ハンバーガーストリート

vol.4

―― 西国編 ――

'08.9.28 toms updated
'08.5.27 Esquerre updated
'08.5.22 SEA DINER updated

SOUVENIR DINER

[名古屋]
# 169

 人にはそれぞれ思い出がある。もちろん店にもある――


●アップタウンダイナーの思い出

 マスター福永さんがアップタウンダイナーデビューを果たしたのは16歳――マセた高校生のときだった。もちろん客として。

 とにかくそのカッコよさに惹かれ、お金はないけど「無理してでも行く感じ」の店だった。ゾッコン惚れ込んだ福永さんは「ココで働きたい!」と何度もアタックをかけるも、そうは島田町問屋街。スタッフにいつも空きナシ――みんななかなか辞めないのだ。アップタウンダイナーで働くことはそれ自体、一種のステータスだった。

 御縁のないまま19歳のとき作戦変更、向かいのカラオケ屋でバイトを始める。ココなら毎日ダイナーを眺めていられるという寸法――なんと凄まじきアップタウン愛!
 しかし眺めているだけでは株券はただの株券。あるときダメ元で門を叩いてみると、このときばかりはスッと開いて、見事宿願のアップタウン入りを果たすことができた。石の上にも三年――微笑ましくもなんと健気な執念!


●コモングラウンド

 アップタウンダイナーには4年弱。とにかく大きな店で、スタッフも昼夜2部に分かれて総勢40名に及ぶ大所帯(もちろんシフトで回してます)。それはそれは楽しい日々だったが、テナント契約の都合で2000年(?)に閉店してしまう。

 アップタウン閉店後、コモングラウンドという1Fがショットバー、2Fがレストランバーの創作イタリアンの店にのべ3年。あいだ2年店を離れ、アップタウンの元スタッフが桑名に始めたパーキージーンダイナーの助っ人に回り、再びコモンに戻って後、入っていたビルの建て替えを機に自身の店を持つ。

 伏見の交差点近く、錦通りよりやや入ったビルの2階。白い鉄扉を開けると細長な店内はバーの佇まい――やや片付かない感じ。白黒タイル……でなくコンクリに直塗りのチェックの床。赤と黒のベンチシートが4組、カウンタースツールも赤と黒。BGM――この夜はスカパラ。スピーカーはダイアトーン(珍し)。くちびるにミステリー、壁にはド派手な皮ジャンが……


売り物です

●スーベニアジャケット

 店名は、かつてスーベニアジャケットと呼ばれた上着に由来する。

 スーベニアジャケットとは、背中に鷹・虎・龍などの派手な刺繍を施したジャンパーで(今でいうスカジャン=ヨコスカジャンパー)、戦後日本に駐留した米兵が記念品・土産物(souvenir)として購入したため、この名で呼ばれるようになった。終戦後の人々はこうしたもので収入を得ていたわけである。

 souvenirという言葉には「形見」「思い出」という意味もある。かつてのアップタウンダイナーへの憧憬と懐古の情を込めて、店の名にした。


●チーズバーガーの思い出

 店を始めるに辺り「ショットバーにサンドイッチ」というシチュエーションがやりたかったという。マスターの好きな小説家が作中によく登場させる組み合わせだそうなのだが、「階下のバーにサンドをデリバリーする」のがコノ店をやる上でのひとつのテーマだった。一風変わったテーマにも思えるが、考えれば考えるほど実はいいセンス!

 バーガー11種、サンド12種、ドッグ6種。タコス、オムレツ、ごはんもの。バーガーはおおむね\700前後の価格で安い×2!アップタウンダイナーではチーズバーガーのことを「エルヴィス・プレスリー」と呼んでいたのの向こうを張って、コノ店のチーズバーガーは仲間の女の子の名前から和名カオリバーガー

 カオリバーガー\700、オープンで登場。ホームフライドポテト&コールスローサラダ付、かもしれません。セサミいっぱいの白い扁平バンズ、レタスは玉とリーフと2種(多分)、オニ、トマ、ピク×2、マヨ、チー、パティ、下バン。
 グリルしたオニオンのコリコリした食感を軸に、トマトとピクルスが味に変化を加える。パティはドライで粗目。全体にもややドライな構成で、もう少し滑らかな方がお好みの向きは、HEINZ のケチャップを絞れば滑(なめ)らかに滑(すべ)る滑(すべ)る!強烈な味付けでなく、割りとあっさりと食べられるバーガー。ベーコン&マッシュルーム入り特製ミートソースのかかるマンハッタンチーズバーガー\750がこの日も品切れの大人気。ポテトはシューストリング。お供の生ビール\500はハイネケン。


●名古屋とアメリカンダイナーその1

 今から15,16年前、Gパンの裾をロールアップして穿いていた頃、50'sカルチャーが全国的にブームになった時期が……あった?なにせ私、世故に通じぬイカンガーなもので……。

 当時名古屋には大きなアメリカンダイナーが4店あり、最後に残った2店がアップタウンダイナーと天白区にあったジョージーズ・ダイナーだった。

 ロッカーズやカフェレーサーなどと呼ばれるバイク好きをはじめ、ホットロッド&カスタムなクルマ好き、エルヴィス好き、ロカビリー好き、映画好き、ファッションが好き、特に何が好きというわけでもないけど雰囲気が好き……分野に多少の違いはあれ、大きく観ればアメリカ好きな人たちが集まる、ある種「社交場」のような場所がアメリカンダイナーなのである。

 この日も奥のソファではロッカーたちのミーティングがアットホームに催され、「名古屋の大ボス」とも目されるZERO FIGHTERはマスターの人生の大先輩。同好の士の間に横のつながりが生まれ、ネットワークが形成されて、コノ店もそんな大名古屋アメリカ文化圏(?)の只中に位置している。一見物々しい世界にも見えるが、得てしてこういう人たちほど内面はすごくやさしいもの――最後は"人"だ。

 コノ店もマスターの人柄を慕って人が集まってくる部分が実に大きい。閉めようかと真剣に考えた時期もあったけれど、そんなとき、「我が家」のように大切に思ってくれている常連さんや仲間たちを前にして「自分だけの店じゃないような気がする」――そう思えて、だから今こうして続けていられるのだと。思い出すにコノ言葉……ちょっと泣けてきます。

 天守閣に鯱(しゃちほこ)、おむすびにエビの天ぷら、旅人の胸には名古屋の夜のすてきな思い出――


飛ばないゼロ戦は平和の象徴

― shop data ―
所在地:愛知県名古屋市中区栄2-1-14 コモングラウンドビル2F
地下鉄東山線・鶴舞線 伏見駅歩3分 地図
TEL:052−212−2424
オープン:2004年2月
* 営業時間 *
ランチ:11:30〜15:00
ディナー:18:00〜26:00
定休日:日曜日(要確認)

2007.4.14 Y.M

Sekky's Diner

[岐阜]
# 170

 しくくとは、誰がその字を当てたのか――。


●ダイナーの様式美

 ライトアップされた天守閣が金華山をいっそう高く聳えさせて見せる――楽市楽座、天下布武……ここは岐阜の御城下。

 金華橋を渡って、夜の町をバスに揺られること15分、やがてバス通りに赤いネオン管をめぐらせたコノ店が浮かび上がる……マンション1Fです。念のため。

 アメリカンダイナーはある種「様式美」の世界である。いかに50年代の突き抜けた世界感を再現するか――そこが各店腕の見せどころ、気合いの入れどころでもあるワケで。

 真っ赤な扉を押し開くと、白黒チェッカーズのフロアが続くその先に赤いスツールを並べたバーカウンター。大きく取った窓の方に目をやれば真紅のベンチシートが3組。吊り下がるスチールのペンダント。輝くネオンサイン。エルヴィスが高らかに鳴り響くこの空間は極上にして完璧、惚れ惚れするような筋金入りのアメリカンダイナー!裏金入りは不届き千万だが、筋金入りなら大歓迎だ。

 ダイナーと言えばジュークボックス。置かれた2台のうちの1台は、かつて名古屋ケントスにあったという、由緒正しきWurlitzer 1015――写真上。1946-47年製(推定)――但しこちら現在鳴らず。もう1台はRock-Ola 1434 "Super Rocket"――写真下。1951-52年製――半世紀を経ていまだ現役、骨のある音。


アームの上下に針を2本装備

●ジョージーズ・ダイナー

 マスター、セッキーさんがアメリカンダイナーに夢抱いたのは中学生のときだった。

 父親の趣味(主義)でオールディーズやロックンロールしか掛からない家庭に育った。おかげでオールディーズ大好き少年になったセッキーさんの「夢」を決定付けたのは中学のとき観た『アメリカン・グラフィティ』。この映画に稲妻に打たれたような衝撃を受けて、コノ世界を「日本で再現したい」と強く思うようになる。

 オトナになったセッキーさんが惚れ込んで通ったのが名古屋は天白区植田一本松にあったジョージーズ・ダイナー。絵葉書を見せていただいたが、思わずため息が出そうになるほどにPERFECT!!なダイナーである。アメグラよろしくウェイトレスがローラースケートでサーヴする徹底ぶり――そこにイソイソとめかし込んで出かけるワケですな?なんという麗しい青春!


ジョージーズ・ダイナーの絵葉書

 やがてそのジョージーズも閉店――で、いよいよセッキー氏の出番ですか。構想からおよそ20年――当時の思いのいまだ変わらぬことに確信を持ったセッキーさんは'02年、ついに自身のダイナーを構えた。


●ダイナーの顔

 きっとどこのダイナーも思いは同じだろうが、コノ店でも「ダイナーの顔」を突き詰めたら、やはりハンバーガーになった。

 ごはんものは極力置かずに(置くと出ちゃうからネ)バーガー類23種の壮観!ところが意外にもベーシックなチーズバーガーがないという死角……なので当夜はベーコンチーズバーガー\850を。バーガーメニューはテーゲー(大概)\800前後で、山盛りポテトとピクルスが付いてくる安さ!

 上バン(crown)を傾け、オープンで登場。かぼちゃ入りの黄色いバンズはテカリの効いた表面にセサミいっぱい。ピクルス、オニオン、トマトはお好みで"外"に。ケチャ&マスもお好み。中はチーズ、厚切りベーコン、パティ、レタス、下バン(heel)と続くのだが、このバンズ……とんでもない高さのハイヒールバンズなのだ。下駄を履かせている感はややあるものの、背高バーガーの演出に大きく貢献。但し生地が少しもろい感じなので、もっとコシがあると言うか生地に弾力があると味わいが増して尚良いように思う。

 このバーガーの""はパティ。フタをして蒸らしながらゆっくり焼き上げるパティは、挽肉の粗さを残しながらもふわりと口当たりがよく、つなぎなし・ビーフ100%の旨味をじっくりと堪能できる。この硬軟両方の味わいを秘めたパティを味の中心に、片手ではとても持てない迫力のバーガーはとにかくボリュームが凄まじく、次々口に運ぶうちにまたビールが進む進む!普段その大きさに手が出ない女の子向けにレディースサイズなんてあると、ジェントルマンかな?生ビールはカールスバーグ\500。ポテトはシューストリング。


●ダイナーの醍醐味

 どんなに雰囲気がよくったって、楽しくなけりゃぁダイナーじゃない!理屈抜き!イヤなことは全部忘れて陽気に楽しく!初めての人でもすぐ打ち解けて、スタッフや隣のお客さんと気軽に話せるコノ空気――レストランでもない、居酒屋ともまた違う――それがアメリカンダイナーの醍醐味。

 しかし料理しながら、お客さんとおしゃべりしながら、注文聞きながら……実はやる方は結構大変なのである。でも常にお客さんと接していたい、店内を見渡せる位置でお客さんの楽しむ姿を肌で感じていたい――というマスターの思いがあればこそ、お店がこんなに楽しい空気に満たされているワケであって、マスターはいわばだしの素ですな――昆布?鰹節?

 そしてコノ店にしてコノ客アリ。隣り合わせた常連様お歴々と何が何だかドロドロのトークを楽しんでいると、曲に合わせて誰かが踊り始め、来週大垣のチョーキーズダイナーとのコラボレーションで「ダンスパーティーがあるから」と、ハンチングかぶったお師匠の手ほどきで皆してステップの練習をし始めた。マスターも踊る。非番だったスタッフも踊る。皆して踊る踊る!――お酒も気持ちよく回る回る!



●ムーンライトながら

 OLDIES BUT GOODIES, イイ音楽だからこそもっと多くの人に知ってもらいたいと、オールディーズミュージックの伝え手として、その使命にも燃えている。"通"を唸らせる一方で、一般の人にも入りやすい店作りを心がけたいとマスター。その任務……重要!

 楽しい時はゆっくりと流れて、しかし時計の針はいつだって自分の役目を忘れてはくれない。後ろ髪引かれる思いで店に別れを告げて、長良の川面に二十日の月が浮かぶ頃、独り宿に戻った――

ひと晩中 踊り明かすか セッキーズ



踊るセッキーズの夜

― shop data ―
所在地:岐阜県岐阜市福光西1-5-15 福光ビル1F
JR岐阜駅よりバス15分「福光一丁目」下車 地図
TEL:058−297−1966
URL:http://www.k4.dion.ne.jp/~sekkys/
オープン:2002年9月
* 営業時間 *
平日:12:00〜16:00(15:30LO), 18:00〜24:00(23:30LO)
土日祝:12:00〜24:00(23:30LO)
定休日:木曜日(要確認)

2007.4.20 Y.M

chorky's DINER

[大垣]
# 171

 快速ムーンライトながらの終着駅、大垣。


●水都球春

 水都、あるいは松尾芭蕉「奥の細道」結びの地。ただ復元大垣城のガラス窓――アレはいただけません。

 大垣といえば今春、第79回選抜高校野球大会において、大垣日大高校が岐阜県勢としては実に48年ぶりとなる準優勝の快挙を成し遂げたばかり。その白熱の決勝から5日後の大垣だったが、しかしそこまで派手派手しい祝勝ムードに包まれるでなく、街はいたって落ち着いていた――夏も期待できそうだ。

 今回の店も駅から離れた場所なれば、近鉄バスの厄介に。金蝶園だか金蝶堂だか、どっちだかよくわからぬ菓子舗がやたらとリフレインする城下を抜け切り(両店、仲悪かったり)、降りたバス停が「禾ノ森」――読めますか?のぎのもり。住所が「南頬町」――みなみのかわちょう。こりゃヨソ者はすぐバレるな。

 通りからやや奥まってダイナー。店の前にたっぷりと駐車スペースを有していて、本場のダイナーらしい店構え。これだけ広いと頭から突っ込んでクルマ停めたくなりますが、しかしみなさんきちんと整列駐車しておられます。


●青いサニトラ、黄色いダイナー

 両開きの赤い扉の横に見事なキャンディ・ブルーのペイントを施したダットサン・サニートラックB20、通称サニトラ。マスター、チョーキー氏は「旧車のレストア&カスタム(あるいはポンコツ車の再生)」が根っからの趣味で……そうか!ミーティングの会場として店前のスペースは機能するワケね。

 長年飲食業に従事してきたチョーキーさん。愛する地元・大垣の、まるで変わり映えのしない「フランチャイズ天国」な外食事情を憂えて一矢報いん!と、誰もやらないような個性ある店づくりを模索したのが、このアメリカンダイナー構想の出発点だった。

 毎年、旧車のイベントを主催していたチョーキー氏が、ポスター貼りにご協力を……と入った岐阜のセッキーズダイナーでマスター、セッキー氏と運命的な出会いを果たしたことで、この一大構想は一気に現実のものとなる。

 店内白と黄のタイルでチェック模様。黄色いベンチシートが5席に、カウンター周りのスツールもずらっと黄――ここは黄色いダイナー

 「カスタム」で「黄色」とくれば、これはもうMOONEYESのシンボルカラー以外あり得ない。ライトなイエローに彩られたダイナーはポップで暖かな空気に包まれて、岐阜のセッキーズとはまた違うダイナーの魅力を放っている。トイレに飾ってあるスーパートランプの『ブレックファスト・イン・アメリカ』('79)が、コノ店のポップなムードをよく表しているだろうか。ウェイトレス姿のリビーおばさんが自由の女神に扮したこのジャケ――右手にオレンジジュース、胸ポケットにはサンデー!


