浜海浜住宅地区の接収が解除された後の時代のこと。3年腕を揮い、同じ本牧のL.A.S.Tから引き抜きのオファーがあったのを機にリキシャルームを離れるが、辞める際にはオーナー夫人から惜しまれたという。L.A.S.Tにはオープニングスタッフとして店舗の工事段階から関わり、こちらにも約3年(現在L.A.S.Tはワールドポーターズに移動。現在本牧の同地はSTEAK HOUSE JO'Sとして営業中)。


●ピザの秘密

 結婚を機に道南に復帰。函館でさらに5、6年働いて'02年に独立、アメリカンスピリッツをオープンさせた。リキシャルームと言えば四角いピザ。なのでアメリカンスピリッツのピザももちろん四角い(長方形)。なぜリキシャのピザが四角いか、そもそも誰がどういう経緯で始めたのか、よく調べていないので判らないが、とにかく本牧界隈ではピザは伝統的に四角が定着しているようで、最近では上述のL.A.S.Tや、同じアメリカンハウス系列のMANGIA MANGIAなどが、その辺りを前面に押し出したピザを売っている。その本牧のピザがこんな形で函館に伝わって来たのだから面白い。そしてひょんなことからまた何処かへと伝わって行くのだろう――益々面白い。

 しかもこのマスターの凄いのは、メニューに本牧のホの字も出していないところだ。なぜココのピザは四角いのか――訊かれれば答えるが、しかし訊かれない限りは、あえて進んで明かすこともない。マスターに代わってこのピザの秘密を教えてくれたのは、隣に座っていた常連さんだった。

 なので本来ピザの文脈で語られるべき店かも知れない。そのピザ、形こそ四角を継承しているものの、味はリキシャから多少アレンジしていると言う。一方本題のバーガーの方の話だが、リキシャルームでは過去にハンバーガーを扱っていた時期もあるにはあったが、しかしマスターが居た頃には既に止めて無くなっていた。なのでアメリカンスピリッツのバーガーはリキシャルームの系譜でなく、マスターのオリジナル。


昼間もイイ感じ

●広大なパティ

 バーガー3種、ドッグ2種。中からハラペーニョの刺激的辛さがオススメのアトミックバーガー\1,200を。付け合せはナイスなフレンチフライにコールスロー。現れたのは大海原のように広大なパティのオープンフェイスに、トマト×2、生オニオン×2……偶然か、同じ横浜は中華街のウィンドジャマーを髣髴とさせる見た目だ。マスターもウィンドジャマーのことは知っていたが、しかし特に意識したわけでは無いそうだ。表面ザラッとした扁平バンズ、ケシもゴマもなし。

 ごっそり盛られたレタスの上にチュルーっと絞り出されたマヨネーズのコノ線の細さは、なるほどピザの使い手によるものであることを容易に想像させる。そう思えばモッツァレラチーズの間にオリーブのように顔を出すハラペーニョも、どこかピザ様。食べると、予告されていたほどには辛くなく、むしろベターッと無機質な辛さに味覚が麻痺されることなしに、ハラペーニョそのものの旨味をめずらしく感じることのできる、至極適当な辛さ加減。しっかり身の締まったパティを豊富な野菜の水分といただく。しっかしすごいボリューム。酒の場でもあるし、二人で半分ずつ分け合ってちょうどくらいか。

 そんなワケで、バーガーすら食べ切れずに宿に持ち帰ったぐらいだから、当然、名代のピザに挑むことなどとても出来なかった。残念……と言うか、「バーガーは別腹」なんて腹をとにかく私は持っていないので、あとは選択の問題のみになる。


●偶然の旅行者

 それにしても、札幌のハンバーガーリサで一緒になったお客さんの情報から函館のアメリカンスピリッツを訪ね(しかも何の気なしに前を通りがかっただけという偶然)、そのマスターが本牧のリキシャルームで働いていたというこの連鎖。この数珠繋ぎ――。

 そのリキシャルームは今夏'06年8月限りで45年の長い歴史に幕を下ろしてしまった。マスターはつい先日、オーナー夫人に挨拶をするため本牧を訪ねたそうである――マスターにとってリキシャルームとは、今日このアメリカンスピリッツへと至る"扉"を開いてくれた、心の拠りどころのような重要な存在だったのだ。

 ちなみに私は結局行けず……。しかしこの数珠繋ぎをココで終わらせてしまうのはあまりに勿体無い……と言うワケで次は本牧かな?(2007.3.24追記)


― shop data ―
所在地:北海道函館市元町31-24
函館市電 十字街電停歩10分 大三坂近く 地図
TEL:0138-23-3318
URL:http://www.americanspirits.net/
オープン:2002年6月
* 営業時間 *
火〜土:17:00〜24:00
日曜日:12:00〜24:00
定休日:月曜日(要確認)

2006.9.5 Y.M

ラッキーピエロ

[函館]
# 150

 2年越し――'04年5月、駅前店での「25分待ち」が旅程に響き、泣く泣く諦めたラッピことラッキーピエロに今度こそあり付かん!と、2年を経たこの8月、再び"訪函"。


●ラッピとGLAY

 函館の人でラッピとGLAYのことを悪く言う人はまず居ないだろうというくらい、地元に深く愛された店である。溶け込んだ――いや滲み込んだと言う方が合っている気もする。

 GLAYが紹介したことがきっかけで一気に(全国的に)ブレイクしたという話を聞いたことがあるが、どうやらそういう言い方も大袈裟ではなさそうで、それどころか資料をいろいろと見るにつけ、むしろラッピとGLAYは切っても切れない間柄のようにさえ思えてくるのである。中でもJIRO氏は生涯無料のパスポートを持っているとか……(て言うか、もはや顔パスでしょ)。函館市内ばかりに11店舗。地方・一都市限定でこれだけの規模のハンバーガーチェーンというのは今日、日本国内に他に例が無い。


●プレスリーが青春だった

 もちろん全11店('08年現在13店)周ったわけではないのだが(「全店制覇ラリー」なるものもある)、どの店もそれぞれ異なるテーマ、デザイン、メニューを掲げ、店作りをしている。

 例えば十字街銀座店は「ハンバーガー&カレーレストラン」――コレはごく典型的なパターン。五稜郭公園前店は「ハンバーガー・カレー&スパゲッティ」人見店「ハンバーガー・カレー&ラーメン 餃子」上磯店に至っては「ハンバーガー・カレーとんかつオムライススパゲッティ」とまぁ一見すると、最近のFKの様な「何屋だかよく分からん状態」に陥っているようにも思えるのだけど、しかしハンバーガーという軸がブレていないので、どこもしっかりと「顔」の見える作りを保っている。

 サブタイトル――美原店「僕らは皆んな映画青年だった」港北大前店「プレスリーが青春だった」松陰店「アンリ・ルソーの熱帯楽園」で、今回訪ねたベイエリア本店は「森の中のメリーゴーランド」……あぁ、書いてるうちに覚えソ。さらに小見出しが……函館駅前店「連続うまさの感動」本町店「すべてはお客様のうまいのために」港北大前店「うまいものしか売りたくないのです」。極め付けの一店は大谷高校内店。文字通り私立高校(実はJIRO氏の出身校)の「校内の食堂として稼動中」の店で、生徒・教職員限定というプレミア店。中央大学のトムボーイもびっくり!

 とまぁこんな調子でイイ意味でやりたい放題、好きに暴れ回っている感じなのだけど、しかしそれにまた函館の人たちが着いて来ているからこそ、その「やりたい放題」も成立するワケで、それだけ人を惹きつける強い「魅力」と巻き込む「勢い」と、そして何より人を唸らせる「美味しさ」とを併せ持っている――ということになるのだと思う。


●奉仕活動

 ラッキーピエロは、店舗周辺はじめ海岸・公園などの清掃活動、ユニセフへの募金活動、小中高生の総合学習応援、被災地避難所での救済活動(カレーライスの炊き出し)などの社会奉仕・社会貢献を積極的におこなっている。

 もちろん日本を代表する大企業だってこれに相当する、ないしはこれら以上の大規模な社会貢献をやっている筈ではあるが、ただ規模が大きくなればなるほど、我々消費者との間に距離ができ、何かそれが遠いところでやっていることかのように思えて、今ひとつ実感が湧かない(つまりノレない)――というマイナスがどうしても生まれてしまう。

 その点ラッピは営業展開を函館市内に限っているため、ダイレクトにその様子が窺えて、活動の結果が身近に返ってくることが実感できる。そうした手応えはまた「次」の活動へと繋がってゆくだろうし、何よりこうした社会活動への興味と関心を芽生えさせることにもなる。地域に根差したこうした活動は、個々人の力だけでは難しい面も多く、また大企業では今ひとつ顔が見えにくい。ちょうどラッピぐらいの規模がそれをやるのに適した大きさと言えるのかも知れない。

 王代表がラッピのエリア拡大、市外・道外への出店を望まぬ理由は、そんなところにもあるように思われる。目指すは拡大でなく充実。思い描く充実を実現できるサイズというものがまず意識の上に置かれていて、そこから手の届く大きさ・顔の見える大きさを決め出しているのだろう。

 まるで提灯記事のようになってしまっているが、大袈裟に書いているつもりもない。ラッピには(良い意味で)人を巻き込む勢いというものがあって、お客さんを、函館市民を、函館を、良い方向・良い方向へと引っ張ってゆく引力を放っているような感じは……確かにちょっとだけしましたネ。

 まぁ、高々バーガー2個食べたくらいで解かることではないのだけれど、しかし私も高々2日の訪問ですっかりその勢いに呑まれてしまった1人なので……(良い意味で)。

 前置きはいい加減このくらいにして、そろそろ2年越しの念願を遂げた話を……



●ラッピとハセスト

 ベイエリア本店には夜9時前に着いた。金森倉庫、西波止場などの観光スポットに隣接して在り、向かって左隣はやきとり弁当で有名なハセストことハセガワストア、右手並びには名店カリフォルニア・ベイビー

