ゼスト キャンティーナ――ココはメキシコ料理でなくテックスメックス(TEXMEX)料理――南カリフォルニアのダイニングシーンで人気のTEXMEXスタイル。テキサスとメキシコの文化を融合させた、独特な料理と雰囲気が人気――食に国境無し。そして音にも国境無し、メキシコと南西アメリカのフュージョン音楽もそう呼ぶらしい。今回行ったのは渋谷。一歩足を踏み入れればソコはテキサス(多分)。真っ赤なソファ、インディアンの羽、席の仕切りは馬車の車輪(使い方違っとるゾ!)。ウッディな――と言うより"ロッキーな"店内……ハッ!ロッキー山脈ってそーゆー意味?――なんせ経営はラ・ボエム、モンスーンカフェのグローバルダイニングですから、とにかくデザインに半端はない。恵比寿とお台場はさらに凄いらしい。フロンティアスピリッツ溢れる本気アミューズメントの、この荒きものに身をひたせ
ビーフハンバーガー\1,000、チーズのトッピング\160。オープンフェイススタイルだったのだけれど、正直見た目が淋しくて、野菜挟んで上下合わせてから撮影。付け合せにフレンチフライ。それから適宜かけるようマヨネーズソースが器に入って。バンズはややモッサ系なのだが、モッサ具合が妙に適度で何て言うか……モッサモッサとバーガーを呑み込む速度を適度に遅らせる効果あり?――ツルッとゆかない味わいの深さ。しかし下のバン(heel)はこれまた明らかに直径不足、はっきり言って受け皿としての用を果たしていなかった。裏にバター。ピクルスきて、トマトきて、ごっついレタスがきて、トッピングの白いチーズはモントレージャック――初めて口にしたけど、味がハッキリしていてバーガーには向き!その下に大きめのパティ――こいつはイイゾ!いつも言う舶来系の牛のクサミとゴロゴロとした硬さを絶妙なパーセンテージで残している……コノ残し方が抜群!アチラの大味な食感を展開させながらも日本的食べやすさをキープ。コゲと軽いガーリック味も手伝って頃合優れた大味感全開だ!パティの下に軽くソテーした半生オニオン。初めて食べたときは「ところにより辛っ!」だったのだが、2回目食べに行った折には、う〜ん……甘い!タテの食感もナイスで、トマト・レタスともどもサラダ感覚ですらある。
底抜けにパーなメキシカン(?)ミュージックに2分打ちでダンスビートかぶせるのは全くいただけないが(加えて言えばループさせてるのも勘弁して欲しい)、いかにも食欲を刺激する攻撃的なリズムに乗ってビッグなバーガーをガブ付くのも悪くない。食べるうちに下のバンの基盤の弱さからバーガーは完全崩壊、何をandどこを食べてるんだかわからぬグヂャグヂャ状態に陥るのだが、そのなんだかよくわからぬカオスをガブガブやるのがなんと言うか……渋滞抜けた後のアクセル全開、仕事の後の気分爽快って感じかな?箸でつまんだり匙ですくったりするのでは味わえぬ手づかみのダイレクトな食感が、日ごろの鬱積を吹き飛ばしてくれるのである。手のひらサイズのバーガーはおやつに最適だが、こうして豪快にがっつくバーガーならストレス発散にもって来いだ!例によってラムベースのカクテルキューバリブレをお供に、目の周りを赤くしながらゴキゲンにハンバーガーを――
2005.2.23 Y.M群馬県の大泉町で食べるブラジリアンスタイルのハンバーガーが美味しい――こんな書込みが掲示板にあって(こうたろう氏による――感謝!)、米国すらロクに調べてないのにブラジル〜?と、最初はあまり乗り気でなかったのが、調べるうち次第に興味深く思えてきたのである。
群馬県大泉町と言えば人口の約15%が外国人(全国1位)、うち75%以上がブラジル人(つまり11.25%、約4,700人)というブラジリアンタウンとして知られる。「よく見れば……確かに!」という異国な空気の感じられる地域があって、ブラジル料理店・雑貨店などが集まっているという。全国的に見ると、ブラジル人登録者が最も多いのは愛知県の71,004人(うち豊橋市12,039人)、次いで静岡44,697人※16年(浜松市18,188人※17年)、群馬17,557人、神奈川14,630人、埼玉14,431人の順(平成17年12月末日現在。静岡県のみ16年)。出稼ぎ労働者として工場周辺に居住するケースが専らの様だ。で、調べるうちに「横浜の鶴見にもブラジル人が多い」との情報を得、あるいは大泉町同様のブラジル流バーガーがあるかも……とさらに調べると、神奈川県内では横浜市鶴見区が1,568人で1位、2位川崎市1,363人、3位平塚市1,332人(資料はコチラ)と、確かに鶴見は県内で最もブラジル人が多く集まっている場所であると判った――なら行ってみますか!パライソの店に参ろうや〜