●セッキーズとダンスパーティー

 入って右手は一段上がってステージになっていて、オールディーズやロカビリーバンドのライヴなどが催されるほか、つい先日は岐阜のセッキーズダイナーとのコラボレーションによるダンスパーティーも開かれた。

 スローなオールディーズがのたりのたりと流れる日曜の午後、広い店内にはどこか懐かしいニオイが満ちている。鉄骨むき出しの高い天井にはファンが4つ――大瀧詠一ですか。

 カウンターはドリンクを作るのみ、キッチンはまた奥に。なのでホールとキッチンの連絡・伝達が密に交わされている。注文はタンバリンのような円形の伝票差しに順番に留めてゆき、出来上がるとマスターが奥からチーンとベルを鳴らす。こうして片端から注文を処理してゆくのだが、それでも日曜の午後、ひと組出て行けば、また新しい客がひと組入ってきて、客足の絶える暇なき忙しさ。

 カップルに混ざって家族連れもあり。特に次代を担うこどもたちには「横並び」や「画一」を打ち壊して「自分も将来こんな個性的な店をやりたいな」と思うようになってもらえたらと、チョーキー氏は未来の店主・経営者たちに密かに熱いエールを送っている……いや、送っているのは実は「念力」だったり……。


●ハイヒールバンズ

 バーガー類12種、サンド8種、ドッグ5種。小ぶりのBEERジョッキにバニラアイスとソフトクリームを詰めたデザートサルードゥ\650。さらにシェイク\400〜500が品数豊富。

 チーズバーガー\750。お供にミントレモネード\400。地元の人気パン店に注文するバンズは、これまた凄い高さのハイヒールバンズ。セッキーズも然り、これはある種の「地域性」と見てよいのか。表面セサミなし。

 中はサウザンソース、リーフレタスにチーズ、パティ、オニオン、トマト、ケチャップ、下バン(heel)。パティは塩味のハンバーグ。プリッとした弾力が持ち味だが、出来たらつなぎなしのパティでゆきたいところ。トマトとチーズと渋く絡んで、穏やかな塩味を形成する。全体にもこのパティの印象がメイン。チーズはクセのないナチュラル。ダイナーの威信を一身に背負ったようなビッグサイズなバーガーで、気が付けばエラい長い時間ずっと食べ続けていた。付け合せのフレンチフライはシューストリング。大根のサラダとピクルスも付いてすこぶるお得。


●名古屋とアメリカンダイナーその2

 ↑大いに語弊ありますが、広い意味での東海文化圏ということで。伊勢も三河も入ります。

 ダイナーはである。クルマ好き、バイク好き、オールディーズ好き――みなダイナーという「旗」を目指して集まってくる。趣味の合う者同士、こんなにわかりやすく集まれる場所も、なかなか無い。

 ダイナーは集いの場であり、憩いの場であり、ときに発表の場でもある。ダイナーそれ自体がひとつのステージであると言ってもよい。そしてこのステージに集まる人と人がつながり、店と店とがつながって、その輪は横へ横へとダイナーを際限なく結んでゆく。そうしてできたダイナーの大きなの中に、チョーキーズもセッキーズもスーベニアもいるのである――やはり最後はやはり"人"だ。人のいない店は、ただの"ハコ"にしか過ぎない。

 流れるオールディーズに身を任せつつ、カウンターの隅に座ってそんなことを考えていた。チェーン店でハンバーガー食べてても、こんなこと考えないでしょ?温故知新――過去をリストアし、未来へカスタムする黄色いダイナーへ、ようこそ!



入り口に"ダッツン"

― shop data ―
所在地:岐阜県大垣市南頬町5−35
JR・近鉄ほか大垣駅よりバス10分「禾ノ森」下車 地図
TEL:0584−78−5128
オープン:2004年10月
営業時間:11:00〜24:00(23:30LO)
定休日:月曜日(祝日は翌火曜休。要確認)

2007.4.26 Y.M

LAYER'S

[名古屋]
# 172

 名古屋丸の内OLに告ぐ――ハンバーガーにはやっぱり○○○!(正解は一番下)


●丸の内三丁目

 丸の内三丁目をオフィス街と呼ぶのも少し違う気もする。明らかに繁華街ではない。インテリジェントビルが林立するでもなく、酒屋もあれば料亭もあり小学校もある、懐かしい匂いを残す町並みだが、休日の人口が激減するのを見れば、やはりオフィス街で正しいだろうか。外堀通を隔て、三の丸の官庁街へと続く場所なのでオジサマ受けのする店が多く、OLはどこに食べに行けばよいのやら、お昼にはちょっと困っていた――。


●夢のリフォーム物件

 そんな状況を踏まえ、女性が気軽に利用できるハンバーガーショップを――と颯爽と登場したレイヤーズだが、実はコノ場所、元は目も当てられないような荒れ果てた物件だったのである。

 そこに徹底したリフォームを施し、原形が在ったこと自体想像できないほどの華麗な変身に成功。お約束の「どうしても無くせない梁」などを巧くカバーしながら、全く新しい空間を生み出すその技術と発想の高さは、"ソノ筋"で取り上げられても決して不思議ではないだろう。折角なので"ビフォー"の写真をどこかさり気なく置いておけば、そんな話でひと盛り上がりもできませうか。2Fのデザイン事務所との調和も示し合わせたかのような秀逸さ。

 手前にカーポートがあり、奥まって店舗。入り口までの10数歩の間に期待と興奮の高まる、ワクワクするエントランスだ。

 内外装に白木を駆使し、随所に配されたグリーンとともに店のコンセプトカラーに。カーキ色のソファと壁の淡いグリーンが印象的。BMGもカフェ調に軽くして、くつろいだ空気を生み出している。ナチュラルでライトなトーンの清潔感あふれるバーガーショップ。仕事に戻りたくなくなるかも……


●ブラザーズ

 マスター久保さんとは、実は知らずのうちに何度か会っている。場所はお江戸日本橋人形町、都内屈指の名店BROZERS'

 "自分の仕事"がしたくて会社勤めをスパッと辞めた久保さん。さて何を始めよう……というとき、月刊『Lightning(ライトニング)』の別冊にBROZERS'オーナーのインタビュー記事の載っているのが目に留まり、コレだ!と即電話。「3ヶ月」と自ら期限を切って、宿も決めぬまま東京へ乗り込んだ。

 3ヶ月という限られた時間の中でハンバーガーの作り方をマスターするのはもちろんのこと、メンタルな部分でBROZERS'オーナーから受けた影響は実に大きく、店をやる上での支えになっているという。

 名古屋に戻ってすぐに店を始められたわけではなく、当初目標だった名駅の再開発エリアから流れ流れて今の場所へ。ココでハンバーガーをやることに消極的な意見を漏らす人もいたが、「チャレンジするから面白い!」と、女性にも親しまれるバーガーショップを目指して昨年'06年の12月にオープンした。


●31種類

 店のつくりはまるで違うが、メニュー体系はBROZERS'式を踏襲。あらゆるトッピングパターンをすべて「1メニュー」として載せる方式で31種類('07年4月初旬)。BROZERS'とくればロットバーガー。そのレイヤーズ版はその名もレイヤーズバーガー\1,200。もちろんソースはバーベキュー、テリヤキ、レッドホットチリ、スイートチリから選べる式。となればもちろんバーベキューソースに、お供はハートランドの生\600で。

 余計な添加物を使用せずに仕上げた"自然派"セサミバンズはテカリ薄っすら、表も裏もノーマルな焼き加減。生地はスポンジ質でふわっとしたやわらかさ。下にターンオーバーの玉子、ストレートに甘いパイナップル、強目に焼いたベーコン、濃くとろけたチェダーチーズの上にBBQソース、コショウ効かせたパティは飛騨牛+AUSSIE。生を輪切りにしたオニオンはシャクシャクと常に小気味よく、少し存在薄のトマトにレタス、マヨネーズ、下バン(heel)。本家とそっくり同じもどうかということで、レタスは畳まず千切ったものを重ねている。これだけたくさん積み上げると、崩れないようバランスを保つのがまず大変だし、それ以上に味をコントロールするのが至難の業であるが、そこはBROZERS'流。難なくこなしてなお余裕あり。

 BBQソースの甘味は抑えて脇に回り、主役は中まだ色赤い焼き加減でじんわりと旨味を効かすパティ。パンチにパンチを重ねた本家のヘヴィな味を軽くやさしくした感じで、カフェ調のやわらかな店のトーンによく合っている。付け合せのオニオンリング、ピクルス、フレンチフライは本家に同じ。ポテトをサラダに変えることができるのは、時代の空気をとらえた好サービス。

 そのポテトはまたもシューストリング――今回の名古屋・岐阜でこれは4店中4店、10割の確率だ。都内で"私が"よく行く店は偶然かナチュラルカットが多いように思うのだが、これは地域的な「好みの差」と言えるかどうか。


●アメリカンダイナーとハンバーガーショップの交点

 ドーナツ然り、パンケーキ然り、いまアメリカの食べ物はじわりブームになっている。そんな中アメリカンダイナーという、カルチャーを愛好する人たちにとっての「旗印」のような存在の店と、ハンバーガーを専門に扱うハンバーガーショップとは、これまで別個に存在していて、アメリカ好きはアメリカンダイナーへ、ハンバーガー好きはハンバーガーショップへ行くような、何となくな棲み分けがされていたように思うのだが、ブームを背景に相互の出会いと行き来がそろそろあってもよいのかな――と思うこの頃。知らない世界に興味を持つことはよいことですから。

 そんな中、久保さんは、アメリカンダイナー的なフィルターをあえて「抜き」にして、ハンバーガーをひとつの食事としてより幅広い人たちに知ってもらおうと、今の店づくりに行き着いた。片や「ダイナーの顔」としてのハンバーガーがあり、ファーストフードとしての顔もあり、今また新たなハンバーガーのスタイルがココに提案されたワケです。

 幾層にも「重ねる」という意味の店名。バーガーだけでなく経験と歳月もキレイに重ねて……なんてキレイなオチは置いといて、なにしろ名古屋丸の内OLに告ぐ――ハンバーガーにはやっぱりビール!ランチもいいけど、仕事帰りのビールにバーガーは痛快!豪快!爽快!グィーッと一気にいっちゃって下さい!!(←こんなハイテンションなひとときが過ごせます)



正解:ハンバーガーにはやっぱりビール!

― shop data ―
所在地:愛知県名古屋市中区丸の内3-8-265
地下鉄桜通線・鶴舞線 丸の内駅歩5分 地図
TEL:052−961−0121
URL:http://www.layers7.com/
オープン:2006年12月
* 営業時間 *
平日:11:00〜22:00(21:30LO)
祝日:11:00〜17:00(16:30LO)
定休日:日曜日(要確認)

2007.5.2 Y.M

コンパル

[名古屋]
# 173

 名古屋とくれば、やはり喫茶店でしょう。


●上前津駅から

 創業昭和23年(1948年)、コメダ珈琲店やヒマラヤと並び(と言ってもこの列挙が適当かどうか自信なし)、名古屋を代表する名喫茶のひとつ。オフィシャルサイトのひとつもあってもよさそうなものだが、きっと客層とネットユーザー(ないしはパソコンユーザー)があまりにも重ならないのだろう、ゆえにそんなモンなし。

 名古屋市内に11店舗(と言っても何処にあるのかわからず)。本店がコノ大須。ひと口に大須と言ってもなかなかに広く、上前津(かみまえづ)の駅から徒歩圏のコノ辺りがむしろ中心地とか。


●万松寺

 万松寺(ばんしょうじ)のヨコ。この万松寺、織田信長が父・信秀の葬儀の折(1552)、位牌に抹香を投げつけたという、有名なアノ逸話の舞台……と言いたいところだが、その当時、寺のあったのは別の場所で、名古屋城築城にあたり現在地に移転してきた(1610)……と聞くと、なぁ〜んだ!という感じ。

 しかしそこは名にし負う万松寺。焼香のエピソードや幸若を舞う信長公の姿などを再現したからくり人形を公開している――2時間おきに戦国乱世の"嵐"が吹き荒れます。


●憩いの場

 自転車で乗り付ける人も少なくない、ご近所の憩いの場。店の前まで商店街のアーケードが延びているので、雨でも安心です。

 薄紅色のソファ席が86席(と言っても数えたわけではないが)。こうした歴史ある喫茶店には席と席の間や、席と動線の間を隔てるために、中に観葉植物など置けるようになっている「間仕切り」あるじゃないですか?(固有名詞がわからない)ソレのある店。テーブルには中段に荷物置きがあって、便利。


