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◆ vol.3-3 ◆
初!
峰屋の"復活"ライ麦バンズでハンバーガーを
●ふた品目
お次はソフトバンズで作ったチーズバーガー。こちらの方がレギュラーの酒種バンズの感じに近く、食べ慣れた感はある。皮はシャリシャリなのに、噛むほどに例の丸い甘味が滲み出してきて、GORO's 独特のアノ絶妙なバランスに辿り着く。「新たな試み」という点では、ハードバンズに比べ、思い切りと大胆さでやや劣るだろうか。
こうして2種類を並べると、ハードバンズのあと口がいかに軽いかがよく分かる。酒種の甘い余韻が勝るソフトバンズに対し、ハードバンズはライ麦特有の酸味がサッパリと効いて、後味が実に軽快である。さらにはスッと早い口どけ。結局、私以下当日取材に参加した3名、満場一致でハードバンズを推した。
●とどめのパストラミ
肉との相性がとにかく良いというので、さらにパストラミビーフのサンドをハードバンズで試した(※GORO's では通常パストラミは扱っていない)。ところがコノ最後のパストラミが反則モノ!!強烈!美味し過ぎ!!ヤられた……正直、パストラミサンドとバーガーを比べたら、パストラミの方が勝ってしまう。
ただ、このバンズ1個を丸々パストラミにしたのでは、おそらく全部は食べ切れないだろうとも思った。小さく切り分けるとか、さらにはツナやBLTなど、他にもサンドがいくつかあるうちの1種類としてつまんでこそ、美味しく食べられるのであって、つまりサンドイッチというのは"チームプレイ"なのではないかと思うのである。一方、ハンバーガーは"ソロアーティスト"である。この大きなバンズ1個をバーガーとして食べ切らせるだけの"力"を、ハンバーガーというこの食べ物は持っている。
●絶妙のキラーパス
何かもう"ひと味"欲しがっている――と、ハードバンズについて書いたが、つまりこのバンズは肉と野菜の入る部分を、最初からワザとぽっかり空けてあるのだ。
その空いたスペースをきっちり読んで、ソコにすっぽりとキレイに中身を収め込まないと、バーガーとしてのバランスがとれずに、とんでもない味になってしまう。しかしスペースを巧く使うことができれば、粉の風味や旨味、口当たりといったバンズの持ち味がフルに稼動して、とんでもなく美味しいハンバーガーが出来上がる。
峰屋ご主人は、生地を捏ねる段階から、中身の味の加わる分をあらかじめ引き算してバンズを作った。先の先まで考えに考え抜いてパンを作る、その読みの深さ。そしてご主人の意図を完全に読み抜いて、それに応えたGORO's のマスター。コノ角度以外考えられない――という絶妙のキラーパスを繰り出した峰屋ご主人と、パスをもらってワンタッチ、ビューティフルゴールを見事に決めたGORO's マスター。プロ2人の本気の"美技"を目の当たりにして、私は只々舌を巻くばかり――。
●取材を終えて
今回の試みは、日々バンズを作るパン屋のサイドから発信された、バンズとバーガーの「未来形」についての提案であった。そしてその提案は、提案者である峰屋ご主人の意図をはるかに超えた、大きな実を結ぶに至る。バンズひとつの変化が、ハンバーガーの可能性をグンと大きく拡げたのである。何か"ハンバーガー"がひと回り大きくスケールアップしたようである。
今回感じたこの"スケール感"は、峰屋ご主人の、"パン食文化"に対する見識と、さらに日本には無い欧米固有の"肉食の文化"に対する見識が根底に在って初めて生まれ出たものであることに違いはない。長年の経験と技術、そして鍛え抜かれた勘の上に積み上げられていればこそ、それは揺るぎない確かなものとして、我々の視野を大きく大きく押し広げてみせたのである。
バンズは、バーガーショップ各店がおそらく最も「難しい」と感じている部分である。イメージ通りのものが出来上がるまでに、パン屋との間に膨大な時間とやりとりを要するし、レシピが決まった後も、その日その日の条件によって大きさや形にバラつきが出たりなどもして、とにかくコントロールは容易ではない。
また一度レシピが決まれば、特別な理由でもない限り、積極的に変えようと思う部分でもない。なので、バンズはわりと「出来合いのもの」というイメージが強いわけなのだが、しかしその"出来合い"にこれだけの知恵と労力をかければ、「こんなにも美味しいハンバーガーができるのだ」という、そのハンバーガーの変わり様に、今回何より驚かされた。ハンバーガーはバンズでかくも変わる――。
●後日談
この取材にはさらに後日談がある――
バーガー試作の日から更に2日後の金曜日、峰屋のご主人が何の前触れもなしにふらりとGORO's DINER に現れたのである。ライ麦のハードバンズと、レギュラーの酒種バンズによるバーガーと、2種類を食べて帰ったという。
前述の通り、峰屋のご主人がGORO's のハンバーガーを口にするのは、これが初めてのことだった。GORO's マスターは、今までハンバーガーを作った中で「一番緊張した」と振り返っている。ひょっとするとコノ瞬間、都内で、いや、日本中で最も緊張しながらハンバーガーを作っていたのは、他ならぬGORO's のマスターだったかも知れない。バンズの"親"たる、"アノ"峰屋のご主人を前に、まぁ緊張するのも無理はない。
峰屋のご主人はハードバンズを一口食べるなり、開口一番「うまいっ!」と唸った。そして食後しばらくボーッと空を見つめて後、「このバンズによくぞこの味を合わせてきました。ライ麦の匂いをどうしてくるか、凄く気になっていたのだけれど、見事に巧く消してきましたね」と上気した面持ちでコメントし、「私のパンをここまでにしてくれて、ありがとう」と、その分厚い手でがっしりとGORO's マスターと握手を交わしたそうである。バンズの作り手として、峰屋ご主人の感慨はひとしおだったろうが、同時にバーガーの作り手として、GORO's マスターもコノ瞬間、鳥肌が立つほどに感動していたことは言うまでもない。それは作り手同士にしか分からない、至福の瞬間であったことだろう。
バンズとバーガーの作り手2人が固い握手を交わしたわけだから、このライ麦バンズのバーガーがレギュラーメニューとして世に出るのは、ほぼ間違いないことと思われる。もしレギュラー化されれば、世のパン好きの支持は絶対だろう。パンを美味しく食べる食べ方のひとつとして、「ハンバーガー」という今まで挙げられなかった選択肢が、ここに新たに加わるのだから。
こうしてパン食の世界は広がり、ハンバーガーの世界もまた大きく広がった。来年2007年のハンバーガーはもっと美味しくなりそうだ。【おわり】
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