鶴見川より海側は広大な埋立地で(大正時代、浅野総一郎などによる)、道が真っ直ぐ広く、住宅地の中に至るまで区画にゆとりが感じられる。海に臨む一帯が工業地帯、戦後全国から出稼ぎ労働者が移住した時期があって沖縄料理店なども多く、玄関先にシーサーを頂く家も見られる。90年代以降外国人労働者も居住。ブラジルはじめ南米・エスニック料理店が増えた。ブラジル人が多いと言っても、見てわかるブラジル人街が形成されているわけでなく、雑貨店もレストランも町中にポツポツと点在している感じ。
鶴見川を芦穂橋で渡るとすぐ道の両端が栄町公園、その左側公園の裏手にコノ店。通称ゴム通りから1本入った立地ながら、日本語のLEDも点滅しているので絶望的に判り難い場所でもない。プレハブ建ての様な簡易な2階建1F。骨組みだけの庇屋根に電飾が絡む入り口。仮設店舗のような引き戸を引くと中は……ポルトガル語だねぇ〜!店内左半分が食料品・雑貨・雑誌等の売り場、右手奥が軽食堂。時折パラパラと買い物客が訪れては何やら葡語で話し込んで帰って行く。中央に調理場があり、中にはラテン系・鼻眼鏡のお父さん。ランショネッチ(lanchonete)と呼ばれる軽食堂は、アチラの映画に出て来そうな白い壁のガランとした空間。窓が無い。席数20ほど。椅子を並べれば40は座れるか。冷蔵ケースの上にテレビが乗せてあるから、サッカーの試合でもあればきっと皆して観るのだろう……と思ったら夜は超満員!地域の寄合い所的機能を持つ場所の様子。テレビの裏手にDVDの棚が見えるが、恐らく葡語の字幕モノだろう。ブラジル映画が充実している風でもない。BGM――無音。
驚くべきことにバーガーメニューなる貼り紙まであって6種類の品揃え。ハンバーグにチーズだけのチーズバーガー(X-BURGER)\298から徐々にトッピングが増して、野菜の加わったチーズバーガーサラダ\452、チーズバーガーエッグ\512……で最高額はチーズバーガー トゥド(X-TUDO)\717。"X"とはチーズ、"TUDO"は全部の意で、つまり具材全部入りがX-TUDO(詳細コチラ)。本日はそのX-TUDO\717を中ジョッキ\390で……安っ!(KIRINデス)
出て来たのはコノ見た目……何?このやぶれバンズは?正直全く期待は持てなかった。中はケチャ、マヨ、リーフレタ、トマ、ソーセージ×3or4、ベー、タマゴ、チー、パティ、またケチャ、下バン。バンズはボッサリと大きいが食感・味とも悪くない。いつまでも熱をキープするタマゴを中心にケチャップ&マヨネーズが混ざってサウザンのような甘めの色付きソースを形成、カラブリア地方のピリ辛ソーセージ・カラブレーザの辛過ぎない旨味とカリッカリに焼いたベーコンのアクセント、脇役に回りながらも意外や及第点な質を誇るパティ、さらに細ーく糸引くモッツァレラの使い方も適確で、トマトも効果的。これだけ派手な味が並んでいながら不思議と変に偏ることなく、よくまとまっている。ベーコン+エッグ+チーズにケチャップとマヨネーズの甘い味付け――ということで意外にも佐世保とよく似た構成なワケであるが、しかし正直ヘタな佐世保バーガーよりよほど佐世保的だった様にも思える。ベーコンとかソースとか、何か一種類の(作為的な)味だけでベターッとやられると、食べるうち単調に思えてくるものだが、しかしこうして具材のよく混ざり合った結果の味だと、飽きが来ない。考えに考えを重ねて小さくまとまったバーガーより、思うまま作ったこのバーガーの方が、見た目一切無配慮なれど素直で豪快で、ずっと魅力的に感じられる。頼んでから結構待たされたのも、これだけの中身を準備することを思えば納得である――DELICIA!
