― バンズ ―


峰屋
(みねや)

[東新宿]

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◆ vol.2 ◆
峰屋の考えるバンズとハンバーガーの未来形

 酒種バンズで大きな成果を収めながらも、しかしご主人はこの結果に決して満足しているわけではなかった。食事パンで鳴らす峰屋ならではの「次」への思いが、日増しに強く大きく膨らんでいった。


●日本人が作るべきバンズはコレ

 酒種バンズを作るに当たり、まず最初にご主人が思ったことは「日本国内で考えられる、最高のバンズが作りたい」すなわち、日本人の好みに最も訴えるバンズを作りたい――コレだった。

 日本人の味覚の基本はやはり「ごはん」である。ごはんの甘味・旨味は、パンを考える上でも常にどこかで意識すべきものという。日本人好みの、かつ≪ご馳走≫を感じさせる高級なバンズを――というコノ命題を、ご主人は、リッチ系に近い生地と酒種が生み出す丸い甘味によってまとめ上げ、形にした。「日本人が作るべき」という思いは、酒種という形で「米」を材料に用いたことにも表れている。

 一方でこのバンズは、完全なるリッチ系の生地(卵・牛乳など配合物の多い生地)によるものではなく、ハード系の生地(リーンとも。水と塩だけなど、配合物の少ない生地)との「間」を狙ったものであり、言うなれば、常食と嗜好品の「中間」といった位置付けになるだろうか。これは「冒険だった」とご主人は話す。リッチ系の生地の特長を活かして「日本人の好み=仄かな甘味」を突きながら、反面、その特長が効き過ぎぬようコントロールさせて、「ハンバーガー=食事」という"本質"を表現してみせたわけである。


峰屋主人・高橋康弘さん。
「日本のハンバーガー文化には明るさがある」

●パンの醍醐味

 ご主人は以前、ニューヨーク中のバーガーショップを片端から食べ歩きしたことがあった。アチラではハンバーガーはごく日常的な食事であるから、バンズも食事向きなハード系の生地で作られる。

 食事向きのパン、たとえば食パンは、毎日口にするものなので飽きの来ない、あっさりとクセのない味をしているわけだが、それゆえ粉の風味や口当たり・食感といった細かな部分が、"ニュアンス"としてはっきりと感じられる、つまり素材の良し悪しや職人の技術・経験がはっきり形になって表れるパンでもある。フランスパンやライ麦を使ったパンなどのハード系のものでは、それがさらに顕著になる。つまりは誤魔化しが利かないのだ。食事パンこそパン職人の一番の腕の見せどころであり、そしてパンの醍醐味なのである。

 ニューヨークでハード系のバンズに出会ったご主人は、ある種「確信」とも言うべき考えを持つに至った。ハード系の生地でバンズを作り、「食事」としてのハンバーガーの魅力を存分に引き出してみたい――それは食事パンに強い峰屋なればこその、ある種当然の帰結だったかも知れない。


●「食事」としてのパン

 しかし実際のところ、食事パンに対して世の中にそこまでの理解と期待があるわけでもなかった。

 たとえば、バンズを卸して欲しいと訪ねて来るバーガー店の店主に対し、ご主人はいつも3種類のサンプルを出している。ひとつはチャパタ生地のような極端なハード系、ひとつは食パンに近いもの、残るひとつはリッチ系。すると十人が十人、必ずやリッチ系のバンズを選ぶという――日本人の味覚はやはり「ごはん」であるという好例ともとれようか。

 日本人は確かに大のパン好きである。しかし人気は菓子パンなどのリッチ系のパンなのであって、では食事パンにどれほどの思い入れがあるのかと言えば、実際、色とりどりの菓子パンに目移りするまでのものではない。おやつでなく「食事」として、日本の食卓にパンが上るようになるまでには、まだまだ時間がかかるだろうとご主人は話す。日本のパン食文化はまだ途上だというのだ。


●≪ご馳走≫から「日常」へ

 ハンバーガーもまた然りである。おやつではなく「食事」としてのハンバーガーがもっと広まり、≪ご馳走≫でなく、もっと日常的に口にされる存在になれば、そのときにはきっとバンズの味もそれに合わせ、リッチ系からハード系へと変化していることだろう。食べ方が変わればバンズも変わる。バンズがその味を変えるとき、それはまた、ハンバーガーの食べ方が変化しているときであるかも知れない。バーガー文化の発展はすなわち、バンズ文化の発展でもあるのだ。

 ≪ご馳走≫から「日常」へ。ハンバーガーの在り方とともに、バンズの味も食感も進化する。「日本のハンバーガー文化には明るさがある」とご主人は明言する。いやむしろ、本当の楽しみはこれからではないだろうか。私たちはソノ醍醐味の半分しかまだ見せられていないような気がするのだ。まだあと半分も残っている――そう思うと、確かに未来は明るい。

 酒種バンズで大きな成果を収めながらも、「むしろ今ココが出発点」と峰屋のご主人は話す。この10年、都内のハンバーガーを陰で支えてきた人物の言葉である。この先どんなバンズが登場し、どんな風にハンバーガーがスタイルを変えてゆくのか――ハンバーガーへの思いがますます強く大きく膨らんだ、2時間のインタビューだった。【つづく】


 次回 vol.3...なんと、峰屋からサプライズ!!

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― shop data ―
* 峰屋 *
所在地:東京都新宿区新宿6-17-12
都営大江戸線 東新宿駅歩10分 地図
TEL:03-3351-6794
営業時間:9:00〜19:00
定休日:日曜、祝日



◆ ハンバーガーショップ各店が語る「峰屋」 ◆

峰屋のバンズを使う各店に聞いた――峰屋とは。峰屋のバンズとは。


◆ STANDARD BURGERS [新宿]

 パティの肉汁をしっかりと受け止めてくれるバンズです。中身と合わせやすく、すごくバランスがとりやすいですし、またパンとしてそのまま食べても美味しいんです。特にスープと相性が良いので、ランチタイムにはスモールサイズのバンズをスープに合わせたセットを出しています。 (新宿店店長・小畑さん)

→【STANDARD BURGERS】

↑チーズバーガー。グラハム配合。
クシュっとつぶれたような見た目に愛嬌を感じる


◆ AS CLASSICS DINER [駒沢大学]

 峰屋のご主人に初めてお会いして、欲しいバンズの説明をしたとき、開口一番「そんなバンズ作ってくれるトコ、どこにもないよ」と言われたんですよ。だから「ウチでやるから」と(笑)。こちらの言ったことをその通り形にしてくれる、バンズが作れるパン屋、ハンバーガーを知っているパン屋が峰屋さんです。おっちゃんの人柄も込みで、すごく好きです。 (店主・水上さん)

→【AS CLASSICS DINER】

↑オニオンマッシュルームバーガー。
標準サイズよりひと回り大き目。
炭火で焼いた豪快なパティをふっかりと包む


◆ GORO's DINER [外苑前]

 峰屋さんのバンズは、ビア樽やワインのように、日がたつに連れ段々と味が変化してゆくんです。旨味が増してゆくと言うか、深いコクが生まれますね。だから焼き上がった日よりも、一日寝かした翌日の方が、断然旨いんです。 (店主・吉澤さん)

→【GORO's DINER】

↑キラーバーガー"DRYHI"バージョン。
見事なドーム型。内に丸まる酒種の旨味と、
GORO's のスパイシーな味付けは抜群の相性


photographs:YOUNGMAN (Bun/Bread/Store/Mr.Takahashi)
Y.M (Outside/Hamburger)
proofreading:MORIZO aka"Tarah Chang"


2006.12.9 Y.M