●コンパルと言えば

 名物は諸説あるが、氷入りのグラスにホットを注いでアイスにするアイスコーヒー\350、エビフライサンド\870は不動の人気メニューだろうか(と言ってもどちらもいただいたワケでなし)。そんな中にあってバーガー類4種。ハンバーガー\250、テリヤキバーガー\320、ジャーマンカツバーガー\320、ベーコンバーガー\340。コーヒーとあわせてハンバーガーセット\550。カゴ……じゃなかった、編み皿に載って来ます。

 セサミなしのシンプルなバンズの下にケチャップ、シュレッドオニオン、パティ、バター、下バン。バンズは取り立ててというほどのものでもないが、少し「もさる」ところが好印象。パティはハンバーグ――家庭的なコゲあり。味はあまりしないのに酸味で存在感をみせるケチャップの、コノ主役を占めない活躍が奏功。コゲた苦味が効いたコーヒーとの相性は期待していたほどでもなかったが、ひょいと手にしてぺロリといただくハンバーガー。粋です。

§ §

 もしコレが創業以来のメニューなら、国内でも極めて初期のバーガーということになるのだが、今のところ手がかりナシ。BGM――食品売り場系、珍妙なるインストポップスが延々。店員さんの明るく元気のイイ応対が気持ちよい、庶民の元気の源



― shop data ―
所在地:愛知県名古屋市中区大須3-20-19
地下鉄名城線・鶴舞線 上前津駅歩5分 地図
TEL:052−241−3883
オープン:1948年
営業時間:8:00〜21:00
定休日:なし(要確認)

2007.5.6 Y.M

オリエントバーガー

[半田]
# 182

半田の人はみな、コノ店のことをオリバーと呼ぶ。


●半田市

 半田(はんだ)は愛知県西南部、知多半島の中央に位置する人口約12万人の都市である。セントレアのある常滑(とこなめ)市と背中合わせの関係。出身者にあの「ごんぎつね」(知ってる?)の新美南吉ですよ。

 名鉄河和線とJR武豊(たけとよ)線、2つの半田駅よりこのオリバー方面へと向かう中町通りの商店街はだいぶ錆び付いてきており、その一方で最新のマンションが幾棟か建っていたりで、これは名古屋への通勤圏と見るべきか、それとも常滑に向いているものなのか、ちょっと判じかねるが、まぁとにかくクルマばかりで人影を見ない。

 「中町」の交差点で折れ、JRの線路の方に向くと、知多バス「中町」停留所のやや先に推定築40年の日之本ビル。その1階右端のテナントが創業昭和58年、地元では「オリバー」と呼ばれるオリエントバーガーである。


●第2次オイルショックと外食産業

 オリバー店主が初めてハンバーガーと出逢ったのは18歳――名古屋のマクドナルドで、である。しかしこのとき「こんなおいしいもの食べたの、初めて!」と唸ったのは、バーガーでなくシェイクの方だった。

 いざ就職!というタイミングで第二次オイルショック(1978)。世の中のあらゆる産業が振るわぬ不況下にあって、唯一オイルショックなぞどこ吹く風の絶好調な業界――それが外食産業だったのである。

 すかいらーく1号店'70年7月、マクドナルド日本1号店が'71年7月、以下ロッテリア、デニーズ……と、まさに70年代は外食産業の黎明期である(などと私が言ってよいものか)。「今でいうIT産業的存在」(店主談)――つまりその将来性が最も期待される、前途有望の成長分野として外食産業は飛躍的な伸張を見せていた。店主もその盛んな勢いと可能性に強く惹かれ、当時の最先端分野に足を踏み入れたのである。


●スワロウ

 店主が選んだ就職先は名古屋市周辺に7,8店を展開するバーガーショップ「スワロウ」だった*。名古屋ローカルのハンバーガーチェーンである(知ってる?)。従業員数千人の大企業よりも少数精鋭で風通しがよく、全体を見渡すことのできる、そんな小さな企業をあえて店主は選んだ。

※ 亨栄商業出身(現亨栄高校)、国鉄スワローズ(現ヤクルト)のエースだった金田正一氏の命名によるという

 風通しがよいということは、相対的に社員一人当りの負担は重くなるということである。ヘヴィな毎日だったが「修行のつもりで」懸命にやりこなすうち、次第ゝゝに「ハンバーガーが面白くなってきた」。4年弱勤め、退社。地元半田に自分の店を構える。1983年の7月というから今年2007年で24年。工事その他、スワロウ組がバックアップしてくれた。


●転換点

 大阪のボンハンバーガー、加古川のピープルなども一時は4,5店を展開していたというが、このころ興ったハンバーガー店にとっては、2店,3店と店を押し広げてゆくことが、「時流」として、ある種自然の発想であったのかも知れない――まぁ今でもそうか。

 店主も当初、やはり外食産業の出身ゆえ2店目、すなわちチェーン展開を目論んでいた。

 しかし日々店に立つうち、段々「自分がわかってきた」――つまり、自分は2店,3店とやりこなすような「器じゃない」と――そんなちょっと悲しい決断を、大いなる勇気をもって下すに至ったのである。なのでオリバーは後にも先にもココ日乃本ビルの1店きりである。

 「チェーン展開を考えるのをやめたとき」――オリバーにとって、これが大きな転換点となった。

 それまではヒット商品をいかに生み出すか――そればかりを窮々と考える毎日だったのが、そこから脱し、店主にとってこのオリバーは表現する場所へと変化したのである。


●表現の場

 オリバーは店主にとって「自己表現の場」である。自分が考えたことを自分で表現する――それを人がどうとらえようと構わない。評価は結果である(もちろん評価されるのは嬉しいことだが)。ヨソが何をやっているかも気にならない――。

 もしアノとき、この発想の転換をしていなければ、オリバーは5年と持たなかったろうと話す。どこの店の主も多かれ少なかれ、自分の好きなことを好きなようにやっているからこそ、多少ツラくとも店を続けてゆけるワケで、楽しみの要素が一切無くなり、ただヒットを飛ばすこと、売上げを伸ばすことにのみ執着するだけの日々では、まず毎日がシンドクなるだろうし、そんな状態を連綿と継続させてゆくこと自体、あるのはただ重く圧し掛かる使命感ばかりで、そもそも現実味の欠片も感じられない。

 長続きの秘訣は楽しみながらやること……ですかね?言われてみれば、各店店主のニコニコとした笑顔が目に浮かんでくるのである。


●100円バーガーの店

 この転換により既製品を使う必然からも解放される。そこで店主の心が向いたのが「手間をかける」ことだった。

 バーガー類14種+300個限定発売のマヨ玉バーガーで15種。単品ならどれも290円まで、セットにしても590円までに収まり、今や大手チェーンとの価格差も逆転している。ドリンクは「外の自販機で買った方が安い」って、店主……

 看板メニューオリエントバーガーは創業以来の100円。24年の間に、言われても多分気付かない程度のマイナーチェンジを繰り返して、今が9代目である。

 バンズは敷島製パン(地元です)――コレがちょっとおいしいのである。敷島製パン自体がおいしいのか、それとも店主がバンズの特長を知り抜いており、どうすれば最もおいしい状態で食べられるか、その「技術」をマスターしている――ということも言えるが……ま、どっちもかな。その熟練の焼き加減のバンズの下は、特製のソース、千切りのキャベツ、パティ、下バン。

 パティは合挽き。牛100%では「パサパサになる」ので、豚をわずかに加えることでよい脂分が出てちょうどと。精肉店に比率まで指定しておいて、ブレンド・成型は自分でやっているという辺りは、世に言うハンバーガー専門店と一緒。合挽臭は巧いこと消してある。


●手間をかける

 鶏と豚はブロックで仕入れて自前で切り出し、身がやわらかくなるよう「ひと工夫」施してある。なるほど、チキンカツバーガー\250は冷凍の既製品ではあり得ない身のやわらかさであり、旨味だ。美味!「肉をいかにやわらかくするか」はオリバーのテーマである。

 使っているソースは大まかに言えば、所謂一般的なソース(ウスターソース類)とケチャップのブレンド。ケチャップの酸味消しにソースを入れているそうなのだが、ともあれコレが千切りキャベツと絡むとおいしいわけですよ!私たち日本人ですから。確かにこのソースの味で食べさせるバーガーではあるのだが、バンズもパティもちゃんとしたモノであるだけに、ソース味に席捲されないと言うか、ソース乗りがよいと言うか。


 ちなみにこの特製ソース、バーガーによって配合が2種類あるそうなのだが……そんなの言われても判んないよ!


●続けるということ

 つまりは100円にかける想いと1,000円にかける想いは変わらないということです。

 長年の知識や経験が溜まりに溜まって「よくわかんないけど出てくる」そうで、今後もこの自己表現の場にあって、その溢れ出すアイデアを常に常にカタチにしてゆくのだと、この暑い中、Yシャツ×ネクタイに青いエプロン姿の店主は、泰然自若として独りカウンターの向こうに立っていた。自分とは、自信とは、続けるとは――生き方にちょっと迷ったとき、行ってみるとよいかも知れない。遠いけど。


で店の名前?奇数は語呂が良いと。オ・リ・エ・ン・ト――5文字。


― shop data ―
所在地:愛知県半田市郷中町1-1 日乃本ビル1F
JR武豊線 半田駅歩12分 地図
TEL:0569-23-4521
オープン:1983年7月
営業時間:10:00〜20:00
定休日:第2金曜日(要確認)

2007.8.19 Y.M


Cafe Downey

[名古屋]
# 183

 ダウニー日赤イースト店の現店長・前島さんは「スタッフ日記」の中で「自分が名古屋で食べたうまいハンバーガーの店」(2003.12.07)の回想をおこなっている。

 それはもぉ〜目くるめく名古屋の歴代バーガーショップ/アメリカンダイナーのオンパレード!「UP TOWN DINER(アップタウン・ダイナー)」や「GEORGIE'S DINER(ジョージーズ・ダイナー)」など、彼ら現役ダイナースタッフ/オーナーたちの間でいまだ熱く語り継がれる、これら伝説の名店(←正直、大袈裟とは少しも思わない)の名前に強く強く惹かれて、これで5度目の名古屋取材旅へと向かった……暑いのに


●ハートが快晴になるカフェ

 ダウニーは名古屋市の真ん中やや東寄り、天白(てんぱく)区は八事(やごと)を中心に市内外に5店、そして神奈川県は藤沢に"ワケありの"1店を構えるカフェである。

 1980年から8年間、米国西海岸・カリフォルニアでケーキとサンドウィッチの店を営んでいたオーナーが、帰国して郷里・名古屋に'91年にオープンさせた。店名は米国の店が在った小さな街の名に因っている。

 サンドウィッチをメインとしたフードメニューもさることながら、ケーキ、クッキーなどのスイーツが大人気。訪ねたこの日、私の見た限り、ほとんどのお客さんがケーキの持ち帰りだった。ミッドランドスクエアのDEAN & DELUCA(ディーン&デルーカ)やセントレア(中部国際空港)などでも販売しており(有名百貨店で期間限定販売も)、いまや「名古屋みやげ」としてのネームバリューも徐々に確立されつつある。中でもダウニーバスは気になります。


●日赤イースト店

 通し番号の打たれた4店+1店のうち、ダウニーのハンバーガー発祥の店であるDOWNEY2・日赤イースト店へ。他にDOWNEY CLASSIC(日進市)でも食べることができ、さらにこの9月からDOWNEY3・植田店でもバーガー開始。これに当たって4種類ほどの新メニューを目下開発中である。

 さて日赤イースト店――白にフォレストグリーンのチェッカーズがトレードマーク。ちなみに各店、デザインコンセプトないしはそのベースとなる年代設定はそれぞれ異なっており、二つとして同じ店はない。

 店内は西海岸を髣髴とさせるすっきりと白く明るい壁・天井を基本に、扉や窓に施された菱型の格子やテラスの意匠、暖炉の上にかかるウォールクロック、ジャズ批評などが並ぶ書架など、全体にミッドセンチュリーモダンなテイストを漂わせ、シンプルなペンダントから落ちる抑えた照明が、落ち着いたクールな空気を醸し出している。

 間仕切りによって、何となく雰囲気の異なるいくつかのスペースに分けられており、奥に進むにつれてシックな色を増してゆく。奥の奥にはなんと中庭!日赤イースト店は上品でモダンなトーンのカフェである。

 この日のFine Music!はヴァン・モリソン――「ムーンダンス(MOONDANCE)」など。壁に大きく引き伸ばしたブルース・スプリングスティーン『明日なき暴走(BORN TO RUN)』のアルバムジャケット――コノ写真、大好きなんだよネ。中でも「MEETING ACROSS THE RIVER」(邦題「川向こうでの会見」って本当?!)という曲がお気に入り。ソロはランディ・ブレッカー!


●サンドウィッチ

 地下鉄名城線・八事日赤(やごとにっせき)の周辺一帯は古くからの高級住宅街。'04年に出来た同駅前を中心に大型マンション建設などさらなる街づくりも進み、ゆるやかな丘陵地に構える"ニュータウン"といった趣きの場所でもある。

 なので昼間は付近の奥様方が大勢。さらに「テレビ局」「病院」「大学」という願ってもみない巨大な"ハコ"が近所にあるため、これら関係者による利用も多く、いずれにしてもアルコールは出ない仕組み。

 サンドウィッチ11種、ラップサンド4種、ベーグルサンド5種。バーガーは8種(以上テイクアウトメニューによる)。ハンバーガーを始めたのは'03年。アップタウンダイナーのスタッフだった植田店の中條マネージャーと、ホテルのレストランでの経験を持つ石原商品開発マネージャーとが任に当たり、作られた。ちなみに石原さんもジョージーズに影響を受けた一人。

 なぜハンバーガーをやろうという話になったのか定かでないが、両氏はじめアップタウン/ジョージーズの「ファン」だったスタッフ――あるいは世代――の想いがそうさせたのであろうことは、想像に難くない。


●パティのポジション

 チーズバーガーレギュラー\880。当初ヘルシー志向から五穀バンズを使っていたが、途中で現在の胚芽バンズに変更。黒ゴマは上に乗せずに生地の中に練り込であるという、一見がんもどき風の変わったバンズである。

 中は生のオニオンにピクルス、トマト、レタス、チーズにパティ、下バン。付け合せにストレートカットのフレンチフライとコールスロー。

 酸味のキツくないディルピクルスを中心に野菜陣のしっかりとタイトな歯応え、溶け切らないレッドチェダーのはっきりとした塩味。そして極めつけは、派手がましく独り前に出ることなく、バーガーの中心にしっかりと身を据えたパティの、このシブイ安定感だろう。

 香り付け程度のナツメグと軽く振った胡椒。さらに鉄板で焼いた後、グリルの直火で付ける網目のコゲ味(重要)――余分な脂を落として、やわらかな中にもどこか締まった食感に焼き上げている。他の具材とぶつかることなく、あえて一歩退いた位置でバーガー全体のバランスを最優先させる、このパティのポジション取りこそ憎い。実にきっちりと丁寧に作り込まれたバーガーである。お供はアイスのカフェラテ\500。


●食を通して、アメリカの文化を伝える

 これだけのハンバーガーを擁しながらも、主役はあくまでサンドウィッチ。「もっとアピールしたいんです」とは石原マネージャーの切実なる御言葉だが、そりゃそうだ。私が食べた限り、名古屋で一、二を争うおいしさである。こんなおいしいものを埋もれさせておく手もなかろう。

 「カフェ」や「スイーツ」のイメージが強いのもあるかも知れない。客層が近隣の主婦中心というのもあるか。サンドの方が取り分けられるし……。ただサンドとバーガーはキャラクターとしては「静」と「動」ほど違う食べ物だと思うので、「どっち」ということなく、ノリや気分で使い分けて楽しんだら、とは思う。


 オープンした'91年当時、アップタウンやジョージーズは既に在ったかどうか――その辺り定かでないが、'87年オープンのソーシーズと共に、ダイナー天国・名古屋にあって、アメリカンダイナーとはまた違う角度からアメリカの食文化を紹介する店として、異彩を放つ存在だったに違いない……って、実際のところは如何?