☆付けちゃおうかなぁ〜とも思ったんだけど、ま、とりあえず手ぬぐいで……(って☆以外無いんだけどサ)。こういうこと書くと店に失礼かも知れないが、勇気が出なくて踏み込めない日本人ビュアー諸氏のため書くと、日本語の会話は最低限通じ、日本語表記はきちんとしていて会計はじめ諸事安心です。夜は地元ブラジル人でごった返して入る余地は無いので、時間を外した方が確実かも知れない。Paraiso の"i"には本当はアキュートアクセントが付くんだけど、再現出来ず。かくして大泉町への期待はグンと高まったのである!以下、店の人が一生懸命教えてくれたお店の情報を……
―― shop data ――所在地: | 神奈川県横浜市鶴見区栄町通3-26-4 地図 | |
TEL: | 045-503-6466(但し日本語は不慣れな模様) | |
* 営業時間 * | ||
月〜金曜日 | 12:00〜24:00 | |
土・日曜日 | 10:00〜22:00 | |
定休日 | ナシ?(要確認) |
ついに群馬県大泉町へ行って来た。
●日本の中のブラジル
群馬県邑楽郡(おうらぐん)大泉町――県の南東に位置し、利根川を渡れば埼玉県。人口42,165人(18年3月)の小さな町であるが、人口に占める外国人登録者の割合15.8%は全国一。そのうちの75%、約5,000人がブラジル人であることから、世にブラジルタウンとして知られるこの町は、日本人と外国人の「共生」という点でも全国的に注目されている。
広い関東平野の只中にぽつんと位置する小さな町に、なぜこれだけ多くのブラジル人が集まっているのか――詳細はこちらにお任せすることにして、ウンと縮めて説明すると、戦前、軍用機工場があった跡地に三洋電機などの工場が進出。バブル期に致命的な労働力不足に陥って、1990年の出入国管理法改正を機に南米の日系人を多く迎え入れた。地元の名士がブラジルとのパイプを持っていたことから、ブラジル籍の日系人が特に多く、工場側も厚遇で迎えため定住が進み、次第にブラジル人コミュニティが形成されていった――ざっとこんな次第。
●キタンジーニャ
その大泉町にキタンジーニャ(Quitandinha、小さな八百屋・雑貨屋の意)という店がある。町の中心部・ブラジリアンプラザの2Fにあって、ブラジルの食料品・日用品を扱う店である。コノ店のオーナー、日系2世新垣氏も初めは工場労働者の一人として来日したのが、ブラジル人向けの雑貨店を'91年より始めて、'06年の秋で15周年。店はインターネットショッピングを展開するまでに大きく発展した。
そのショッピングサイトがなかなかの充実ぶりで、見ているだけでも実に楽しいサイトなのだが、コレを担当・運営しているのがキタンジーニャ唯一の日本人長谷川さんである。ブラジルの文化・習慣を理解しながら、商品一つ一つに葡語と日本語両方の説明を付けてゆくのだから、それは大変な仕事だろう。幸運なことに今回、その長谷川さんに大泉のガイドをしていただくことができた。言葉の問題もさることながら、彼の持つ知識の広さ、そしてなにより顔の広さをなくしては、これほど円滑に取材を運ぶこともできなかったろう――Muito Obrigado!