 食い気盛んな向きにはラッピとハセストをハシゴしてテイクアウトするのが一種定番コースらしく、またひと昔前、"僕らがまだ少年だった頃"、函館で夜遅くまで開いている店と言えばラッピぐらいしかなく(日〜金0時30分、土曜は1時30分まで)、なので若者たちは夜な夜なこの本店前にクルマで乗りつけてはバーガーを頼み、『アメグラ』よろしく店員がクルマまで持って来てくれるのをカーラジオ聴きながら頬張った……なんて青春の思い出を持つ人も少なくないようで、ちょうどピープル加古川店のようなふるさとの記憶の一片を形成する思い出深い店の一つが、函館では此処ラッピということになるのである。


●森の中のメリーゴーランド

 夏休み中というのはあるだろうが、この時間にして持ち帰りのお客さんが引っ切りなし、絶える間のない盛況ぶりである。レジ前の待ち席は常に人で埋まっている。

 翌朝行ったときはもっと凄かった。注文待ちの客が店の外にまで溢れ返らん状態。一歩中に入ると店内の雰囲気に一種独特の勢いがあって、思わず気を呑まれる感じである。注文を整理し、ミスなく捌(さば)いてゆくという基本処理作業だけでも実は相当に大変なことだろう。よほど手馴れていないとコノ処理は難しい。

 賑やかなのは人だけではない。デザイン密度の濃いメニューが店内其処彼処にびっしり。中には周富徳氏考案のメニューとか、岸朝子さんが「美味しゅうございました」とか、元祖でぶやが「まいう〜!」とか、驚きだったのは「紀宮様(サーヤ)に召し上がっていただきました」という額入り写真。テレビやメディアとの連携・絡みも豊富で、名物ぶりが窺える。

 前述のとおり本店は「森の中のメリーゴーランド」なので、鏡の壁の前の6席は空中ブランコ……ではないが、電飾を巡らせた天井の梁から鎖で吊るされたブランコ席になっていて、その向こうに赤い木馬、店内外は壁から椅子までフォレストグリーンに統一されている。BGMは50's。エディ・コクラン「サマータイム・ブルース」がウェルカムソングだった。


●"母"の安心

 メニューは人気No.1チャイニーズチキンバーガー\315、No.2くじら味噌カツバーガー\380、No.3酢豚バーガー\350、No.4トンカツバーガー\380、函館名産の朝イカで作るイカ踊りバーガー\315(季節限定)、土方歳三ホタテバーガー、1日20個限定THEフトッチョバーガー\780等19種(きっと各店取扱いが違う筈)。

 人気上位はすべてパティ以外の具材を挟んだ非バーガー……と言うか、本来のバーガーの方が少数なので、いかに地雷を踏まずにパティに辿り着くかと、しばし注文口でメニューとにらめっこしていた。この夜はラッキーチーズバーガー\390と軽くジンジャーエール\150で。レジ後ろのサーバー脇に大きなグラスと紙コップが刺さっているのを見て「アレは何サイズですか?」と訊いたら「飲み物は大小なく一種類、すべてあのサイズです」と答えが返ってきて、これにもびっくり。

 スタッフは平均年齢高め、要はおばちゃんが多いのだが(各位失礼)、実はコレがポイントで、作り手がおばちゃんだと妙な説得力があり、「この人の作るものなら間違いないだろ」という安心感が生まれる。つまり学食のおばちゃんであり、駅そばのおばちゃんなワケである。

 家に帰ればお母さんなのだから、そりゃこの安心感も当然だろうし、それにこれだけ多岐にわたるメニュー、主婦歴豊富なお母さまでないと到底太刀打ちできないだろう。

 そんな「安心」「安定」「経験」に着目して積極的に中高年層を採用しているそうで、確かに線の細い学生バイトなどより、キビキビとはるかに動きが良いし、パワフルだし、ときに気配りに満ちている。ラッピのアノ独特の勢いの源は、実はこのおばちゃんパワーであるかも知れない(各位重ねて失礼)。

 払いを済ませると番号を告げられると同時に名前を訊かれる。出来ると番号を呼び上げながら席まで持って来てくれるのだが、手渡す際には名前で呼ばれる――二重の確認の意味かと思ったら親愛の情であるらしい。客室乗務員から思いがけずも名前で呼び掛けられたときと同じで、確かに悪い気はしない。


●キアヌ入りバンズ

 いよいよ初ラッピ。プラスチックのカゴに入り、包みは二重。南米原産キヌアという栄養バランスに優れた穀物入りバンズの上には白ゴマいっぱい、下バンにまで回り込んでいる。カリカリする薄皮の食感が実に美味しく、またラッピ名物の様々な具材に対する応用も効きそうだ。

 以下順番に自信はないが、トマト、アッツアツのハヤシ系ソース、たまねぎの刻まれたタルタル風ソース、チーズ、パティ、マスタード、下バン。

 パティは合挽きだが「一度も冷凍していない厳選されたフレッシュミートを手でこね」た感じは伝わる。が、それ以前に、ご覧の通りのアツアツ・ドロドロのメルティングポットであるため、何が何だかよく分からない。濃ゆ〜いソースがマヨと出会い、ずっしり重厚な食べ応え。常にアツアツ。手も口の周りもソースでベトベトの満腹感。コレは2個目は無理と、この夜はこのまま退散。

 翌日は結局ラッピが朝食になったのかな?非バーガーながら、コレを食べねばもぐりとばかり、人気No.1チャイニーズチキンバーガー\315を。バンズの間に甘辛く味付けた大ぶりの鶏の唐揚げと、折り畳んだレタスの上からマヨネーズ。レタスの畳みは立派。はっきりとした味で主張明快、ボリューム以上の食べ応えで、非バーガー云々などどーでもよくなる美味しさ。ラッピのバーガーには食べる者を巻き込む勢いがある。

 300〜400円のバーガーにして、このしっかりと腹に来るパワーはなかなか得難い。一種佐世保にも通じる家庭的底力。何よりバンズの選択が素晴らしい。一番感動した点は、今思えば実はそこかも知れない。


●港から港へ

 王社長は神戸生まれの華僑三世。神戸から函館へ……偶然かアメリカンスピリッツのマスターも函館から横浜へと港から港への移動をみせた。港は文字通り玄関である。シルクロードグループという中華料理店から派生し'87年にオープン。と言うことは来年で早20年です。

 中華料理屋がどうしてハンバーガーを始めたのか、どうしてピエロなのか――その辺りの疑問は未解明なままなので、いずれ社長に直接お聞きできればと思っている。そんな機会に恵まれれば、また文章を書き足すことだろう……えっ?もう十分長い?



― shop data ―
所在地:北海道函館市末広町23-18
函館市電 末広町電停歩3分 地図
TEL:0138-26-2099
URL:http://www.luckypierrot.jp/
オープン:1987年6月
営業時間:10:00〜24:30
定休日:年中無休(要確認)
2006.9.24 Y.M

TREASURES

[札幌]
# 151

 結論から先に言うと、札幌には個人経営のハンバーガーショップはまだ数えるほどしかないのである。


●札幌バーガー事情'06

 ブームに乗ってメニューに載せているダイニング/居酒屋系を掻き集めてどうにか……というところなのだが、ところがところが!「すすき野TOWN情報」なる情報誌(2006.8.20号)の表紙をハンバーガーが飾っているのを目にしたときには相当に驚いた!しかもそこら中のコンビニの入り口・レジ脇など目に付く場所に並んでいるのである。

 ススキノエリアで食べられるハンバーガーを集めて全10店・6ページに亘る特集に組んでいるんだけど、これがまた相当に広いエリアからのピックアップで、さすがにハンバーガーリサまでは及ばなかったものの、南2条西9丁目に在る(つまりすすき野とは全然関係無い)このトレジャーズもそのエリアの中に加えられていた。

 とにかく気になる話題であることには違いないのだろう――ハンバーガーは。少なくとも編集者に「ウチもバーガーで特集出したい……」と思わせるほどには魅力的だったワケである。とは言え特集に仕立てるには層の薄さという点で無理があった。頭数は揃っても、どこかバブリーな感じも否めない。そんな玉石混交な中、札幌における個人店の先駆け的存在であるこのトレジャーズは、さすがに独り本物の輝きを放っていた。


●南2西9

 南2西9というと賑やかな一帯からは離れて、よく言えばオフィス街の裏手、悪く言えば一通の抜け道。大通公園は辛うじて並行して在るが、でもだいぶ端の方である。すぐ側にプリンスホテル。真下が有名なスープカレー屋。丸っきり人通りの無い場所ではないのだけど、しかし目的無く行く場所でもない。本当はもっと賑やかなところに出したかったのだが、条件にあった物件を探すうち、外へ外へと追いやられていったそうで。

 ライトグレーなビル1F。元クリーニング店だった物件で総床面積7坪。入ると手前がホール、ガコンと一段上がって中二階のようになった奥がキッチン。ホールは席数8ばかり、背の高い(あるいは脚の長い)スツールが窓や壁に向いてぐるりと廻らしてある。見るからに手狭い感じだが、でもニューヨーク辺りの横丁の角にでも在りそうな構えで(って行ったことないんだけどサ、N.Y)、場所なりに悪くない。あとオモテにスチールの机椅子を一組出してあるが、これが出来るのはもちろん夏場のみ。冬ともなりゃ〜、あーた……(って行ったことないんだけどサ、冬の北海道)。

 天井には例によってファンがユラユラ。壁に星条旗、なぜか『博士の異常な愛情』のポスター。全体にトレードカラーであるグリーンの配色。テレビモニターにはモトクロスレースの映像か何か、BGMはオシャレなブラジリアンか何か。


●ハワイ

 東京に本店のあるカフェの札幌店店長を務めていたマスター。実はハンバーガーなんて丸っきり興味無かったのが7、8年前ハワイに遊びに行った折、食べるものがなくて仕方なく食べたバーガーが衝撃的に美味しくて、以来気になりだし、試しにその札幌のカフェで出してみたところが客層がガラリと外人さんに変わってしまうくらいの大ヒット!手応えを感じた店長はバーガーと共に去りぬ……おかげで前居たそのカフェからバーガーは消え、代わりに'04年、札幌市内でも最初か二番目か……というハンバーガーの専門店がこの南2西9にオープンした。