 上記ダイナーのスタッフやそのファンが後にコノ店に合流し、やがてダウニーのハンバーガーが誕生するに至る経緯まで含めて考えれば、名古屋のアメ食文化は大きなサラダボウルのようなものの中にあって、そのボウルの中で時代ゝゝに合った新しいスタイルがミックスされては、リリースされてゆく――そんな大きなサイクルないしは受け皿が、名古屋中の誰もが意図せぬうちに実は自然と出来上がっているのかな……などと思ってもみたり。

 かくしてダウニーのオーナーが出逢ったアメリカの「」は、出逢ったときの晴れ渡る「青さ」のまま、人へ人へと語り継がれてゆくのである。


― shop data ―
●DOWNEY2・日赤イースト店
所在地:愛知県名古屋市昭和区高峯町168
地下鉄名城線 八事日赤駅歩5分 地図
TEL:052-837-0068
URL:http://www.downey.co.jp/
オープン:1991年
営業時間:10:00〜22:00
ランチ:11:00〜14:30
定休日:月曜日(要確認)

2007.8.25 Y.M


K'S PIT

[半田]
# 184

 その一軒家ダイナーは、小高い丘の上にあった。


●高級住宅街

 名鉄河和線・知多半田駅または成岩(ならわ)駅から徒歩15〜20分――店の近くの図書館のアクセスにはこうあるのだが、夕闇が降り始めていたので道路端で迷わず右手を上げると、タクシーはやがて思いがけないくらいくねった山道を登り始めた……いやー、歩こうなんてミョウな考えを起こさないでよかった!等高線のない地図からはこのような標高差は読み取れない……って、そりゃそうだ。

 知多半島の"背骨"に当たるであろうこの丘陵地は、半田市内随一の高級住宅街である。15年前までは「ただの山だった」ところに、先の市立図書館や博物館、野球場、公園など、市民の憩いの施設が各種設けられて、美しい街並みを呈している。K'S PITはそんな中に「ふと」あるのだ。


●またもジョージーズ

 オーナー大村さんが高校生の頃、世は50'sブーム(名古屋ローカル?スーベニアの福永氏もまるで同じことを言っていた)。アメリカン雑貨の魅力に憑り付かれて、やがてコレクションを並べたカフェでも始めようと、せっせと蒐集に専念していた。ところがそのささやかな夢は、とある店の前を通りがかったとき、木っ端微塵に粉砕されてしまう。その店とは――またしてもジョージーズ・ダイナー!18歳、高校3年生のときである。

 こうして話を聴き集めてゆくと、このジョージーズはいったいどれだけの人の人生に影響を与えたのだろうかと、無くなりてなお、生ける若者達を走らす――その底知れぬパワーには畏敬の念をすら覚えるのである。

※ 参考:# 183 Cafe Downey [名古屋] # 170 Sekky's Diner [岐阜]

 ここから大村さんの人生はダイナー道まっしぐらになる。調理師として働き始め、23歳のとき渡米。ビザの期限までの3ヶ月間、アパートを一室借りて拠点とし、西海岸を中心に雑貨店めぐりやフリマのハシゴなどしながら蒐集した雑貨・アンティークは全てコノ部屋に放り込んで、合間にダイナーに足を向ける――というような「三昧」な3ヶ月を送った。


●25歳の大作

 そしてジョージーズとの衝撃の出会いから7年、25歳のときに始めたのがこのK'S PITである――25歳ですよ!よくぞまぁこれだけの立派な店を建てたもんです!もぉ〜びっくり!!

 「同じ失敗するなら、やりたい店をやっていたい」(オリバーの店主も同様のことを語った)――そんな想いを込めて2000年11月、この完全なるアメリカンダイナーを創り上げた。「これだけは譲れなかった」という一軒家。ぎんぎらステンレスのボディに水色のネオン管――店の前に立つと、店と「対峙する」といった感覚がある。店の中に「入る」と言うより、吸い込まれるような錯覚を覚える。

 入れば、思わず気を呑まれるくらいにある種荘厳なアメリカンダイナー。骨太である。ダイナーの象徴とも呼ぶべきベンチシートはオール特注(そりゃそうか)。8人掛けの巨大なシートもある。照明はグッと落とし目。部屋の隅の暗がりに空調の冷気が静かに落ちてゆく。

 白黒チェッカーズのフロアは店の中央部で一段低くなっており、フーズボール(テーブルサッカー)と、その色に合わせた青のシートのチェア&ラウンドテーブルが数組。奥には我が心のピンボール、ダーツ。ジュークボックスはSEEBURG社のQ160――推定1959〜60年製。現在鳴らず。弧を描くカウンターにはポップコーンマシーン。キッチンの出入り口には南軍旗が。

 鮮烈なダイナーである。ダイナーの「様式美」ということでゆけばジョージーズ無き今、頂点はこのK'S PITであるかも知れない。なにせ一軒家ですから。頭上にベランダも洗濯物も何もありませんから。あとは日本全国、どれだけ気合の入ったアメリカンダイナーが他にあるのか――ふと選手権など催してみたくなりました。無いのかな?全国アメリカンダイナー名鑑とか。


●ダイナーの顔

 聴けばこの辺り企業の研究所などが多く、海外からエンジニアがやって来て何ヶ月と滞在するそうである。その間の格好の遊び場or憩いの場としてK'S PITは重宝されていると。日本のビジネスマンが赤提灯に吸い寄せられるのと、同じ心理だろうか。

 サーロインステーキやスペアリブ、サーモンのムニエルほか、錚々たるメインディッシュもあるのだが、事実上のメインはバーガー類11種――「顔」である。他にサンド8種、ドッグ1種、ライスメニューは7種と豊富。

 チーズバーガー\750、プレート\850。BBQソースをかけるのがK'S PIT本来のレシピだったが、現在はソースなし。但し後述する大須店では従来のソースありのチーズバーガーを食べることができる。当夜はその従来のBBQソースありバージョンにて。生ビールはなぜかキリンラガー\500。

 ステンレス製のランチプレートを使い、上下オープンにして登場。付け合せはシューストリングタイプのフレンチフライにマカロニサラダ。ヨコに広い扁平バンズの下はピクルス×2、オニオンは生、厚く切ったトマト、サニーレタス、チェダーチーズ、BBQソース、パティ、下バン。

 バンズはシャリッと軽めに焼いた表皮にセサミなし。ナツメグ入りのパティは上からガーリックパウダーが振ってあり、実にガッツリとホットな存在感。これまたガーリックを使ったBBQソースと出会えば、ピリリと舌のしびれる甘辛さ。このコンビネーションは凄まじい攻撃力で――少々ガーリック過多のような気もするが――否が応にもこのペースで試合が運ぶ感じ。ガーリックと言うよりはキツ目の生姜といったインパクトだろうか。

 バーガー下半分の攻撃的な味わいに対して、上半分は平和で穏やか。溶け切らずに味と形をしっかりキープしたチェダーチーズにはどこか安心感があり、野菜陣の中ではとりわけスイートピクルスが全体の味の抑えに回って、後口を甘い余韻に持って行っている。この上下のコントラストはやや極端ではあるけれど、50'sダイナーらしいダイナミックな味わいを生み出している。


●かっこいいファミレス

 店を始めて最初の1年半、今でこそ8割は頼むというダイナーの顔・ハンバーガーはさっぱり売れなかった。出るのはパスタやポテトばかり……。そんな歯痒い時期を乗り越えての"今"である。

 目指すはかっこいいファミレス。「デニーズはダイナーである」と――コノ説、聴いたのは実はオーナーで3人目である。

 こどもからお年寄りまで、一家で楽しくバースデーパーティーなどできるような、そんなハートウォームなお店にしたいと。

 片やダイナーの趣味の世界を掘り下げれば、マニア度がどんどん増して特定の客しか来なくなる。逆に門戸を広げれば、趣味の世界は薄まってしまうという……この相矛盾する所与の2条件は、きっと全国どこの店においても同じように、永遠なる悩みの種であるに違いない。確かに悩ましい……。

 何度かランチを試みたが、定着しなかった。もう一度ランチをやりたいという、そんな思いを背負って今年'07年2月に出来た大須の2号店は11時〜21時の、念願の昼メイン。半田本店より規模は小さいものの、大須のアーケード街の一角にキリッと締まったステンレスボディをきらめかせている。


●ダイナーはめぐる

 結局、大村さん世代がジョージーズ/アップタウンを経験した最後の世代ということになる。ちょっと世代が下ると、もう知らないのである。なので彼ら若い世代にとっては、今度はK'S PITこそダイナー事始めである。

 大村さんは最後のジョージーズ経験者たる矜持を持って、自身が受けた影響や衝撃を次の世代、また次の世代へと伝えてゆく――そんな後進指導的な役割にも熱心で、実際、自分もこんなダイナーがやりたい、ハンバーガーがやりたいと、門を叩いてくる若者も少なくないという。大名古屋・大ダイナー循環――だいぶ見えてきましたね?

 「やはり東京のダイナーはスゴイですか?」と皆さんよく訊いてくるのだけれど、都内はクルマ社会でない上、ロードサイドにこの規模の、しかも一軒家という条件で店舗を確保することがきわめて困難であり、なので私が今まで見てきた限りで言えば、名古屋・東海圏の方がはるかにそれと呼ぶにふさわしいダイナーの店造り・店構えを実現できていると思う。K'S PIT――いやホント、この店構えは比類無いですよ。



― shop data ―
所在地:愛知県半田市白山町5-214-18
名鉄河和線 成岩駅歩15分 地図
TEL:0569-32-6155
URL:http://www.kspit.com/
オープン:2000年11月
営業時間:17:00〜翌4:00
定休日:月曜日(要確認)

2007.8.31 Y.M


8 cafe hamburger

[名古屋]
# 185

 またまた変わったお店に出逢ってしまった。


●テイクアウトの世界

 マスターは惣菜屋に8年、おにぎり屋に7年居た。と言っても自分の店をやっていたのでなく、おにぎりや惣菜などを製造・販売する会社に勤めていたのである。

 惣菜屋は売場づくりで決まるという。今日は何を特売にし、いくらで売るか。「コレが欲しくて」という目的買いの客に「コレもついでに」ともう一品、いかについで買いさせるか……などといったことを日夜考える人だった。

 おにぎり屋は物件探しに始まり、店舗の立ち上げ全般に広く携わった。7年というから相当な数の店をこなしたに違いない。そんなテイクアウト叩き上げのマスターが、イートインを始めたくなったのだという。実は長い間の夢だったのである。


●コーヒー好きの世界

 惣菜の流れでハンバーガーに行き着いたわけではない。話はもっとずっと意外である。

 マスターはコーヒー好きなのである。それも聴く限り、かなり王道な愛好家である。コーヒー豆を敷き詰めてベッドにして寝たい――と言う。ふらと入った喫茶店でブレンドを味わいながら豆の種類を当て、さらにそこから店主の人柄までイメージすると言う。モカを飲みながら遥かアフリカの大地に思いを馳せ、豆を収穫する女性たちの姿を思い浮べる……だからかなり王道な愛好家だと言ったでしょ。

 マスターはカフェがやりたかったのである。

 カフェの主役はコーヒーである。それに「付随するもの」として、マスターは1.サンドイッチ、2.ハンバーガーを思い付いた。ところが調べるうちに、すっかりバーガーが面白くなってきてしまったのである。ついには店名の一部を構成するまでになった。なのでバーガーを始めたきっかけは、流行りでも何でもなく、ほんの偶然だった。


●車道

 車道(くるまみち)の一帯は古くからの住宅地であり、特段用があって行く場所でもない。それこそコノ店を目当てに「目的買い」しに行くような立地である。近所にオフィスや病院といった「大口の客」があるわけでもない。

 ただおにぎり屋の頃に、この界隈は何度も視て回ったことがあり、そうした意味で土地勘ないしは愛着を持っていたそうなのだが、決めた理由は、この空き店舗の前を通ったとき、何かミョウに惹かれるものを感じたという、その程度のこと……ではあるが、実はしかしそんなことが非常に重要だったりもする。

 店がイイ。実はかのゼットンを手がけたデザイナー某氏による。

 推定築25年のマンション1F右隅のテナントは、前身はうどん屋だったそうで、その名残が入り口上部の窓の辺りに残っている。そのテイストを頂戴して、そのまま下に下ろしていった白い正面はユニーク。扉は引き戸です。お間違いなく。


●絵になる店

 戸を引いて中に入ると、頭上がウンと高くなっており、ファンが2機、高速で回転している。コンクリ壁をホール側白塗り、奥の壁はライトオレンジ、キッチン側は板貼り。ツヤ消したウッドを多用したカウンターには白いスツールが4脚。頭上に横長の黒板メニュー、そのヨコの酒瓶の並ぶラックも空中。「炭を使う」と聞いていたのもあって、暖色系で固めた店内は当初エラク暑っ苦しいなぁ〜と感じたものだが(この日の最高気温は37.2℃)、よく見ればなんとまぁ絵になる店じゃぁないですか!温もりある中にすっきりとした白を取り入れ、いと涼し気なる趣きも。天井に架かるダクトは、これまたうどん屋の置き土産とか――渡りに舟でしたな。