●ブラジリアンプラザ
キタンジーニャが入るブラジリアンプラザは、家電・PCから外国人向けの土産物、衣類、レンタルビデオ、携帯電話、保険、旅行代理店等々、生活に必要なモノのほぼすべてが揃う、在日ブラジル人向けのショッピングセンターである。休日には大泉周辺のブラジル人が集まって賑わい、ブラジルタウンの中心的役割を果たしている。
2Fにキタンジーニャ。1Fの各店もそうだが、窓の大きなパーテーションで簡単に囲う程度で、基本的には内装にお金をかけていないのだが、かえってそれが想像されるアチラの光景を呈しており、「日本でない場所に来た」感を強く抱かせる。店内は白い壁・床・天井に蛍光灯が反射して、買い物しやすい明るい雰囲気。食料品・日用品のほか、CD・DVDソフトや新聞雑誌、さらには楽器まで実に幅広い品揃えで、見て回るだけでもまるで飽きない。ブラジルのあらゆる生活・文化・習慣をギュッと詰め込んだ、実に魅力的な空間だ。
こうしたブラジル独特の文化に強く惹かれる日本人も少なくないようで、海外旅行気分でやって来る人もいれば、中には好きが高じて大泉に移り住んでしまった人も数人。この日買い物に来ていた日本人・大野さんは、マテ茶の効能を身をもって経験。以来、埼玉から車で買いに来ては、世話をするフィリピン人ボクサーの体調管理に役立てている(と言うか、秘密兵器)という。そんなマテ茶との運命的な出会いも、日本人スタッフ・長谷川さんの懇切丁寧な説明があったればこそだろう。何事においても良き「伝え手」の存在は不可欠である。
●パステル
キタンジーニャのいわば軽食コーナー、ランショネッチ(lanchonete)がパステル&カンパニー。パステルとはブラジルの「揚げパイ」のこと、カンパニーは「仲間」といった意味だから、「パステルとその他いろいろ」というのが店名の意味になる。
その揚げパイ=パステルは8種類\260〜。ランシェ(lanche)と総称されるサンド類は14種、うちバーガー6種。コロッケなどのスナックのほか、本物を機械で搾るさとうきびジュースなど。しかし最も驚くべきは、おそろしくきっちりした日本語メニューが用意されていることである。
店員はみなさん日系人、揃ってセレソンのユニフォームを着用。広々とした2F中央のスペース半分に白い机を15卓並べたフードコート的趣きの店で、3箇所に吊るされたTVモニターにはアチラのヒット曲のPVが流れている。年が明けてもしばらくはクリスマス飾りが続くそうで、訪ねた1月7日もツリーやサンタが賑やかに飾られていた。
さてバーガー。バンズパンにハンバーグという最もシンプルなハンバーガー\320から具材が増えてゆき、増えた具材がそのバーガーの名前になる方式。ハンバーガーにチーズが入ってX-Burger \420、トマト・レタスが入ってX-Salada \480。そこに卵が加わればX-Egg \530、ベーコンならX-Bacon \530。全部入りがX-Tudo \630。メニューには下に「エックス・オール」とカタカナで書いてあるが、葡語では「シース・トゥッド」という風な発音になる。そのX-Tudoにお供はSKOLというアチラのビール\350。Budのような薄味を想像したら、それなりにしっかりした飲み口だった。
●そしてX-Tudo
褪せた薄茶のバンズは表面白ゴマ。大泉町で唯一のブラジル人のパン屋さんが焼いている。カラメルのような濃い甘い味がする一方で、粉の風味には乏しく、ややパサッとした口当たり。中は卵に薄い色のトマト×2、レタ、ベー、チー、パティ、下バン。レタスが豪快に張り出して華があるが、2世佐藤さんの作るバーガーは実に端正で、きっちりとした作り。