 1年目は「何度やめようと思ったことか」という壮絶な毎日。「店が回らない」という理由で、好調だったデリバリーを泣く泣く切らざる得なかった過去を経て、今は6:4くらいで持ち帰りの注文が多く、私の訪ねたある土曜の昼どきもアッという間に30分待ち40分待ち。週末には売り切れの日もしばしばで、今ようやく調子が上向きかけてきたところと。


●白老牛

 メニューはバーガー類10種、ベジタブルバーガー2種、ドッグ3種。他にロコモコ、タコライスなども。ベーシック・ハンバーガー\500、ベーシック・チーズバーガー\600、ベーコン&チーズバーガー\650。バーガーの"見えざる壁"への配慮だろうか、私が行ったときにはベーシック系バーガーには合挽きパティを使用して、値段をなんとか"常識"の範囲内に抑え込む苦心をしていたのだが、今はすべて道産ビーフ100%を使っている。さらにランクの高いデリシャスハンバーガーは同じ道産でも白老牛100%使用の贅沢品で、店としてアピールしたいのはもちろんこちら。

 "白老"「牛の里」の和牛100%デリシャスチーズバーガー アメリカンサイズ\850。木のトレイに新聞柄の紙を敷いて。道産小麦100%の扁平バンズは表面白ゴマ。チェダーチー、パティは上から特製ハンバーガーソースがひと塗り、ピク、生オニ、トマ、レタ、グリーンリーフ、間にサウザン的なマヨソー(オーロラ?)、下バン。

 生オニオンのシャクシャク歯応えがアクセントとして効果絶大。全体をまとめるリズムキープの役割。ピクルスは酸味弱目、レタスは"見た目"のグリーンリーフと、""の玉レタスとを2種類挟んで使い分け。白老牛100%使用のパティは、ほろほろとほぐれてしまいそうなくらいの柔らかな捏ね加減で、バンズの柔らかさとも相俟って今まで食べた中では一、ニを争うライトなバーガーに仕上がっている。

 Muu Muu COFFEEも似た感じだったので、私の中では"ハワイのバーガー"というと、こんな印象に傾きつつある。付け合せのポテトはクリスフライで、これまた南洋ムードにひと添え。あとケチャップがHEINZ のロゴ入り小容器に。道産の食材で作る南洋テイストのバーガーは、柔らかなパティとバンズのやさしい印象にまとめられている。思えば店名もすごくリゾートなネーミング。


●横浜そごう屋上

 さて笑顔でお店を後にしたあと、事件は起きた。札幌駅でカメラを紛失してしまったのである――何たる不覚!カメラ自体はもう元を取って余りあるくらいに使い倒したものなのでよいとして、問題は中身――ついさっきトレジャーズを取材した画像がすっかり失われてしまったのだ。

 ところが運の良いことに、そごう横浜店の物産展「第22回北海道の物産と観光展」('06年9月21日〜10月1日開催)でコッチにいらっしゃると言うので、お願いしてお店で食べる時と同じパイナップルのピンを持って来ていただき、秋晴れの屋上に駆け上がって失われたトレジャーズのバーガー写真を無事撮り収めた。なので↑の写真は札幌ではなく横浜ですので悪しからず。

 この日、ご夫婦2人で焼いたバーガーの数はなんと500食!しかも会場には連日朝7時入りという多忙ぶり。その物産展は……明日まで?!(しかも最終日5時閉場)……ゴメンゴメン、最近記事書き上げるのに一週間かかってるモンで……


― shop data ―
所在地:北海道札幌市中央区南2条西9 ケンタク2-9ビル1F
地下鉄東西線 西11丁目駅歩5分 地図
TEL:011-281-8089
オープン:2004年11月15日
* 営業時間 *
平日:11:00〜21:00(20:30LO)
日・祝日:11:00〜19:00(18:30LO)
定休日:年中無休(要確認。ちなみに以前は月曜日と第3火曜日)

2006.9.30 Y.M

Hi-5 BURGERS

[つくば]
# 168

 つくば駅目がけて矢の如く疾駆するTXの車窓に青く霞む筑波山が見えたとき、思わず「やったー!」と声を上げそうになったものだ。二峰が鋭く並立するその山容――『日本百名山』を予習して来た甲斐があった。ちなみにコチラ――お国は甲斐でなく、もちろん常陸。常陸の国のバーガー店は初。取手市戸頭のBIG SMILEは、県は同じ茨城なれど国は下総と。


●テクノパーク桜のスーパーマルモ隣

 最寄駅はTXつくば――と言っても徒歩圏に在るわけでは全くもってなく、クルマで行く場所である。近隣の人向けに説明するならテクノパーク桜のスーパーマルモ隣。つくばセンター(つくば駅)からコミュニティバスが辛うじて出ているのに加え、関鉄・JR2社の路線バスがコノ付近を経路にしているので、徒歩(かち)組もどうにかなるっちゃなるが、しかしココ――路線図を見る限りではむしろ土浦圏である。

 つくばテクノパーク桜は鉄道駅からバス30分、郊外の丘陵地に突如出現するニュータウン、工業団地。その生活の中心であるスーパーや外食店の集まる一帯にハイファイブバーガーも軒を連ねている。ナゼこんな不便な土地に、しかも個人経営のハンバーガーショップなんて、都内でさえまだめずらしいモノが在るのか――そこにはこんなバックストーリーが隠されていた――


●ファイヤーハウスとオートマンダイナー

 マスター片平アツシさんは、この辺りが地元。車やバイクを通してアメリカが好きになり、ハンバーガーに興味を持ってファイヤーハウスホームワークス、どちらかの店で働いてみようと、まずファイヤーハウスに食べに行ったところがコレが凄まじくおいしくて、求人に即応募→即採用――コレまだ20世紀中の話。

 ファイヤーハウスには約2年。仕事のかたわら「やはり基礎を学ばねば」と調理師学校に通ううち、そこで知り合ったのがオートマンダイナーの"大将"こと五十嵐さんとシュウさん。3人は意気投合して'01年6月、埼玉県川越市にオートマンダイナーをオープンさせた。なのでオートマンの店の入り口にある5つの手形のうちの1つは、アツシさんのものである――ちょっと横溝正史チック?


●苦節

 オープンから3年、オートマンの"アツシ"は店を離れ、念願の自分の店のオープンに取り掛かる。ところが物件探しの半ばにして突如病に倒れ、以後1年余りもの間、長く辛い闘病生活を余儀なくされた。

 回復後もしばらくは飲食の仕事に就くことが出来ないでいたが、体が元通りに動くようになるにつれ「昔の夢をもう一度追ってみたくなって」、昨年'06年12月、ついに念願の自身のバーガーショップを地元つくばにオープンさせた。オートマンを離れてから実に3年越しの夢の実現である。



●やさしい店

 病気が治ってしばらくの間、片平さんは義手や義足を作る仕事に携わっていた。地味ながらもとても大切なこうした仕事に関わったこと、そして何より大病を患った自身の経験を通じて、片平さんは「こんな自分が人の役に立てることは何だろう」という思いを強く抱くようになり、やがてその思いは「すべての人にやさしい店づくり」という、コノ店のキーコンセプトへとつながってゆく。かつて都内に物件を探していた片平さんが、地元に店を出そうと思うようになったのも、こうした考え方の変化によるものである。

 入り口の小さなスロープからトイレまで、店内はオール車椅子サイズのバリアフリー。カウンターもテーブル席もすべて車椅子の高さに合わせ特注した。そんな思いやりのカウンターにスツール9席。テーブルは20席。こども用の椅子も3脚用意。すべての人に分け隔てのない、気軽に気持ちよく入れる「やさしい店」にしようという思いは、壁や床のパステル調の色使いにもよく表れていて、コノ店を訪れるすべての人を明るく、そしてやさしく迎えてくれる。


●野菜は地元産

 バーガー14種、うちミニ2種。サンド5種、ドッグ3種。奇抜なものでなく、基本に忠実なメニューを心がけた。中華やイタリアンなどに長けた、腕におぼえのあるスタッフもいるので、これから暖かくなるに連れ、徐々に新しいものも出してゆこうかと、現在焦らず思案中。

 チーズバーガー\950。チーズはチェダーとスイスから選択(オートマンに同じ)。付け合せにはナチュラルカットのフレンチフライとタテに割ったピクルス。地元のパン屋が焼く無添加バンズはファイヤーハウスの面影を残す峰屋系。薄黄色の生地はフッカリやわらか、リッチ系の香り全開。裏がカリッカリに焼かれて香ばしい歯応え

 中はサウザンソー(≒マヨ+ケチャ)、チー、パティ、ピク、シュレッドオニ、トマ、レタ、マスタード、下バン。野菜は地元産を使って新鮮。特にレタスの歯応えがよくて、コリコリとタイトなリズムキープをする中、自家製ピクルスと言うより浅漬けキュウリのキツくない酸味、トマトの甘味、オニオンの適度な辛味が、サウザンソースの味と程好く調和してフレッシュサラダの感覚で楽しませ、トリはそれらの下からジワジワッと味を効かせるビーフパティの旨味


 適度な歯応えとイイ塩加減、そして脂のイイ旨味!肉屋がまたエラク張り切っているそうで、コレ……相当イイ肉使ってますゾ〜!チーズと巧く合ったときの味わいたるや絶妙!バンズの甘味がやや邪魔にも感じたが、スーッと腑に落ちてゆくような、とても自然体なバーガー

 二ッ目、自慢のチリバーガー\1,000(右写真)。ふんだんに載せたチリビーンソースは辛さ抑え目、豆本来の風味でいただく、やさしくも味わい深い逸品。こどもからお年寄りまで「いろんな人に食べやすく」という思いがここにも表れている。


●奥義――アメリ割烹!