 たとえば壁に作り付けた調味料置きであるとか、ちょっとしたところに侮れないセンスがちりばめられている辺りが不敵。皿やナプキンにはしっかりロゴマークを配し、マスターの飄々とした人柄からは想像もつかぬポップなセンスと、並々ならぬ気合が感じられる。

 なに女の子受け狙ってんの?と小突きたくなる感じなのだが、実際スタッフの女子たちは皆コノ店の大ファンで、仕事を上がった後も、時間があればカウンターに座ってユルユル長居するのが一種お決まりなのだとか。人の紹介で店に遊びに来た人ばかりだそうなのだが、来れば百発百中、必ずコノ店の虜になるというコノ魅力――。

 とにかくココはカフェである。各々が好きな時間を楽しむ場所である。マスターは静寂を好み、自ら話しかけることは無い。時は静かに流れてゆく――。


●"classics"と"the premium"

 バーガー類19種、サンド9種。バーガーは大きく2種類。80gパティの「classics」(\390〜)と、140gパティの「the premium」(\880〜)。

 諸々勘案して、価格の安いクラシックの方を前面に押し出した。それと比べるとプレミアムの扱いはずいぶん小さい。

 「モスより安く」を意識したというのだが、昨今は名古屋においても新しいバーガー店が相次いで登場していることでもあり、モスを基準とせねばならない必然も急速に弱まってきているように思う。但しハンバーガーに対する価値観は現在、刻々と変化を続ける変動期の真っ只中にあるから、その中でバーガーをどう位置付け、どう行末を見定めてゆくかは、また難しい問題になるとは思うが。

 このバーガーメニューは、おにぎり屋の当時出逢ったフードコーディネーター某氏との共同開発。その人物無くしてコノ店無しというくらい、氏は重要な役割を果たしている。

 たとえばベーコンチーズを「ベーコンチェダーチーズ」、トッピングのトマトを「カットトマト」、サルサソースを「ホットサルサ」と書く辺り、「実はマニアな」息遣いが端々に感じられるのだが、でも表向きは「モスより安く」という――この辺りのバランスの取り方が見もの。

 流れるBGMも氏の選曲で、私の滞在中にはニコレット・ラーソンの「愛しのニコレット」や(このジャケ写も大好き)、マイケル・ジャクソンなどがかかっていた。


●備長炭

 安い方(classics)の基本はクラシックバーガー\390。チーズバーガーはチェダーチーズ+という、またまたマニアックな命名で\480。バンズの下にピクルス、オニオンは生、サウザンソース、レタス、ケチャップ、マスタード、チェダーチーズ、パティ、下バン。

 パティはどちらも炭火焼。どちらも牛肉のみ。合いではない。140gのプレミアムパティはビーフ100%。クラシックの80gパティはつなぎを使い、やわらかさを表現した。バンズは地元本間製パン(愛知県小牧市)の全粒粉バンズ。既製品なのだが、コレがおいしい!肉の調合から焼き具合まで「バンズに合うパティを考えた」というのが何よりの勝因だろう。既製品であれ特注であれ、要は素材をどう活かすかであり、どう合わすかという話である。

 オニオンを中心に野菜の食感もすごく活きている。レタスは冷水にさらした後、ドライヤーで乾かし、タマネギはきちんと辛み抜きして――そうした丁寧な仕込みをこの価格でこなし、そしてそれを当たり前のこととして特に気にもかけていない辺り、正直ちょっと惚れる。このパリッとしたレタスの歯応えをこの値段で提供している店――そうはないですよ。

 炭火の上に乗せてサックリ焼き上げたバンズ。一方、炭火ならではのコゲ味がプンと香ばしいパティは、じっくりやわらか〜く焼けている点で炭火の威力が遺憾なく発揮されており、味わい深い。

 ところが惜しむらくは、そんな繊細な味をすべて破壊し尽すくらいに、ケチャップ&マスタードが全体を占めてしまっている点だ。これでは中身が何であろうと関係無し。炭を使って焼き上げた苦労は台無しである。要はケチャ&マス味で食べさせる普通のバーガーに自ら成り下がってしまっているワケで、そんなバーガーならヨソでいくらでも食べられるし、パティは安い冷凍モノで十分だ。

 試みに、ウンとケチャ&マスの量を減らしてもうひとバーガーお願いしたところ、肉の良さがオモテに表れて、コノ素材を選び、コノ工夫を凝らした故がよく解かるようになった。ケチャップを食べに来たのか、ハンバーガーを食べに来たのか――それは重要な問題である。


●コーヒー氷

 極めつけはアイスコーヒー\380。コレが必殺!

 このアイスコーヒー、中に浮べる氷がコーヒーを凍らせた「コーヒー氷」になっていて、溶けても薄まらない……と聞いただけだと「ふぅ〜ん」だけど、本当に何十分経っても味が変わらないんだってば!!今回その威力をまざまざと思い知らされた。

 酸味も苦味もキツくなくクドくなく、ノド越しスッキリさわやか。だけど苦味がしっかりと香ばしく効いていて、この表立たない苦味とバーガーとは抜群の相性で(特に肉とかな)、口中に残る香ばしい苦味が食欲を刺激して、さらにバーガーを食べ進ませる。食べるとまたアノ苦味が欲しくなる――いやもぉ一緒に食べるとタマラナイですよ!とんでもない融合が始まります。こんなにアイスコーヒーと合うモノとは思わなかった。しかも\380でしょ。驚異的!豆は豆蔵さん謹製。

§ §

 そんなワケでプレミアムパティはまた次回――宿題が出来ましたネ。

 静かなカフェに動的なバーガー。しかも炭火。そしてゼットンのデザイナー……それら要素を巧みに操りつつ"イイ仕事"をするマスターの周りには、なぜだか美女が集まっている――妬ける店である。



― shop data ―
所在地:愛知県名古屋市東区代官町27-12 北條ビル1F
地下鉄桜通線 車道駅歩5分 地図
TEL:052-935-1318
オープン:2007年4月20日
営業時間:11:00〜23:30(LO)
(日曜日は〜20:00まで)
定休日:無休(要確認)

2007.9.9 Y.M


SUN-BURGER

[彦根]
# 189

 今秋9月1日にオープンしたばかりの近江牛を使ったハンバーガーショップ。


●南彦根

 静かな駅前である。コンビニなどは見当たらず(東口にスーパーがあった模様)、目に留まるのは、この小駅にしては多過ぎるビジネスホテル数軒。途中、松下の工場が見えたので、その需要か。

 駅からは県道に沿って平坦な道のり。クルマ社会なので、地元の人は駅から歩くこともないだろう。この一帯、稲作地帯と言えばまぁそうだが、県道528号(彦根環状線)に沿って家が建ち、生活に必要な諸施設・諸機能もそれとなし集まっている。

 「小泉町」の交差点でクロスする県道206号(三津彦根線)にはマルゼンや市内唯一のユニクロなどが並び、ここが地元の生活の中心だろう。そのスーパーマルゼンのハス向かいに我らがサンバーガー。なので人の集まる立地である。


●4代目はイタリアン

 ……スミマセン。↑あまりな時代錯誤と低質な駄洒落……あらためます。


●寿司屋の四代目

 マスター杉本さんは、彦根の城下に三代続く由緒正しき寿司屋の跡取り。つまり四代目。ところがこのご時世、寿司がクルクル回りだした頃から、回らない寿司はすっかり劣勢で、これではとても立ち行かぬと店じまいする同業も相次いだ。そこで四代目・杉本さんは、寿司からの路線転換も視野に入れつつ、知識見聞を広め、新たな技術を取り入れんと料理人修行に出たのである。向かうは京都・祇園――

 和食は実家で学べる(寿司の他、仕出しもやっている)。なので外に出て「洋」を修得しようと、祇園界隈のレストランを渡り歩くこと3年余。フレンチを皮切りに、あとはイタリアンが続いた。さらに瀬田の某リゾートホテルに1年半。ここでもイタリアンに配属。実家を離れて5年近く、洋食の道に学んだ。

 縁あって1年間、伊丹空港で「近江牛弁当」を売っていた時期もある。これは実家の調理場で作ったものを伊丹まで送っていたのである。

 さて直近で勤めていた外食店が閉店してしまい、実家に戻ってはみたものの、継ぐにはまだ早かろうと、せめて継ぐまでの間、家業を離れて、自分の思うことを好きにカタチにしてみたいと、それで寿司とは180度かけ離れたハンバーガーの店を始めることにしたのである(いや、案外共通しているか)。ひょっとすると彦根で最初の個人のバーガー店かも知れない。


●親善大使

 杉本さんのハンバーガーとの衝撃の出会いは高校時代。彦根市の友好親善大使として米国ミシガン州(五大湖沿岸……あっ、そんなつながりで)にショートステイしたとき食べた、アメリカンサイズのビッグなビッグなハンバーガーである。こんな食べ物があるんや!と、スケールの大きさに強烈なインパクトを受け、以後なんとなくハンバーガーの魅力に惹かれ続けてきた。ホテル時代には、最高の食材(の余り)を惜し気もなく使った「まかないバーガー」を作って好評だったと。


●表と裏

 理髪店とのカップリングのこの物件。裏手に回ると、たいそう立派な構えの農家の中庭がある(店舗の大家ではない)。「表=ハンバーガーショップ、裏=農家」というこのギャップがけっこう新鮮。

 寿司屋の血統なのか、店内、キッチンと差し向かいにカウンター5席。あとはコーナーにスツールがかろうじて2席ある程度の、文字通りのちょっとした「スタンド」である。BGMには軽快なウェスタンが流れていた。

 まだ「手探り」のメニューはスタンダードバーガーに始まり、チーズバーガー、エッグバーガー、ベーコンバーガーと、オーソドックスな並び。さらにその上に「佐世保風」とカッコ書きしたスペシャルバーガーがあり、現在5種類。サイズが3種類、S=パティ80g、M=100g、L=120g(スペシャルはM、Lのみ)。でお値段、スタンダードバーガーS\540、M\590、L\690って安ーっ!!と、その安さを強調するのは他でもない、パティに近江牛を使っているからである。


●近江牛

 チーズバーガーM\560を。お供に昼間っから缶ビール\350。店舗の契約上「揚げ物NG」ということで、付け合せはポテチ。

 バンズは市内の名店が作る、天然酵母で発酵の全粒粉バンズ。「その日焼いたものをその日のうちに」というある種理想の提供スタイルにて。ヨコに大きく、セサミの味強く、表皮に強い張りがあって、中も硬めのしっかりとした生地。その下にサウザンソース、レタス、オニオンはスライス、トマト、ピクルス、チーズ、パティ、ケチャップ&マスタード、下バン。

 チーズは「チェダー混じりのプロセス」ということで、チーズの調達にはどちらさんも苦労されているご様子(安定して手に入らないそうで)。このチーズバーガーはチーズ3枚のド迫力!野菜は市内で人気の八百屋に頼み、地物を多く使っている。

 さてここまでは前段。このバーガーの肝はなにしろ近江牛パティである。

 誤解無きよう敢えてつまびらかにしておくが、近江牛100%はさすがに無理と。なので近江牛80%にAUSSIE20%の比率である。僅か2割抑えるだけでも原価に影響してくるわけだから、国産銘柄牛がいかに値が張るかということだ。食感にやわらかさを出すため、タマネギを微かに配合。

 値段の話はどうでもよい。なにしろお〜いし〜い!!やわらかく、甘く、そして肉汁豊か。しかもしつこくないと来た。正直、野菜など無くてもよいと思った。「パンの間に肉」で十分!これは伝家の宝刀でしょう。理屈抜き!クセになります。


●腕前

 最初杉本さんは「近江牛」と謳うと、名前だけで判断されてしまうのでは――という懸念から、その名を出すことに抵抗があったのだが、肉屋から「自慢できるイイ肉なんだから、胸張って出せ」と肩を押されて、それで出すようにしたと。その肉屋は、彦根の飲食店がこぞって指名する名店だそうである。

 もちろん近江牛「だからおいしい」という等式は必ず成立するというものでもない。「名ばかり」の例はいくらもありましょう。やはりそこは間違いのない「腕」があってこその美味。よい素材を正しく調理してこそ、このような「幸せ」な結末に至ことができるわけである。

 その点でゆくと、この極上の肉になぜまた「ケチャップ&マスタード」なのか――つまりこの肉ならもっとおいしい食べ方があるんじゃないかとは、シロウトながら思ってしまう。

 だってケチャップとマスタードって、卓上に置いてあって「お好みでどうぞ」という調味料でしょ?何もそれを最初からガッチリかけて、味を決めてしまう必然があるのだろうかと。

 いえ、それ自体おいしくないとか、オカシイと言っているのでなく、そもそも「ハンバーガーとくればケチャップ&マスタード」でOKなんです。なんですが、せっかく和洋の腕とこの伝家の宝刀パティをお持ちなのだから、既成のバーガーイメージはぜひ一度ナシにしていただいて、もっと純粋に「この肉はどうすればおいしいくなるか」というところを追求すべき――と、ご当地出身の田原総一郎張りに、けしかけておきます。


●お買い得

 いずれにせよこの値段でこのバーガーは途轍もなくお得!買いですよ!買い!パティ追加は\300。ちなみにトッピングには、当初なんとフォアグラ\500(カナール)があったそうで。

 「彦根の街外れ」に「本職は板前」の「イタリアンの覚えもある」マスターが始めた「小さなバーガースタンド」という取り合わせが、考えるほどにシュールな新店。



― shop data ―
所在地:滋賀県彦根市戸賀町240
JR南彦根駅歩10分 地図
TEL:090-7104-0510
オープン:2007年9月1日
営業時間:11:30〜20:00
(土日は売切れ次第終了の場合が多い)
定休日:第1・第3水曜日、木曜日(要確認)

2007.10.23 Y.M


K's Burger Shop

[福岡・大橋]
# 193

 生まれて初めて西鉄に乗った。西鉄福岡(天神)駅を出て、薬院を飛ばし、西鉄平尾高宮大橋――この辺りの天神大牟田(おおむた)線の各駅には、ハンバーガーショップ/ダイナーがちょうどいい塩梅に並んでいる。というワケでこの度のお題は……大牟田線"ずばり"途中下車の旅