卵は目玉焼き(両面)。型の中に落としてから焼き始める。ベーコンは過剰な塩気のない、おとなしめの味で好感。身の詰まったパティにチーズはモッツァレラ。レタスはリーフレタス。バンズのドライな感じが前面に出て、やや水分が恋しくなるところを、ケチャ、マス、マヨを半ば潤滑油的に、適宜足しながらいただく。カナリア色の国旗やキラキラのサンバ、そしてセレソンの華麗な足技から想像される「派手派手しいイメージ」に反して、ブラジルの味付けは案外薄味らしく、このバーガー中の具材に濃い味のものは一つもない。見た目にも彩度の低い、淡い印象。
●ブラジル人の味の好み
ブラジルの人はどうもマヨネーズにはうるさいようだ。酸味がダメらしく、この日卓上に並べられたのは、酸味を抑えたHELLMANN'Sのマヨネーズ(カナダ産)に、甘い香りがプンと効いておいしいIguatemiのマスタード(ブラジル産)、そしてケチャップはなぜかカゴメ(日本産)だった。あと、いかにも「東南アジア的」な、甘酸っぱい味や甘辛い味もダメ。なのでテリヤキソースなどもっての外とか。
書きたいことは山ほどあるのだが、続きは残る2店の記事の中で。【つづく】
― shop data ―所在地: | 群馬県邑楽郡大泉町西小泉4-11-22 ブラジリアンプラザ2F | |
東武小泉線西小泉駅 徒歩5分 地図 | ||
TEL: | 0276-61-0145 | |
URL: | http://www.quitandinha.com | |
オープン: | 2004年8月 | |
営業時間: | 10:00〜20:00 | |
定休日: | 月曜日(定休日は季節により変動があるそうなので、要確認) |
上州名物、かかあ天下と何とやら……とはよく聞くが、一歩外に出るとまぁ〜寒い寒い!南国ブラジルから来た彼らはこの寒さに耐えられるのだろうかと心配すると、「それが案外平気らしい」と長谷川さん。
ブラジリアンプラザを後にして、西小泉の駅の反対側へとクルマで移動。風景は典型的な日本の田舎のソレで、大きな農家と畑の間を抜けること3,4分。やがて前方に大きな倉庫が現れた。降り立てば、ふたたびブラジルの薫り――
●SUPER MERCADO TAKARA
この倉庫がSUPER MERCADO TAKARA。MERCADOとはポルトガル語で「市場」の意。つまりSUPER MERCADOは「スーパーマーケット」ということで、「スーパーマーケット タカラ」というのが店名の意味である。SUPERは元はラテン語だが、使い方は英語圏のものだろうから、TAKARAという日本語とあわせて3つの言語が掛け合わさった、三元豚的ネーミングと言えようか。
ブラジルタウンに比較的初期からある店で、ブラジリアンプラザが観光案内所的に、半ば外に向けて開かれた場であるとするなら、こちらは完全なる内輪・地元向けの日々の買い物をする場――といった棲み分けになろうか。キタンジーニャ同様、ブラジルの食料品・日用品を扱うが、中でも食料品が強い。倉庫ゆえ売り場が広く、品数豊富で、一部においてはキタンジーニャを上回る品揃えも。たとえばアチラで頻繁に食されるカリオキーニャ(カリオカ)豆など、ざっと5,6種類の商品が並んでいて、壮観。
●ハンバーガーはどれくらいポピュラーか
さて、私と長谷川さんの間にはいまだ解明しない「謎」がある。ブラジルにおいてハンバーガーはどれくらいポピュラーな食べ物か――という、ごく基本的な話なのだが、しかしどんな"ブラジル通"でも、さすがにハンバーガーはノーマークではないかと思うのだ。ブラジルまで行って、なんでまたハンバーガー?ブラジルらしい食べ物なら他にいくらもあるでしょ――というのが率直な反応だろう。
しかし今回ミョウに興味を惹いたのは、こうしてどこのランショネッチ(軽食堂)でも一様にハンバーガーを扱っているという点なのである――率直に変じゃないですか?