 カウンターを造ることにマスターは格別の思いがあった。ハンバーガーを作りながらお客さんと話しがしたかったのだという。

 「カウンター文化」というのは、実は日本だけの独特なものだとマスターは主張する。酒場の「バーカウンター」なら世界中どこでも目にするが、しかし料理人と差し向かいで、料理する様子を目の当たりにしながら会話を交わす「割烹文化」というものは、日本以外に聞かないと――。

 片平マスターがやりたかったのは割烹文化のバーガー版、題してアメリ割烹。オープンキッチンのライヴ感、そしてハンバーガーを作るときの音、ニオイ、動き――それらを目で楽しみ、耳で感じながら、カウンター差し向かいの会話に打ち興じてもらえたら――マスターが望む地域との付き合いの「カタチ」は、単に食材の調達だけにとどまらない気持ちの地域密着なのである。


●ハイファイブ連発のお店に

 なのでもちろんアルコール完備。生ビールはカールスバーグ\600。BGMはネットラジオか何かでアチラのDJ風味。

 「ハイファイブ(high-five)」とは、日本で言うハイタッチのこと。好プレーをしたときにスポーツ選手が交わす、アレである。スタッフ同士ハイファイブが自然と繰り出すような、明るく陽気な感じでやれたら――と、少しはにかみながら話すマスター。お客さんもスタッフも、店に居合わすすべての人が分け隔てなく、いつもハイファイブを交し合っているような、そんな素敵なお店にして下さいネ――Give Me Five !


白地にナイスなロゴデザインですっきり

― shop data ―
所在地:茨城県つくば市桜3-8-4 アグレアーブル1F
TXつくば駅から地域循環バス25分「桜三丁目」下車ほか 地図
TEL:029-850-6345
オープン:2006年12月
営業時間:11:00〜22:00(21:30LO)
ランチ:11:00〜15:00
定休日:月曜日(要確認)

2007.3.22 Y.M


LATINO HEAT

[茅ヶ崎]
# 174

 センター南のカリフォルニアダイナーBu(ブー)が、立派なホームページを残したまま忽然と姿を消したのは去年'06年の9月の末。以来多くの人が「一体何が起きたのか」とずいぶんと不思議がっていたのだが、今年'07年1月、Buの"流れを汲む"店が湘南茅ヶ崎にオープンしていたことを、ふとした偶然から突き止めた。


●Buを継ぐ者

 オープンからわずか1年2ヶ月――母体である会社の事情でBuの閉店が決まったとき、キッチンスタッフの1人だった田辺さんが「それなら僕にやらせて下さい」と手を挙げてみたところ、そーかそーか、それならアレもやろう、ほらコレも持って行け……と言われたかどうかは定かでないが、机イスをはじめ食器類一式、外灯やビリヤード(……の何か)に至るまで、Buにあった殆どのものがそのままラティーノヒートへと運び込まれたのである。これぞまさに渡りに船、ネギがカモ……逆か。


●パティの一語

 バーガーメニュー17種類もBuから継承。メニューを開いただけで、Buの常連ならきっと目を潤ませて懐かしむに違いない。Buバーガー\1,100も当然のように顔を見せている。チーズバーガー\1,100。表面を覆うセサミがつぶつぶ・プチプチと心地好いバンズの裏にはマスタード、チェダーチーズが2枚、パティ、シュレッドオニオン、リーフレタス、マヨネーズ、下バン(heel)。

 このバーガー、なにしろパティの一語に尽きる。150g。挽き粗く、グズッと崩れるような食感でありながら、しかしモロモロにほぐれ去ってしまうことなく、紙一重の線でワイルドな肉らしさを強調。崩れるほどに滲み出す肉汁は、肉好き諸兄諸姉を満足させることだろう。2枚のチェダーチーズとの粘着質な絡みは絶品!

 これならオニオンは生よりグリルして載せた方が絶対合うだろう――と思ったら、グリルド・オニオン・バーガー\1,100なるメニューが計ったように用意されていた。しかもまた無鉄砲にもオニオンが採算度外視の極厚――このバーガー、絶対間違いナシ!付け合せはきゅうりのピクルスにご存知クリスフライ。


●ドリップ

 お供はアイスのストレートティー\450にしたのだが、聞けばコーヒーはマシーンでなくて、なんと一杯ずつ手でドリップしているというから驚いた。「うちはカフェなんで」せめてコーヒーくらいは……ということだそうなのだが、しかし立て込んでいる時に「カフェラテ!」なんて注文入るとちょっと大変――牛乳は鍋で温めていますから。ブレンドは酸味や苦味のくどくない、すっきりとした飲み口。脂分多目のバーガーを食べた後には丁度よい口直しだ。

 "LATINO"とは「ラテンアメリカ系のアメリカ人」のこと。物事にこだわらず、お気楽に生きてるようでいて、秘めたる情熱家。こう見えてもヤルときゃぁヤルぜ!とまで能天気な店でもないが、そんな肩に力の入らない、スローな空気の中で店をやりたいという想いが込められている。実は店名にはもう一つ別な意味もあるのだが、コレはマニアにしかわからないオイシイ目くばせということで、まぁ語らずに置きますか……。


●サービスを極める

 以前はアパレルの販売をしていた田辺さん。日ごろ心がけるサービスの「至上」を突き詰めて考えるに、それが叶うのは「飲食」をおいてほかにないと、思い切って活躍の舞台を移した。

 とにかくお客さまに満足してもらいたい。だからお客さまと常に接していたい――Buのキッチンは四方を壁で囲った造りだったが、今度の店はオープンに造ってあるためキッチンから店内の様子がよく見渡せて、より"密"なコミュニケーションがとれるようになった。カウンターも5席設置。「カリフォルニアの夢」がまたひとつ叶った恰好だ。

 カリフォルニアといえば、Buから受け継ぐ濃い茶色のウッドを多用したこのインテリア。由来を聞いたところ、イメージとするのはカリフォルニア辺のサーファー達がよく行く落ち着いたカフェ。それをわかりやすくアレンジしたのが今の店であると。背もたれの高いダイニングチェアが並ぶ様は、創作料理か何かの店にも見えなくもない。



●ナイフとフォーク

 場所は「桜道」という昔からの住宅街の間を抜ける道筋をしばらく進んだところ。外観のアピールがやや弱いため、ともすれば行過ぎてしまいそうだ。茅ヶ崎と言えども海まではまだ10分は歩くか。のんびりと大らかな、スローな空気の流れる街並みで、それがココの場所を選んだ理由の一つでもある。

 場所と言えば、「ナイフとフォークでいただくか、袋に入れて……」とふだん聞き慣れぬ順番でハンバーガーの食べ方を説明されたものだから、ナゼかと尋ねたところ、ナイフとフォークを使って食べるお客さんが意外なくらい「多い」というのである。茅ヶ崎市民23万人に提案――いっぺん袋に入れて素手で持って食べてみて下さい。味が全然違うと思いますから。

 BGM――店の雰囲気を象徴するような、カフェ調のスローな曲が延々。デヴィッド・ボウイの「モダン・ラヴ」をバラードにした女性ヴォーカルが印象的だった――誰?



●バーガーに魅入られた少年

 かくしてBuを受けて、Buより出発したLATINO HEATは、茅ヶ崎のハンバーガーカフェとして、ここに新たな歴史を刻み始めていた――。

 ところで田辺さんは高校時代、たまプラーザにある名店トルバドールのカッコよさにシビレ、初めてのバイト代を握り締めてハンバーガーを食べに行ったことが……って、それと同じような話を名古屋でも聞いたなぁ。

 さらに遡ってこどもの頃、親に連れられて馬車道にあった「珈琲屋」というコーヒースタンドでハンバーガーを食べた記憶があるというのだ。

 この珈琲屋、米軍接収当時の空気を深々と吸った店で、ゆえにハンバーガーも限り無く当時の姿形を留めていたのではないかと推測されるのだが、しかし私がその名を知ったときには既に無く('94年閉店)、なので今となってはその味を知る由もないという……そんな在りし日の珈琲屋にさえしっかり行っていたとは田辺マスター、実はそんな頃からハンバーガーに魅入られていたのかも知れない……おそるべし、LATINO HEAT!

# 110 California Diner Bu [センター南]

― shop data ―
所在地:神奈川県茅ヶ崎市若松町6-20
JR茅ヶ崎駅歩15分 地図
TEL:0467-85-9898
URL:http://cafe.latino-heat.net/
オープン:2007年1月7日
* 営業時間 *
ランチ:11:30〜16:00
ディナー:18:00〜21:00
定休日:水曜日(祝日を除く。要確認)

2007.5.18 Y.M


Ingot Gallery NASU

Burger Shop UNICO

[那須]
# 175


●発端

 野州那須町――東京から新幹線で1時間15分、クルマで2時間。歴史ある別荘地は今や都心への通勤圏であり、また週末を過ごすセカンドハウスとして、近年にわかに注目を集めている。

 そんな目下注目の那須に、昨夏'06年7月、那須高原バーガーが登場した。

 冬期は持ち帰りのみ。イートインはいつから可能か訊いたところ、暖かくなる4月頃からOK。でも5月半ば、高原の緑が一斉に萌え出す新緑の頃がベストシーズンなので、ぜひその頃いらして下さい――との返事をいただいた。ほぉ……それはよき・こと・きく


●新緑の海

 那須を訪ねるのは今度が初めて。那須ゝゝと聞いてはいたが、行ってみて驚いた。有料道路途中の展望台から見下ろすと、木々がまるで大海原のように果てしなくどこまでも広がっている(即ち"樹海")。その新緑の海の波間にクルマを入れて、道なりに走らせると、黒磯、塩原と地名だけを変えながら別荘地、牧場、キャンプ場などが途切れなく延々と続く、その規模の大きさ――那須は我が貧弱なる想像をはるかに上回る、一大避暑地だった。


●Ingot Gallery NASU

 東北自動車道・那須ICを降りて別荘地へと向かう、その途中。観光気分あふれる那須街道沿い。広い駐車場のずいぶん奥に引いて構えるのがシルバージュエリーの店Ingot Gallery NASUである。宇都宮店の職人が作るオリジナルはじめ、国内アーティストの作品からインポートジュエリーまで魅力的な品揃えで人気の店。この春からネット販売も始めた。

 はじめ銀河高原ビールのビール園の中に店を出していたのだが、ビール園が閉まってしまったため、内装に使っていた木材一式を解体・搬出して、街道沿いの飲食店跡にごっそり移築したのが1年前。