●大橋

 大橋は学生の街という。周辺には"大中"の学校が多くあり、朝夕は彼ら通学客で大いに賑わう。メインは東口。店は「裏手」に当たる西口に在るのだが、それでも西鉄福岡、西鉄久留米に次いで、西鉄全線で3番目の乗降客数を誇るこの大橋駅の徒歩1分圏に位置するワケで、「人通りが少ない」などということはまるでなく、全国の他のバーガー店と較べても、かなり恵まれた立地のように思われる。

 オーナー白水(しろみず)さんがこの狭隘な物件で店を始めたのは'06年4月18日。ハンバーガーとの出会いはそれよりウンと遡った昔のことである。


●リサとバーガーイン

 白水さんのハンバーガーとの出会いは小学校2,3年の頃、仲良しの家のおばさんに連れて行ってもらった、西中洲の「ハンバーガー リサ」でであった。リサのハンバーガーを食べた白水少年は「こげなウマかモンがこの世の中ばあったったい!?」というくらい強い衝撃を受け、以来その思いを忘れることがなかった。日本にマクドナルドが上陸する前夜――当時はまだ牛肉など頻繁に口にする時代ではなかったのである。


 高校時代、ディスコでひと汗掻いた後に食べるリサのハンバーガーを、カッコ良く感じたりもしていた。

 やがて社会人――出張で東京に行った折、六本木に「ハンバーガーイン」という店があると聞き、訪ねてみた。すると幸運にもこの日、オーナー夫人と2時間あまりにわたって話し込む機会を得、「いつか自分もハンバーガー屋をやりたいんです」「始めたら必ずご報告しますネ」などと熱く思いを語ることができたのである。

 ロアビル前にあった歴史あるコノ店は'05年10月に閉店してしまい、結局この一度切りしか行くことは叶わなかったが、それでも六本木のハンバーガーインと博多のリサは、特別な思いを伴う、あるいは日々の「励み」となる店として、白水さんの胸の内に今なお深く生き続けている。


●ショップとスタンド

 こうして長い間、ハンバーガーとは常に「何となく宿命」な関係であり続けたのだが、勤め先の事業所が九州から撤退することに決まった辺りから、心中ずっとキープしていたこの計画が急速に現実味を帯びてくることとなる。

 スーパーマーケットのマネージャーに転じ、夜勤の日には、独り夜な夜な食材の研究などを重ねた。奥様は平尾の名店SEA DINERで働き、オーナー馬場さんからハンバーガーの何たるかをみっちりと仕込まれた。この頃より物件を当たり始め、3年かけてようやく辿り着いたのが、大橋駅徒歩1分にあるこの場所だった。

 ケーズ・バーガー「ショップ」とあるが、実際には「スタンド」と呼ぶ方がふさわしい。よくもこんな狭いところでやれるモンだ――と思わず感心してしまうくらい狭小な店である。暫定、国内「最狭」。

 元はたこ焼き屋だった。必要なモノを上手く収めるには大変な苦労が要ったが、おかげで保健所からはお褒めの言葉まで戴いた。なにしろシロウトの始めた店なのでムダな買い物が多く、当初はキッチンの上に寿司ネタを入れる冷蔵ケースがあったという……まぁ握りませんから。バーガーは。


●破格

 バーガー類9種。ホットドッグ1種。調理場の問題か、フィッシュやチキンなどフライを挟んだ「非バーガー」が無く、結果としてかなり正統なラインナップになっている。レギュラーがパティ80g、ビッグサイズが120g。1日10個限定のヤキニクバーガーを除き、どのバーガーにもビッグサイズがあり、先頭に「K's」と付けて「K's ○○バーガー」と呼ぶ。他にサンド、サイドにフライドポテト、ハッシュ(ド)ポテト、オニオンリングなど。

 チーズバーガーレギュラー\430。上バン(クラウン)の下はマヨネーズ、オニオンスライス、黒胡椒を振って、厚切りのトマト、「高さが欲しくて」ふんだんに挟み込んだレタス、ケチャップベースの特製ソース、チーズはチェダー1枚じゃ物足りないとゴーダチーズも溶かし、パティは国産牛を使用、で下バン(ヒール)――コレは破格も破格、この値段では到底食べられない内容である。1個100円のファストフード店で430円積んだって、こんなバーガーまず出て来ませんから。涙ぐましい努力と工夫の上に積み上げられた、価格破壊的本格バーガー。

 正直こんなにおいしいモノが出て来ようとは思わなかった――。

 ただし、特製ソースとマヨネーズの量がやや多く、パティの味は消されがち。このバランスでゆくなら、別に国産牛を使わなくても良いように思う。レタスも同様。この日(時期)は葉肉の厚い福岡産だったというのもあるが、この量には食べ応えすら覚えた。バランスを考えればここまでは要らないか。

 工夫のおかげでチーズは味の主張がハッキリ効いており、バンズも及第点。で、この味わい――「安い」というのが率直な感想である。せめて軒先にテーブルの2つも並んでいれば、あるいはせめて佐世保のように、すぐ近くに座って食べられるベンチなどあれば……食べているところをもっと見せたいバーガー。やっぱり熱々のうちに食べてもらうのが一番でしょ。


●西流取締

 ときに白水さん、博多祇園山笠の運営に当たる「流(ながれ)」のうち、十一町(地区)から成る大所帯「西流(にしながれ)」の取締を務める。

 取締とは、その町の顔であり代表者であり、各町内から任命された人が就く、博多の町では大変に名誉ある大役である。「最近舁き(かき)手がいなくなってねぇ」などと、作る合間に常連さんと話していた――どちらも後継者不足のようで。

 なので7月9日から15日まで、「お汐井取り」から「追い山」までの期間、店はお休み。ラグビーとアメフトで鍛えたその体格は舁き山にはもってこいだろうが、しかし今の店にはちょっと大き過ぎるだろう。今の「スタンド」も悪くはないが、「店内」のある、文字通りの「ショップ」に引っ越しできる日が一日も早く訪れることを――。

 来る4月18日で祝!2周年!!


もうすぐ2周年!

― shop data ―
所在地:福岡県福岡市南区大橋1-8-8
西鉄天神大牟田線 大橋駅歩1分 地図
TEL:090-5938-1919
オープン:2006年4月18日
営業時間:11:30〜20:00
定休日:火曜日(要確認)

2008.4.12 Y.M

TOMATO FARM

[福岡・高宮]
# 194


●高宮

 大橋からひと駅戻って、高宮。この高宮と隣の平尾の辺りは古くからの住宅街であるが、大牟田線と並行して走る高宮通りのケヤキ並木はまだ若く、閑静な佇まいの中にもさわやかな印象を与えている――おそらく電線が無いのが、そう思わせる一番の理由だろう。

 20年以上前のこと、この高宮通りを中心に大がかりな区画整理が行われた時期があった。電線はそのとき地中に埋められたのだが、ちょうどこの同じ頃、高宮で最初のハンバーガーショップが産声を上げている――トマトファームである。


●味の保証

 若久(わかひさ)川という小川(放水路)が前を流れて、遮るものなき好立地。今年で23年――「20数年ともなると、もぉ『味の保証』みたいなもんでしょ」「久しぶりに来たお客さんに『あっー!あったー!!』と言ってもらえるのが嬉しい」とは、現在コノ店をほぼ一人で切り盛るお母さん。

 ご夫婦で始められた。ご主人は会社勤めをしていたが、いつか「食べ物屋」をやりたい夢があり、シロウトでもできそうな……ということでハンバーガーを選んだ。よく耳にする開業の理由だが、されどきっちりと積み重ねられた23年という歳月を前にしては、そんなことなどどうでもよい。

 オープンは'85年。ハンバーガーというよりコーヒーショップという趣の店内。入り口にはカララン……と入店を告げるベルが取り付けられている。


●1985年

 以前店先に架かっていた看板を見せていただいた。なんとご主人が手彫りしたものである。角を曲がる人がよくコレにぶつかったため、外してしまったという……何たる理由。

 ご主人は先年亡くなられ、11年前からお母さんがほぼ一人で切り盛りしている。当初は23時まで営業していたが、周りの閉まるのが早いため、今の時間に落ち着いた。

 1985年というと、あだち充「タッチ」の連載真っ最中の時期である。浅倉南の父が営む喫茶店「南風」など、時代的に言えばコノ店もおおむねそんな空気……それを言うなら「みゆき」に登場する喫茶店「ドラゴン」もそうか。通りのけやき並木や店横に伸びる蔦の葉の雰囲気と相俟って、ハナからどこかノスタルジィを覚える店である。

 前述の道路工事がオープン早々1年続き、その間はサッパリだったが、工事の終わりと共に中高生が大挙して押し寄せて来た。チェーン各店より量の多いポテトが評判を呼び、生徒諸君は高宮駅で途中下車する執心ぶり。バブルの頃が全盛期、今では多少落ち着いて、客層も大学生から20〜30代が中心になった。


●和牛と無添加

 ハンバーガー類11種。当時は「甘いのが流行っていた」が、今は控え目にしているという点以外、味はほぼ当時のまま。値段も10年以上前から不動で、ハンバーガーのレギュラー¥230は創業より不変。パティに使う牛肉は和牛専門店から仕入れており、添加物不使用。肉屋とは創業以来20数年、安定価格のお付き合いという。持つべきものは良き隣人と――。

 パティはレギュラー60g、ビッグ120g。これはご主人が学生時代、東京で出会った巨大ハンバーガーの鮮烈な印象がモトで始めたもので、店をやるに当たっては最初から「サイズは2種類」と決めていたのだという。

 アルミホイルに包まれている。紙包みなら大小2種類必要だが、ホイルならサイズに合わせて切る長さを変えれば済む――というこの理由、全く同じことココでも聞いたな

 セットが充実。ドリンク付の「サービスセット」はハンバーガーセット\360。コレにポテトSが付くと「\500セット」。「\600セット」になるとポテトSSでハンバーガーはBigに……覚えられました?他にフライドポテトL¥280、チキンナゲット(5P)¥300〜、若どり和風から揚げ¥320、サラダ、スープ、ドッグなど。ファストフード店的な楽しみに満ちた店である。


●家庭の味わい

 お母さんのオススメはトマトファームバーガーR\260、ポテトサラダを挟んだカリフォルニアバーガーR\360。雑誌取材で人気のめんたいバーガー\300は鶏肉のミンチ。持ち帰りのドリンクはコカコーラかジンジャーエールの「瓶」というめずらしさ。

 トマトファームバーガーR\260。上バン(クラウン)の下に酸味効きまくりのマヨネーズ、踊るレタス、実に分厚いトマト、溶かさず味の濃いチェダーチーズ、特製ソース、パティ、下バン(ヒール)。

 和牛パティは脂少な目。主役たるトマトの存在がバンと前面に出ていて、効果的。食べやすい上に後味さっぱり。「おうちで作るような」「ハンバーグとして食べてもおいしい」というコンセプトそのままの、家庭的な、ホワ〜ッとした味わいのハンバーガー。


●完食が誇り

 当時東京にストロベリーファームというカッコイイ店があったそうで(調布にあった店か)、これにあやかって名付けたというのが店名の由来である。2年前にホームページを作成。ネット通販もやっている。

 以前はみなさん食べるのがヘタだったが、今では残さずキレイに食べてくれるのが「誇り」というお母さん。力まず、気負わず、悠然と、流るるままに高宮通りの四半世紀を見つめ続けた、手造りハンバーガーの店。ハンバーガー リサ無き今、博多で「ハンバーガーと言えば」まず名の挙がる、老舗中の老舗である。ウィキペディア「高宮駅」の項にも出て来ます――ソレ、凄いことですヨ。



― shop data ―
所在地:福岡県福岡市南区野間1-2-12
西鉄天神大牟田線 高宮駅歩3分 地図
TEL:092-552-0481
URL:http://www.tomato-farm.net/
オープン:1985年11月25日
営業時間:11:30〜19:00
定休日:月曜日(要確認)

2008.4.17 Y.M

burgers

[福岡・高宮]
# 195

 出だしはやや重く――。


●思い詰める

 オーナー城後(じょうご)さんは大学・就職・結婚まで、生まれてこの方、ずーっと博多で過ごしてきた。この間さまざまなことから、日々の生活に行き詰まりを感じ(しかも夫婦ともども、それぞれに)、思い詰めた果てに「一度博多を出て、別なところでイチからやり直そう」と結論したのである。「ハンバーガー屋やります」と言って10年勤めた会社を辞めた――そう言われて受け容れた上司も上司である。

 とは言え腕の覚えは学生時分、モスバーガーでバイトしていた程度。どうせやるなら外人に見てもらおう、彼らに「YES!」と言わせれば、どこででも通用するんじゃないか――と、そんな思いを胸に、新天地沖縄へと飛び立ったのである。


●沖縄へ

 移住後しばらくは、ひたすらのバカンスモード。合間に物件探しと試作を続けた。ある日散歩中、空き店舗の看板がふと目にとまり、そのままそこがバーガーズ創業の地となった。


 那覇から車で40分、北谷(ちゃたん)という町にある。300〜400坪はある広大な駐車場の端にポツンと建つ、元焼き肉屋だった木造店舗を明るいクリーム色に塗り替え、いかにも南国らしい開放的な店にリニューアルした。店内16席+テラス最大20席、向かいは安良波公園、その向こうはアラハビーチ――たまらぬロケーション!(→地図)

 用あって行く場所でもなし、しばらく客入りはサッパリだったが、やがてじわじわと日本人もアメリカ人も来始めて、特にアメリカ人はバーガー食べて泣いて喜んだという。沖縄のburgersは極めて盛況だった。

 その成功を見て、商売に「不向き」とされていたこの場所に、後から8店が続いた。のんびりした場所で気ままにやっていた筈が、急に気忙しくなり、手狭になり、煩わしさが生まれ、お子さんが小学校に上がるタイミングだったこともあり、福岡に戻ることに決めた。

 かくして4年弱続いた沖縄のburgersは'06年2月に閉店。同年10月27日に福岡市南区野間二丁目に再開した――という次第。なお北谷の店舗跡は、現在別のバーガー店になっているが、両店につながりはない。


沖縄のburgers(写真提供:城後オーナー)

●野間へ

 本当は街中に出したかったが条件合わず、この近郊の物件に決めた。高宮駅から歩けばバス停3つほどの距離。野間2丁目の交差点、あるいは野間のトンネル(筑紫丘トンネル)の入り口などとも言われる、ソノ所在地。

 ドラッグストア級に大きな店である。どうせなら街中ではできないことをやろうと、その大きさを「ムダに大きく」使っている点が何より魅力。このガランとした奥行きこそ、南国リゾートの空気そのものである。ホールも大きければ、キッチンもまた巨大。「せせこましさ」の一切無いのが痛快だ。

 床に板を張り、壁はカラーガイドで色指定した特注色――沖縄の店と全く同じ配色にした。ただし野間のこの店は、総壁面積があまりに広過ぎて「こげんすると!」というくらいペンキ代がいったと。

 このだだっ広いフロアに並べられた椅子、ソファ、スピーカー、ピンボール――ひとつひとつ語ってゆけば、底無しの薀蓄が繰り広げられるだろうことは火を見るよりも明らかなのだが、しかし今回はスペースの都合上、涙を呑んで省かざるを得ない。特に続く見出し↓を見て狂喜乱舞、泪にむせばれし諸兄諸姉は、ぜひとも一度オーナーとお話しされんことをオススメせん。


●サウンドストリート

 ところで城後氏のアメリカ好きは中学生の頃から始まっていた。

 きっかけは『アメリカン・グラフィティ』。劇中登場するクルマ、ファッション、音楽に次々と心奪われた。とりあえずYMOを聴くのをやめ、ロックンロールからロカビリー、そして14,15歳にしてドゥ・ワップに辿り着く。NHK-FM毎週木曜夜9時放送、山下達郎がDJを務める「サウンドストリート」を愛聴し、エアチェックしたテープは200本。愛用のテープはTDKのAD60ですよ!