家庭でも作るのか――という疑問もあるが、コチラは売り場を歩くうち、其処彼処に物的証拠を見つけることができた。
タカラには冷凍のビーフパティが数種置いてあり、さらに明らかにバーガー用の形をしたバンズがなんと3種類も並んでいる――3種類ですよ!!そんな品揃え、日本のスーパーではついぞお目にかかったことがない。
冷凍パティ(キタンジーニャにて) | バンズが3種類も |
バンズの写真奥の「ゴマバンズ」は敷島製パン。手前の2種類は、日本国内でブラジル人向けの食品を製造するメーカーが数社あり、そこのモノ。パティも同じで、パッケージは一面の葡語だが、国産品。他にもレトルト食品、サウガジーニョと総称される揚げ物類、リングイッサやモルタデーラなどと呼ばれるソーセージ類、パン、菓子類、チーズなどの冷蔵品と、ブラジル人向け食料品の多くは日本国内で製造されている(しかもウチの近くにもあるんだよネ)。地球の真裏から運んでくる距離・時間その他のことを思えば、消費地にヨリ近い場所で製造する方が、はるかに効率的で安心・安全であることは言うまでもない。
コノ売り場の状況を見る限り、少なくとも大泉のブラジル人は、家でハンバーガーないしはソレに近い食べ物を作って食べているのにほぼ間違いなかろう――と、まずそこまでは判った。
●RODEIO grill express
食品売り場を後にしてランショネッチ(軽食堂)へ。このランショネッチのコーナー、過去何度か店が代わっており、今のRODEIO grill expressになってから食事色が強まったというが、バーガーは健在。メニューは葡語オンリー、日本語なし。でもレジの店員は日本語ベッラベーラなので、心配なし。
中古家具屋で掻き集めたようなバラバラのダイニングテーブル多数、その周りをファミリーでワイワイと囲んで食べる感じ。なにしろ基本が"倉庫"なので、屋根高く、床はコンクリ打ち放しで室温低め。しかし石油ストーブがいくつも配され、店員も寒くないかと気を遣ってくれるので、こちらも心配なし。BGMはアチラの人気グループのライヴ映像。
●X-TUDO "TERREMOTO"
ハンバーガーは具材を増やしながらX-TUDOへと至る例の体系で6,7種。ココの店はX-TUDO \500の上にさらにX-TUDO TERREMOTO(テヘモト)\700なるバーガーがある。
TERREMOTOとは「地震」という意味。何が入っているのかと訊けば、指折りながら、え〜、パティ2枚にステーキ……と、要は「地獄ラーメン」とか、そんな類の殺人的メニューらしく、コレを目にした瞬間、長谷川さんの心の内にもそれなりの"激震"が走ったという。君子危うきに近寄らず、「地震」は回避して、またもX-TUDO。お供はガラナ――いつになくおいしく感じたのは雰囲気のせいか。
白ゴマの乗ったバンズに、酸味の少ないマヨネーズ、やはり塩薄めで穏やかな旨みのベーコン、よく伸びるモッツァレラチーズ、卵は両面焼き、パティはPASTEL & CIA.のものより丸みを帯び、プリッとしていて塩味、リーフレタス、ふたたびマヨ、トマト、下バン。やはりバンズはおいしくない(後述)。PASTELと同様、水分少な目、ケチャップなどかけると水分補給の上でもバランスがとれてよい。内容をあらためて見返すと実に豪華なバーガーだが、味にそこまでの華やかさはなく、やはり薄めの味付けで、全体に淡白。
この日は肉や豆などを使ったブラジル料理の数々がなんと1,000円で食べ放題!(年末年始限定?詳細不明)8,9種の料理を盛ったビュッフェが中ほどに設置されていて、ほとんどの客がそちらに行っている。ハンバーガーよりコノ食べ放題に興味が向くのは人情というもの、私の心も正直そちらに……。
●ブラジルのパンは
どうも小麦の風味に欠ける――と、日本人の私には思える。