●Iターン

 那須にはその豊かな自然とスローな空気に惹かれ、多くのアーティストたちが集まってくる。陶芸家、彫刻家、建築家、音楽家、イラストレーター……。ひと癖もふた癖もある連中が集まるほどに、同じニオイを嗅ぎつけ、さらに同類が寄り集まってくる「類友」方式。こうした変わり者歴々の趣味趣向がミックスされて「那須」の空気が構成されているのだと、そう説明するIngotの宮本さんだって、那須にすっかり魅せられて東京から移り住んだIターン組だ。

 そんな那須の空気の中にあっては「ただ商売するんじゃなく、なにかしら面白くやりたい」という、そんな気分にさせられるらしく、そこで店の移転に際し、何かやりたいなぁ――と宮本さんが考えついたのが、このBurger Shop UNICOだった。

 店の裏手は那須岳の眺望が良いだけが取り柄の、ただの野原。ココにイスでも置いて、雄大な那須の山並みを眺めながら"何か"をゆ〜っくり食べたいなぁ……そんなイメージが浮かんだ末、宮本さんの頭の中で像を結んだその"何か"こそハンバーガーだったと――まさに絵に描いたようなスローフード&スローライフ


●廃材利用と地産地消

 ただやるんじゃつまらない――そんな那須の不文律に従い、UNICOにも明確なコンセプトが立てられた。一つが廃材利用。

 裏手のデッキは旧店舗の廃材を組み立てたもの。丸いテーブルは電力会社が使っていた巨大コイルの芯のお下がり。デッドスペースをちょっと有効活用という感じで、ヨソ行きではない、ある種「地元特典」的な裏なりの那須気分が楽しめる。BGMはカーティス・メイフィールド...Move On Up!

 もう一つのテーマは地産地消。

 那須の新鮮な高原野菜と那須牛……と言いたいところだが、ちょっとでも使おうものなら途轍もなく値が張ってしまうため、まぁ妙に背伸びなどせず、地に足のつく範囲でしっかりやって、お客さんにはぜひ気軽に食べてもらいましょう――ということで、パティはAUSSIEビーフに実はおいしい那須豚を僅かの割合混ぜて、ほの甘い、やわらかな食感で出している。那須豚を侮る無かれ。

 トッピングの目玉焼きはこれまた実はおいしい那須鶏の卵。このフルフルとした黄身の弾力!濃厚な黄色!片面焼きにしたのは大正解。ぜひこの瑞々しいルックスは目で味わいたく。


●NASUバーガー

 バーガー4種。地産ルールに基き、お隣のはちみつやさん繋がりのハニーマスタードバーガー、ピリ辛チリソースの中に地元味噌屋の味噌を加えたペペバーガー、バジルに松の実、パルミジャーノチーズを使ったジェノバーガーはどれもセット\1,200。看板メニューNASUバーガーはセット\1,000。単品は各\700。トッピングの目玉焼き、ベーコン、チーズ各\100。

 この日はNASUバーガーのセット\1,000に目玉焼き+ベーコントッピング。自家製ジンジャーエールという変わったドリンクをお供に指名。コレがのどに効く効く!実はコーヒーもクセが少なく、香りの高いハンバーガーに合う豆を地元の自家焙煎の店から……と挙げればキリ無し。

 バンズは黒磯の名店温香(はるか)の白パン。以下、目玉焼きにベーコン、パティ、トマト、オニオン、レタス、下バン。バンズは表に打ち粉がされてカフェ風。控え目ながら粉の風味が活きており、邪魔にならない甘さ。オニオンは時期もあって非常に甘く、コリコリとおいしい。季節になればトマトも超絶おいしいものがいただけるそう。

 パティは「限りなくパティ寄りなハンバーグ」といった趣き。イタリアンハンバーグをパンに挟んだイメージとのことで、ふっくら分厚く、どこか丸みがあって、クサミやトゲのない味わい。軽くコショウを振っただけでマヨネーズもケチャップも入れていないため、素の甘味が挽きの粗いしっかりした噛み応えの中から伝わって、肉の存在が極めて大きい。硬めに焼いたベーコンはパティに比して埋没気味。目玉焼きトッピングは有効。黄身を崩しながらいただきたく。

 食べ応えあるパティの上下をさっぱりした白パンで挟み込む、後口さっぱり目の高原バーガー。ポテトはクランチ付きでピリッと刺激的。傾向のまるで違う残りのメニューもすごく気になる……


●山とハンバーガー

 もっとワイルドでアメリカンなモノも思ってはみたのだが、しかし那須連山を見ながら緑に囲まれて食べる様子を想像すると、味が自然とやわらかくなったと宮本さん。なるほど……ロッキー山脈を見ながら食べるバーガーは、また味が変わるワケですな?確かに日本の自然は「たおやか」にて。

 前回の茅ヶ崎や、大津などもそうだが、やはり大都会の喧騒から離れて食べるソレの方が、スローフードとしてのハンバーガーを素直に体現できているような気がする。まぁ分刻みの世界でスローフードなどと言われてもネェ……。

 店名は宮本さんの名にちなみ、ラテン語で「特別な」「唯一の」といった意味。那須与一は有名だけど、これからは那須の……。行楽地・那須の地元的一面に触れることのできる那須ローカル、知る人ぞ知るマニアックなハンバーガーショップ。これからもさらにマニアに!



― shop data ―
所在地:栃木県那須郡那須町高久甲2888-38
東北自動車道 那須ICより3q 地図
TEL:0287−64−1508
URL:栃ナビ!/Ingot Gallery NASU
オープン:2006年7月
営業時間:11:00〜17:00(LO)
定休日:夏期−10月まで無休(冬期−火・水曜休。要確認)

2007.5.24 Y.M


ロッキーバーガー 利根店

[利根町]
# 186


●利根町

 茨城県北相馬郡利根町(とねまち)は、取手市の右隣、龍ヶ崎市の真下。茨城県の南端に位置し、'07年9月1日現在の人口18,160人。鉄道ならJR成田線布佐(ふさ)下車――町の玄関口である布佐駅は千葉県我孫子市にあるという……まぁ、よくある話ですか。

 常磐線快速の通勤車両(E231系)が我孫子駅で折れて、単線である成田線にぐぼーぉっと乗り入れて行くさまは、率直に言ってミョウである。沿線には新興住宅地が開けていて、布佐駅もまたベッドタウンの表玄関といった佇まい。前後の駅よりもひと際立派に建てられている――という以上が千葉県側の話。

 利根川を栄橋で渡ると茨城県である。栄橋の右方、布川(ふかわ)の町は、かつて利根川の水運で栄えた河岸(かし)である。江戸初期の水戸街道はこの辺りを通るコースをとったそうで、街並みにはかつての街道の佇まいが今なお残っている。さらに半里足らず北へ進むと、平らな地勢を活かして豊かな稲作地帯が広がっている。利根町は米どころだ。


 その稲田の真ん中を南北に突っ切る県道は千葉龍ヶ崎線と呼ばれ、これが現代の街道筋といったところ。交通量はなかなかに多い。さてそんな地元の主要県道線沿いに在るのが……見て下さいよ、コノ写真を!ロードサイドですよ!隣は田んぼですよ!


●減反対策

 この辺りは「横須賀」と呼ばれている。どうしてまたこんな田んぼの真ん中に店が立つことになったかと言うと、そもそもは「減反対策」だったそうなのである。

 昭和58年、1983年のオープン。コノ道24年のベテラン店主であるお母さんの家の本業は、農家である。国から言われるまま、ただコノ土地を遊ばせておいても仕方が無いと、ちょうどそのときチェーン店募集の話に目が止まった。


●ロッキーバーガー

 ロッキーバーガーは柏に本部を構え、松戸・我孫子・土浦など常磐線沿線を中心に当時、数十店の規模で店舗展開していたローカルのバーガーチェーンである。お母さんもその一店の店主に加わり、これにより「ロッキーバーガー 利根店」が誕生する。利根町制始まって以来、町史初のハンバーガーショップにして、今もなお利根町唯一の栄誉を守っている(某スーパーに入っていたマクドナルドは撤退した)。

 ところがこのロッキーバーガー、どうもやり方がマズかったらしい。

 オープンからわずか3,4ヶ月で、利根店は早々にチェーンを離脱(当時、同様に加盟店から抜ける店が相次いだと、お母さんの談)。材料などすべて自前で調達することに切り替えた。

 とは言え店はまだ出来たばかり。看板を掛け替えるのも面倒くさいので、本部から言われるまでこのままにしとこう……と思っていたら、結局何の沙汰も無かったと。それで以来今日まで、ロッキーバーガー利根店として営業を続けているというのだ……なんたる!しかしコノ店が真の意味での「ロッキーバーガー」だった期間は、わずか3,4ヶ月しかなかったのである。


●吟味

 但し提供するメニューについては、ロッキーバーガーは、どうもそれなりのクオリティを模索していた節がある。

 カウンター上のメニュー写真は開店当時のものである。バーガー類9種。ハンバーガー\200、コロッケバーガー\140、テリヤキバーガー\230、エビバーガー\300。これらすべて四半世紀前から不動の価格。一度も値上げをしていない。ほかにチーズドッグ\100、あげたこやき\150、ココアあげパン\100。さらに「県道沿いの軽食堂」という顔も持つため、カレーライス5種が\360〜\440、ヤキソバ\300。

 マクドナルドの"ハンバーガー"が1983年7月当時\200というから、同じ価格である。だがロッキーバーガーのハンバーガーには同額でもレタスとトマトが入り、パティは見た目にわかるくらいに肉厚なものを使用している。より良いものを提供しようとしていた跡が窺える。

 なお現在使っているパティは、チェーン離脱後に「さらに良いパティを」と、お母さんが選び直したものである。\200でこの厚さですからねぇ。ふつうペラッペラですから。

 チーズバーガー\230。ポテトR(レギュラー)\160、アイスコーヒー\180。バンズの下はレタス、マヨネーズ、トマト、チーズ、パティ、ピクルス、ケチャップ、マスタード、下バン。チーズはスライスチーズ、ふわふわとハッキリしないバンズはまぁお約束として、存在感際立つパティに、酸味の少ないマイルドなマヨネーズの使用など、全体には案外なおいしさと食べ応えである。値段なりのモノが出てくると思ったら大間違い。ポテトも、モノも揚げ方もしっかりとしている。「吟味してやっております」とはお母さんの実に力強いお言葉である。


●80年代

 「さほど手は加えていない」という店舗は、それでもだいぶ手入れが良いようで、見てのとおり古びこそすれ、傷みは少ない。

 テント屋根付の入口は自動ドア。入るとすぐ左手に持ち帰り用の待ち席としてソファが置かれ、レジ両脇の棚には駄菓子が、それほど目一杯でもなく並んでいる。マンガの蔵書もそれなり。

 BGMは旧冷蔵ケース上のナショナル製ラジオカセットからFM放送。サザンや、太田裕美の「九月の雨」などかかっていた――そうでなくちゃ!そしてラジカセの無事を後ろから見守る、ジェームス・ディーンのポスターのナゼ?