 その他古着の造詣(特にジーンズ)など深遠極まりないものがあるのだが、長くなるので割愛……。

 そんなアメリカ好きが造ったコノ店だが、しかしどっぷり&コテコテに造り込むことはしなかった。むしろ誰にとっても居心地好く、過ごしやすい空間を心がけた結果出来上がったのが、コノ店である。


●和牛の自家製ミンチ

 さてバーガー類15種。ドッグ3種。アルコールも各種。

 チーズバーガーレギュラー\730。食パン生地に近いバンズは、焼いた表面がカリッとライトな食感。エッジもカリッと印象的。

 和牛のブロック肉をスライスの状態で仕入れ、チョッパーで二度挽きにミンチして手作りするパティは、丸く高さがあって、ハンバーグ的。しかし身の詰まったタイトな食感で、しっかりと歯が突き通ってゆく感じである。和牛だけに後味やさしく、やわらかく、食べやすく、何ともマイルドな旨味が支配する。溶かさないチーズの上から特製ソース。全体に明快な味わい。

 この日のバンズの出来が大き過ぎたか、パティとバンズの直径が著しく違い、両者が重なり合う時間が少ない、ないしはパティに到達するまでの時間が長くなってしまう点が難。あと出来たら新鮮野菜をふんだんに使って欲しいかな。「パンと肉だけ」というバーガーに、一般的な理解が果たしてどこまで着いて来るだろう――という疑問も多少ある。

 しかしここまで「肉」を全面に押し出したメニューもそう無いかも知れない。多くのバーガーはパティを中心に、それに合う「+α」という考え方で組み合わさっている。安心・安全疑いなしの手作りパティだからこそ胸を張ってアピールしたい、オーナーの強い自信が窺える。


●とろけるアーバンリゾート

 付け合わせは太めのシュースト(フレンチフライ)とタテに切ったピクルス。

 食の安全に対する関心の高さも手伝い、特に主婦層に人気がある。こどもたちの大好きなハンバーガーを安心して与えられること、そして広々としたフロアにベビーカーを押したまま乗り入れられることも利点だろう。専門店として、自分たちの作るハンバーガーの安全について堂々と語れることこそ、ファストフードとの何よりの決別である――と城後さんは語る。

 こんな気持ちのイイ店、近所にあれば間違いなく通い詰めている……いや、入り浸っていることだろう、きっと。南国沖縄の光と風と波音を伝える、極上の骨抜きアーバンリゾート――ついつい現在地を忘れます。



― shop data ―
所在地:福岡県福岡市南区野間2-5-13
西鉄天神大牟田線 高宮駅歩15分 地図
TEL:092-512-1259
URL:http://www.burgers-japan.com/
オープン:2006年10月27日
営業時間:11:30〜22:00
定休日:水曜日(要確認)

2008.4.23 Y.M

SEA DINER

[福岡・西鉄平尾]
# 198

舞台はふたたび博多。トマトファームのある高宮から西鉄福岡(天神)へひと駅戻って、平尾の駅――。


●クルマ好き

 ここ平尾は住宅街とオフィスが混ざり合う、境界線のような場所であるという。駅から歩いて2分足らずの好立地に、この輝くアメリカンダイナーが出来たのはちょうど10年前。

 オーナー馬場さんの終わり無きダイナーへの挑戦は、自身のクルマ好きからスタートした。アメ車の雑誌を眺めるうちに、興味の対象が背景のダイナーへと拡大、ついには自分の手で再現してみたくなった――しかもなるべく"忠実"に。

 のべ10年近く、イタリアンをはじめさまざまな飲食店を渡り歩いた人である。ダイナーオープンを決意したのが20代の前半。始めたのが27歳。始める際には親戚一同全員反対の憂き目に遭い、「いつか見ておれぇ〜」的悔しさをバネに買った愛車がシボレーのC/K・94年製という、根っからのクルマ好きである。


●目指すは「ふつう」

 店は道路よりやや奥まって在り、店前には駐車スペースがゆったりと確保されている。

 ステンレスボディに青いネオンがクールなファサードを一歩入ると、店内は戸惑うくらいにガランとしている。白壁に掛かるROLLING ROCKのプレートと、ベンチシートに並行して横一線に取り付けられたマガジンラックを除けば、装飾らしい装飾はほとんど無く、殺風景にすら感じられる。

 これまで見てきたダイナーは、無数のネオンサインがきらめいて、ジュークボックスありピンボールあり、天井にはファンが回っていたりと、こってり濃厚&ド派手な、極めて彩度の高い場所ばかりだったが、引きかえコノ店のシンプルさはどうだ。その辺りの匙加減こそ、馬場さんのまさに意図するところなのである。目指すは「ふつう」――。

 「いかにも」なアメリカン雑貨で飾り立てるのでなく、実際に向こうで使われているモノ――シュガーポットやナプキンディスペンサーを始めとする店舗用品、プロ向けに造られた厨房機器など――アチラの店舗で「ふつう」に業務で使用されているモノを使ってこそ、真にアメリカらしいダイナーなのではないかと。


●BUNN

 特に米国BUNN社製のコーヒーブルーワーは馬場さんの大のお気に入り。しかし値段が"べらぼう"なら大きさも"べらぼう"、消費電力に至っては極度に"べらぼう"という……まぁその辺からして、アメリカらしいと言えばらしいのであるが。

 壁にいろいろ飾っていた時期もあったが、今ではほとんど外してしまった。当初あったカウンター席も、大量の注文をこなしながらの応対の難しさもあって今は無く、代わりにコロナライトが一直線(アルコール度数3.8度)。そしてフロアにはパッキリと色鮮やかな青いベンチシートが、不思議な重量感を伴って配されている。


●白と青

 色使いは白と青――。はじめ「SEA DINER」と聞いて、百道(ももち)辺りの海縁(うみべり)で、潮風とカモメの鳴き声に混ざりやっている店を想像したのだが、実際のコノ店は駅至近かつロードサイドという、願ってもないこんなオイシイ立地に着けている。

 昼はパスタ、ピッツァ、ホットドックなどでランチセットを出し(いずれも終日食べられる)、夜ならバッファローウィング、フィッシュ&チップスなどの王道的サイドメニューももちろんあるのだが、圧倒的一番人気はやはりハンバーガー。

 「人気過ぎるくらいの人気」になって、今では半ば「ハンバーガー屋」のイメージにとらえられている辺り、馬場さんにはいささかバランス悪くも思えるのだが、それでもハンバーガーはダイナーに無くてはならない「マスト」メニューであるだけに、今後も力を入れてゆくことに変わりなく、すると益々人気が高まって……と、おいしい「ループ」は延々繰り返される。でも極めたいのはあくまで「ダイナー」と。


●190g

 バーガー7種類。パティはなんと190g!ヨコに広げて厚みをなくし、食べやすさを重視した。チーズバーガー\950。野菜は外に出た状態で供される。挟むと上からクラウン(上バンズ)、タテに切ったディルピクルス、分厚く切ったトマト、レッドオニオン、レタスはポピュラーな玉レタスとリーフレタスの2層構成、ケチャップベースのバーガーソース、チェダーチーズ、パティ、ヒール(下バンズ)。

 和牛と米国産牛を合わせたパティは、コレが一見粗雑な感じに見せながら、脂豊かで「実はおいしい」というフェイントもの。コショウの振りも適量。バーガーソースがまた的確な量と役割で、たださえ大きなこのバーガーをストレスなく食べ続けさせることに十二分に威力を発揮している。でも、さすがに最後の1/4はキツかった〜!(ちなみにこの日、5バーガー目にて……)

 添えられたマヨネーズを乗せるとコクが増して、深みのあるマイルドな味わいでいただける。あとはもう少ししっかりした生地のバンズを選べば、さらにおいしさが増すだろう。パティに合わせてヨコに大きなバンズなので、何度も口に運ぶうちに、手を添えた辺りから次第に千切れていってしまうのがやや難。いかにもアチラらしいダイナミックで大味なビジュアルを体現しつつも、しっかりおいしいという、内外両面を併せ備えたバーガー。なにしろ迫力!


●アメリカンベーコン

 ミラーの樽売りが終わり、ビールは今は瓶のみ。この日のお供はオーナー推奨のミラーのMGD。付け合せに太めのシュースト。BGMはNYのFM局の放送がリアルタイム。ネオンの似合うロックが賑やかに流れていた。

 サンドイッチ、クラムチャウダー、パンケーキ、レモネードといったダイナーの王道が現在メニューから姿を消している一方で、「これはヨソに無いでしょ!」という、まさにダイナーの神髄的必殺メニューがアメリカンベーコン\700。目玉焼きにハッシュポテト、そしてしっかり焼き込んだ米国産ベーコンが丸いプレートに無造作に乗った涙モノ――かなり趣味入ってます。コノ店の紹介は、あるいはこのプレート一枚で足るかも知れない。

 フランスやイタリアや中国の食堂を再現するのに、ここまでの情熱を燃やす人はあまり居ないが、なぜかアメリカの食堂だけは、一生を懸けるに値するほどの憧れの対象となっていることは、冷静に考えると不思議である。案外と……上に挙げたどの国の料理よりも「文化」と結び付いて語られることの多いのは、実はアメリカ料理であるかも知れない――まぁいろいろと理由も思いつくワケですが。しかし大変な国と絡んでしまったなぁ。

 オーナー馬場さんの志向する「ダイナー」への道のりは、10年を経た今にしてなお半ば。アメリカから取り寄せた自慢のメニューボード(コルトン)を壁の端いっぱいまで延ばすことが夢という、「ダイナー道」永遠の求道者の店。


扉の向こうにダイナーがある

― shop data ―
所在地:福岡県福岡市南区高宮1-1-10
西鉄天神大牟田線 西鉄平尾駅歩2分 地図
TEL:092-522-8299
URL:http://www.seadiner.com/
オープン:1998年10月28日
営業時間:11:00〜24:30(24:00LO)
ランチ:11:30〜14:00
定休日:第1・3・5月曜日(要確認)

2008.5.23 Y.M

Esquerre

[西宮]
# 199

 「パン屋が始めたバーガーカフェがある」と去年、雨の名神高速を走りながら、AMBの岩波さんから聞かされて以来、コノ店にはひとかたならぬ興味があったのである。一体どんなバンズで合わせてくるのかと――。


●六甲山の向こう

 西宮(にしのみや)と聞いたら、私は阪急沿線をまず思い浮かべるのだが、その認識は甘過ぎた。神戸市もそうだが、この西宮市もタテ(南北)に異様に長いのである。浜風そよぐ甲子園球場から、山を分け入って中国自動車道のさらに向こうまで、全てが西宮市である。最初地図で所在地を確かめたとき、どうやったら行けるのかと途方に暮れたものだ。神戸の人からしても六甲山を越えるということは、とんでもない外国へ行くことであるらしい。

 神戸鉄道三田(さんだ)線の岡場駅が無理矢理言えば、最寄り。山口町というそれこそ山間を切り拓いて造った住宅地に、ベーカリー"エスケール"が誕生したのは今から15年前のこと。

 聞いた話をウンと縮めて書くと、三澤社長は大学を出てからパン作りの道を目指したのである。今でこそ「手に職を」と叫ばれて久しい御時世だが、「なりたい職業」1位が証券マンだった当時とすれば、大学を出てまで職人になるなど、まさに無謀の極みだった。

 神戸ベルに入社。パン職人になりたくて入ったのに、大卒というだけで事務職へ回そうとする会社に直談判して、ようやく工場勤務になったものの、それでも工場長だの幹部候補だの、すぐそんなレールを敷こうとする。そんな中入ったパンの道は職人の厳し〜い世界だったが、「今に見ておれ〜!」な根性で寝る間も惜しんで技術を磨き、やがて入社3年、現在にも通じる大きな転機が三澤社長に訪れた。


●Three Years in L.A.