世界地図を広げて小麦の産地を見ると、北米ならアメリカ中北部(冬小麦・春小麦というアレ)にカナダ、南米ならアルゼンチン。ブラジルは気候的に小麦の栽培には向かないという、そんなことも関係するのだろうか。しかも今回私が口にしたパンは、ブラジル人向けに日本国内で作られたパンなので、つまり風味にやや欠けるコノ味は、本国の味を忠実に再現したものと見てよいだろう。でもこれでなかなかブラジルではパンの需要は高いのである。
こうして食べ比べてみれば、いかに日本のパンが風味豊かでおいしいものであるかということが再確認できる……ん?だったら日本だって小麦の産地とは言えないんじゃない?ゴモットモ……
所在地: | 群馬県邑楽郡大泉町坂田4-18-1 | |
東武小泉線西小泉駅 徒歩15分 地図 | ||
TEL: | 0276-62-2600 | |
営業時間: | 9:00〜20:00 | |
定休日: | 火曜日(要確認) |
大泉のメインストリートに当たるのが、町の中央を東西に抜ける354号線である。高崎から館林(たてばやし)を経て、茨城(いばらき)の鉾田(ほこた)へと至る国道で、この354号沿い、および少し入ったところにブラジル人の店が多く集まっている。
●国道354号
と言っても地方の国道沿いのこと、隙間なく店が並んで――というほどではなく、ただ行き過ぎる店過ぎる店、なにやら外国語の看板を掲げていて、何の店だかは解からぬが、でもとにかく日本のモノでないことだけは確か――といった調子で、道の左右に点々と続いている。
そんな国道沿いの店の一軒がファット・ア・マノ。東小泉駅前から354号を高崎方面にクルマで4,5分。スーパータカラのさらに先。いかにも国道脇の軽食堂ないしはドライブインといった構えの店で、これといった装飾もない殺風景な白い外観に、中も期待を裏切らず、多少古びようが時代遅れになろうが一向気にしない感じの、と言うか、何屋だかよく解からない、でも疑いなく国道脇の軽食堂――そんな風合いの店である。ある種超時空的。
●手作りの洋菓子と軽食
Fatto a manoとは「手作りの」といった意味で(伊語?)、誰かが太っているとか、ファッツ・ドミノと語呂が似ているとか、別にそういうことではない。
2世・三澤さん夫妻はアチラでも何軒かお店をされていたそうで、クリチバ(CURITIBA)という街にあったカフェの写真を見せていただいたが、今ならデザイナーズカフェとして青山辺りに出して余裕で独り勝ちしてしまいそうな、そんなモダンでスタイリッシュなデザインのオープンカフェが、20世紀初頭のヨーロピアンな街並みにピタッとハマっていた。
自家製ケーキが自慢だが、さすがに今回はバーガーで満腹につき、手が出ず。ひと頃はマヨネーズまで手作りしていたそうで、卓上の赤い辛子調味料ピメンタも大変おいしい、と長谷川さん。BGMなし。キアヌ・リーブス主演のアメフトの映画が無音で流れていた。もちろん葡語字幕。
●もっともランショネッチらしい店
おいしい料理もさることながら、長谷川さんがコノ店を「もっともランショネッチらしい店」と呼ぶ所以はズバリ、話好きの店主一家が問わず語りに繰り広げる、楽しいおしゃべり――コレに尽きるだろう。
店も人も、いかにもブラジルらしい大らかな空気に満ちていて、おしゃべりを聞いていると、つい時が経つのを忘れてしまう。コレこそ、マイケル・フランクス歌うところのIt takes a day to walk a mile(1マイル歩くのにまる一日掛かる)――まさしくその感覚かも知れない。でも、せっかちな日本人はついチラチラと時計に目がいってしまうだろうか。
キタンジーニャでもタカラでも、空気は常にゆっくりと流れ、そして出会った人々はみんな君に笑いかけてくれる……いや実は「長谷川さんに」、かも知れないが。
この笑み、日本における「いらっしゃいませ」なんだろうけど、でもナンか違うんだよネ。たぶん微笑みかける本人の、心にゆとりがあるからだろう。遥かなるOld Brazilの薫りを最も身近に感じることができたのは、こうした瞬間だったように思う。really cure your blues !