 奥半分、カウンターより向こうが広々とキッチンに。イートーインがまた手抜き無く、立派なダイニングセットが3組。イチイチの"モノ"がしっかりしているのが、やはり長持ちの理由だろう。花は造花ながら可憐に店内を彩って、女主人らしい心遣いを感じさせる。


●当代限り

 そんなことなので、本部はとうの昔に無くなって、現在残るロッキーバーガーの名跡はあと一店、千葉県野田市の関宿(せきやど)のみとなった。名こそ流れて……

 但しコノ利根店もお母さん一代限りで終わり。「もうあと何年続けるか」とは、何とも淋しい話である。なんだろう……廃止秒読みのローカル線を訪ねる旅のようであり、どこか後ろ向きな思いは禁じえない。

 こどもたちの「おやつ」をテーマに始めた店である。バブルがはじける前まではよく売れていたが、バブル崩壊後、こどもたちの小遣いは普段のおやつには回らなくなった。わざわざハンバーガーを食べるために行く場所でもない。食べたいなら、龍ヶ崎に遊びに行ったついでにでも食べればよいのだから。

 しかし実は案外なおいしさを秘めた店である。お昼どきには4つ5つと持ち帰る人、中でカレーを食べる人――知っている人だけが食べに来ている感じだ。

 今や知る人ぞ知る店となったロッキーバーガー利根店。やがては人々の記憶の奥深くソッとしまい込まれる存在になるのだろう――が、でもまだ当分は健在ですから。店のやってるうちに……と言うとまた廃線の話のようだが、「無くなったら2度と食べられない」のが世の道理。うち(実家)の近所にもこんな店あったなぁ――などと過ぎし少年時代を懐かしみつつ、まぁまぁ一度……。




【各地に残る、創業20年超のハンバーガーショップ】

# 182 オリエントバーガー [半田]
(創業:1983年)
# 147 ラッキー [磐田]
(創業:不明ながら25年超はほぼ確実)
# 144 ピープル 加古川店 [加古川]
(創業:1975年)
# 142 ゴッドバーガー [広島]
(創業:1975年)
# 140 ボンハンバーガー [大阪]
(創業:1978年)

― shop data ―
所在地:茨城県北相馬郡利根町大字横須賀792-1
JR成田線 布佐駅より3q 地図
TEL:0297-68-4236
オープン:1983年
営業時間:10:00〜19:00
定休日:木曜日(祝日は営業。要確認)

2007.9.13 Y.M


66

- Double Six -
[柏]
# 188

 国道6号線と16号線のクロスポイント――だからダブルシックス


●バーガーの扉

 ロッキーバーガーからの続きなのである。

 布佐の駅から再び常磐線直通に乗り込み、戻って柏へ――すると一緒に乗った人たち、みーんな柏で降りるんだよねぇ。柏で乗客総入れ替え――柏は人とモノとの集積地である。

 オーナー大嶋さんは成田の人。子供の頃から"何かあれば"柏へ出かけていた。私の住んでいる方で言えば、町田のような場所だろう。ちょうどのJRと、ブルーのラインの私鉄が乗り入れていることでもあり。

 生まれて初めてハンバーガーを食べたのも柏。「マクドナルドで扉が開いた」と、その初めての出会いを振り返るオーナーは、以来今日までハンバーガー好きの忠誠を一心に貫き続けてきた、忠義の人である。

 アメリカでも食べたけど、「やっぱり日本の方がおいしい」とは、大概みなさんそう仰いますネ――まぁ私たち日本人ですから。だからオーナーが深く影響を受けたのも、ファイヤーハウスベーカーバウンスといった、都内を代表する人気店からだった。


柏と言えば柏そごう

●裏カシ

 バス通りから一本入れば、細い小路が無秩序に延びては交わり、一層雑然とした賑わいに変わる。

 駅から徒歩5分の路地裏。オーナー曰く、駅周辺は近隣からのお出かけ組の買い物エリア。徒歩5〜10分圏が地元の人の利用するエリアだそうである。しかも柏は、お年寄りから若者まであらゆる世代が楽しめる街であり、かつそのスタイルは昔も今も変わっていないという。

 セントラルプラザのヨコを入ってゆくと、途中、柏でNo.1の人気を誇るカフェ「ハナオカフェ(HANAO CAFE)」。その先に66。さらに左に折れれば、柏No.2カフェ「コンセントカフェ(consent cafe)」がある。66は人気カフェ2店のちょうど中間に位置する。

 目抜き通りからは2本も3本も入り込んだ住宅混じりの路地裏ながら、しかし「何かありそうな雰囲気」をどことはなしに漂わす立地である。隣は何かありそうな古着屋。似たような店がもっと続けば、パワーはさらに増すだろう。


●音楽の常に流れる

 オーナーは音楽好きである。「音楽が常にかかっている環境が欲しかった」とは、私とよく似た思想の持ち主だ。自分の好きな曲を好きにかける――そんな「自己中な空間」を自分独りだけ楽しんでいるのも何なので、他の人と共有できたらよいなと、会社勤めをしながら2年かけて構想し、そして造り上げたのがコノ店である。

 先述のとおり、内装にはどこかファイヤーハウスの影響も見て取れるが、しかしオーナーは「ウッドストック」('70)であるとか、「バニシング・ポイント」('71)であるとか、「時計じかけのオレンジ」('71)であるとか、60年代後半〜70年代的なカルチャーを愛し、特に天井から下がる球形スピーカー、ビクターのGB-1Hを筆頭にミッドセンチュリーモダンなニオイをも随所に散りばめて、大いに遊んでいる。

※ 参考:「呼吸球式スピーカー」を開発 ビクター 報道資料

 新品で入れた家具はほぼ無しという中古・ビンテージ尽くしの店内。トイレの中に至るまで何やかやとあるので、好きな人はぜひじっくりとご覧下さい……とは、私の責任では言えませんが。


●包丁でたたいて作るパティ

 こちらのパティはミンチではなく、牛肉の部位をブロックで仕入れて自前で切り出し、包丁でたたいて細かくしたものを成形するという、三軒茶屋のベーカーバウンスなどで見られるタイプのパティである。挽肉とは違う、細切れのブツブツとしたワイルドな食感が味わえる。もちろんつなぎなしのAUSSIEビーフ100%。「ワイルドさだけでは日本人の口に合わない」と、国産牛を2割混ぜて甘みを持たせた辺り、レシピは相当練ってきている。

 バーガー13種、サンド6種、ドッグ5種。変り種はビーフカツレツバーガー\1,130。中から毎度のチーズバーガー\980。付け合せはナチュラルカットのフレンチフライ。野菜を外した状態で、オープン(具材をすべて積み上げずに、バーガーの中を開いて見せた状態)で出してくる。が、ビジュアルはやや淋しいか。合わせると、バンズの下はマヨネーズ系のドレッシング、トマト、オニオンは生、レタス、チーズはナチュラルのスライス、パティ、下にもドレッシング、下バン。

 とにかく肉がおいしい。ガツッ!と噛み締めるおいしさと脂の旨味。野菜もおいしい。甘いトマトにシャキッと張りのあるレタス。肉と野菜、上下それぞれにおいしいのだが、ただ「連携」という点ではどうだろう。チーズは存在希薄。東京に行かずともワイルドな肉の醍醐味を堪能できて、しかもこの値段!――都内ではこうはゆきません。


●フォロワー

 換気の都合で、炭火は11月〜3月の間までしかできない……って、ちょっと待って下さい。つまり11月〜3月の間は炭火を使って肉を焼くんですね?ってことはまた行かないといけないってことですか?おーっとぉ〜!鉄板で焼いて十分おいしかったので、これを炭火で焼いて、果たしてどうなる……。

 朝は7時からトーストとパンケーキのモーニングをやっている。夜の営業時間を延ばしたのは、古着屋の店員や美容師などが仕事を終えてから食べに来るから。気心知れた仲間と仕事帰りに一杯飲み交わすのには持って来いだろう。

 もし早朝から深夜まで、17時間フル稼働で、常に誰かしらお客さんがコノ店を利用しているとしたなら、街の生活に密着した、真の意味での「カフェ」ということになりますネ。そうであれば実にすばらしい。

 オリジナリティという点ではまだまだかも知れないが、ファイヤーハウスやベーカーバウンスといった偉大なる先達を大いにリスペクト――という言葉は使い方が少々軽いので、あえて「私淑」と言わせていただく――私淑して、彼らより受けた影響を自身の一部として消化してゆく優秀さに満ちている。

 オーナーが'66年生まれだからダブルシックス。壁に掛かるは「Albert Ayler at Stockholm 1966.5.1 vol.1」……いやぁ〜コレ、売ってないですヨ。しかも中身をドアに下げて「営業中」のサインに使ってるでしょ!!