 神戸ベルが米国ロサンゼルスに出店することになり、オープニングスタッフとして「行って来い」と抜擢されて、二つ返事で「行って来まーす!」と応えたところが、パンの技術者は三澤さん独り切り(他にケーキ担当1名)という、孤独の旅路――。

 慣れぬ土地での生活もこなしつつ、ゼロから店を立ち上げて、さらには泣き面に蜂が如く、キッチンは一切英語の通じぬ"鉄壁の"メキシカン。ワン・ツー・スリーすら知らぬのだから、当然のことミルクもバターも知る由もない。「じゃあ俺が覚えたる」と言うことで、逆に三澤さんがスペイン語をマスターした。

 結局3年間をアメリカで過ごし、帰国後はベーカリーの店長を歴任。きっちり10年で退社して、自分の店を始めようと思ったところがバブル崩壊直後――とてもじゃなし神戸市内は高くて店が出せない。

 そこで当時はまだ畑も多かったこの山口町に出発の地を求めた。いろんな人から反対されたが、とりあえずスタートさせないことには意味がない。場所云々とか後でいい。お客さんが来なかったら「僕が行こう」――と思って始めたのが15年前。


●"ステルス"ベーカリー

 ところがどこから噂を聞き付けたか、クルマで20分ほど離れた三田(さんだ)の辺りからもお客さんが大挙して押し寄せる大変な騒ぎとなり、一ヶ月で体が動かなくなって、ついに一週間ほど店を閉めた。その後は「自分のペースでせなあかんな」と思い直し、細々と継続。

 3年ほど経って"隣"が空いたので移転するが、また2年経って、同じ山口町内の現在の場所に移った。過去2店の反省をもとに、今回は自分の思うとおりにデザインしてもらうことに。そのデザインが変わっている――「『パッと見たらパン屋ってわからんように設計してくれ』って言ったんですよ」。

 街中なら知らず、この山口町、そもそも歩いている人が居ないので「パンが並んでいるのが窓越しに見える」意味がまるで無い。だから外からは「パンが絶対に見えない」という異様な造りになっている。当初は看板すら無かったので、ふつうの「民家」と思っていた人も沢山いたようである。

 事実2Fは三澤さん夫妻の住居だった。しかしベーカリーの人気が高まるにつれ、売り切れたり、焼き上がりまで待つ時間が生じたりなどしだしたため、まだ3年しか住んでいない我が家を改装してカフェを始めたのである。それが6年前。


●エスケール・カフェ

 木造2階建。確かにパッと見は、一般の御宅にも見える。

 窓の内にベーカリーを覗き見つつ、横手の通路を回って階段を上ると、天井のすっきり高いワクワクするようなカフェに行き当たる。社長の趣味がコテンパンに全開の、おもちゃ箱のような空間。ファイヤーキングのマグやら、得体の知れぬハワイみやげの花瓶やらオモチャの類、天井にはウィンドサーフィンのロングボードが渡され、近くにハシゴ段が架かっているのだが、コレはどこに向かって登ってゆくのか、実は無意味。キッチンの音が高天井に響いて、活気を感じる空間になっている。

 ゆったりと配された椅子机もアンティーク。入り口入ってすぐのソファはデンマーク、ウェグナー製のビンテージもの。くつろいだ昼下がりの店内にたゆたうハワイアンの源は、英国王室御用達、スコットランドLINN社のCLASSIK――垂涎モノのナチュラルサウンドである。

 人気のパスタをバッサリ切って、バーガーとサンドイッチに絞り込んだ。と言ってもハンバーガーはダイナマイトバーガー1種類だけである。パティ100gのスタンダードサイズ\700、150gのラージサイズは\950。これを基本に、あとはトッピングで――というスタイル。サンドイッチは常時2,3種類が日替わり。お酒もひと通り楽しめるが、基本的にはカフェである。


●ダイナマイトバーガー

 ダイナマイトバーガー、スタンダードにチーズトッピングで\800(安っ!)。自家製セミハードバンズの下はオリジナルのソース、ピクルス、パティが来て、トマト、レタス、下バンズ(ヒール)の上にマスタード。付け合わせのフレンチフライも自家製。

 パン屋が考えるバーガーとは、一体どんなアプローチかと言うと、意外にもまず「肉」である。そして終始、「肉」である――これはまぎれもなく「肉」のバーガー。

 「ガツッとした肉が食べたい」と作り始めたこのバーガー、肉々しい食感を求めた結果、ミンチにせず、手で切ってパティを作った。見た目にはポロポロとしていそうな、若干ドライな印象を受けるが、ところがどうして、中に柔らかさを残す細かな火加減に焼き上がり、塩胡椒も控え目で、肉の風味が堪能できる。

 このガツガツとワイルドなパティの食感に合わせて作られた自家製セミハードバンズは、ドイツのブロッツェン(小型パン)をベースに考案された。カイザーロールと言えば早いか、ライ麦やサワー種は使わない白パンである。パリパリ薄めのオモテ皮に、乗った白ごまがまた効果的。その薄身の割りに挟まる具材の水分をよく受け止めて、何より肉の引き立て役に徹する姿勢が見事。コレこそ食事パンの間に肉を挟んでいただく「食事としてのバーガー」に他ならない。

 当初、オープンスタイル(具材を積み上げずに、バーガーの中を開いて見せた状態)で出していたが、それを止める際、ソースを考えた。ケチャップベースにフルーツなど煮込んだちょっと甘めのこの自家製ソース、酸味も軽快で抜群のワンポイントだが、若干量が多いようにも思う。肉その他素材が優れたものであるだけに、必要以上に主張させぬ方が好いか。豪勢に載せ込んだチーズの味もばっちり効いて、ダイナマイトの名にふさわしい、メリハリのあるバーガーに仕上がっている。

 パン屋が始めたバーガーは意外にも、バンズは一切主張しない、この上なく肉を感じるバーガーだった。パーツ個々の作り込みもさることながら、何よりトータルのバランスを第一に考えて作られている点で完成度が高い。


●釣りのおじさんとパティシエ

 自家製ベーコンは郊外だけに「スモークやり放題」。1Fテラス席はドッグOKな上、「わんバーガー」なるわんちゃん用ハンバーガーが用意されている。S\300、M\400、L\500の3種類。

 この快楽空間を預かるカフェのチーフ、北垣さんは、社長とはもともと釣り仲間、と言うか、社長は行けば必ずいる「釣りのおじさん」だったそうである。最終的にはその社長に、北垣さんは釣り上げられてしまったワケなのだが……。

 北垣さんの本職はパティシエで、1Fの売り場に並ぶ生菓子・焼き菓子は北垣さんの作。パティシエがハンバーガー?そう言えば名古屋Cafe Downeyの社長もパティシエだった。

 ココを目指して来るもよし、ドライブの帰りしなにふらと立ち寄るもよし、いずれにしてもこんな山奥にまたとんでもない"不発弾"が埋もれていたモノである――ダイナマイトなだけに。

 いや、爆発はとうにしていたか――超新星爆発と同じように、地球に光が到達するまでに何億年とかかったという、ただそれだけの……失礼。それはともかく>釣りのおじさんとパティシエ――引き続き、おいしいハンバーガーの行く手を阻む固定観念の「壁」を爆破せよ!



― shop data ―
所在地:兵庫県西宮市山口町上山口4-1-18
JR福知山線 西宮名塩駅より阪急バス「丸山下」下車徒歩5分 地図
URL:http://www.yakitate-pan.com
* TEL *
ベーカリー:078-903-2631
カフェ:078-903-0761
* オープン *
ベーカリー:1993年3月3日
カフェ:2002年3月20日
* 営業時間 *
ベーカリー:7:00〜19:00
カフェ:11:00〜19:00
ランチ:11:00〜15:00
定休日:月曜日・第3火曜日(要確認)

2008.5.27 Y.M

toms

[京都・一乗寺]
# 203

 京阪のる人、おけいはん ―― そうだ 京都、行こう。


●Ichijoji Sagari Matsu(一乗寺下り松)

 そんな赤と黄(きい)の肖像、京阪電鉄から乗り継いで、ココは叡山電鉄一乗寺駅。

 駅の東は徐々になだらかな傾斜が付いて、街中とは趣を異にする住宅地。その只中に、宮本武蔵と吉岡一門の決闘(fight)で有名な、あの下り松(さがりまつ)がある。下り松の辻から緩やかな坂をさらに登れば圓光寺、八大神社、狸谷不動院など。この日は江戸初期の文人・石川丈山の山荘だった詩仙堂に長居して、夏の都の涼やかな風をしばし楽しんだ。

 本日の真の目的は詩仙堂ではなく、平らかな駅の西側。世に「ラーメン街道」と呼ばれる、西国一のラーメンの"メッカ"に隣接しつつ、その熾烈な争いをよそ目に、のどやかにハンバーガーを作るカフェバーのお話である。


●Northern Ireland(北アイルランド)

 以下、アイルランド人の店主と英語に不慣れな日本人との会話につき、軽度のルー語発症……(一部原文掲載)。

 左京区は大学が多い。お隣・修学院駅近くには京都大学の International House (国際交流会館)があり、付近には大学で英語を教える外国人講師たちが多数住んでいて、ちょっとしたコミュニティが形成されている。breakfast が絶品の SPEAK EASY は、そんな彼らの溜り場。

 さて彼ら英語教師たちが講義の行き帰りに stop off, 取り留めない世間話などしながら、のんびりお茶する(orお酒する)場所が、此処 toms である。店主曰く―― rest & relaxation.

 店主、Tom Brown さんは北アイルランドの首都・Belfast (ベルファース)から車で1時間、Bangor (バンガー)という街の生まれ。To be honest, フットボールよりラグビーの方が好きで(I prefer rugby)、アイルランドチームの試合は全て観たいそうなのだが(I love to watch all of Ireland games)……おっ?9月22日からハイネケンカップ?

 6,7歳の頃、"NATIONAL GEOGRAPHIC " に載っていた Saihouji (西芳寺、苔寺)の写真に惹かれ、ずっと日本に行ってみたいと思っていた。Hirohito, 昭和天皇崩御の頃、初来日。その後香港に渡り、日本の Yamaichi (山一証券)の社員相手に英語を教えていたが、そのまま英会話講師として再来日。最初は一年日本に居るつもりだったのが二年になり、二年が三年になり、気が付けば滞在のべ18年。その間、あの NOVA などで教鞭を執っていた。修学院界隈の英会話講師仲間は、多くがNOVAつながりという。

 ちなみにYamaichiとNOVA、Tom さんの関わった2社はいずれも倒産しているが、無論当人の力に因るところではない。


●only NOVA(駅前留学)

 素敵な奥さんとも巡り会い、日本に腰を据えることに決めたので、英語を教える傍ら、何か「自分の仕事」をやろうと始めたのが、この toms である。

 何処に出すのが良いやらと、京都市内を cyclist になって探し回った。今の店は以前は簾職人の作業場。売りに出ていたのを建物ごと買い取り(I found this place when I was cycling back home from work. We bought this)、NOVAのレッスンの合間を縫って、なんと1年もの期間をかけてコツコツと、ほぼ Tom さん独りで完成させた(I reformed by myself working in NOVA, it took 1 year)。

 さすがに structure (構造部分)は大工に任せたものの、内装については日本の大工は too perfect. なのでワイヤーブラシを使ってワザと床を傷付け、壁は"珪藻quick" を自分で塗って、全体に rustic な仕上げに。想像以上の難敵はキッチンカウンターだったそう。

 細長い店内、入ってすぐが8席ほどの喫茶空間。書架には帰国した友人らが置いて行った、あらゆる種類の洋書が並んで book for sale. 窓外の石像の配置が秀逸。ストーンヘンジに代表される英国巨石文化と、室町以来の日本の伝統的庭園様式との融合か... maybe not.

 長ーいカウンターは、その長さの割りに実は3席。お昼前からチラホラやって来た講師仲間数名は、カウンターの中に回り込んでの世間話。この日は岡崎「58 DINER」のオーナー・森口さんも遊びに来ていた。カウンターと平行するように、木造の階段が2階の英会話教室へと伸びていて、奥がキッチン。Thanksgiving Day のパーティーの際には、ココでターキーを3羽も焼いた。


●good-simple(シンプルなだけじゃダメ)

 「私の好きなものが menu 」という toms 最初のメニューはステーキサンドイッチ\800。いまだに人気のメニューである。「私たちはいつも new menu 考えます」――いつも次の plan があり、a little edge, 何処もやっていない「隙間」なメニューを常に探して徐々に buildup させ、現在のメニューに至った。Fajita (ファヒタ)\700〜や Huevos Rancheros (ホエボスランチェロス)\700など、中米系のメニューが多い――アイルランドのふるさとの味は?

 ハンバーガーを始めたのは半年前。「こういうのが食べたかった」けど「無かった」から、自分で作った。去年の秋頃より研究を重ね、trial しておいしかったので、レギュラーメニューに昇格。

 ハンバーガー\700、フレンチフライ付(サラダにもできます)。あとはトッピングでハラペーニョ、目玉焼き、アボカド、ワカモレなど。一番人気はベーコンチーズ。

 チーズ\100のトッピングでチーズバーガー\800。パティは Aussie 100%。no filler (つなぎ無し)。サイズは quarter pounder, グラム換算およそ114g。近所の焼き肉屋でミンチャーを借りて、自分で挽いている。「No.4は細かい、ウチはNo.5……」ってプレートの穴の大きさのことネ。粗びきにして texture, つまりしっかりとした肉の食感・噛み応えを重視した。

 バンズは町の馴染みのパン屋さんにお願いしたところ、コレがヒット!セサミいっぱい、ドライだがモチッと口に残る、粘りのある生地の texture が好く、美味。肉に合う食事系な存在感。バンズの下はマヨネーズ、トマト、レッドオニオン、チーズはホワイトチェダー、赤身肉のパティにリーフレタス1枚、下バンズの上にケチャップ、マス、マヨ。

 とにかく赤身パティの texture, たくさん入っているのに邪魔にならない調味料、そしてトマトの甘味。背の高さ。シンプルなだけじゃダメ、欲しいのは good-simple (←コレ造語です)。「味過ぎても」ダメ、大事なのは balance と。


●BROWNS ENGLISH(ブラウン英会話教室)

 妥協無く迎合無く、他人の顔色を窺うこと無しに、純粋に「こんなハンバーガーが食べたい」という思いのみから作られたバーガー。その思いを貫いたところにこそ、このバーガーのおいしさがあり、強味がある。醍醐味溢れる、力強い一品。

 ハンバーガーを食べるにはクセが強過ぎると、普段私はギネスを敬遠していたのだが、まさに本場の Irish が薦めるものだから、サージさせた真っ黒いグラスを持ってきてもらったところ……コレが相性抜群!Tom の作る料理と見事なコンビネーション・プレイ。

 BGMはスティクス、ゴードン・ライトフット、ダイアーストレイツなど'70s。日々の〜んびりと、マイペースに店はやっていると Tom & 奥さんのミツミさん。看板犬、イングリッシュブルテリアの Cozmo (コズモ)はたまーにご出勤。

 2Fはアットホームな英会話教室、1Fも近隣英語教師のアットホームな集いの場――やはりみなさん "Kyoto" という共通の目的でもって遠国よりはるばる来ている人達ですから、Tokyobusy な感覚とはまた違うワケですよ。いかにも京都らしい、「侘び寂び」効いたスローな Irish cafe ...先週25日で 4th Anniversery! Congratulations!



― shop data ―
所在地:所在地: 京都府京都市左京区高野泉町1-23
叡山電鉄 一乗寺町駅歩5分 地図
TEL:075-703-3711
URL:http://tomskyoto.com/
オープン:2004年9月25日
営業時間:12:00〜23:00(LO)
定休日:日曜日・月曜日(要確認)

2008.9.28 Y.M