― 計画8 ―

 次は天気。一日の時間帯における「朝」「昼」「夜」に同じく、天気でも「晴れ」の曲と「雨」の曲は収集が容易い。とにかくわかりやすい現象というのは説明も表現も理解も簡単だ。よってここではわかりにくい「くもり」について語る。

 曇りを大きく3つに分ける―「晴れそうな曇り」と「降りそうな曇り」と「その中間」である。「晴れそうな曇り」と「降りそうな曇り」は、天気に動きがある。晴れに向かって or 雨に向かって動いている。動きのあるものを表現するのは難しくない。晴れに向かっているとき、人は「希望」を感じるだろう。雨に向かっているときは「不安」。その「不安」と「希望」を表してやれば良い。問題は「その中間」―晴れにも雨にもならない「一日中曇り空」…動きがない。その動きの無さを表さねばならない。これは難しい。

 ところで物事の表現の仕方には―1.実物どおりに表現する2.実物以上に表現する3.実物以下に表現する―大きくこの三通りがあると思う…まあ当たり前の話。では「くもり」を表す場合にはどうかと。

 曇りが大好きという人も珍しい。晴れが一番!というのが最も一般的だろう。雨もなかなか雰囲気が良くて―というのもわかる。しかし積極的に曇りが好き!という人は少ない(私は未だ会ったことがない)。太陽もない。雨もない。コレという見どころがない。退屈の極みである。庭仕事が楽で良い―という声もあるかも知れない。しかしそれとて夏場の話。冬なら太陽の温もりが恋しい筈。
 旅に出る。当然のように"快晴"を期待して行く以上、雨は絶対不合格、曇りは雨よりはマシ―という順位か。降らなくて良かった…という思いは飽くまで安堵の気持ちであってその気持ち自体、直に満足につながっているワケではない。そう、曇りは決して満足ではない。ただ"雨よりはマシ"というだけの話。確かに雨降りよりは曇りの方が行動はしやすいだろう。しかし雨降りの方がはるかに「画」にはなる…濡れた石畳。雨に煙る島影。傘を畳む煩わしさや、貼り付く衣服の不快などの代償を払ってでも、それでもなお雨の方が風景や風情の点で曇りに勝っている(…と思う)。何か障害があるくらいの方がかえって旅は楽しい。曇りは楽だ。楽ゆえ、曇天の旅路は案外と印象に薄い。なので大概の人は曇りに対し大きな不満こそなくとも、さりとて満足もしてはいない。そのどっち付かずな"不満足"を音に置き換える―それが1.実物どおりに表現するパターン。

 曇りが見どころある曇りになるためにはワンポイント、何らかアクセントが必要である。たとえば"風"―風に吹かれて重々しく、ゆーっくりと移動する巨大な雲の塊り。地平線の果てまで延々と連なる無数の雲の群れ。その風の只中に我が身を置いてもよいだろう―もちろん想像の中で。たとえば"陽の光"―雲間から地上に零れ落ちる光の柱…雲にはそうした立体的な壮大さがある。そんな勇壮な風景を想起させる、スケールの大きな曲を選べば、のっぺり単調な23区の曇り空も途端にエアーズロックグランドキャニオンの雄大さに変わるだろう。室内に居ながら、想いははるか世界の中心―2.実物以上に表現するとは、そういうことである。先の言い方に置き換えれば"晴れに向かって or 雨に向かって"の動きを与えるということ。動きのないところに動きの"きっかけ"を与えることで、心の中の景色はときに「希望」に輝き、ときに「不安」に覆われ、さまざまな空模様に変化しはじめる―曇りとは、ズバリ"想像の天気"なのである。

 逆に1.実物どおりは曇り空の、その動きのなさや平板さを強調する。ワンコードないしはツーコードで同じリフパターンを延々と繰り返す曲など打ってつけ。曇り空にあまりテンポの早い曲は合わない。ミディアム〜スローで抑揚なく展開なく、動き少なく無表情に奏でられる曲がベター。ズバリつまんない曲。つまんない雰囲気を醸したいなら、つまんない曲かけるが一番…つまりは自分はいま、天気悪いしすることないしで、仕方なくココに居るんだ、あぁー退屈だー退屈だ…と思わせる。かえってソレが痛気持ちいいと言うか、曇りという魅力も見どころもない状態をイヤというほど痛感させられるワケである。3.実物以下もほぼ同様のことで、とりわけ悪い部分ばかりを強調すれば良し。

 あぁー退屈だ〜…と思わせるのには逆アプローチもある。ワザと逆の天気を彷彿させる曲を流す(雨天にも有効)。つまり良い状態との比較である―雲ひとつない青空の曲とかさわやかな旅気分の曲とか…。すると「あーあー…ホントは晴れたら遠足だったのになぁー」的欲求不満が働いて、ますます退屈な現実にウンザリしてくるワケである。自虐的アプローチということでゆくと、曇りの動きのなさからくる、あるいははっきりしないトコロからくる、ある種の気持ち悪さ―これを助長させる手もある。気持ち悪〜い曲をかければよい。この辺の感覚は人それぞれとは思うけれど、たとえばクルマに乗っていて下り坂を急に駆け下ったときの、食道の辺りが妙にスーッと気持ち悪く浮く感じとか。その気持ち悪さを楽しむ。痛楽しむ。但し!モノには加減あり。退屈な、つまらない、動きのない、気持ちの悪い曲ばかり続けると、ホントに空気が重たく濁ってどよ〜んとしてくるので要注意!痛気持ち悪さを楽しみつつも、それでも良心ある解決は心がけたい。こもった室内の空気は新鮮な外気と入れ替えて身も心もリフレッシュを。空気の流れをつくることは重要である。ずっと同じ曲調の曲が流れるような店というのは、空気が流れていないのだ。滞留している。だから新鮮さがない。面白味がない。

 とにかく動きの少ないものほど描写は難しい。天候の場合、極端に激しいほどやりやすい―台風とか嵐とか雷とか土砂降りとか、悪天候ほど表現しやすい。逆に最も音を合わせ難く思う天気は「薄曇り」と言うのか…つまりは晴れているんだけど、薄ーい雲が一枚青空を覆っていて、陽の光も直射でなく間接照明のような抑えた感じ、それでも万物を平等に、但しひどく弱々しく照らしているという…冬に多く見られるお天気で、その中途半端な気持ち悪さは曲に表し難いモノがある。(つづく

2004.7.8 Y.M