― shop data ―
所在地:千葉県柏市中央町4-25
JR常磐線・東武野田線 柏駅歩5分 地図
TEL:04-7163-1166
オープン:2007年3月12日
* 営業時間 *
平日:7:00〜24:00(23:30LO)
土日:11:00〜24:00(23:30LO)
モーニング:7:00〜10:00(月曜日〜金曜日)
ランチ:12:00〜15:00
定休日:火曜日(要確認)

2007.9.30 Y.M


KOZY'S BURGER

[札幌]
# 196

話変ってココは北国、札幌。


●妖しのブログ

 福岡にホークスあり、アビスパあり。札幌にはファイターズあり、コンサドーレあり。そして福岡も新千歳も、ともに鉄道が直下まで乗り入れている空港であり――。

 さて、いとも面妖なるこの店のブログを発見したのは春3月。スポーツ紙の見出し的な(?)思わせぶりな記事作りを信条としているそうで、おかげで見てるコッチは視界5メートル、どんな店だか皆目見当が付かない――まぁそれこそが狙いではあるのだが。まだ雪残る春の札幌に、謎のベールに包まれた、何ともミステリアスなコノ店を恐る恐ると訪ねてみたのである。


●ディープ東区

 札幌駅から徒歩10分弱といったところ。東区にある。地図を眺めて、駅より続く繁華な飲み屋街の一角にでもあるのだろうと予測を立てていたのだが、札幌駅の周辺は意外とすぐに静まり返る。

 この辺り、40年前には国鉄関係の官舎が林立し、そのお膝元として大いに栄えた繁華街であったが、今では昔日の面影薄く、代わりにすぐ先にファイターズの練習場のあることから「ファイターズ通り」なる新たな名を授かって(旧称「ななめ通り」)、渋く盛り上がっている。

 立地のよくないこんな場所を、オーナーKOZYさんはあえて選んだ。「ディープ東区」「秘境」などと、愛を込めてそう呼んでいるらしい――案外と「奥深い」土地という。


●中興の祖

 業界一筋20余年。高校3年間は駅前通のロッテリアでバイトしていた。これがKOZY氏にとっての「バーガー原風景」だろう。大阪の某調理師学校を卒業後、10年近く関西で活躍する。


 最初京都のフレンチなどで調理の経験を重ねたが、当時流行りのギャルソン(ホール、給仕)を目指してみたくなり、大阪でホールワークに転身。さらに縁あって某ビールメーカー直営のビアレストランにマネージャーとして迎えられ、以後、寺町の市場小路など、マネージャー業が相次いだ。

 北海道に戻ってからも、すすき野界隈でマネージャーを歴任するが、8年前、ついに自身の最初の店を北二十四条に構えた。飲み屋である。

 しかし迂闊(うかつ)にも(?)、ついついお客さんと一緒になって遊んでしまい、売り上げをコトゴトク使い果たす。これ以上遊んだら……というギリッギリのところで、かつての上司からお呼びがかかり(まさに天の声)、再びすすき野戦線に復帰。以来、赤字店舗を建て直すことにかけては右に出るもの無き「建て直し屋」「中興の祖」として一名を馳せた。

 で、とりあえずひとしきり目覚しく働いたし……というところで構えた二度目の店が、この東区のバーガーBARなのである。


●飲み屋でバーガー

 何十人ものスタッフを陣頭指揮してきた司令官が独りきりで始めた店である。すすき野からは一度離れ、静かな場所でゆるくやりたいと考えていた。

 ラーメン屋の居抜き物件を探していた。自分のキャパというものを熟知していたので、独りでやるにはその程度のサイズがちょうどよい。イニシャルコストも抑えた方が賢明――ということで確かに費用はかかっていない。

 どう見ても飲み屋な外観である。入るとカウンターのみ7席――やはり飲み屋である。カウンターを挟んで、黒シャツに黒ネクタイ姿のKOZY氏――益々もって、やはり飲み屋である。

 「ハンバーガーとアルコール」というこのシチュエーションは、KOZY氏自身もかねてより欲しかったハンバーガーの楽しみ方である。

 半ば否応無きこの状況には、競走馬のゲートインにも似て、何やらゾクッとテンションの上昇を覚える。世が世なら「武者震い」ですな――あぁもちろん、ソフトドリンクも各種ございますので。

 当初目標は「東区のニーズに受け入れられること」だった。基本的には住宅街であり、小ビジネス街の裏手でもある。「地域的な中でやってゆくべき」と考えていたが、しかしフタを開けてみれば案外といろんな人がやって来る。夜だけ営業の店では入りにくくなると思い、昼間から開けておくことにした。営業時間は12〜24時。


●ゆるくやりたい

 どうも飲食という仕事は、一歩間違えると職業そのものの面白味や喜びを忘れて、ビジネスばかりに目が向いてしまう傾向にある、とKOZY氏。「この仕事に喜びを感じられないようなら、違う仕事で稼げばいいんじゃないかな」と、何よりもそんな思いから、昨今の飲食店に見られるそうした「ハードな体制」とは対極の「なんとな〜く」「ゆる〜く」やる店を目指して、コノ店を始めた。

 バーガー類11種。サーモンフィレバーガー\480、KOジンギスカンバーガー\680、帆立ホワイトソースバーガー\680など、北海道らしさを活かしたメニュー多々。他にドッグ、パスタ、ロコモコ、カレー。えぞ鹿の生ハムなどのおつまみ各種。当然アルコールも各種。もちろん生はサッポロ。

 チーズバーガー\580。パティは国産牛100%。注文を請けてから計量、成形する。なにぶん手狭にて、これを焼くのはフライパン。KOZY氏いうところの「昔バンズって確かこんな味だった」という白いバンズは、表面硬めでツヤなし&ゴマなし。卵たっぷり。淡白でカチッと締まった食感である。クラウン(上バンズ)を小さく切っている辺りが非常に好感。バンズの下に粒マスタード、ピクルス、ケチャップ、道産のとろけるチーズ、パティ、オニオンはスライス、マヨネーズ、レタス、ヒール(下バンズ)。

 全体比において若干パティが負けているのと、ケチャップとマヨネーズの量が多く、ややコレに持って行かれている点が気になったが、酒場のバーガーらしく胃袋に収まり良い、ちょっとしたサイズであることに何より満足した。出来たら軽いJAZZをバックに、生ハムなど2,3種類のつまみを経た後、「締め」でバーガーにゆくのが"乙"かなと。


●理想へ向かって

 行く行くは100%道産食材を目指したいという。TREASURES山田氏も同様なことを述べているので、これは道産子共通の願いかも知れない。5〜9月だけ有機野菜が使えるという。

 このバーガーBARは、キャリア20余年のベテランKOZY氏にとって、真に理想の飲食業へ向けた「スタート」である。

 自分で店を持つなら「ハンバーガー」という思いは以前からあったというが、それにしても20数年積み上げたキャリアの上にさらに打ち立てるこの新たなるスタートに、よりによって「ハンバーガー」が選ばれたというのも何やら不思議と言えば不思議、光栄と言えば光栄(?)な話である。おそらく、さまざまな可能性がミニマムに凝縮されている点が、ハンバーガーという食べ物の何よりの魅力なのではないかと、KOZY氏の理想を前にして、ふと思った。

 と言うワケで>KOZY隊長……カウンター差し向かいという「地の利」を活かし、その魅力について大いにしゃベくり倒して下さい。常に「まるはだか」で居たい――というオーナーKOZY氏が、裸一貫……ではなく、何ともミステリアスな黒いベールの向こうに正体をチラつかせながら営業する、東区の"謎多き"迷店。



― shop data ―
所在地:北海道札幌市東区北七条東4丁目28番地
JR・札幌市交通局 札幌駅歩10分 地図
TEL:011-827-5403
URL:http://ameblo.jp/kozy-sburger/
オープン:2007年12月10日
営業時間:12:00〜24:00
定休日:不定休(要確認)

2008.4.28 Y.M

YONOJI
New American Food & Bar

[札幌]
# 197

 ご存知の通り、札幌は碁盤目状の計画都市なので、現在地および目的地の見当を付ける上では至極便利であるのだが、しかし旅人にとっては何とも移動が不便な街である。たぶんあらゆるものが道に沿って、長く長く伸びる傾向にあるからではないだろうか。


●お引越し

 かつては南六条西17丁目にあったコノ店、昨年12月に引越しを敢行し、南二条西7丁目へと移転して来た。中心地にグンと4条分近寄ったことになる――と、この辺の移動距離の把握も札幌では容易である。

 狸小路のほど近く。ちょうどこの7丁目アーケードのみ改築を逃れ(計画から外れ?)昔のままの姿を留めている。セリの終わった中央市場のような、ややガランとした空気。

 「M'sスペース」という建物の名前から、イベントホールのような外観を想像していたら、あにはからんや、東京なら新宿〜中央線沿線にでもありそうな、低層の老雑居ビルであった。

 聴くところによると、建物全体が「酒豪共和国」であるらしい(……共和制か)。しかもコノ店、狭い通路を入り込んだ2Fの「奥のまた奥」にある。この奥地一帯には文系サークル、さらに言えば演劇系のサークルが群れ集う学生会館のような、実にアングラなニオイが立ち込めている。


●黒い螺旋階段

 以前は美容室が入っていた――それも微妙に不自然。

 エクステリアは洋食屋的。入ると一瞬カフェ的、店奥には白いL字のカウンターがデンと鎮座し、バー的。横を向くと黒い階段が螺旋を描いて上昇しており、2階(地上3階)が存在する。ココはベンチにクッションなど並べて、屋根裏的(?)。入り口の佇まいからは想像もつかぬ、40席を誇る大所帯――最初の店が14席だったので、一挙に3倍増ということになる。

 カウンターはじめ、酒瓶の収まるキャビネットに椅子や机――これらインテリアの大部分はオーナー夫人"JUMBO-M"が女手一つ、ほぼ独りで組み立てた。メニューやフリーペーパーも自作……ってコレがまた凝りまくってるワケですよ。まさにカフェ道の「鑑」のような人である。

 ちなみにこの日、黒ラブのカツヲはお休み。螺旋階段下の定位置は空席だった。


●ドイツのアメリカでイタリア

 オーナー鈴木さんがハンバーガーを始めようと思ったきっかけが、また複雑にして奇妙である。

 鈴木さんはドイツでハンバーガーと出会った……おっ!さてはハンブルクか?と思いきや左にあらず。内陸の小都市ハイデルベルクに留学していたとのこと。

 隣町(と言ってもこちらの方がハイデルベルクより大きい)マンハイムにイタリア人が営む食堂があった。ピザやパスタをメインに、惣菜なども扱うデリカテッセン的な店だったのだが、そこで出て来たハンバーガーに鈴木さんは強い衝撃を覚え……ん?「ドイツ」で「イタリア」人の作るハンバーガーに感動??しかも鈴木さんが留学していたのはアメリカ系の大学という。