●本日みたびのX-Tudo
「ハンバーガー」とはメニューのどこにも書いていないが、ランシェ(Lanche)と括られるサンド類の中にしっかり5種。コノ店ではチーズは「X」と略さずにCheese Tudoとフルで書いている。横にカタカナでスーパーチーズ\577。もう夕食に近い時刻だったが、Cheese Tudoを頼む人は少なくなく(家族連れでも誰か一人は確実に)、ココでもハンバーガーの安定した人気を見ることができた。
バンズはタカラで見た敷島製パンのゴマバンズのような感じだが、定かならず。葉肉の厚いレタスはサラダ菜か(自信ナシ)、軽く焼いたベーコン×2、卵は両面焼き、そしてなぜか焼いたハム1枚、おいしくとろけたチーズはモッツァレラ、トマト、パティ、例により酸味を抑えたマヨネーズ、下バン。ベーコンとは別にハムが挟まっているのが不思議だが、スーパーチーズの名に恥じぬ、立派な構成ではある。具材が斜めに張り出して、賑やか。
ブラジル人の味覚では、甘いハンバーグというのはナイらしく、なのでパティは例外なく塩味……と言い切るのは勇気が要るが、少なくとも聴き取りした限りでは塩味。コノ店のパティは中にタマネギ、細ネギ、ニンニク、チーズなどを混ぜた自家製で、ちょうどギョウザに近い感じの、控え目ながらも印象的な塩味が効いている。この自慢のパティがバンズに対して若干大きくて、ややアンバランスな感じはしたが、しかしこの日食べた中では最も工夫を凝らしたX-Tudoだった。食後のコーヒーがまた格別!さすがインスタントの方が高い原産国の実力。
●ブラジルのハンバーガーについて、わかったこと
鶴見も入れた4店に共通して言えるのは、1.チーズバーガー(X-burger)を起点に、増えた具材がそのバーガーの名前になる方式で、最後はX-Tudo(全部入り)で終わること、2.チーズはモッツァレラであること、3.タマネギを入れないこと、4.卵、ベーコンを入れること、5.マヨネーズは酸味を抑えていること(PASTEL & CIA.のみ中には入れていない)――大体こんなところだろうか。大泉の3店が似ているだけならまだしも、鶴見まで同様な傾向のわけだから、コレは「こういうものだろう」という認識でほぼ間違いないと思う。
あとは「いかにしてブラジルにハンバーガーが広まったか」という謎がなお残るが、これについては今後継続して、長谷川さんとともに解明してゆきたい。
●3世が起こす"風"
三澤家の長男、3世・巌さんは、大学生のとき家族とともに大泉にやって来た。高崎などの工場で働きながら日本語をマスターし、今では町立中学校でブラジル人子女を相手に日本語の先生を務めるのをはじめ、群馬県の多文化共生指針策定委員会の委員に推薦されたり、警察職員や国会議員の前で講演をおこなったり、さらには国の多文化共生事業に参加したりなど、大泉のブラジル人を代表する"顔"として活躍されている。
そんな巌さんに、不用意にもこんな質問をしてしまった――日本は住みやすいですか?――するとニッコリ笑ってこう返すのである「日本は豊かで大変住みやすい国です。ただし肩が凝ります」――言われてしまった……でもそのとおり!ヒドイ凝り性である私は身をもって知っている――日本は肩の凝る国なのだ。
巌さんは、いまの日本には「第三者の視点が必要」と考え、3世である自分に「新しい風を吹き込むことができたら」と、高い志と誇りをもって、この大泉での毎日を実に活き活きと送っておられるのだ。目的を持つ者は強い。大泉発、からっ風ならぬ「肩の凝らない風」が全国に吹き渡るか――安倍総理にはせめて「肩の凝らない国、日本」ぐらい言って欲しかったナ。
●共生の行方、大泉の行方
折しも大泉を訪ねた翌日、「日系外国人急増の自治体へ特別交付税」を交付する政府方針が発表された。さらにこのニュースよりほどなく、静岡県で昨年末に起きた殺人事件の犯人隠避容疑でブラジル人男女2人を逮捕――という報道発表がされている。私などはただ物珍しがっていればよいだけの、単なる観光客でしかないが、しかし隣合せに住む人たちは、当然そうはゆかない。共生の真の難しさ、異文化との本当の距離感――どれほどのものなのだろう。
誘致のときの熱烈さも最近はやや冷め気味と聞く。ブラジル人と地元日本人との間を結ぶ、巌さんや長谷川さんのような役割は、今後益々重要なものになってゆくだろう。
こうした中、来年2008年にはブラジル日本移民100周年を迎える。日伯交流年として1年間、さまざまな行事・式典が日伯両国で開催される予定。これは好機だろう。2008年にかけて、大泉町はじめ、全国のブラジル人コミュニティの抱えるさまざまな問題が、大きく進展するのではないかと期待している。
所在地: | 群馬県邑楽郡大泉町寄木戸1434-2 | |
東武小泉線西小泉駅 徒歩20分 地図 | ||
TEL: | 0276-63-7563 | |
オープン: | 1993年 | |
営業時間: | 10:00〜20:00 | |
定休日: | 月曜日(要確認) |