●二代目継承

 いつも夫婦二人で「いつかカフェやりたいネ」と話していた。

 そんなところに折良く、鈴木さんのご両親が営む居酒屋「酒菜屋 よのじ」の「もう閉めるから」宣言が電撃的に下され、そんなことならと息子夫婦が店舗と名跡をそっくり受け継いで誕生したのが、KITCHEN YONOJI+Jr.――文字通りの「よのじ二代目」である。

 場所は南6西17。内装そのままで飾り付けだけ好きなようにアレンジ。同地で4年近く続けたが、手狭になったため、思い切って現在の南2西7に引越した。周知も十分でない、わりと突発的な移動だったという。かくしてYONOJIは「M's諸島」に上陸を果たしたのである(ほぉ、諸島か)。平成19年(2007年)12月25日のことであった。


●デラックス

 メニューのコンセプトは「自分が好きなもの」で「自分で作れるもの」。「世界基準対応型創作多国籍厨房」というサブタイトルの如く(?)、ダイナー的食事メニューがメイン。中でもオープン当初からあるハンバーガーは最大勢力を誇っている。

 "狭義"のバーガーは現在5種類。コノ店では「ビーフパティを挟んだもの=ハンバーガー」「それ以外=サンド」の呼び分けが徹底されていて、その他ポーク、チキン、ステーキなど挟んだものまで含めて、バーガー/サンドは全15種類になる。

 このうち5〜6種類は毎年新作が発表される、言わば「年替わりバーガー」。コレらを総称してデラックス・キラー・バーガーなる名前が付いている……ん?キラーバーガー


●サルサとモヒートの対決

 デラックスチーズバーガー\1,000。どれも頭に「デラックス」と付くのだが、何かをサイズアップしたとか、トッピングを豪勢にしたとか、そんな意味合いでなく、そもそもデフォルトがこの呼び名である。

 巨大。2つに切った状態で供される。バンズは「フランスパンを意識したドイツコッペ」で(?)がっしりと身の締まった、ハードな食感。中はサルサソース、チェダーチーズ、トマト、そしてパティは200g!

 ガーリックのよく効いたサルサソースがチェダーチーズ&パティと合わさると、まるでパスタな味わいに。しかしガーリックもココまで効くと、さすがに効かせ過ぎだろう。JUMBO-M推奨、ミントの葉の天然メントール成分が威力絶大なクラシックモヒート\650が颯爽と挑みかかるも、食事後の後味でサルサに力負け。中和のためにサワークリームかワカモレでも投じたいところだ。

 圧倒的ボリュームなので、酒を傾けながら2人で分かち合って食べると、一層おいしく楽しめることと思う。そのサイズを考慮してポテトは別売、付け合わせ無し。


●中央線か

 「ランチやりたい」が次なる野望――おぉ、偶然にも最近、同じ思いついに実現させた店を私は2店知っている。成せば成る!まずは土曜日を昼から営業にするとか。

 昨年行ったコチラ以来、久々に奇天烈なお店。そう考えると「中央線テイスト」と説明しておくのが最も近いかも知れない。2度目以降の訪問で俄然楽しさの増す、あまりにも怪し過ぎる一店である――なんかヤバイ店知ってしまったなぁ。



― shop data ―
所在地:北海道札幌市中央区南二条西7丁目 M'sスペース2F
札幌市交通局 大通り駅歩10分 地図
TEL:011-233-0708
URL:http://www.yonoji-jr.com/inde.html
オープン:2003年1月7日
営業時間:18:00〜27:00
定休日:日曜日(要確認)

2008.5.9 Y.M

Fun & Function
Sun'S

[長野]
# 202

 「とびきりスーパーなウイークエンド」で出会った、地元長野のお店のご紹介。


●シトロエン Hトラック

 オロナイン H軟膏じゃないですから、>そこのお母さん。

 移動販売の店である。仏シトロエン社、1979年式のHトラックを改造。車屋に探してもらったところ、フランスの片田舎でようやく発見、そのまま運んできてもらったという、つまりは「大きなお取り寄せ」である。さらに言うなら、現在日本国内ではHトラックは売りに出ていないということでもある。と言うか、そもそも国内には数えるほどしか存在しないのね、Hトラック。

 色は淡いベージュ。シトロエンのエンブレム「ダブルシェブロン」を中心に、ヘッドライトが左右に大きく飛び出た、厳つくも愛嬌のあるフロントマスク。

 後部の荷室に大きく取られたキッチンは、間接照明などを凝らしたポップなインテリアデザインで、「traveling kitchen」というコノ店のサブタイトルがまさにぴったりくる、ミッドなセンスに満ちている。実は床が白黒チェックなんだよねぇ……外からは見えませんが。

 リアとサイドと2方向窓が開くのも、文字通り"開放感"があり素敵。特に側面窓――ココに脚長のスツールを並べてスタンド風にしているHトラックの写真を見かけたが、いずれそんな使い方も出来たら、さらに素敵かと。


●Uターン

 オーナー井出さんは長野生まれの横浜育ち。3歳から横浜で過ごして、銀座、表参道、横浜、鎌倉のホテル、フレンチ、洋食店などで10年にわたり活躍。5年前、故郷長野に戻って来たのは長野の自然、空気、土、そしてそれらに抱かれ育まれる良質で新鮮な食材の数々に惹かれ、「素晴らしい恵を体感したかった」からである。

 お祭りの屋台で「冷めたピザ」ならぬ「冷めたタコ焼き」が出て来た時、とても残念な、がっかりした気持ちになり(そりゃそうだ)、それを契機にお客さんの目の前で出来立て・熱々を提供する、今の移動販売のスタイルを思いついた。スタッフ総勢3名、揃いの麻のハンチングを被る中、一人コックコートに身を包み、ジュージュー唸る灼熱の鉄板を前に奮闘。

 エルビス、エディ・コクラン、ジーン・ビンセントなどのロックンロール、ロカビリー、50'sが大好きな井出さん。アメリカを旅した時には「でかくて、シンプルで、インパクトのある」ハンバーガーに夢中になり、毎日食べていた。大手チェーンのモノよりも、小さな田舎の食堂のハンバーガーにより深い興味を覚えたという辺り、今のこのサンズのスタイルにどこか通じるものがあるかも知れない。


●トマトソース

 そんな洋食歴15年の技が、地元長野産の新鮮食材と出会って生まれたハンバーガーがコレである。メニューは現在3種類。ハンバーガー\600、チーズバーガー\700、そして青とうがらしの酢漬けを使い、締まった味わいのスパイシーチーズバーガー\800。

 チーズバーガー\700。八ヶ岳高原特製、地元産の小麦を使用した天然酵母バンズ。横に平たく広く、ふっくらとした高さはないが、意外なやわらかさがあり、バンズとパティとやわらかいモノ同士の相性は良好。パティは信州蓼科牛100%。つなぎなし。かなり時間をかけて丁寧に焼き込んでいるが、それでいてなおやわらかい、ハンバーグ的食感である。邪魔をしないチーズのコクが肉の脂とうまく溶け合い、平板でない、変化に富んだ表情を見せている。

 かかるソースはトマトソース。常にコンロに火をかけて、鉄板の横でスタンバイ。

 トマトそのものの味を前面に押し出した、イタリアン系のあっさりとしたソースで、この味がバーガー全体をやわらか〜く、ふんわりマイルドに包み込んで、トゲのない、やさしい味にまとめている。野菜は長者原高原のレタス、オニオン、「彩り」にパプリカと赤キャベツを加えてサラダ風。マヨネーズは味を抑えて、あっさり目に。ハンバーグにパンにサラダ……まさに「ディッシュ」を頂いたかのような、「洋食」を感じさせる味わい。ソースの丸い余韻がいつまでも心地好い。

 ただその豊富なサラダの下にパティが隠れてしまうのが、唯一の難――まぁ構造上、仕方ないのだが。それでもハンバーガーの主役はあくまで「肉」であり、それは視覚の上でもぜひとも強調させておきたい部分である。単純に肉と野菜の順番を逆にするか、あるいはバンズとパティの直径を揃えた方が(今はひと回り大きさが違うので)、よりキレイに見えるのではないかと思う。


●今後の予定

 この洋食の技を駆使したハンバーガー、この日は「袋」を切らし、代わりに一枚の紙を器用に折り畳んで「角」を作り、そこに入れて出して来た。移動販売ならではの「手渡し」なライヴ感覚(?)と風情を感じ、個人的にはなかなかカッコ良い演出と思ったのだが、でも普段はバーガー袋で提供とのこと。

 「Fun & Function」とは「楽しさと職務・機能性の融合」といった意味合い。多分に思想的な店名である。平たく言えば「楽しんでやりましょう」ということで、そんな職場の「是」または「心得」が、壁に赤く浮かび上がっているワケだから、コレこそ full of fun and mischief.

 さてそんなポップな traveling kitchen を駆って、長野県内のイベント会場で営業を始めたのが今年7月。たださすがにエンジン系統お疲れ気味で(年季入ってますから)、移動は県内に限られるとのこと――それでも長野は広いですから。老いたエンジンうんうん唸らせながら、長野県中唸らせて回って下さい。


【 現時点で決定している営業場所 】

・9月28日(日) 望月 YUSHI CAFE(ユーシカフェ) 11:00〜19:00
・10月4・5日(土日) 佐久 いか座 やら座 さく市 10:00〜17:00
・10月12日(日) 小海 信州ロッカーズミーティング オトキチ 8:00〜15:00(詳細後日)
・10月18・19日(土日) 長野ビッグハット 長野まるごと秋祭り 10:00〜16:00

現在、ブログは鋭意作成中。なので当面、当ブログでも営業場所の案内に協力いたします。上記予定は随時更新してゆきますので、ご興味ある方、定期的に覗いてみて下さい。



― shop data ―

※ 販売場所・営業時間は毎回変わりますので、
お店のブログ「Blessing of the sun」で確認して下さい。

TEL:090-4913-4551
URL:http://sunburger.blog36.fc2.com/
オープン:2008年7月19日

2008.9.20 Y.M